第9話 愚物との決戦7 殺気と闘気の楔(通常版)
究極の愚者に成り下がった偽勇者を屠った後、徐に相手の仲間共へと目を向ける。シュームとナツミYUが迎撃し、既にほぼ動けない状態に至っていた。だが、相手の目は怒りと憎しみに満ちていた。
過去のネーヴァレアでの対決時は、今ほどの様相ではなかった。それが一体何処で様変わりしたのか、理解に苦しむしかない。まあ悪党の本質は、徹底的に悪道に陥るのが筋だ。連中の生き様は理に適っているとも言える。
偽勇者の仲間共を見つめた後、身内達へと目を向ける。特に妹達は直接対決を望んではいたのだが、今の様相を目撃して完全に萎え切っていた。“無関心”という感じである。
好きの反対は嫌いではなく無関心、か。彼女達の一念が、今まで執着していた概念から解放されたとも言えるのだろうな。
「さて・・・どうしようかしら。」
「殺人鬼には至りたくないのですが、放置すれば更なる火種になりますし。」
「そうよね、悩ましい感じよね。」
行き過ぎた行為に対して罪悪感を抱く2人。彼女達が思うのは、偽勇者の仲間共の処遇だ。ナツミYUが言う通り、放置すれば新たなる火種になるのは言うまでもない。地球での愚物共よりも行き過ぎている。
宇宙種族の十八番とも言える、記憶操作により罪滅ぼしを行わせる事は可能である。だが、ここまで悪党に陥った輩は救い様がない。
「そんなお前さん達が地獄に堕ちるのなら、俺は心から一緒にお供するわ。」
行き過ぎた行為に罪悪感を抱く2人に対し、共に何処までも付き従う事を告げた。彼女達だけ地獄に堕ちるのは非常に下賤事極まりない。この考えは改める事は決してない。
そんなこちらの雰囲気を察したのか、安堵感を示しだすシュームとナツミYU。その2人に今まで以上に怒りと憎しみの目線を向ける愚物共。流石に我慢がならなかったため、十八番の殺気と闘気の心当てを連中に放つ。
既に偽勇者は無論、多くの愚物を屠った事により蓋が外れている。今までは殺気と闘気にストッパーを掛けていたが、それを取り除いた状態での解放である。
特にここは異世界惑星、魔法関連の力は恐ろしいまでに増幅していく。実際に確認した事があったが、その時は不殺の精神で放ってはいた。それが今はその楔を解放している。どうなるかは大凡の想像は見当が付く。
放たれた殺気と闘気の心当てが、黒いモヤへと変貌していく。そう、文字通りの黒いモヤである。それらが今し方、シュームとナツミYUへの悪態をした愚物共に襲来していった。
たかだか黒いモヤだと高を括っていた様子の連中だったが、迫り来るそれに恐怖の一念を抱きだしている。ナツミAが得意としている、生命体を恐怖に陥れる死への一撃だ。その一撃よりも強烈な様相である。
話は反れるが、これを喰らって無傷でいた身内達は異常としか言い様がない。まあその時は不殺の精神の楔があったから問題はない。だが今はそれが解放されている。
殺気と闘気の心当てを含んだ黒いモヤ、それが愚物共に触れて行く。直後、絶叫するかの如く叫び出した。こちらとしては何気ない闘気の放ちではあるが、そこに不殺の精神を解放した状態がこれなのだろう。
この世のものとは思えない絶叫をし続ける相手を見て、とにかく哀れだと言うしかない。同時に、先にも思った身内への放ちを思い起こした。特に過去に地球で殺気と闘気の心当てを放った時だ。一歩間違えば、総意を殺害していた事に気付いたからである。
目の前で絶叫し続ける連中を踏まえると、地球での様相と何が異なるのかを推測してみた。恐らく相手に少しでも善心があったからなのだと思われる。最終決戦時の愚物共ですら、まだ救い様があったのだとも思える。
それが目の前の連中は感じられない。何処までも堕落し、人ならざる存在に陥った愚物だ。どうしてそこまで堕ちれるのかと思うぐらいの様相だが、これも異世界仕様だと片付けられるのだろうな。
何にせよ過去に何度もチャンスを与えたのにも関わらず、全く変化しようとはしなかった。烏滸がましい考えではあるが、その一念が連中を救う事だって有り得るのだから。そこに至る事がなかったのなら、最早始末する以外に方法はない。
殺気と闘気の心当てが化けた黒いモヤ。それが偽勇者の仲間共へと付着してから数分後。全員が白目を向いて気絶していた。と言うか、即死していた事に驚くしかない。
殺気と闘気の心当ては不殺の精神をトリガーとして、ここまで化けるのだと初めて痛感させられた。地球では考えられない力量である。これも異世界惑星故の仕様なのだろうな。
普通であれば、ここまで複数の人間を殺害すれば何らかの罪悪感は抱いてくる。しかし、目の前の事切れた連中に関しては、全く以て一念を抱く事はなかった。
「・・・人は、こうも呆気なく死んでしまうものなのだな・・・。」
徐に一服しつつ、冷めた雰囲気のままボソリを呟く。警護者の真髄ともなる、相手の殺害を以て依頼を達成する。それに近しい結果に至った事に、何だか遣る瀬無い思いになった。
だが、元カルーティアスで発見した数多くの遺体を目の当たりにし、その当事者が目の前の愚物共である事。それらを踏まえれば、この手の輩は生かしておく価値すらない。後に新たな被害者を生み出す災厄となる。
不殺の精神を頑なに守り続けていたのだが、こうも簡単に他者を殺害できてしまう現状。警護者が逸脱した力の持ち主達である事を再認識させられた。
「んー・・・私は良いとは思うけどね。」
「この手の愚物は、生かしておけば更なる被害者を生み出します。ならば、この手で引導を渡してやるのも警護者の使命だと思いますよ。」
傍らの両者の言葉を伺い、徐にそちらの方を向いた。俺と同じく一服をしているシュームとナツミYU。だがその表情は、痛烈なまでの遣る瀬無い雰囲気で満ち溢れていた。
誰だって好き好んで他者を殺害などしたくはない。しかし、警護者の生き様を貫いている以上、この手の決断は必ず迫られてくる。そして、自らの手で相手を殺害するのだ。
「小父様、それらの後始末はお任せを。二度と生き返らないように焼却処理します。」
何時の間にか傍らにいたデュヴィジェ。その彼女の言葉を伺いゾッとした。人間ではなく宇宙種族ではあるが、人ならざる言葉に聞こえてしまったからだ。
だが、案外そういった割り振り方の方が合うのかも知れない。事実、宇宙では小さな火種が大きな災禍となり、惑星や銀河系を滅ぼす可能性があるとも伺っている。
その様な生き様を貫いている彼らからすれば、この手の愚物への対応は冷めたものが通例であると思われる。彼女以外の宇宙種族の面々を窺うと、同様の雰囲気を醸し出してもいた。
「マスターの決断に心から感謝します。もし貴方が実行しなかったら、我ら宇宙種族が鉄槌を下していましたので。」
「その通りかと。後の災厄を招くぐらいなら容赦のない一撃を放つ、これに尽きます。」
そう語りながら、颯爽と後処理を行いだすミュセナとルビナ。他にはヘシュナとナセリスも同伴している。全く以て感情を露わにしないような表情で、である。
「不安なら、先程シューム様とナツミYU様に仰られていた言葉をお借りしますよ。貴方が諸々の決断で地獄に至るのなら、私も心からお供を致します。」
「大いに同意します。貴方だけ苦しませる事などさせませんよ。」
「・・・すまんな。」
事切れた偽勇者共を1箇所に纏め、電撃力の応用で一気に着火していく。どういった力用で発火したのかは分からないが、極限まで高めた電撃力なら可能なのだろう。特にルビナの一撃が凄まじいまでのものだった。
簡単に始末してしまう様相には、彼らこそ真の警護者であると言わざろう得ない。俺などまだまだ甘いのだと痛感させられる思いだ。
第9話・8へ続く。
相手を屠る描写をどうするかと、この1ヶ月近くずっと思い悩んでいたのですが、結果的に上記の文面の様な流れにしました。殺風景的な感じですが(-∞-) やはり自分は和気藹々と描く方が好きですよ><;
しかし、探索者も前日に文面が完成したという@@; 先週の警護者も同様で、ここ最近はとにかくネタが出てきません><; 閃き度も無いに等しい感じですし@@;
ともあれ、何とか最後まで突っ走り続けます。拙い作品ですが、よろしくお願い致しますm(_ _)m




