第7話 人質と新大陸の解放8 進むために背負うものは(通常版)
「・・・・・。」
新大陸の何もない平原。そこで胡座を掻いて座り、空を見ながら一服する。新大陸の完全解放を成し得たのは、再上陸から3日後だった。最後の最後で、徹底抗戦を開始しだした愚物共がおり、その連中に苦戦したからである。
だが、宇宙種族十八番のバリアとシールドや、地球での各種兵装の前には足元にも及ばない様相だった。正に瞬殺である。
既に感情の蓋が解放されている俺達には、そう言ったどうしようもない愚物共は簡単に始末するまでに至っている。ナツミツキ姉妹や四天王ですら、今では容赦なく始末するぐらいだ。
無論、誰も彼もそれを楽しんで行ってはいない。終われば誰もが苦痛に苛まれているのが実状である。かく言う俺もしかりで、こうして呆然と己を落ち着かせている。
そんな俺の傍らに、同様に胡座を掻いて一服するミツキとナツミA。ウエスト・サイバー・ナッツ・エンルイも同席していた。
「・・・俺は、マスターを見縊っていたのかも知れない。あれだけ人を殺める事を躊躇していた一念を、全く理解しようとしなかった。」
「いや、それが正論よ。一介の警護者である俺の方が異常過ぎたしな。」
静かに語りだすウエストの労いの言葉に、心から感謝するしかない。他の四天王の3人も、同様の思いを抱いているようだ。
彼らは生粋の警護者ではなく、一般人に属する存在である。その彼らが、確実に警護者の領域に足を踏み入れた。無論、相手を殺害する事が警護者の入門などではない。警護者の触りを知る事自体が、警護者に至ると言う意味合いである。これはミツキとナツミAも同様だ。
数多くの事変を共闘した間柄だが、それらの全ての戦いでも相手を殺害する事はなかった。しかし、今回の異世界惑星事変だけは違った。最後の一手たる引き金を引く事をしなければ、対処不能の領域まで至っていたからだ。
これに関しては、心の底から後悔している。彼らに警護者の理に触れさせた事は、間違いなく6人の人生を狂わせてくるだろう。それだけ、他者を殺めるという事は、究極的に罪深い行為なのだから。
「んー・・・でも、Tさんも思われていたアレが引っ掛かりますし。」
「ああ、人間以外なら殺害しても良いのか、だな。」
一服する様が実にクールに見えるナツミA。だが、そこには物凄い哀愁が漂っている。言葉には表さないが、実際は相当堪えているようである。
しかし、彼女が挙げる部分が引っ掛かってくる。それは、人間以外の殺害は問題ないのかと言う部分だ。こと異世界惑星事変では、如実なまでに現れている。
「地球での各種ネタ作品でも、魔族や魔物の殺害は平気で行うのに、人間だけは躊躇する描写が見られますからね。」
「確かに。ゲーム作品でも全く同じですし。」
「実際問題は、同じ生命体に変わりはないからな。」
ナッツとエンルイが補足的に挙げてくる。各種ネタは、地球産の小説やマンガやアニメだ。ゲームも該当してくる。劇中では、今回の俺達が経験した通りの流れが数多い。その中で、同様に苦悩を感じている主人公達も存在していた。
だが、劇中の彼らも俺達も、実際問題は抹殺し続けるしかないのが実状だ。そうしなければ倒されるのはこちらなのだ。降り掛かる火の粉は払い除ける、これも現状でもある。
「フィクション作品群なのに、そこに住まう彼らに同調できてしまうのは、皮肉と言うか何と言うかですよ。」
「全く以てその通りだわな。」
「悩ましい感じですよね。」
素っ気無く語るも、実際には苦痛に苛まれているサイバーとミツキ。他の4人と同じく、苦痛に苛まれている状態である。だが、後悔はしていない様子だ。現に、明確に覚悟を決めた目をしている。
俺も同じく、上辺では右往左往のシドロモドロにはなる。しかし、根幹では既に明確に一念は定まっている。進むべき道を決めた存在が放てる、哀愁漂うオーラが正にそれである。
この哀愁漂うオーラが顕著なのは、スミエとシルフィアであろう。全ての宇宙種族の面々も全く同じである。それだけ、他者や同族を殺めてきた証拠だ。
特に宇宙種族の面々は、広大な大宇宙を旅する流浪の種族だ。生き残るためには、数多くの殺生を行って来たのは言うまでもない。そうしなければ、自分達が倒されるからだ。
スミエとシルフィアは、流石に宇宙種族の面々には及ばないものの、俺達を遥かに超える殺生を繰り返して来た。放たれるオーラが全てを物語っているからだ。これはもう、そこに至った者にしか放てない力量である。
逆に、今まで対峙して来た愚物共も、同様のオーラを醸し出している。しかし、そのオーラ自体の属性は限りなく真っ暗であり、ダークサイドの極みだとも言えるだろう。実際にそれ相応の悪行を繰り広げて来た訳だからな。
結局の所、その行動を誰の為に行うかどうか、ここになるだろうな。私利私欲の為に相手を殺害する愚物がいれば、それはもう問答無用に叩き潰すに限る。同時に、俺達の方は絶対に至ってはいけない道だと戒めねばならない。
罪深い生き様ではあるが、それが総意の為になるのなら問題はない。ホンの少しでも笑顔が取り戻せるのなら、俺達の生き様は決して無駄にはならないのだからな。
大草原での一服を終えて、新大陸の都市へと戻る。既に制圧済みとあり、魔物大陸より貴族連合の面々を呼び寄せている。短期間での大陸制圧に驚愕した様子で、改めて今までの非礼を詫びてきた。俺達の力量を、心の底から思い知ったからだそうだ。
実に曖昧に聞こえる理由ではあるが、彼らの目は全く泳いでいない。むしろ、今までの迷いが全て消滅したかの様に澄んでいた。推測だが、誰かの為に行動をする事の見返りが、ここで返されたのだと思われる。
それが事実だと思えたのは、彼らが新大陸の現状を目の当たりにしたからだ。俺達以上にその現状に激昂をしてくれたのだ。暴動でも起こるぐらいのヒートアップ度である。
彼らが他大陸に侵攻した理由を、再度思い返した。身内達が人質に取られており、致し方がなく動いたのだと。それを初耳した時は、正直な所は信憑性に欠けていた。しかし、宇宙種族組が彼らの嘘偽りを見抜いたため、その時は信用する事にはしていた。その本当の理由が、今正に思い知らされた形である。
ここまでの激昂度を踏まえれば、彼らの信念と執念は本物だと言い切るしかない。他者の為にここまで怒れる存在は、その殆どが悪人に非ず、である。疑いの一念を抱いた俺自身は、実に馬鹿げていたと言わざろう得ない。
そして、彼らのその真の思いは、別の形として現れた。王城に潜入救出を行っていた面々が帰還して来たのだ。救出した家族達を目の当たりにすると、貴族連合の面々は号泣しだしていた。その涙こそが、本物である証拠だ。
幸いだったのは、人質達の方は身体的な被害は蒙ってはいなかったとの事だ。デュヴィジェが彼ら全員の身体検査も行ったようで、確実であると言い切れる。今ではルビナやヘシュナに引けを取らない、治癒力の使い手に化けていた。
と言うか、こうも簡単に救出できた事に驚くしかない。その所は、救出部隊の面々も同様に思っていたようである。結局の所、貴族連合の面々を動かすだけの起爆剤に過ぎなかった証拠だろう。それが人質全員の救出に繋がったのだから、実に皮肉だと言わざろう得ない。
ともあれ、これで貴族連合総意と新大陸総意の救出は成し得た。貴族連合の面々であれば、この新大陸をより良い環境にしていく事ができる。今後を大いに期待するしかない。
第8話へ続く。
新大陸の再解放と。しかし、引き金を引いた面々は、消えない業を背負う事にも。まあ、この部分は不可避の概念なのですけどね。今後も色々と悩み続けそうです。無論、創生者となる自分の方もしかり。
劇中に登場する彼らは、言わば創生者の代弁者・遂行者とも。彼らの行動の責任は、全て創生者に圧し掛かって来ますからね。それが例えフィクションであっても、リアルと何ら変わりありません。それ相応の覚悟を持たねばならないと思う次第です。
ともあれ、次の話数が再び枯渇した感じですが><; まだ1回分程度の更新しかできていません><; この調子だと再び停滞に陥りそうです(-∞-) 何とかせんきゃ・・・><;




