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覆面の探索者 ~己が生き様を貫く者~  作者: バガボンド
第1部 異世界の旅路
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第8話 魔王と愚者と2(通常版)

 カルーティアスに移動して数日後、徐々に暗雲が立ち込めてきた。スミエの情報では、王城側でも数多くのならず者や傭兵を集めているとの事だ。これは、各冒険者ギルド・自警団・騎士団には極秘裏に動いている。


 悪党の最終目標は大凡見当は付くが、その流れに付いては読めていない。相当な混乱を巻き起こすのは確実だが、何処までの被害様相かは掴めなかった。いや、本来なら掴めないで、不測の事態として巻き込まれるのが定石だろう。


 地球での警護者での活動は、こうした悪党の全ての行動を予測し、事前に防ぐか規模を縮小させるかの対応を取ってきた。この異世界惑星でも、問題なく通用するかどうかは不明だ。


(固まって動いていた方がいい、十分気を付けろよ。)

(了解です。)

(王城本家より離れますが、城下町近くでの雑用的依頼をこなしていますね。)


 直ぐに対処ができるよう、妹達には街中での依頼を受けて貰った。当然、慎重過ぎると思う程の完全武装である。ウインドとダークHも護衛として着いて貰っている。


(私達も待機していた方が良いですかね。)

(デュヴィジェにピンポイントで飛ばして貰う事になると思う。今は完全装備で待機していてくれ。)

(了解。)


 何時もならボケをカマすミツキだが、場の雰囲気を察知して緊張した面持ちである。これは俺達全員もその状況だ。一際感受性が強い彼女故に、言わば善悪判断センサーの塊とも取れるだろう。デュヴィジェが一目置くだけの事はある。


(シュリーベルとデハラードはどんな感じだ?)

(嫌な雰囲気は漂っていますが、そちら程ではないと思います。)

(同じく。)

(分かった。引き続き様子見を頼む。)


 この緊張感は久し振りである。取り越し苦労で終わってくれれば良いのだが、それでも十分気を付けた方がいい。常に最悪の状態を想定しておかねばな。


(これ、私達だけで抑えられますかね・・・。)

(“既存のメカドッグ嬢達”は展開中だが、それ以外の面々は既に待機中。いざとなった時には現れて貰う。後方の憂いは全て断つから、お前さん達は通常通りで頼む。)

(分かりました。)


 何時になく緊張した雰囲気の妹達。この気質は、彼女達と初めて出逢った頃を思いだすわ。ゴブリン達との戦闘前の流れだ。


(マスター、一応不殺は貫いた方が良いですかね?)

(可能な限り、な。しかし、お前さん達の生命の方が遥かに大切だ。危ない場合は、問答無用で叩き潰せ。)

(急所を狙わず、頭を撃ち抜け、と。地球では殺人罪に該当しそうですけど。)

(警護者は総意の意見を圧殺できる。本来の俺達の役割を担うだけだ。)

(はぁ・・・君のギラ付いた殺気、久し振りに拝ませて貰えるわね・・・。)


 不気味に呟くシルフィアに、身内達のニヤリとする表情が何とも言えない。対して、俺の本職の姿を知らない妹達は、この上なく怯えている。普段のノホホンな姿からは想像できないのだろう。


(・・・警護者自体、全てにおいての逝去時は、地獄まっしぐらだろうな・・・。)

(また自己嫌悪ですか・・・。貴方がその生き様を、喜んで挑んでいるならそうなります。ですが、警護者自体の役割は、声無き声を汲み取り、代役として遂行する。総意の無念さを抱き、執行の引き金を引く、これですよ。)

(確かに殺人は大罪ですが、救われる生命があるのも確かかと。もしそれらが嫌ならば、初めから警護者の道に進まなければ良いだけです。それに、貴方自身がそうしてお悩みになっている事こそ、不殺の精神を貫こうとする姿勢そのものですよ。)

(・・・すまんな。)


 こうして時偶、自己嫌悪に陥る時がある。その時は、即座にエリシェとラフィナからの戒めの一撃が放たれる。彼女達が相談に乗ってくれなかったら、今の俺は絶対に存在していない。


(・・・貴方が、皆さんから愛される意味合いを痛感しました。常に己自身と対峙し、何が正しく何が間違っているかを問い質している。貴方にとって、争いがない時は、多分ないのでしょうね。)

(そうだな・・・。最後の敵は己自身になるしな。偽勇者共・王城側、それらが真の敵ではない。全ての生命に内在する、争いを起こす一念こそが最大の敵だ。)

(んー・・・となると、マスターが周りにヤキモチを抱かせるのは、正に要らぬ争いを起こしているようなものでは?)

(マスターも隅に措けんのぉ~、ウッシッシッ♪)

(はぁ・・・そうですか・・・。)


 案の定的な、別の戒めの一撃が飛んでくる。ナツミAとミツキによる、茶化しを織り交ぜたものだ。それに身内の女性陣から、痛烈なまでの殺気の一念が飛んできた。しかもこれ、地球からも飛んでくるのが分かる。


(大丈夫ですよ。マスター1人だけではありません、私達もいます。全て背負い込まなくても問題ありません。)

(そうね。ポチが生き様、持ちつ持たれつ投げ飛ばす、これですよ。)

(ホンッと、君はそうして自己嫌悪に陥るからねぇ・・・。)

(はい・・・すみません・・・。)


 最後の一撃は気付けの一撃だ。それに、ただただ謝るしかない。だが、彼女達あっての自分である事を、この一撃から痛烈に感じ取れた。本当に感謝に堪えない・・・。


(何か、ミスターTさんの意外な一面を見れた感じ。)

(本当よね。常に冷静沈着で隙がないと思っていたけど。)

(人だと分かって良かったです。)

(お嬢さん方・・・俺をどんな目で見てやがるんだ・・・。)

(こーんな目で見てやるわぅ!)


 妹達からの茶化しに反論すると、脳内にミツキの変顔がドアップで映し出されてくる。それに堪らず爆笑する一同。見事なまでの一撃である。


(何ともまあ・・・。)

(はぁ・・・笑いの女神そのものよね・・・。)

(色々と悩ましいわ・・・。)


 とにかく、周りを笑わさずにはいられない、そんな気質のミツキである。それに乗ってしまうのは、彼女の手の内で踊っているに過ぎないのだろうな・・・。


 その後も、場を和ませる癒しの一撃が飛び交う。その殆どが笑いになるのだが、それでも今の様相を打ち消すには特効薬そのものである。本当に素晴らしい女傑だわ・・・。




(・・・動きがありました!)

(やっと出たか・・・。)


 相手が動きだすのを待つ間、念話による雑談を繰り広げる。妹達もすっかり巻き込まれているのが見事である。そんな中、大都会を巡回中のミツキTから連絡が入った。


 彼女からの念話による様相が、その目からの情報を映像として投射する事も可能である。ミツキTが見た現状が脳裏に広がっていく。そこには、忽然と姿を現した黒ローブ達だ。先のシュリーベル事変で出てきた奴に似ている。


 そして、今度はゾンビやスケルトンといった、不死の魔物が現れる。どうやら、以前俺が話した事が反映されているようだ。皮肉な話である。更には、王城の門が開き、ならず者や傭兵が現れるではないか。


(はぁ・・・。)

(ええ、人類が嫌いになりますよね・・・。)

(大いに同意します・・・。)


 予測した通りの展開になる現状に、とにかく呆れ返るしかない。遠方のヘシュナとエリシェも同じ気持ちに至っているようだ。悪党の考える事は、何処も同じである証拠となった。


(まあ何だ・・・今はお勤めをするとしますか。)

(了解! 近付き過ぎず、離れ過ぎずで抗戦します!)

(お任せを!)


 颯爽と動きだす妹達。既に近場にまで展開していたようで、確実に被害が及びそうな場合には攻撃に転じるようである。口には出さないが、ウインドとダークHもやる気満々である。


(念のため、エリシェさんとヘシュナさんを寄越してくれ。ラフィナさんとナセリスさんは街の防衛を。)

(了解です。)

(お任せをば。)


 現状だと、カルーティアスが主戦場となるだろう。しかも、住人が居る街中だ。避難誘導を行う事も優先しないといけない。エリシェとヘシュナには、避難誘導に回って貰うとする。既に念話で様相は伝わっているから問題ない。


(スタンバってますぜぃ!)

(危ない場合は直ぐに召喚を。)

(ああ、何時でも飛べるように準備しておいてくれ。)

(了解。)


 地球にも増援待機の念話を入れる。次の飛来者はミツキとナツミA、そしてシルフィアになるだろう。デュヴィジェは司令塔になって貰っているため、来たくても来れないらしい。


(・・・俺も動くか。)

(思われた通り、街中の避難誘導は全てお任せを。マスターは皆様方の後方支援に。)

(貴方がいれば大丈夫ですよ。)

(フッ、ご期待に添えられるよう尽力致します。)


 執事的な言動をすると、ニヤケ顔で頷く一同が感じられる。どんな状況であろうが、この余裕を持つ事が必勝条件だろうな。ただ、持ち過ぎると油断になりかねないが。


 空間倉庫よりマデュース改3挺を取り出し、それぞれの腕に装備。待機中だった酒場の屋上から、真下の地面へと飛び降りた。だが・・・高所恐怖症の手前、その瞬間は激痛とも思える苦痛に苛まれる・・・。しかし、今は私的考えは論外だ・・・。


 本来なら、トリプルマデュースシールドの総重量は1トンを超えている。しかし、重力制御ペンダントの効果により相殺されており、サブマシンガン程度の重さでしかない。更に、高所からの飛び降りと着地時にも、同効果が発揮される。


 恐怖に襲われつつも、屋上から地上へと問題なく着地し、そのまま最前線へと向かった。既に各軍団により避難誘導が開始されている中を突き進む。




「この場合の特別手当って出るんっすかね。」

「出ないでしょ。」

「タダ働きも良い所ですよ。」


 最前線へと到着すると、既に大暴れ中の妹達。暢気に戦闘後の報酬の話をしていた。そんな彼女達を警護するウインドとダークH。リボルバー拳銃の2丁拳銃スタイルは、今では凄腕のガンマンとして知られている。


「マスターもいらっしゃったのですか。」

「親玉の顔を拝みたくてな。」

「今はまだ、それらしいのは出て来ていませんね。」


 肉薄するゾンビやスケルトンを、トリプルマデュースシールドで押し退ける。そこに2人の護身武器、携帯撃剣で反撃をしだした。こちらも、某ゲームの獲物の1つである。


「相変わらずタンクですよね。」

「タンク・・・戦車の意味じゃないのか?」

「防御戦士の意味合いですよ。仲間に向けられる攻撃を盾で防ぐと。」

「なるほど。」


 俺のトリプルマデュースシールドの様相は、どうやらタンクこと防御戦士の意味合いに取れるらしい。確かデュヴィジェ達が見ていたマンガにも、タンクが主人公の作品があったわ。


 しかし、同作の主人公は大盾1つだけの守備だが、俺の場合は3つの大盾での守備となる。脳波により、自動行動が可能な人工腕部が後押しをしており、そこに装備のマデュース改は尋常じゃない精度の防御率を誇っている。


 両腕のマデュース改は、近場の女性陣を守る側に用いている。攻撃を受け止める際、その大盾の内側に隠れ、やり過ごした後に反撃に出る形だ。ゴブリン達との戦いでも、同じ戦術を展開している。


 警護者の走り立ての頃は、拳銃や日本刀による戦いだったが、今ではこのマデュース改のスタイルが常となっている。腰の携帯方天戟や、隠し武器の携帯十字戟の出番は希となる。それでも、どんなスタイルだろうが、総意を守れるなら安いものだ。


    第8話・3へ続く。

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