第6話 引き金を引く6 決死の一撃(通常版)
再び沈黙するこの場。そこに突如、魔法陣が描かれていく。直後、過去に遭遇した見知った連中が現れだした。旧リューヴィスとセレテメスで大暴れした、伯爵と男爵である。
その周辺には、機械兵も共に現れている。完全武装の面々は、直ぐに臨戦体勢に移りだす。どうやら、煮え切れぬ貴族王達に見かねての投入と思われる。
「相変わらず甘いですね。手っ取り早く済ませてしまえば良いものを。」
「直ぐに終わらせて、支配権を広げるのが得策かと。」
今回現れた男爵と伯爵だが、以前の様な怖じた感じが全くしない。連中の言葉を聞けば一目瞭然である。もしかしたら、何らかの強化術を施されているのかも知れない。
「ふむ、この期に及んで再び襲来ですか。懲りませんねアナタ。」
「いい加減にして欲しいですよ、本当に。」
明らかに苛立ちの雰囲気を放ちだすエリシェとラフィナ。俺とスミエの隣へと来ると、手に持つ重火器を構え出す。それに反応した機械兵達が、男爵と伯爵を守りだしている。
今の言動で、相手が何時もと違う事を察知する一同。俺を媒体として、念話を通して感じ取ったようだ。かなりのキレ者と化しているのが痛感できた。やはり強化術を施されていると取ってよいのかも知れない。
「セレテメスでは大きな侮辱を受けましたからね。この場はそれ以上の返しをしましょうか。」
「こちらも、リューヴィスでも同じものを受けたからな。」
「・・・そうか、ならば先ずは“装甲”を剥がす事にしようか。」
そう語った直後、身内達が一斉に動き出した。手に持つ重火器を、機械兵達に向けて放ちだしたのだ。相手の弱点は大凡決まっているため、そこに向けて一撃必殺の銃弾を浴びせていく。
この時、連中の背後に居る貴族連合共に着弾しないように配慮した。現状をどう見ても、今の完全悪は男爵伯爵連合である。先ずはコイツ等を片付ける方が先決だ。それに、男爵と伯爵は貴族王共を見切っている形に見える。
幸いだったのが、貴族王共を盾にしなかった事だろう。そこまで現状は機転を利かす事ができなさそうである。それに、連中は一連の様相を察したのか、男爵伯爵連合から距離を空けだしていた。これは非常に有難いとしか言い様がない。
機械兵と言えども、夥しい銃弾が襲来すれば悲惨なほどに破壊されていく。その中でも、こちらに向けて突撃してくる個体もいた。それらには、ミュティ・シスターズや宇宙種族組が直接対決をしだしている。
だが、破壊されていく機械兵が多くなると、新たに転送魔法で呼び出されてくる。無尽蔵的に現れる機械兵達に、一同して驚くしかない。本格的に攻めに転じだしている事を窺い知れたからだ。
俺とスミエは、身内達が猛攻を繰り広げる渦中、その只中で棒立ちして待ち続けた。男爵と伯爵も同じ様にしているが、表情は怒りの雰囲気を醸し出している。
・・・考えを改めるしかなさそうだ。相手は確実に、こちらを排除しようとして来ている。しかもこの様相を見れば、形振り構わず的な感じだ。一歩間違えば、味方に被害が及ぶ可能性が出てくる。
これが相手の作戦なのかどうか分からない。しかし、大切な存在を守るためなら、動く時は今なのかも知れない・・・。
どれだけ経っただろうか。海岸に転がる機械兵の残骸が、直前までの戦闘を物語っている。
明らかに異常とも思える現状に、貴族連合達は完全に距離を空けていた。それだけ、連中にとっても男爵伯爵連合の総戦力は逸脱している。
王城側が本格的に動き出したと取っていい。局地的な軍勢だが、それだけの戦力である事は言うまでもない。狙って待ち続けていた事は確かだが、改めて来られると覚悟を決めねばと思ってしまう。
今現在は、全ての機械兵が破壊されている。男爵と伯爵だけが残る形だ。貴族連合達とは結構な距離があるため、実質的に2人だけの対峙となる。
先程までの余裕の顔は、一体何処へやら。男爵と伯爵の表情は、劣勢に追い込まれた人物のものだ。おぞましい程の怒りに満ちている。しかし、そこは総合戦力が抑止力となっていた。
それでも、引こうとしない様相に、その執念を感じさせてくる。退くに退けない所が、全てを物語っていた。貴族連合の面々が、まだまだマトモと見えるぐらいだ。
「・・・で、これでもまだ退かない訳か?」
静かにそう呟く。静かなる殺気を放つ身内達に、表情を曇らせる2人。何時もの連中なら、ここで素直に退くのだろう。だが、やはり今回の2人は、内に抱いている一念が異なる。
「これで終わったと思わない事です。こちらには、まだ奥の手があるのですから。」
「そうだ、ここからが本当の蹂躙だ。」
男爵の発言も聞き捨てならなかったが、伯爵の発言で当時の様相が脳裏を過ぎる。それは、仲間の女性陣への悪態だ。男爵と伯爵は、女性を慰めモノの道具にしか見ていない。
手に持つ拳銃を構え、静かに引き金を引いた。放たれた弾丸は、伯爵の左手を意図も簡単に貫く。その一撃を受けて、伯爵は痛みのあまりのた打ち回る。実に大袈裟である。
「が・・がぁ・・・。」
「き・・貴様・・・。」
「・・・逆鱗に触れた貴様が悪い。」
伯爵への攻撃に、驚愕する男爵。しかしこの程度など、話にならないものだ。実際には、その一撃で相手を瞬殺できるのだから。それに、今までのこちらの攻撃を見ていれば、その一撃がどれだけ危険なのか分かるだろうに。
圧倒的な戦闘力やその動きだけに気がいき、本質的な部分を全く見ていない。そう言えば、2人との初対峙の時も全く同じだった。所詮は愚物に過ぎないと言う事である。
「もう一度警告します。素直に引いた方が、良いと思いますよ。」
「だ・・黙れぇ!」
ドスが効いた声色のスミエに、背筋に悪寒が走る。彼女の方も、既に我慢の限界を超えているのが分かった。そんな彼女の言葉に、逆ギレして襲い掛かろうとする男爵。
だが、そうは問屋が卸さない。スミエに迫る男爵に、掠る程度の銃撃が放たれる。しかもそれは一発だけではない。身内の大多数からの射撃だ。擦り傷を負わせる程の、超絶的な精密射撃の嵐である。
しかもその一撃を放った獲物は、それぞれが持つ拳銃である。重火器側ではない。つまり、何時でも“引き金を引ける”という意思表示だ。物凄い一撃の嵐に、流石の男爵も攻撃を控え後退りをしだす。
「・・・本当に、退かないのだな?」
致死性の一撃を目の当たりにし、片方は痛みに顔を歪め、もう片方は動く事すらできない。その2人に対して、最後通告を行った。ここまで譲歩しても、相手の考えは覆っていない。
できれば、引き金は引きたくはない。相手が極悪であっても、殺人はご法度である。だが、人間の殺害がタブーでも、多種族なら良いのかという矛盾点も発生している。その様な優柔不断な考えが、今の王城連中を助長させてしまっていた。
引き金を引き、相手に引導を渡せば、即座に目の前の障害は消え去る。それを常用すれば、異世界惑星の事変は終息していくだろう。だが・・・本当にそれで良いのかと・・・。
この一念は、念話を通して総意に伝わっているようだ。方々から、何とも言えない負の感情が伝わってくる。異世界惑星に在住の面々すらも、その部分を感じ取ってくれている。
言葉ではどうにでも言える。だが、実際に行うとなると話は別となる。昔は平然と引き金を引けていたのに、どうしてこうも躊躇するようになったのか・・・。
「・・・全ての事を荒だてたのは、貴様等の方だろうがっ!」
「・・・我々の邪魔をする者は、何人足りとも排除する・・・。」
・・・救い様がない存在は、この世に居るのだと身内が言っていたな・・・。ここまでの警告を発しても、全く考えを改める事はなかった・・・。
こちらが退いても良いだろうが、そうすれば異世界惑星の住人達が虐げられる。特に女性達への悪態は、激化の一途を辿るだろう。それだけは、絶対に至らせてはいけない。
ならば・・・取るべき行動は1つしかない・・・。
静かに・・・そう、本当に静かに拳銃を相手に向ける。狙う箇所は、決死を狙える頭部。最早、無慈悲なまでの一念を、この2発の弾丸に込めて・・・。
直後、2発の発砲音が鳴り響く。その音を聞き、総意は“引き金を引かれた事”を察した。
第61話・7へ続く。
決死の一撃を放つ、と。今の今まで、永遠の命題とも言える概念を、ついに実行した感じかと。
警護者本編前の苦労人では、その概念は非常に弱いので、軽々しく相手を屠り続けていますが。探索者側は色々な経験を経ての流れなので、躊躇する場面が多々ありましたが。まあ、警護者の本質からすれば、これが当たり前なのでしょうね。
残り1話で同話は終了となりますが、やはりと言うべきか次の話がまだ未完成です><; 3分の1までは終わっていますが、残り3分の2が未攻略状態で@@; 前はポンポン進んでいたのですが、今はこの体たらくです><; 何とも(-∞-) まあでも、最後まで突っ走りますよ@@b




