第7話 愚者の考え1(キャラ名版)
工業都市デハラードに現れた魔王軍とその本人。何とか退ける事ができたが、待機型の人物ではない事を痛感させられた。何時何処で魔王決戦や大魔王決戦が起きてもおかしくない。それに、相手は様子見で訪れただけで、本気を出していなかった。
ありとあらゆる手立てを考えねばならないが、実際には一歩ずつ前に進むしかないだろう。それに、俺個人では相手を瞬殺できようとも、それでは全く以て意味をなさない。この異世界の住人達が何とかしなければならないからだ。
魔王や大魔王の本当の考えまでは読めないが、唯一言えるのは絶対悪だとは考え難い事だ。悪の権化身的な存在ではあるが、何か特別な考えを抱いているのは間違いない。それがこちら側にとって、プラスとなるのかマイナスとなるのか。そこが重要だろう。
ヘシュナ(ふむ・・・これは・・・。)
デュヴィジェ(なるほど・・・。)
念話を通して、俺の脳裏を読むヘシュナ。遥か遠方にありながらも、彼女の特殊能力が発揮されるのは驚くしかない。それは、ほぼ同様の力を持つデュヴィジェもしかり。
デュヴィジェ(オルドラ様の推測と、魔王様の様相からして、彼女は恐らく宇宙種族の可能性が高いですね。)
ミスターT(やはりそうか・・・。)
先読みのスペシャリストたるデュヴィジェの言葉に、魔王の頭を軽く叩いた時を思い巡らす。あの時に感じた親近感は、5大宇宙種族と同じ感じだった。つまり、宇宙種族という事だ。
ヘシュナ(となると、何らかの要因により、魔王や大魔王を演じなければならなくなった、と。)
デュヴィジェ(十中八九、そうなりますね。それに、魔力や魔法の概念は、それに近しい力を出す事はできます。ルビナ様方の電撃力や、ヘシュナ小母様の治癒力もそれです。)
ナセリス(治癒力も過剰的に放つと、破壊をもたらしますからね。良い例としては、植物に水分をあげ過ぎると、枯らしてしまうのがそれです。)
ミスターT(対アンデットには特効薬そのものなんだがな。)
治癒力はプラス面の力の究極体なだけに、不死の存在には超絶的に効果がある。ゲームで有名な所だと、回復魔法がアンデットにはダメージとして入るアレだ。
デュヴィジェ(極め付けは、魔王様が殺気と闘気の心当てに、完全に屈しなかった事でしょうか。)
ミスターT(いや、あの時のそれなんだが・・・比較がな・・・。)
ヘシュナ(マッチ棒の火力が魔王様で、太陽の火力がマスターと。超絶的な差ですよね。)
呆れの雰囲気を感じずにはいられない。全力ではない魔王でも、その魔力は相当なものとなる。それがマッチ棒の火力となれば、一息に吹き消せる感じである。
ナセリス(まあ、お2人方も全力を出していないので、大凡の対比でしょうかね。貴方の全力は、天の川銀河に匹敵する黒いモヤを瞬殺する程ですし。)
デュヴィジェ(射手座エースターでしたか、天の川銀河の中心のブラックホール。太陽よりも遥かに凄まじい力を誇りますが、黒いモヤはそれをも軽く呑み込み消滅させますからね。)
ミスターT(その、変人を見る目は勘弁願いたいが・・・。)
ヘシュナ(役得じゃないのですか?)
何ともまあ・・・。つまり、俺の戦闘力は、この異世界のレベルの範疇を超越しているという事になる。魔王や大魔王ですら話にならないというものだ。
そして痛感した。殺気と闘気の心当てを除けば、俺の戦闘力は並である。身内の戦闘力の方が遥かに凄まじいのだ。特に5大宇宙種族の力量は、地球の人間たる俺には、到底敵わぬ領域となる。比較する事すら恐れ多いだろう。
ヘシュナ(何を仰るのやら・・・。)
ナセリス(本気でそう思っているのでしたら、逆に馬鹿にされている感じになりますけど・・・。)
デュヴィジェ(小父様や貴方の盟友方は、生命力の次元では私達を遥かに超越していますよ。種族の部分でしか優劣は発生してきませんし。)
ミスターT(はぁ・・・そうですか・・・。)
物凄く怒り気味に語ってくる。これは彼女達に何度も挙げられた概念だ。種族面での力ではなく、生命力の次元での比較となる。
ヘシュナ(特にミツキ様の力の前には・・・。)
ミツキ(呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!)
・・・何とも。出番を窺っていた様子だろうか。その突拍子な様相を見て、周りの面々が笑いを堪えているようだ。この美丈夫の力は恐ろしいものだわ・・・。
ミツキ(冗談わぅ。ともあれ、そちらのレベルに合わせた動きをしないとマズいですよね。)
ミスターT(相当手加減をしないと危ないと思う。下手をしたら、俺達の力で異世界を簡単に破壊しかねない。)
ミツキ(地球と異世界惑星のレベル差というより、私達の戦闘力の差とも言えますし。)
デュヴィジェ(不測の事態に備えての、バリアとシールドの防御機構だけに留めるのが無難かと。)
ミツキ(ギガンテス一族は超怪力の効果、これは止めた方が良さそうです。)
今までの様相を窺いつつ、現状の力加減を読み出す一同。ここまでの力量の差があるとは、到底思いもしなかった。現状の現地人、その中の最強の存在に近い魔王の実力で窺い知れた感じである。
ミツキ(そうわぅそうわぅ、ついにっ!)
ミスターT(・・・座標軸が確定できたのか。)
デュヴィジェ(ラフィナ様の妙案ですよ。)
物凄く嬉しそうな雰囲気の面々。先のエリシェとラフィナとの念話後に、この技術が確定されたようだ。つまり、何時でもこちらに増援を派遣可能という事になる。
ミツキ(トランジットはどう・・・げふんげふん。)
ミスターT(あー・・・応用法は分かった、言わんでいい。)
ミツキ(さらば~ちきゅ~・・・むぐっ?!)
ナツミA(いい加減止めなさいな。)
案の定な展開だ・・・。常にネタを披露するミツキとしては、その中に地球の用語が絡む。専門用語的に言えば、著作権の問題だろう。それを押し留めたナツミAは見事である。何ともまあ・・・。
ナツミA(まあ何ですか、その手法でそちらの座標軸が確定した訳でして。)
シルフィア(君とミツキTさんの生命反応を、例の手法で特定した感じなのよね。ラフィナさんがその手法を持ち掛けるまでは、異世界の惑星自体を探索し続けていたし。)
デュヴィジェ(ラフィナ様とエリシェ様のお力には脱帽しますよ。)
ヲタクのパワーが炸裂、か。大企業連合の総帥に総帥補佐を担う2人が、裏ではヲタク気質全開である。その重役がなければ、普通の女性として過ごせていたのだろうな。
シルフィア(とりあえず、近々誰か送ってみるわね。それで更に座標軸が確定し、広げても安定するのなら、大規模な投入も可能になるし。)
ミスターT(・・・一応述べるが、何を送ろうとしているのかは一切感知しない・・・。)
ミツキ(ウッヘッヘッヘッヘッ♪)
俺の言葉に、凄まじいまでのニヤケ顔のミツキに、不気味な雰囲気の笑いをしている面々。念話を通しても感じるその迫力は、それだけで異世界を破壊しかねない超大なものである。本当に大丈夫なのかこれは・・・。
ともあれ、今の流れからして、異世界惑星への転送装置での移動は確立したと思われる。最初は数人を派遣してくると思われるが、その後の流れは感知しないでおく・・・。
調停者と裁定者の役割は、しっかり担って欲しいものだが・・・。
念話を終えて、工業都市へと意識を戻す。先の魔王到来から数日が経過し、普通的な生活を送っている。とは言うものの、実際には工業都市の警備が本命となっている。
魔王を退けたという事から、冒険者ギルド・自警団・騎士団からの強い要請で、工業都市の臨時の警備隊長を任されてしまった。隊員は妹達全員と、メカドッグ嬢達全員である。まあ、あの魔王の言動からして、再度の到来はないと思える。
そして、不測の事態が当たった感じになる。第3勢力の台頭だ。
ミスターT「人間が嫌いになりそうだわ・・・。」
ミツキT「ハハッ、確か地球でも同じ事を仰ってましたよね。」
街中の警護と共に、美化の貢献にも一役買って出る。デハラードは工業都市という事から、非常に殺伐とした様相となっている。そこで、ゴミ拾いから始まり、植物を埋めていった。これらの出費は、オルドラが全額担ってくれた。
カネッド「片や街の美化に貢献する人間、片や裏で暗躍する人間。私も嫌いになりそうですわ。」
ダリネム「連中の方が魔物そのものですよ。」
人の闇を垣間見て、愚痴をこぼすカネッドとダリネム。ちなみに、妹達とメカドッグ嬢達も、街の美化に貢献してくれている。工業都市自体の警備は、ヒドゥン状態のメカドッグ嬢部隊に任せてある。
エメリナ「王城の非常事態宣言は、独自に軍備を拡張するのが目に見えています。ここへの魔王到来を利用した形でしょうね。」
アクリス「不安な心情の住人方を煽動し、軍事拡張に利用する。軍事絡みに疎い私でも、その先の行く末は痛いほど分かりますよ。」
ミスターT「魔王軍討伐と言う名の世界進出、だな。」
地球の抗争と何ら変わらない様相である。これには、人の業深さに心底呆れ返るしかない。
推測の域だが、魔王軍所属の魔物達は、しっかり統率が取れていると思われる。先の魔王が退き際、工業都市外にいた魔物達が全員去った事だ。討伐依頼などで暴れている魔物達は、恐らく野性的な存在だろう。アンデットなども該当すると思われる。
そう言えば、あの魔王は自身をカースデビルとは名乗っていなかった。黒ローブ自身は、己の上官はカースデビルだと言っていたが、どうやら魔王とは異なるようだ。
妹達も魔王自体をカースデビルだと思っていたようだが、あの魔王・・・女性魔王は別の存在だと思われる。そもそも、誰もカースデビルという存在を見た事がない。誰がその名を最初に挙げたのかも分からない。
となれば・・・考えられるのは、捏造しかない。問題は、誰か捏造を企てたか、という事になる・・・。
ミスターT「・・・あの黒ローブ、王城専属の魔術師の可能性があるかもな・・・。」
ミツキT「シュリーベルへの襲撃は、魔王軍ではなく王城軍によるものだった、ですか・・・。」
ミスターT「面と向かっての対峙だと、色々と学べるものもあるからの。」
話題の対峙が魔王絡みである事を察知したエメリナ達。物凄い殺気に満ちた目線で睨んでくる・・・。あの様相からして、完全に嫉妬心である。俺としては、そこに強かな考えなどなかったのだが。
ミツキT「もしかして、魔王様の頭を叩かれたのは、それを読むためだったのですか?」
ミスターT「んにゃ、アレは自然に出たんだがね。結果的に、その瞬間に彼女の様相が窺い知れた。それらを踏まえて、カースデビルとは別人であると思った訳だ。」
無意識的に出た厚意が、結果的に後の様相を把握するのに一役買った、か。女性への応対は、紳士的に行うべし、である。茶化しの類ではないため、流石に身内は怒らないだろう・・・。
ミツキT「まあ・・・上辺の対応は黙認しますが、その推測が当たっている場合が痛いですね。」
ミスターT「全ての襲撃事変は、裏で王城が暗躍していたという事になるしな。」
ネルビア「だとしたら・・・許せるものではありませんよ。」
今は推測の域ではあるが、非常に信憑性が高いこの推測。それを窺っていた妹達は、今までにない様な怒りの表情を浮かべている。間違った事に対しては、徹底的に抗戦する姿勢を示すのだからな。この勢いには、何処か羨ましさを感じずにはいられない。
ミスターT「あの魔王嬢は、恐らく中立に近い。諸々の襲撃が王城を淵源とするものであれば、連中がカースデビルという魔王を捏造したに過ぎない。」
ジェイニー「シュリーベルを襲った、魔物の存在はどうなるのでしょうか。」
ミスターT「アレも召喚魔法だと思っていたが・・・。」
現状の懸念材料は、王城が魔物を生み出す力を持っているかどうか、である。黒ローブが王城の手先だとすれば、あの時のガーゴイルとケルベロスナイトは召喚による産物だ。人間がそこまでの高等魔術を使えるのかどうか・・・。
第7話・2へ続く。




