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覆面の探索者 ~己が生き様を貫く者~  作者: バガボンド
第1部 異世界の旅路
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第6話 魔王の力4(通常版)

(・・・小父様のその推測、当たった感じですよ。)

(・・・嫌な当たり方だわ・・・。)


 物思いに耽りつつ、周辺への警戒をし続ける。そんな中、ミツキTが到来を告げてくる。俺と同期しているため、同じ状態を維持しているからだ。


 直後、目の前の広場に凄まじい魔力の渦が出現する。同時に、召喚陣が引かれだしていく。この力強さを誰かと挙げるなら、とある人物しか該当しない。


「・・・魔王自ら出現、か。」

「こ・・これが魔王・・・。」


 召喚陣の発動が終わると、忽然と立ち続ける人物がいた。禍々しいローブを纏うも、表情を隠さないでいる。黒ローブとは異なるものだ。と言うか・・・。


「魔王は女性だったのか・・・。」

「「「ええっ・・・。」」」


 突っ込む所はそこなのかと、呆れ雰囲気の3人。更に遠方の女性陣も、念話を通して同じ思いを抱いていた。かく言う俺の方も、魔王は男性が通例だと思っていたのが実状だが・・・。


「・・・お主が報告にあった、人知を超える力を持つ者か・・・。」

「これはご丁寧に。一応“覆面の探索者”で通っている。」

「フッ、そうか・・・。」


 手始めといった感じで、“左手”に魔力を込めだし拡散しだす。それが周りへと放たれだし、周辺に凄まじいまでのマイナス面の渦を出し始めた。


 凄まじいまでの魔力の渦なのだろう、その力に圧倒されているエメリナ達。だが、その魔力の規模を比較しようにも、全くできないのが今の俺だった。黒いモヤ事変のあの波動と比べるのなら、マッチ棒の火種と太陽の火力との差だ。


「ふむ・・・我の魔力の渦に怯まぬか・・・。」

「いや、お前さんの力と比較する対象がないのがね。確かに、お前さんの力は、超絶的で魅力的だろう。“マイナス面”の力を持つ存在なら、喉から手が出るほど欲しがる。」


 平然と語る俺に、言葉には出さないが驚愕しているのが分かる。魔王の力を以てすれば、この異世界の惑星の人物は確実に怯むだろう。エメリナ達が良い例だ。魔物達の方は言うまでもない。


「それでも、お前さんの行動には敬意を表する。俺が知る魔王達は、一部例外はあるが、配下に勇者達を攻め入らせ、自身は城の玉座に踏ん反り返っている。お前さんは、その一部例外の魔王達と同じく最前線に出てきて、こうして対峙してくれている。本当に感謝するしかない。」


 “左手”のマデュース改を地面に刺し、その手を魔王に向ける。同時にそこから俺の十八番となる殺気と闘気の心当てを放ってみせた。


 放たれた殺気と闘気は、先の魔王の魔力の渦とは比較にならないものだ。先に挙げた譬喩、マッチ棒と太陽の比較となる。その殺気と闘気を受けて、愕然とした表情で震え上がる魔王。今までその表情をした事がないのは間違いない。


「こ・・・これが・・・。」

「俺は魔力や魔法の魔の字すら分からん。比較できるなら、この殺気と闘気だけだろう。お前さんが小手調べで、“左手”から繰り出してくれた事への“左手”返しだ。」


 態とらしくニヤケ顔で語ってみる。とは言うものの、これで一応の比較になるなら問題ないだろうか。


 魔王自身のレベルがどのぐらいなのかが全く分からない。エメリナ達よりは遥かに強いのは痛感できる。いや、この異世界の住人全ての中の、最強クラスの実力者だ。俺が彼女とどの程度の差なのかも、この殺気と闘気だけでは分からない。


「お主の力は・・・魔族寄りに近い・・・。」

「魔王自ら評価してくれるとは・・・有難いものだわ。」

「・・・変わり者だな。」


 俺の言葉に小さく笑う。その魔王の意外な言動に、傍らのエメリナ達が呆然としているのが分かる。相手との実力差以上に、一個人として見ている部分だろう。


「今度、じっくり語り合いたいものだわ。」

「・・・遠回しに退けを言うのも見事だな。」

「今回は、相手の戦力分析での来訪だろうに。お前さんの本気は、まだまだこんなものじゃないしな。」

「それは、お互い様だろう・・・。」


 左手に込めていた、魔力の渦を収める。収まった力の反動により、その場に倒れ込むようにしゃがむエメリナ達。それを窺い、俺の方も左手の殺気と闘気を収める。


 静かに歩み寄ってくる魔王。それを見たエメリナ達は殺気立つが、先の魔力の渦に当てられ動けずにいる。その彼女達に問題ないと合図を送った。


 目の前に立つと、マジマジと顔を見つめてくる。俺の顔は覆面と仮面に覆われているが、その奥底の力を見ているかのようだ。と言うか、この魔王は相当な美女である・・・。


「フフッ、美女とまで言ってくれるのか。」

「はぁ・・・お前さんにまで見抜かれるとは・・・。」

「これでも一応、女だからな。その手の感情は容易に察する事ができる。」


 先程までの殺気に満ちた雰囲気は何処へやら。魔王自身が俺をどう見ていたかは不明だが、こちらは相手を1人の女性として見てきた。それに応じての物言いだろう。


「敵にしておくのが惜しい逸材だな・・・。」

「お得意の、仲間への誘いとかは言わないのか?」

「今回は様子見の手前、お主に失礼であろう。それに、我の立場は一軍の将、己の私情で軍団を混乱させるのは道理に反する。」


 自分を見縊るなと雰囲気で語ってくる。自身は魔王の存在なのだと、まるで自分自身に言い聞かせているかのようだ。


「今回は退こう。次は、“それ相応の力”で対峙したいものだ。」

「分かった、楽しみにしているよ。」


 ごく自然と左手で頭をポンポンと叩いてしまった。そう、ごく自然とである。それに呆気に取られる魔王。だが、その彼女の目は何時になく優しいものになっていた。


 数歩後ろに引き、小さく会釈しながら去っていく魔王。来た時とは異なり、黒いモヤに分散しての去り様である。ドラキュラなどがコウモリになって去って行くのに近い。


 同時に、展開していた魔物達が去って行くのを感じた。転送魔法によるものかは不明だが、サッと消えて行く様がそれを物語るようだ。



 不意の襲来は、普通の雑談的な感じで終わりを見せた。一応の力の見せ合いはできたかと思われるが、あれは序の口に過ぎないだろう。


 魔王の力は、魔王自身の戦闘力だけではない。そのカリスマ的な存在により、軍団を指揮する部分にもある。特にあの魔王は、最前線に繰り出す姿勢を見せてきた。部下だけに指示をだして、自身は動かない存在とは異なる。


 これは恐らく、背後の大魔王も同じであろう。様子見と言う意味合いでは、こうした配下を送り付ける事はあるが、自身も動くタイプだと推測できた。


 同時に、何時何処で魔王決戦・大魔王決戦が起きてもおかしくない事を意味してきた。俺とミツキTがボヤき気味に語っていた、親玉自ら出陣の事例も十分有り得るだろう。


 これは、常に最悪の状態を想定していた方が良さそうだ・・・。




「何なんですかね・・・。」

「に・・睨みなさんな・・・。」


 全ての雑用を終えて、オルドラ武器店に戻った一同。その中で、俺に詰め寄るエメリナ。フューリスとテューシャも詰め寄ってきている。


「力の駆け引きは良いとして、最後のアレは何なのですか・・・。」

「相手を魔王ではなく、女性としてしか見てませんでしたよ・・・。」

「アレが男性の魔王なら、問答無用で叩き潰していたとしたら許せませんが・・・。」


 凄まじいまでの気迫にタジタジである。魔王とのやり取りを見ていた3人は、そこに異性同士の姿を感じてヤキモチを妬いている。俺としては、普通の会話の1つだったのだが・・・。


「はぁ・・・小父様のその姿勢に、地球でも数多くの女性陣が被害に遭っています。」

「やはりそうですか・・・。」

「誤解を招くような発言はやめれ・・・。」


 態とらしく語るミツキTに、より一層ヒートアップする3人。その彼女達を見つめ、呆れ顔の10人。だが、彼女達も嫉妬心を抱いているのが感じられた。


「まあでも、相手を魔王やら敵やらと見るのではなく、その本質で見るのは正しいですよ。小父様の場合は女性として見てましたが、彼女にとっては特効薬のようでしたし。」

「異性という部分は除くが、何か別の考えを抱いていたのは感じたがな。」


 3人を宥めつつ、徐に一服しながら語る。意図的ではなかったが、女性と言う点を突いての探りになったのは間違いない。魔王としての対峙だけなら、エメリナが語った通りに、攻撃を仕掛けたのは間違いない。


「その姿勢・・・貴方でなければできませんでしたよ。」

「魔王の魔力の渦を受けて、動けず仕舞いでしたし・・・。」

「貴方の殺気と闘気にも驚きましたが・・・。」

「殺気と闘気ねぇ・・・。」


 魔力や魔法の力がない俺には、比較とする力は殺気と闘気の心当てしかない。それが同系列の力かは不明だが、相手に効果があったのは言うまでもない。


「同時に確信した事がある。バリアとシールドの防御機構は、物理攻撃と魔法攻撃しか防げない。魔力の力当てや、殺気と闘気には為す術がないわ。」

「確かにそうでしたね。」

「今も私達には、例の防御魔法が掛かっていますから。」

「物理攻撃と魔法攻撃へは盤石でも、精神攻撃には為す術がない、と。」


 バリアとシールドの防御機構の弱点を窺い知った感じである。しかし、実質的に効果がないのは精神的攻撃であり、それは己の気力や気迫で十分対処が可能である。今現在でも防御機構自体の最強鉄壁は破られる事はないと思える。


「それよりも・・・貴方の力が魔王寄りなのが気掛かりですが・・・。」

「お前さん達、俺をラスボスにしてくれるなや?」


 態とらしくニヤケ顔で語ると、顔を青褪めて震え上がる妹達。魔王ですら厳しい相手なのに、それをも超越する存在は勘弁願うと言いたげである。


「その場合ですが、女性力を使えば圧倒的に勝てますよ。」

「またそれか・・・。」

「フッ、女性を甘く見てはいけませんからね。」


 震え上がる妹達の肩を持つミツキT。俺が一番の弱点とする、女性の力を挙げてきた。それを窺った妹達が、何と態とらしく妖艶な目線で見つめてきた。それを見て悪いと思いながらも、爆笑してしまう。そして、その言動に今度は脹れ面になる彼女達であった。



 ともあれ、問題は山積みである。魔王の力は窺い知れたが、アレが真の実力でないのは明白である。その彼女の背後には、更に強い大魔王の存在も控えている。配下の軍勢の様相も、全て把握し切れていない。


 そして、敵は魔王軍だけではない。初対面時の魔王の印象は、悪党ではあるものの絶対悪とは感じられなかった。つまり、真の敵は人間側になるという事だ。偽勇者共や王城の連中が正にそれだろう。


 本来のゲーム作品では、魔王軍団が真の敵とされていた。しかし、この異世界の惑星では、完全に事情が異なっている。最悪は三つ巴の戦いになる可能性も出てくるだろう。


 俺がこの異世界に飛ばされた理由は、今の所まだ分からない。だが、人間側からの召喚ではないのは、何となく感じている。もし、魔王側だとすれば、それはそれで凄い事にはなるが。


 これは、相当厄介な様相になりそうな気がするわ・・・。


    第7話へ続く。

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