第6話 魔王の力2(通常版)
妹達を見送った後、オルドラ武器店から使いの者より連絡があった。何でも、新しい武器ができたとの事だ。早速現地へと足を運ぶ事にした。
何だか今では、オルドラは俺達の仲間になった感じである。若かりし頃は冒険者をしていたとの事だ。そのツテにより、工業都市の市長に抜擢されたとも言っている。人望の厚さ以外に実力家でもあった証拠だ。
「信じるか信じないかは、お前さんに任せるが。」
「ふむ・・・異世界、か。」
獲物の見定めをしつつ、雑談を繰り広げる。その中で出たのが、俺の出身に関してだ。彼はこちらが只ならぬ存在である事を既に見抜いていた。
「これは信憑性に欠けるものだが、俺の情報だと魔王と大魔王は異世界から現れた存在だと言われている。連中が現れるまでは、魔法という概念は存在しなかったらしい。」
「魔王と大魔王が異世界から到来した存在、か。」
自身も信じ切れていない雰囲気で語るオルドラ。しかし、俺の方はその信憑性を信じるしかなかった。俺自身をこの異世界の惑星に飛ばしたという辻褄が合うからだ。
「と言うか、お前さんも魔王だけではなく、裏で大魔王が存在していると踏んだのか。」
「フッ、俺達の情報網を甘く見て貰っては困る。」
ニヤッと笑う姿に、彼の底力を痛感する。オルドラの実力は、情報網の強さであろう。これはギルドや自警団、騎士団とも精通していると言う。
「確かに魔物達の纏め役だが、何処か絶対悪に感じれない。何らかの意図があって、今の愚行を行っている感じがしてならない。」
「だが、お前さんの娘さんを殺したのは、連中の配下だろうに。言わば、憎き仇だ。」
「それなんだが・・・。」
ミツキTの逝去の手前、どんな相手でも大切な存在を失った人物を窺うと、途端に見境がなくなるクセがある。それを察知したのか、静かに語り始める店主。
オルドラの娘は、確かに工業都市を襲撃してきた魔物達に殺された。しかし、その殺した相手が魔物ではなく、不可解なモヤに飲み込まれたのだという。実際に彼女の遺体は存在しておらず、墓標だけが残っている感じらしい。
「最初は取り乱して、魔物達を恨みに恨んだ。しかし、アイツがモヤに飲み込まれるのを、確かにこの目で見た。そして・・・奴がいた事もな・・・。」
「・・・魔王か大魔王、か。」
俺の言葉に小さく頷く。しかし、その人物が本当に該当者なのかは、オルドラ自身も全く分からないらしい。それはそうだ、誰も魔王や大魔王を見た事がないのだから。
「・・・俺にはどうしても、アイツが死んだとは思えない・・・。」
「そのモヤ自体も非常に気になるしな。」
一服しながら思い遣る。モヤと聞いて脳裏を過ぎったのは、地球での黒いモヤ事変のそれだ。太陽系はおろか、天の川銀河をも飲み込もうとした当事者である。それと同系列の存在なのかは分からないが・・・。
「そもそも、何もかも漠然としやがっている。何時、魔王や大魔王が現れたか、魔物とは何処から現れたのか、それすらも分からない。大都会の王城の連中は、過去の文献から魔王や大魔王の出現を予期していたと言っているが、それは王城だけの話だ。誰1人として、その事を把握していない。」
「・・・もし、王城の上層部が、魔王達と結託していたら?」
俺の言葉に目を瞑りながら黙り込む。彼も推測していた事だと直感した。現状としては、それしか考えられないからだ。問題は、それで誰が得をするかという点になる。
「例の偽勇者共が我が物顔で暴れるのは、恐らくその秘密を知ったのだと俺は睨んでる。それ以外にも考えられるが、恐らく当たっていると思う。」
「・・・更に突っ込む考えを言うなら、王城側が魔王達の秘密を知った、だな。」
現状で思い当たる究極の答えを語る。それに俺の顔を見つめてくるオルドラ。その目線は自分も同意であるというのが直感できた。
「エメリナさん達は踊らされているに過ぎない訳か。」
「それもあるが、啓示の一件も本物だろう。それすらも、連中の本心から遠ざけるための道具に過ぎないとな。」
「はぁ・・・最後の敵は人間と言う訳か・・・。」
再度一服しながら、吐き捨てるように言い放った。この言葉に込めた概念は、地球での各事変での様相に当てはまる。
惑星事変と黒いモヤ事変以外は、全て地球人が裏で糸を引いていた。5大宇宙種族すらも、連中に操られていたようなものだ。ヘシュナはそれに気付き、態と連中に接触して、悪役を演じた事もあった。
人の闇は本当に深く醜い。しかし、全部が全部そうだとは限らない。その部分が唯一の救いだろう。俺達が戦える最大の理由となる。
「・・・ここからは俺の推測だ。お前さんがここに来た理由は、連中を阻止するためだと直感している。連中の超絶的な力に抗うなら、同じ力を持つ者を呼べばいい。」
「そこまで偉い奴じゃないんだがな・・・。」
「ハハッ、偉い偉くないではない、目の前の人物を救えるかどうかだ。どんな力を使ってでも、その生き方を貫き通す。先日、お前さんが言っていたじゃないか。」
オルドラの言葉は、もはや格言的であろう。物事を見定める眼により、先の先を見定めた感じだと取れる。いや、彼自身の生き様そのものだ。
俺がここに飛ばされた理由、か・・・。もし、彼の言う通りであれば、俺をここに飛ばした人物は、魔王か大魔王という事になる。オルドラの推測側なら、王城が召喚する筈がない。となれば、魔王と大魔王は一体誰なのか・・・。
「まあ何だ、今は一歩ずつ進むしかない。お前さんが言う自然の摂理だったか、それらは無常にも俺達に突き付けられてくる。生きるか死ぬか、それすらも自然的だ。」
「悪いが、俺はそのクソッタレな概念にはNOを突き付けるがな。」
「ハッハッハッ!」
今では俺の絶対不動の原点を語ると、豪快に笑いながら背中をバシバシ叩いてくる。彼の生き様は、地球の身内のそれと全く同じである。異なるとすれば、それが同性か異性かの差になるが。
獲物を見定めつつ、男同士の雑談は続く。ここ最近は周りが異性ばかりだったため、同性同士の語り合いは気軽に話せて非常に楽だ。しかし、癒しの雰囲気からすれば、流石に異性たる女性には絶対に敵わないが。
ともあれ、オルドラの情報は非常に役に立った。下手をしたら、この異世界の惑星全体で、俺が想像していた事よりも厄介な流れになっている。この場合は、直接当事者に聞ければ一番楽になるのだが・・・。
それから数日が経過。妹達は工業都市の討伐クエストを、片っ端から攻略し回っている。大都会よりも冒険者自体少ないため、シュリーベルと同じ様な独占状態が続いていた。
当然ながら、規模が小さい街ほど、その名声的な流れは浸透していく。先の街シュリーベルやこの工業都市デハラードでも、妹達の人気度は凄い勢いで上がっている。それでいて、無欲の塊なのだから、余計人気が出るのは言うまでもない。
ちなみに、10人の妹達は冒険者ランクAになり、エメリナ達はランクBまで至っている。どうやら、ランクBまでは簡単に行けるそうだが、それ以上はかなりの経験を積まないと至れないらしい。俺とミツキTは今だにランクFの最下位だが・・・。
「そう言えば、お前さんが持つその槍。」
「ん? 携帯方天戟か?」
酒場での入り浸りから、オルドラ武器店に入り浸りの俺達。今では一端の家族的な感じだ。そんな中、彼が俺の獲物について尋ねてくる。腰の獲物を取り出し展開し、それを手渡した。
「うーむ・・・見た事がない金属が使われているな・・・。」
「地球では、有り触れた金属らしいよ。これは、身内が製造してくれた逸品になる。」
「なるほど・・・。」
マジマジと獲物を見つめるオルドラ。近場にあった隕石で生成した槍を手に取り、それを見比べだす。隕石製の槍の方が遥かに重厚度があるが。
「・・・コイツは複合材料か、複数の鉱物を使っている。お前さんが格納している事から、本来なら展開時の強度はこの槍よりも劣るはずだ。」
「そこは何か、色々と試行錯誤をしてたみたいよ。」
過去に俺も思っていた事を語る彼。携帯方天戟は格納式のため、従来の槍などよりも強度の面でかなり劣ると思った。仕込み刀が通常の刀には敵わないのと同じ類だ。
「・・・暫くコイツを借りてもいいか?」
「複製してみるのか。」
「技術職からして、この様な逸品を見たらのなら、興奮しない方がおかしいわ。」
比べれば比べるほど、携帯方天戟の魅力に取り付かれだすオルドラ。俺の獲物と隕石製槍を手に持って、店の奥へと駆け込んでいった。技術職故の探究心、か。羨ましいわ・・・。
店の入り口に店内の椅子を運び、そこに座り一服をする。店主が作業中とあり、臨時の店主を買って出てみた。とは言うものの、ここ最近は武器屋を利用するお客さんはいないのだが。
そよ風が心地良い・・・。異世界の抗争を忘れさせるような居心地だ。ここ最近は、色々な思いやら巡らせていたため、精神的に疲労があったのだろう。
特に慣れない世界に飛ばされたため、地球での疲れとは別の疲れを感じずにはいられない。それに、一気に13人もの妹達ができたのだ。気苦労が堪えないのは言うまでもない・・・。
それでも、今の俺にできるのは、この異世界の惑星の抗争を解決する事だ。表向きは魔王討伐とあるが、実際にはそれ以上に深い暗躍が行われている。魔王や大魔王は、その尖兵にすらなっていない。
最後の敵は人、か。地球でも同じ考えに帰結したが、本当に人は業深い存在だわ・・・。
第6話・3へ続く。




