第6話 魔王の力1(通常版)
工業都市デハラードに移動してから1週間が経過。凄腕の技術者たるオルドラの力を借り、妹達の武器防具は劇的に強化された。俺からすれば、彼自身は伝説の鍛冶職人とも取れるかも知れない。それでも、人である事には変わりなかった。
そう、冒険者も勇者も鍛冶職人も人なのだ。そして、魔物も含め、全てが生命体と言える。この回帰は警護者故のものだろう。地球でも何度も回帰し続けた概念とも言えた。分かり合えれば、争い事などなくなる、それが身内の結論点である。
しかし、地球でも異世界の惑星でも、その概念が通用するとは限らない。現に今も抗争が続いている。武力で解決するのは容易だが、それでは後に必ず遺恨を残してしまう。やはり対話こそが最善策なのだろうな。
言うは簡単・行うは難し、か。身内が口癖のように言うそれは、異世界でも十分通用する。そして、最後は己自身に帰結する、とな。まあ、これは俺の口癖か・・・何とも。
(また恒例の自己嫌悪ですか。)
突然、脳裏に過ぎる言葉。地球からの念話である。その声は、最近多忙を極めているとの事だった人物からだ。
(人物・・人物ですか・・・。)
(正にナレーターの如く、と。)
(茶化しはやめれ・・・。)
恒例の如く、胸中を見透かされた。今の俺は念話経由だとダダ洩れ状態であり、直ぐに内情が読めてしまうとの事だ。その度に茶化しを入れられるのは、勘弁して欲しい所だ・・・。
(まあまあ、そう仰らずに。エリシェ様もラフィナ様も、貴方が異世界に飛ばされた事を気になされていましたし。)
(それ、ラフィナさんの気質からして、こちらに来たいと言うのが本音だろうに。)
(あら、お気付きでしたか♪)
(はぁ・・・相変わらずのヲタク気質です。)
ナツミAとシルフィアと同じ様に、異世界事に非常に関心を示すラフィナ。また、最近だとエリシェもその気質が見え隠れしている。
エリシェとラフィナ。2人は警護者界のスポンサーを勤める、大企業連合の総帥と総帥補佐である。
エリシェは、地球ではその存在を知らない者はいないとされる、三島ジェネラルカンパニーの若き社長だ。その彼女の補佐を務めるのがラフィナだが、今では副社長を担うほどである。そして、2人とも生粋の警護者でもある。
過去に数々の事変を乗り越えた盟友でもあり、俺がマデュース改を使い出したのはエリシェが淵源だ。ちなみに、ラフィナは場違いなガトリングガンを扱う。両者とも、5大宇宙種族の重力制御ペンダント効果によるものだ。
(現状は皆様方から伺っていますが、そちらは大丈夫ですか?)
(一応は何とかなっている。お前さん達の声を聞く度に、ホームシックになる事だけが問題点だが。)
(あら、嬉しい事を仰りますね。冗談でも嬉しいですよ。)
久方振りに聞けた身内の声に、本当にホームシックの感じになってくる。2人は草創期に知り合った間柄で、修行も担った事もある存在だ。まだ5大宇宙種族が出揃う前の話なため、文字通りの激闘と死闘を潜り抜けた相棒でもある。
(はぁ・・・羨ましい・・・。)
(この埋め難い間柄は何とも・・・。)
(何を仰いますか。お2人はマスターと付かず離れずのご関係でも。)
(恋心云々ではなく、師弟の理そのものですからね。私達の方こそ羨ましいですよ。)
そう、今では2人より、ヘシュナとナセリスの方が親しい間柄となっている。
ミツキTの様に、生命の次元から接していけば、それは時間や空間を超越する事になる。つまり、エリシェとラフィナが経て来た時間よりも、遥かに超大な時間を接して来たとなる。この概念は俺も理解し難いものだったが、ミツキTが舞い戻った事により痛感させられた。
(それでも、同族の間柄の部分からして、どうしても超えられない壁がありますし。)
(偏見や差別になりかねませんが、この部分は生まれ持った宿命ですからね。)
(宿命、か・・・。)
彼女が語った言葉に、再度思いを巡らす。それは、この異世界の惑星での生命体の状態だ。特に魔物がそれに当たる。
(・・・なるほど、魔物を殺す事に罪悪感を抱いていると。)
(先読みどうも・・・。)
(まあまあ。それでも、持って生まれた宿命は、時と場合では敵か味方かに分かれます。淵源を辿れば、善と悪でしょうか。それに、善が善とは言えない時もあり、悪が悪とは言えない時もあります。)
(魔物でも、善に等しい存在もいらっしゃいますからね。)
俺が抱く懸念材料を、見事なまでに見抜いてくれた。2人とは、こうして胸中の不安な内情を語り合う事が多々ある。もはや通例事とも言えるだろう。
(それでも、己が使命を全うすべきです。その道筋に立ち塞がる魔物がいるなら、駆け引きができない場合は倒すしかありません。)
(倒さねば、こちらが倒されますからね。警護者になったのだから、敵には迷う事なく引き金を引け。貴方の口癖ではありませんか。)
(そうだな・・・。)
草創期の2人に語った言葉を聞けて、胸中に抱いていた蟠りが薄らいだ気がした。当時の彼女達は、拳銃の引き金を引く事すらできなかった。その2人に語ったのが今の語句だ。
(良かったですよ、お2方にご足労して頂いて。以前の小父様との念話で、何らかの悩みを抱えていたのを感じました。この場合は、数々の悩みを共に解決している、エリシェ様とラフィナ様でしか無理だと思いましたので。)
(それらを踏まえて、羨ましいと言ったのですよ。)
(私達の場合は、宇宙種族という観点からして、達観した域にありますし。お2人の様に持たない状態には至れません。本当に羨ましいです。)
持ち過ぎる故に、何も持っていないに等しい。知り過ぎる故に、何も知っていないに等しい。これは、5大宇宙種族の彼らが口を揃えて語る、究極的な愚痴である。
地球人の自分からすれば、彼らの概念は超越的なものだ。この異世界の住人すらも超越していると言える。故に、既に持っているため、裏を返せば持っていないのと同じなのだ。
学べる事、知れる事がどれだけ大切か。5大宇宙種族の存在を通して、それを痛烈なまでに思い知らされている。これは、俺達が生きる上での大切な概念である。
(ともあれ、マスターはその生き様を貫き続けるしかありません。警護者の手前、それこそ真の戦士とも言えますし。)
(伺う所、まだそちらには赴けないようなので、貴方とミツキT様やメカドッグ様方の存在しか頼れません。ですが、必ずそちらに赴けるようにします。)
(ラフィナ様と、貴方の背中を守ると誓い合いましたからね。)
(・・・ありがとう・・・。)
ただただ感謝するしかない。持ちつ持たれつ投げ飛ばす、それを返してくれている。俺がお節介焼きの世話焼きで貫いて来た生き様が、こうして現れている事は誇り高いものだわ。
(それと、デュヴィジェ様。恐らくこのプランが有効かも知れません。後で検証実験を。)
(ラフィナ様のプランは、意表を突くものばかりですからね。案外、簡単にそちらに赴く事ができるようになるかも。)
(頼むから、その時は間隔空けて来てくれ・・・。)
俺の言葉に、瞳を輝かせる姿が脳裏を過ぎる。身内の現状からして、直ぐにでもこちらに飛びたいと思っているようだ。現実世界での出来事なのに、そこにファンタジー要因が絡めば、こうなるのは言うまでもない。この半ばヲタク達の気質には参るしかないわ・・・。
「物凄い念話でしたね。」
「あ・・ああ・・・。」
不意の念話であったが、定期連絡ともなったそれを終えて、工業都市へと意識を戻した。その俺の目の前にニヤニヤしながら座っているアクリス。他の妹達もニヤニヤしている。
「エリシェ様にラフィナ様ですか、お会いしてみたいものです。」
「あー・・・まあ、意気投合はするとは思う・・・。」
「凄い強者揃いと・・・楽しみですわ・・・。」
念話を通して、身内の力強さを感じている妹達。過去の戦いからすれば、肉体面でも精神面でも常人からは考えられない強さを誇っている。それだけ、あの戦いが凄まじかったという証拠だわな。
「皆様方の戦い方は、格闘術などを中心とされているのですか?」
「殆どが重火器による射撃戦になるんだがね。それを除けば、否が応でも肉弾戦をするしかなくなってくる。専らプロレス技がメインとなるが。」
「プロレスっ! プロレスいいですよねぇ~♪」
突然興奮気味に語りだすミツキT。そう言えば彼女、逝去直前時は力強さに憧れを示していたのが懐かしい。病魔自体を各種プロレス技で蹴散らすのだと、彼女に言い聞かせた事がある。それからして、相当なプロレスファンになったようだ。
「純粋な肉体同士のぶつかり合い。武器の性能ではなく、己の身体が武器になりますから。獲物を使うなど言語道断ですよ。」
「はぁ・・・そうですか・・・。」
この通りである・・・。ちなみに、今では身内の誰もがプロレス技を使えている。格闘術の発展型として学んだようだが、実際には護身術の1つでしかない。柔道や合気道には到底敵わないのだから。
「と・・ともあれ、今後どうされますか?」
「工業都市で修行をした方が良さそうかな。近場に討伐クエストができるダンジョンがあると聞いているから、そっちで暴れるといい。」
「暴れるとか、何かもう無法者そのものですよね。」
「啓示を受けた無法者達、良い名じゃないか?」
語った言葉に一同爆笑する。凝り固まった異名よりは、変人だと思われる異名の方が遥かに強く見える。それに、その方が気が楽でもあったりする。
「では、今まで通りに動きますね。」
「可能な限り、ランクアップはしておかないと。」
「まあ何とかなりますよ。」
実にアッケラカンとする妹達。しかし、それは上辺だけのものだ。根底は今でも不測の事態に備えて、戦々恐々としているのを感じる。故に、常に余裕を持って行動する、となる訳だ。
まあ、今の彼女達なら、体力面で魔王や大魔王クラスでも引けを取らないだろう。問題は、精神面での対峙か。逆に俺とミツキTは精神面での強さなら、相当なものだと身内から太鼓判を押されるに至っている。実に皮肉な話である。
個々人には得手不得手がある、か。彼女達と俺達を比べると、それが如実に現れているわ。それこそが、個別の生命体となるのだがな。何とも・・・。
第6話・2へ続く。




