第5話 秘剣と絆と2(キャラ名版)
シルフィア(なるほどねぇ・・・。)
ナツミA(魔王や大魔王より、その偽勇者共の方がラスボスになりそうな気配と。)
ゲーム関連に博識のシルフィアとナツミA。妹達から窺った全ての様相を把握し、今後発生するであろう出来事を予測しだしている。
ナツミA(今は皆さんで何とかして頂くしかないでしょう。でも、そちらにはTさんととミツキTさんがいらっしゃいます。メカドッグさん達も大勢いますし。)
シルフィア(最低限の不測の事態への対策はある、と。)
ヘシュナ(皆様方が激闘と死闘を演じていらっしゃる手前、このお話をするのは烏滸がましいかも知れません。ですが、あえて言わせて頂くとするなら、過剰な行動はお控え下さい。)
ナセリス(ですね。どうやら、本来あるべき流れから逸脱しだしている感じがします。)
ミスターT(イレギュラーが発生し、不測の事態に至るという事か。)
世上の様相に疎い俺では考えもしない内容を、見事なまでに繰り広げてくる身内達。自分も警護者であると自負していたが、彼女達の方が遥かに警護者を貫いている。調停者と裁定者の役割を徹底しているのだ。
ネルビア(あの・・・今まで通り、動いても問題はないのでしょうか?)
デュヴィジェ(ネルビア様や皆様方は全く問題ありません。エメリナ様の存在が、若干強めになっているのが気になりますが、大丈夫だと思います。今現在の問題は、小父様の方になりますし。)
ヘシュナ(相手の精神を屈服し行動不能にする力を使ったのと、魔法力以上の火力を持つレールガンを放った事ですよ。)
ミスターT(あー、アレか・・・。)
挙げられた内容は、シュリーベルでの一戦である。黒ローブ共を一掃する際に、麻痺より強い精神束縛力を使い、更にはチャージによるエネルギーレールガンをぶっ放した。アレにより、異世界の通常の流れが変化しだしているようだ。
ナツミA(実際にこの目では見ていませんが、歴史とは些細なうねりから一気に変化する恐れも出て来ます。大きな出来事があればあるほど、そちらの世界が破滅する恐れも十分考えられますし。)
シルフィア(私がレールガンを使ったり、各種力を使ってみるべきだと言ったのは、軽率だったかも知れないわね。)
ミスターT(にしては、悪びれた素振りじゃないのが何とも。)
シルフィア(ん? あの黒ローブがしてきた愚行は感じ取れたしねぇ~。あのぐらいの行為をしてやらないと、因果応報の理を突き付けられないでしょう?)
恐ろしいまでのニヤケ顔で笑う姿が脳裏を過ぎる。それに俺達は震え上がってしまった。特に妹達は、この世のものとは思えないものを触れたかのように震え上がっている。
シルフィア(まあともあれ、今まで通りで良いと思うわ。もしマズい展開になったら、T君が本気を出して鎮圧しなさい。警護者の端くれ、その位朝飯前でしょうに。)
ミスターT(言うは簡単・行うは難し、なんだが。)
本当にそう思う。こうもアッサリと言い切ってくれるのは、実に安心感を抱かずにはいられない。同時に、かなりの無理難題を突き付けられた感じがしてならない。
ミツキ(TさんはTさんの生き様を貫きつつ、皆さんを厳守し続けて下さい。ですが、あくまで主役は皆さん、そこをお忘れなく。)
ナツミA(そうね、その通りね。よくある異世界作品だと、Tさんが主人公なんだろうけど、実際の所は全く以て違うし。)
ミスターT(そこは大いに心得ている。妹達を厳守し尽くすのが、覆面の警護者としての生き様だ。曲げるつもりなど毛頭ない。)
遠回りにはなったが、改めて己の使命を再確認できた。ここに飛ばされた理由も、正にここに集約してくる。13人の娘達を守り通す事が、今の俺の大切な使命だ。
デュヴィジェ(呉々も、皆様方の行動を阻害させないで下さい。あるがままの状態で進軍を。)
ミツキ(不測の事態が出たら、その時こそTさんとミツキTさんの出番ですよ。)
ミスターT(ご希望にお応えできるよう、全力を以て精進しますです・・・。)
現状、そう応えるしかなかった。それに身内は無論、妹達すらもウンウン頷いている・・・。何ともまあ・・・。
地球でもそうだったが、彼女達が的確なアドバイスなどをくれる事が、どれだけ有難いかを痛感させられた。今の異世界では、独断で動いていた感じに等しい。ミツキTが来てくれてからは、幾分か楽にはなった。だが、それでも荷が重い感じだった。
人は1人では生きて行けない、それを改めて考えさせられる。それは地球であろうが、この異世界の惑星でも全く同じだわ。持ちつ持たれつ投げ飛ばす、本当にそう思う・・・。
その後も念話に盛り上がる一同。最初は呆気に取られていた妹達も、念話を終える頃にはすっかり意気投合していた。異世界だろうが地球だろうが、そこに住むのは同じ人なのだと痛感させられる。
異世界だから異世界人、人間であっても人間ではない。そう捉えれば、そう思えてしまう。しかし、実際には大差ないものなのだろう。この概念が払拭されるなら、世上から差別と言う名の偏見は消え失せると思われる。
妹達が思っていた、人間と魔物の共存も可能となるだろうな・・・。
雑談を終えた俺達は、準備を整えて工業都市へと向かう事にした。正午を過ぎていたが、夜間戦闘も慣れる事を踏まえて、夜の中を進む事にした。
本来なら危険極まりないが、護衛に恐ろしいまでの軍勢がいるのだ、全く以て問題ない。それにどうやら、メカドッグ嬢達の精神体は、魔物に相当な特効を放っている様子である。魔物に特殊な目力があるのかどうか不明だが、彼女達の姿がこの世のものとは思えない様相に見えているらしい。
確かに今までの戦闘でも、魔物達は精神体のメカドッグ嬢達を避けるような行動を見せていた。精神体の次元から威圧を掛けるとか、もはや常識外れもいい所だわ・・・。
ファイサ「う~・・・このゾクゾク感、良いですねぇ~・・・。」
ルマリネ「未知への探索、これぞ冒険者と・・・。」
テューシャ「フフッ、本当にそう思います。」
カルーティアスから出発して数時間、辺りはすっかり暗くなっている。それぞれが手に持つランタンの灯かりだけが頼りだ。そして、自身にとって未踏の地に赴く事に、この上なく興奮している妹達。
エメリナ「あの・・・先程は殆ど喋られていませんでしたが?」
ミツキT「あ、私です? お姉様方の博識には到底敵いません。なので、全て任せています。」
ミスターT「お前さんは俺と同じく、指令派よりは実働部隊派だからな。」
ミツキT「頭に立つのは性に合いませんよ。」
彼女も俺もリーダーという器ではない。しかし、誰もその纏め役を担わないので、仕方がなくリーダーを担当する事が多いのだ。それでも、お互いに戦術や戦略を出し合うので、全員がリーダーという感じになるだろう。
ネルビア「担ぎ上げと言ったら失礼になりますが、何れはエメリナさんに全てを任せたいと思っています。貴方の指揮下なら、私達も思う存分戦えますし。」
カネッド「それ賛成! こちらとしては、暴れられれば十分だからね!」
ダリネム「勇者エメリナと12人の戦士達、良いですねぇ~。」
ミスターT「・・・エメリナ王と13人の円卓の美女達・・・。」
一服しながらボソッと呟いた。実際には、“アーサー王と13人の円卓の騎士達”、これが元ネタととなる。だが、この言い回しは実際に出てきそうで怖い感じだ・・・。
フューリス「・・・それ、1人足りませんが?」
アクリス「あ・・・確かに。」
ミツキT「その場合、小父様が加勢すれば良いと思いますよ。」
ミツキTの言葉に妹達が空を仰ぐ。恐らく考えているのは、エメリナを頭とするものではなく、俺を頭とした構成だろう。それを想像した彼女達の顔がニヤケだしている。
キャイス「それ、良いですね! ミスターTさんなら、背丈の問題でリーダーに相応しいですし。」
アーシスト「突撃隊長はエメリナさんで、参謀はネルビアさんと。」
ミスターT「勇者に突撃隊長を任せるのか・・・。」
エメリナ「えー・・・実は私、自分を勇者だと思っていませんけど?」
凄みのある表情で迫ってくるエメリナ。確かに勇者としての啓示を受けた彼女だが、自身はその役割をあまり好ましく思っていない様子だ。俺も同じ立場なら、同じ事を思うだろう。
ミツキT「何かもう、一気に娘達が増えた感じですよね。」
ミスターT「ああ、そうだな。」
キャイキャイ騒ぐ妹達を見つめ、溜め息混じりに語るミツキT。年齢的には妹の年代だが、気質的には娘の年代と言える。それだけ若々しい証拠だわ。
ちなみに、大都会カルーティアスから工業都市デハラードへは、徒歩で半日の距離らしい。実際に赴くのは今回が初めてであり、更に夜間の移動となっているため、注意して進まねばならない。まあ、妹達の戦闘力からして、取り越し苦労に終わりそうな気がするが・・・。
夜間移動は危険だと思っていたが、思いの外問題はなかった。魔物の襲撃があると踏んでいたが、全く以て皆無である。むしろ、盗賊に襲撃されそうになったのは驚きだが。当然、全て完全撃退をしている。
気質からして、逃がすと危険な相手は問答無用で殺害に至っている。それ以外の無害となる輩は逃がしている。無益な殺傷はしたくないのが本音だ。まあ、降り掛かる火の粉は、全て払い除けるのは定石だが。
そう言えば、シュリーベル襲撃事変時は、魔物を問答無用で殺害していたな。あの時は相手の気質からして、避けられない戦いだったからだが、できれば殺傷はしたくはない。
エメリナ「・・・マスター、甘いですよ。」
突然、声を掛けられて驚いた。近場でランタンを持ち、警戒しているエメリナだ。どうやら通例の心中読みのようである。
ミスターT「・・・はぁ、ダダ洩れか・・・。」
エメリナ「念話のそれですよね。ダダ洩れと言うか、普通に聞こえていますけど。」
彼女の言葉に、周りはウンウン頷いている。何時の間にか、独り言が念話として伝わっていたようである。
ミツキT「例の黒いモヤ事変から、小父様の念話度が尋常じゃないぐらいに強くなりましたからね。ダダ洩れを超えて、普通に聞こえるぐらいに至っていますし。」
ミスターT「はぁ・・そうですか・・・。」
ニヤニヤした表情で見つめてくる妹達。心の内を察知できる事が、これほど新鮮なのかという雰囲気である。まあ、俺の方も隠し立てするものではないため、深く気にする事はないが。
ネルビア「それ、地球の方でも同じだとすると、周りの方々の心労が偲ばれます。」
カネッド「心の内を見透かされるのはねぇ・・・。」
ミスターT「常にダダ洩れ状態じゃないんだがな・・・。」
一応の反論はしてみるが、それが冗談のように聞こえている様子である。まあでも、それだけこの念話が恐ろしい力を秘めている事を痛感させられるわ。
エメリナ「話を戻しますが、降り掛かる火の粉は払い除けねば意味がありません。相手に慈悲を抱く時点で、付け入られる隙を与える恐れもあります。」
ミスターT「それは分かっているんだがね・・・。」
アクリス「私も無益な殺生はしたくありませんが、だからと言ってこちらが倒れては全く意味がありません。時として心を鬼にしないといけない時があります。」
ミスターT「そこは心得ている。実際に警護者の手前、相手を殺害する事は気に掛けていない。」
サラッと言い切ってみると、恐怖の表情を浮かべだす妹達。身内にも言われたが、俺が一番怖いと思われる瞬間は、不殺の精神を取り除いた瞬間だと言う。冷徹無慈悲なまでの一撃を放つ様は、殺人鬼よりも恐ろしいとの事だ。
ミスターT「だが、できれば殺しはご法度としたい。それは人は無論、魔物でも同じだ。掛け替えのない生命体の1つだからな。」
ミツキT「・・・フフッ、小父様は変わりありませんね。」
俺に言葉に、溜め息混じりのボヤきを入れて来る。この姿勢は、彼女が逝去寸前の時も全く同じ決意だった。しかし、警護者という役柄、相手を殺害する事は定石とも言えた。非常に矛盾した生き様である。
ミスターT「まあ何だ、俺は俺の生き様を貫くのみ。後悔は全てが終わった後でいい。」
ダリネム「流石は兄貴!」
フューリス「絶対に曲げない信念を持つ、その姿勢は見習わなければなりませんね。」
キャイス「私達も頑張らないと。」
毎度ながらの決意に、自分の事のように奮起しだす妹達。この場合、俺なりの生き様で、彼女達を鼓舞激励できれば幸いだろう。それで支えられるのなら、実に安いものだ。
その後も雑談をしながら夜道を進む。その道中でも盗賊共から襲撃を受けるが、全て返り討ちにしている。行商人などが昼間の行動を基本とする事を、身を以て痛感させられた。
ただ、盗賊共には指名手配の人物もいるらしいが、この夜中の目が見難い中で、個人の判別などできるはずがない。よって、降り掛かる火の粉は払い除ける、の概念で蹴散らし続けた。
第5話・3へ続く。




