第5話 秘剣と絆と1(キャラ名版)
大都会カルーティアスに移動して数週間が経過。その間に魔物達の襲撃や、偽勇者共の横槍が多く目立つようになった。特に酷かったのは、エメリナ・フューリス・テューシャへの悪態である。
それもそうだろう。この3人は、王城から正式に啓示を受けた、正真正銘の勇者達である。ミツキTがメカドッグ嬢達と共に得た情報の、もう1つの勇者パーティーその者達であった。そして、その存在が善心である事も把握できた。
先の魔物達の襲撃時、3人にバリアとシールドの防御機構を施した。直ぐに同効果が発揮された所を窺えば、彼女達が善心に溢れている証拠となる。少しでも悪心があれば、効果を発揮する事は絶対にできないのだ。
同時に思ったのが、王城の啓示は本物であったという事だ。地球でのファンタジー作品群の啓示云々は、実際にあるのかどうかと信憑性が薄かった。だが、こうもしっかりとした証拠を突き付けられれば、否が応でも認めざろう得ない。
そして、俺が異世界に飛ばされた理由も分かった。十中八九、彼女達を守り通す事だと。ただ、本当に飛ばされた事は分からないため、今はそれなのだと思いたい。
正式にエメリナ・フューリス・テューシャと仲間になった事で、他の10人の拍車が掛かり始めた。今だに冒険者ランクがFである事を憂い、一同して3人のレベルアップを図りだしたのだ。
真の勇者達とはいえ、冒険者ランクはF止まりの3人。既にランクBの10人には、表向きには敵わない。更に実力も劣っているため、総合的に強化に走る事に決めたのである。まるで突然妹ができた姉のようである。
しかし、問題点もあった。それは偽勇者共の動向が探れないためだ。大都会自体が連中を黙認してしまう傾向にあるため、モヤを掴むかのように擦り抜けてしまう。裏方で探索中のメカドッグ嬢達も目を光らせているが、雲隠れしてしまって見えない状態だった。
あそこまで殺人的行為に走るぐらいだ、次は更に過激な行動に出るのは言うまでもない。これ以上、妹達を危険な目に遭わせる訳にはいかない。
デュヴィジェ(ふむ・・・一刻も早く、支援部隊を送るべきでしょうね。)
定期連絡と題して、地球からの念話が届く。今もこちらに来る手段を模索中らしく、地団駄を踏んでいる状態みたいだ。身内は早くこちらに来て暴れたいらしく、日に日にその思いが強まっているらしい。
ヘシュナ(何処にでもいるんですよね、そういったカスは・・・。)
ナセリス(本当ですよね・・・。)
ミスターT(はぁ・・・。)
今までの様相を全て一同に語った。当然ながら、我が事の様に激昂しだす。各種事変時でも、相手の理不尽・不条理の行動には激昂の嵐だった。特にヘシュナは、非常に重要となる悪役を担った事があるため、偽勇者共の言動には超絶的な激昂度を現している・・・。
デュヴィジェ(一応ですが、座標軸が判明しても、飛ばせるのは数人ずつになると思われます。)
ヘシュナ(ゲートの規模が小さいのが原因なのですよね。)
ミスターT(個人兵装として送るしかないのが現状か。)
悩ましいといった一念を感じ取れる。今も念話は飛ばせても、人物を飛ばす事ができない。この異世界の惑星の座標軸が探知できるなら、即座に転送装置で移動が可能との事だ。
デュヴィジェ(しかし・・・何とかしてみせます。現状を伺う所、時間がなさそうに思えますし。)
ヘシュナ(ありとあらゆる準備を整えて、その時を待ちますね。)
ミスターT(すまんな、恩に着るわ。)
直ぐに暴れさせろという雰囲気は感じるが、それ以外に現状に危機感を募らせだしている。いくら、異世界の惑星事だとしても、そこに人の命が掛かっているのなら話は別だろう。
警護者の理は、目の前の困っている存在を支え抜く事。これは昔も今も変わらないものだ。そして、その理を誰よりも理解してくれているのが、5大宇宙種族の面々となる。生命の次元から共感を示してくれていた。
各事変に惑星事変、そして黒いモヤ事変。これらは彼らがいなければ、絶対に乗り越えられなかったものである。今の俺達が存在できるのは、彼らがあってこそなのだから。
今はその理を、異世界たる惑星に向けるべきである。どの様な環境や境遇になろうが、己の示す生き様は全く変わらない。それが警護者魂である。
地球との念話を終えて、大都会へと意識を戻す。妹達は全員討伐クエストに赴いており、俺とミツキTは酒場の屋上で監視を続けている。表面上は監視と言う名の寛ぎに見えるが、裏方ではメカドッグ嬢達が縦横無尽に動き回ってくれていた。
それでも、現段階で一番の災厄とも言える、偽勇者共の消息は掴めていない。俺と2回目の対峙の時は、もはや殺人鬼そのものとも言えた。自警団や騎士団が黙認を続けている以上、俺達だけで対策をし続けなければならない。
先の地球との念話でも思ったが、今ほど身内の力が欲しいと思う時はなかった。
丸1日、討伐クエストに入り浸りだった妹達。レベル差はあれど、13人で挑む姿は驚異的とも言い切れる。補佐のメカドッグ嬢達10人は、今では待機しているらしい。
カネッド「いやぁ・・・真の勇者は伊達じゃないわ。」
フューリス「カネッド様も凄い腕前をお持ちですよ。」
同年代からか、直ぐに打ち解け合う13人。特に姉御肌のカネッドとダリネムが、新顔の3人をグイグイ引っ張り回していた。それに弱音を挙げずに付いていっている。
エメリナ「皆様方は、この様な修行を繰り返されていたのですか?」
キャイス「修行とは言うけど、殆ど何時も通りの戦いなんだけどね。」
テューシャ「その挑まれる姿勢が凄いですよ。」
アクリス「お褒めに預かり光栄です。」
この和気藹々度は凄まじいとしか言い様がない。今時の言葉で言えば、女子力であろうか。トラガンの女性陣も同じ気質なため、もし会う事があれば凄い事になりそうだ。
ミスターT「今は力を付け続けるしかない。偽勇者共が何処で横槍を入れて来るか不明だしな。」
ネルビア「バリアとシールドの支援は、続けられて良いのでしょうか?」
ミスターT「それがないと殺される可能性が高い。それに、俺が一番危惧している部分は、女性の弱みを突いてくる事だ。同じ野郎として嫌になってくる。」
吐き捨てるように呟いた。その意味合いは、10人と初めて出逢った時の流れが正にそれだ。その内容の意味を知った10人は、同じく怒りの表情を浮かべだしている。
ミスターT「本来ならば、バリアとシールドの防御機構は使い続けるのは得策じゃない。だが、その出し惜しみで悲惨な末路に至るのは我慢ならん。ならば、俺は問答無用でこの力を使い続ける。後はそれに奢らなければ良いだけだ。」
ミツキT「ですね。地球でもギガンテス一族と合流してからは、バリアとシールドの概念を常に発揮していたとの事ですし。力は使ってこそ真価を発揮する。間違った方に使わなければ、問題はないと思います。」
できれば、5大宇宙種族が力は使わずにいたいもの。しかし、現状がそれを許してくれはしない。下手をすれば、やられる恐れも十分出てくる。
エメリナ「その地球という異世界でも、同じ様な戦いが頻発しているのですか?」
ミスターT「ここに飛ばされる直前までなら、デカい出来事は片付いた状態だったよ。それに、身内には超絶的なプロフェッショナル達が出揃っている。俺がいなくても問題はない。」
ミツキT「士気の問題では、小父様がいなくなった事で、ヤバいかも知れませんけどね。」
ミスターT「ミツキ達がいるのにか?」
ミツキT「あー・・・そうでした。」
どうやら、ミツキT自身は奮起の自然体の存在を忘れていたようだ。地球では、ミツキ自身が正にその役割を担っている。超自然体で繰り出される鼓舞激励と叱咤激励は、一撃必殺の如く轟きを放っている。
ミスターT「彼女達や警護者の理を持つ強者がいれば、万事問題はない。あの戦いで経て来た力は、確実に彼らの礎になっているしな。」
ミツキT「物事には無駄な事は一切ない、ですからね。」
全ての物事には意味がある、か。ミツキTが逝去直前に語っていた、言わば遺言的なものだ。今では俺達の永遠の指針の1つとなっている。
ミスターT「それで、何か提言があるそうだが?」
ネルビア「あ、はい。実は・・・。」
俺達の常識離れした内容の会話を見ていて、介入の余地がなさそうな雰囲気の妹達。それに気付き、本題とする内容を切り出した。語られた内容は、獲物の強化に関してだった。
今回までの討伐クエストで、流石に既存武器では限界が来だしている事が判明したらしい。同じ武器を使い続けるのも良いが、今後強大な魔物などが出てくるのは間違いない。そこで、武器や防具を専門に扱う都市に赴きたいとの事だった。
獲物自体は戦闘での生死を分ける重要な物品だ。この件に関しては反論の余地は一切ない。ただ、その目的の場所まで距離があるため、自分達だけでは決断できなかったらしい。
ミツキT「あー、東にある工業都市ですか。メカドッグ嬢達が偵察済みですよ。」
ミスターT「そ・・そうですか・・・。」
妹達の内容を聞いたミツキTが、実にアッケラカンと語りだす。それに一同して呆気に取られてしまう。そう言えば、先のメカドッグ嬢達を出撃させた時、異世界の大多数を知ったと言っていたわ・・・。
エメリナ「先日の魔物との戦いや、偽勇者との一騎打ちを踏まえると、既存の武器では心許ない感じでした。それこそ、ミスターT様がお使いの槍と斧ですか、それが一番理に適っていると思います。」
ミスターT「携帯方天戟と携帯十字戟か。と言うか、携帯十字戟は斧扱いなのか。」
ミツキT「オーノー。」
十字戟の属性にも驚いたが、ボソッと呟かされたボケに一同凍り付く。自分で言いながら、物凄い表情で同意を求めてくるミツキTに、どう返せば良いのか困惑する限りである・・・。
ミツキ(ごるぅあー! ボケはわたが担当するわぅー!)
そして、ついに我慢の限界が来たのだろう。念話を通してミツキの叫びが飛び出してくる。それに一同して驚愕するしかない。特に驚いているのは、新規加入のエメリナ達だ。彼女達にも念話が通じた証拠である。
ミツキ(ズルいわぅ! 卑怯わぅ! 何時になったら暴れられるわぅか?!)
ミスターT(俺に聞くな俺に・・・。)
ミツキ(ムギャー!)
はぁ・・・相当ご立腹の様子だ・・・。そしてそのご立腹度は彼女だけではない。近場にいるであろう、他の身内達も同じ思いを抱いている。
ナツミA(はぁ・・・すみませんTさん。でも、私達も“一部始終”を窺っているだけでは、流石に暴れたくなりますよ。)
シルフィア(ゲームの中の世界・・・ファンタジーな様相・・・こりゃ堪らないわね・・・。)
ミツキ(飛ばせぃ我が魂! 異世界で大暴れしてやるわぅ!)
何と言うか・・・。何時もはツッコミや抑止力になるナツミAやシルフィアが、ミツキに匹敵するぐらいに暴走寸前である・・・。この場合はどうすれば良いのやら・・・。
デュヴィジェ(何度も挙げますが、そちらの座標の解明はできたのですが、まだ人を飛ばせるだけの座標軸が確定していないのですよ。確定さえすれば、直ぐにでも転送装置で飛ばせるのですが。)
ヘシュナ(一歩間違うと、大宇宙に飛ばされて消滅しかねませんし。)
デュヴィジェ(ですが・・・必ず赴けるようにします。私も暴れてみたいですからね。)
意気盛んに燃え上がる思いを感じる。いや、痛烈なまでに感じざろう得ない。ここまで念話で伝わるのだから、当の本人達が来た場合は怖ろしい事になりそうだ・・・。
ミツキ(・・・とまあ、冗談はさておき。13人の勇者の方々、初めまして。ミツキと申します。Tさんが大変お世話になっているそうで。)
アクリス(あ・・・す・・すみません、呆気に取られていました。お初にお目に掛かります。私はアクリスと申します。)
声を裏返しながら語るアクリス。まあ、まだ話せるだけマシなのだろう。他の12人は完全に呆気に取られており、声を失って呆然としている。こうした突発的な様相に対応できる点からして、アクリスの順応力は凄いとしか思えない。
それからは、念話を通しての自己紹介や雑談が繰り広げられた。俺以外全員女性なため、俺の入る隙がなくなってくる。念話に没頭する一同を見つつ、静かに一服をして見守った。
第5話・2へ続く。




