第4話 襲撃と召集4(キャラ名版)
再度集落の状況を確認し、大都会内部へと戻る。行き着けの冒険者ギルドに報告した方が良いだろう。すると、丁度ギルド前に差し掛かった時、例の偽勇者共が待ち構えていた。
相変わらずの7人組で、以前よりも増して表情が悪役そのものとなっている。こちらも、人は何処でどう変わるか分からない典型的な例である。
偽勇者「貴様等、与えられた任務を途中で放棄するとは、いい度胸をしているな。」
カネッド「はぁ?! 変な言い掛かりは止めろ!」
ダリネム「テメェ等、さっきの合同警備には居なかっただろうが!」
アーシスト「何処までも薄汚い連中だな・・・。」
うわぁ・・・開口直後から暴言の応酬だ・・・。特に妹達の方は我慢がならない様子で、物凄い勢いで食って掛かっている。まあ、最初に突っ掛かって来たのは偽勇者共の方だが。
偽勇者「ふん、何処までも教育がなっていないカギ共だ。それより、そこの偽勇者共を渡せ。」
アクリス「渡してどうするというのですか?」
偽勇者「我々に妨害工作を働いた罪だ、自警団に突き付ける。」
ネルビア「ご冗談を。お3方こそ、騎士団が警護し、王城にて勇者・騎士・賢者の啓示を受けた、正真正銘の勇者様ご一行だ。数々の妨害工作を働いているのは、貴様等の方だ!」
キャイス「あまり、でしゃばらない方が身の為だぞ、偽者諸君さんよ。とっとと失せな!」
うーむ・・・まるで騎士道精神で動いていらっしゃる。妹達の気質は、今では立派な騎士に近いものになっていた。それに、3人を擁護する理由が多々有り過ぎる。極め付けが、この偽勇者共の存在だろう。
一触即発のこの場、見事なまでの修羅場と化した。まだ肝っ玉が据わらない3人は、この様相を見て顔を青褪め震え上がっている。念話を使わずとも、その脅えが本当のものである事は明白だ。
ミスターT「はぁ・・・1つずつ片付けようか。1つ目、お前さん達が先の周辺警備時にいたとの事だが、これは本当なのか?」
偽勇者「当たり前だ。丁度運悪く、東側の警備に当たっていただけだ。」
ミスターT「んー・・・それが事実なら、妹達が出会う筈がないが? 彼女達は西側の、先日襲撃を受けた近くを回っている。お前さん達が妹達を認知するのは、この街の規模と距離からして、非常に難しいのだが。」
俺の言葉に絶句する偽勇者共。数日前、カルーティアスの様相をメカドッグ嬢達に探索して貰ったが、街の直系が軽く10kmを超えている。端から端までの距離を考えれば、全速力でも結構な時間が掛かる。双眼鏡などの道具がない限り、反対側を認知する事は不可能だ。
ミスターT「それか・・・予め偵察者を紛れ込ませていたか。それならば、可能性は出てくるが。ともあれ、偵察者のプランを除いたとしても、お前さん達が直接見た訳ではない。」
偽勇者「ぐっ・・・。」
ミスターT「2つ目だが・・・。」
そう言うか否か、帯刀中の剣を抜き、俺に斬り掛かって来る偽勇者。それを見た仲間達が一気に殺気立ち行動をしだす。その中で、いち早く動いた人物がいた。エメリナである。
傍らに居た彼女が、鞘に剣を収めてある状態でその攻撃を受け止めた。しかし、偽勇者との腕力の差から押され気味だ。そこに加勢しようとするが、気迫で待ったを掛けてきた。
エメリナ「・・・ここまで言われて、退き際を見極めないのですか・・・。」
偽勇者「知った事か! 邪魔する奴は誰であろうが容赦はしない!」
ミスターT「邪魔・・・邪魔ねぇ・・・。」
流石の腕力差に押し切られ、鞘ごと剣を吹き飛ばされる。そのまま一太刀を浴びせられた。だが、先の戦闘でバリアとシールドの防御機構がなされている状態だ。受けた剣は見事なまでに圧し折れてしまう。
偽勇者「なっ・・・何だとっ?!」
ミスターT「言わんこっちゃない、“警護者の加護”が発生した証拠だ。どんな攻撃だろうが、一切受け付けんよ。」
偽勇者「ぐっ・・・洒落臭いっ!」
ついに血迷ったらしく、今度は魔法を使い攻撃をしてきた。超近接で炎の魔法を放ってくる。詠唱こそない部分は、それなりの実力はある証拠だろうか。
放たれた炎はエメリナと俺を巻き込み大爆発を巻き起こす。その直前、偽勇者は結構な距離を離して離脱していた。逃げ足だけは表彰物である。その場は修羅場所の話ではなくなった。正に襲撃現場である。
しかし、爆炎が収まった頃、全く以て無傷なエメリナと俺が現れる。近場に携帯方天戟を突き刺し、態とらしく一服をして見せた。その真ん前には仁王立ちの彼女という構図だ。
偽勇者「な・・・何だと・・・。」
ミスターT「何だとは失礼な、勇者エメリナの警護者だと言ってるだろうが。」
エメリナ「退きなさい、これ以上の狼藉は許しません。」
獲物がないため、傍らにある俺の携帯方天戟を手に取り、その矛先を偽勇者に向ける。重力制御がない状態の彼女からか、結構な重さがあると思われる。しかし、今は気迫がそれを凌駕しているのか、問題なく片手で持って見せていた。
ミツキT「あー、これには流石にカチンと来たんですけど・・・、殺しちゃっていいですか?」
ミスターT「ゴーサインを出したいんだが・・・どうするかね。」
仁王立ちのエメリナの背後から、ワラワラと出るように現れるミツキTとメカドッグ嬢達。凄まじいまでの殺気を放っていた。それはミツキTだけではなく、メカドッグ嬢達も放っている。本来なら意思の疎通は難しいのだが、どうやらミツキTと同期しての業物らしい。
炎の魔法まで使っての攻撃は、流石に殺人である。そして、ミツキT達の殺気もあって、その場から逃げるように去って行く偽勇者共。見事なまでの悪党である。
だが、問題があった。それは、討伐戦に参加していた自警団と騎士団が追わなかった事だ。実力からして、連中よりも彼らの方が遥かに上手だろう。しかし、誰1人動かなかったのだ。
推測するに、偽勇者共が貴族出身なのが要因だろうか。となると、自警団と騎士団は上層部から圧力を受けている事になる。故に、偽勇者共の愚行を野放しにしていると思われる。
エメリナ「すみません、勝手に武器を使ってしまって・・・。」
ミスターT「いや、構わんよ。むしろ、よく持てたと思ってね。」
俺の言葉に気迫が戻ったのか、突如として重さを感じて両手で持ちだした。エメリナの腕力からして、携帯方天戟を片手で振り回すのは難しいだろう。だが、気迫が勝っていれば、重量の問題は払拭できるようだ。言わば、火事場の馬鹿力である。
ミスターT「見事なまでの啖呵だったわ。勇者とはこうでなくてはな。」
ミツキT「勇ましい者、ザ・マーヴェラスですよね。」
一服しつつ、エメリナの頭をポンポン叩いた。それに呆気に取られるも、嬉しそうな表情を浮かべている。その彼女に弾き飛ばされた愛剣を手渡すミツキT。俺に携帯方天戟を返し、頭を下げつつ愛剣を受け取っている。
カネッド「本当に正真正銘の勇者だよねぇ。」
ダリネム「あの情況下で怯んでなかったし。」
エメリナ「そうは仰いますが・・・。」
そう言いつつ、自分の足を指し示すエメリナ。今になって両脚がガクガクと震えだしていた。緊張が解かれた後の恐怖心だろう。それでも、あの気迫は素人では出せないレベルである。
フューリス「いざと言う時のエメリナさんは、凄い力を発揮しますからね・・・。」
テューシャ「私達は怯んでしまいましたし・・・。」
ミスターT「謙遜しなさんな。お前さん達も、連中の暴言に怒り心頭だっただろうに。エメリナさんよりも強い怒りを感じてたわ。」
ミツキT「逆を言えば、エメリナ様は自重心が抑えられなかった証拠ですよ。」
エメリナ「そんなぁ・・・。」
フューリスとテューシャを擁護する発言をすると、それに便乗するミツキTとエメリナ。そのやり取りに周りは笑い合う。本当に女性は強いわな・・・。
突発的に発生した偽勇者共事変だったが、周辺への被害は皆無だった。更に近場に自警団と騎士団がいたため、現場検証的な事は行わなくて良いとの事になる。まあ、先程も連中を追跡しなかったぐらいだ、お咎めなしの状態だろう。
一応解放された形になった俺達は、行き着けの冒険者ギルドへと向かった。後はここへの報告だけとなる。まあ、この街全体が偽勇者共の愚行を黙認し切っているため、表向きは何を言っても意味はなさそうだが。
ネルビア「報告終わりました。」
ミスターT「お疲れさん。」
全ての報告を済ませて戻ってくる一同。3人の方も今回は被害者側になるため、一応の報告を済ませたようだ。俺とミツキTは部外者扱いなため、店内一番奥のテーブルで寛いでいる。
ミスターT「すまんな、お前さん達も巻き込んじまって。」
カネッド「さっきの馬鹿共ですか? うちらも巻き込まれた側だと思うんですが・・・。」
ダリネム「あの野郎共、ホンッとに腹が立つわ・・・。」
思い出しただけでこの様相だ。怒り心頭の姿からして、彼女達の災厄とも取れる。しかし、それで3人と出逢えたのが皮肉な話だわ。
エメリナ「あの・・・私達も同席させて頂いてても、よろしいのでしょうか?」
アクリス「気にしないで下さい。もはや一蓮托生ですよ。」
ジェイニー「逆にお3方の問題から、今後も要らぬ横槍が入るのは間違いありません。ここは一緒に行動した方が良いと思います。」
そう言いつつ、俺の顔を見つめてくる妹達。建前的には仲間であると豪語しているが、最終的な判断は俺に一任して来るようだ。主役は彼女達だというのに・・・。
落ち着いた状態となったので、改めてお互いに自己紹介や詳しい経緯などを語り合った。驚いたのが、この3人も10人と同じく15歳でタメとの事だ。しかし、生まれは山奥の農村のようで、孤児院出身だった妹達とは境遇が異なる。だが、その農村は既にない。
話によると、数ヶ月前に故郷が魔物の群れに襲撃を受けたとの事だ。それにより、育ての親や知人は全員死去。問題なのが、その襲撃は魔物達だけではなく、人間も関与していたと分かったらしい。魔物達と精通する人間がいる事、ここが重要だ。
ネルビア「そうでしたか・・・。」
フューリス「私達は丁度、山中に薬草などを取りに行っていて、その間に襲撃に遭いました。」
テューシャ「私とフューリスは、その村で孤児として引き取られたのですが、エメリナさんは育ての親の方がいらっしゃいました。」
エメリナ「今思うと、当時物凄く取り乱したのは私だけでしたね。」
淡々と語るエメリナだが、そこには激しい怒りが込められているのが分かった。しかし、憎しみの一念は感じ取れていない。普通ならば憎しみも抱く筈である。
ミツキT「憎しみを抱かないぐらいの激しい怒り、ですか。」
エメリナ「いえ、怒りはあるのですが、憎しみはありませんでした。それよりも、私達みたいな境遇の方々がいる事に、遥かに怒りが湧いてきます。」
ミスターT「勇ましい者、ザ・マーヴェラスか・・・。」
勇者の何たるかを思い知らされた感じだ。自身に降り掛かった境遇よりも、他者への思いが強いのだ。利他の一念そのものである。
徐に一服しながら思い耽る。俺の場合だと、ミツキTの病死の時に激しい怒りと憎しみを覚えた。彼女が病死する前に至った、要らぬ横槍や何やらに対してのものだ。しかし、彼女はそれすらも物ともせず寿命を全うしたのだ。
もしそれが殺害となっていたら、自我を失い阿修羅の如く暴れ出したであろう。エメリナに降り掛かった災難は、俺には到底理解できない境涯である。
エメリナ「・・・あの、ミスターさん。私達を皆様の仲間に加えて頂けませんか?」
ミスターT「・・・お前さんの真の目的、それが魔物に復讐する事なら断るが。」
エメリナ「それはありません。私達に降り掛かった事を、他の方々にはさせたくないのです!」
フューリス「私からもお願いします・・・。」
テューシャ「あの様な悲惨な思いは・・・絶対にさせたくありません・・・。」
真剣な表情で見つめてくる3人。その目線は、確固たる一念が据わっているのを感じた。そして、その決意に当てられたのか、同じ様に懇願する表情を浮かべる10人。
ミスターT「・・・お前さん達は構わないのか? 勇者達と共にあるのは、その道筋が熾烈を極める事になるが。」
ネルビア「マスター、私達が怖気付いたとでも? 見縊って貰っては困ります!」
アクリス「あの力がお3方に効いたのは、それだけ善心に溢れる証拠じゃないですか。それは、胸中の一念が不動である証拠です。信じなければ失礼ですよ!」
カネッド「偽勇者共には分からない境涯、ここで退いたら女が廃るってもんですぜ!」
凄まじいまでの気迫で迫ってくる10人。彼女達が3人と同じ境遇である事が、全てを後押ししているのだろう。今まで見た事がないものだ。
ミツキT「ここはお嬢様方の勝ちですよ。小父様が折れるまで、ずっとこの気迫だと思います。」
ミスターT「そうだな・・・。」
即決できない俺を見かねて、トドメの一撃を放ってくれるミツキT。俺自身は既に回答を決めているのだが、彼女達の本当の決意を知らねばならない。まあ、この気迫からすれば、全て杞憂だと言えるが。
ミスターT「分かった。覆面の探索者こと覆面の警護者が、お前さん達を最後まで守ろう。」
3人「あ・・ありがとうございます!」
俺の答えに感極まり、そのまま抱き付いてくる。その勢いは俺を押し倒し、床へ倒れ込んだ。
凄まじいまでの勢いに圧倒されたが、自然と3人の頭を優しく撫でてしまう。そう、自然的である。その厚意に今度は泣き出してしまった。
家族同然の人物を殺されてからは、今まで我慢してきたのだろうな。胸の中で泣き続ける3人から、安堵による一念を感じ取れた。
本当に女性は強い。上辺は弱く見えても、心中の一念は凄まじいまでの力を持っている。そして、いざと言う時の力強さは、野郎なんざ足元にも及ばないぐらいだ。
地球にいる身内の女性陣の力強さを、この異世界で改めて痛感させられた。世界は違えど、女性の強さは何ものよりも強いと・・・。
第5話へ続く。




