第4話 襲撃と召集3(通常版)
(・・・出ました、南西のエリアです。現地は小さな集落があります。)
一服しながら待つ事、数時間。警戒中のメカドッグ嬢達から念話が入る。襲撃を察知するための軍団を配置したのは正解だった。俺とミツキTがいる場所から、走って数分の距離だ。
(俺達が向かおう。お嬢さん達は都市内の警戒に当たってくれ。)
(了解です!)
外見上は手ぶらで現地に向かう。これは一種の作戦も兼ねている。それを窺ったミツキTも、背中に携帯十字戟を戻して向かいだした。
(増援をお送りしますか?)
(先ずは俺達だけで良いだろう。これが本体なら問題ないが、斥候の場合だと危ない。引き続き、都市内の警戒を頼む。)
(了解っす!)
(お気を付けて。)
後手の後手に回る感じだが、相手の真意が分からないため仕方がない。今はこの戦術で動くしかなさそうだ。
ちなみに、今回はミツキTとのタッグでの攻略になる。そこで、各ペンダント効果の中から超怪力の力を使う事にした。ギガンテス一族は十八番たる、超人的な力を発揮するものだ。言わば重力制御の力である。
これの応用は多岐に渡り、戦車や巨大船舶すら片手で持ち上げられるものだ。ミュティ・シスターズが一番得意としているもので、ハリアーⅡ改を軽々と持ち上げたりもしている。地球人の俺からすれば、これこそ魔法の力と言い切れた。
この力の出し加減は結構シビアで、力をセーブしないと大変な事になる。まあ、これらも全て地球での各依頼時に慣れてはいるが。それでも、不測の事態の時は大いに役立ってくれるだろう。
大都会内部から走る事数分後。襲撃されている小さな集落へと到着した。そこには既に先客がおり、孤軍奮闘を繰り広げている。出で立ちからして青年のようだ。
「大丈夫か? 加勢するぞ。」
「すみません、助かります!」
腰の携帯方天戟を展開し、青年に肉薄する魔物の攻撃を受け止め、殴り付けで一蹴する。超怪力の力のお陰で、素手でも獲物を持った状態と同じ火力を叩き出せている。と同時に気付いたのは、青年だと思っていた人物は女性だった。また周りを見ると、この場には3人しかいない。
「危ないですよ、一歩下がって様子見を。」
2人の人物に襲い掛かる魔物を、飛び蹴りで蹴散らすミツキT。背中の携帯十字戟を手に、その2人を守りながら戦いだした。俺は1人の女性の背中を守りながら奮闘する。そして、この2人も青年ではなく女性であった。
「どうしてここに?」
「採取クエストを受けて回っていたのですが、丁度その時に魔物の襲来があって・・・。」
「皮肉な到来という訳か。」
現状を伺いつつ、襲い掛かる魔物を蹴散らしていく。この女性、気迫は維持しているが、腕の方はまだまだ半人前なのだろう。相手の力に圧倒されている。
緊急事態という事で、この3人にバリアとシールドの防御機構を施した。身体に纏う力に驚きつつも、その効果を身を以て思い知る。支援直後に敵の一撃を喰らうも、相手の獲物を破壊する事で窺い知った。
そして、彼女達が善悪判断レーダーにより、悪心が一切ない事が証明された。つまり、信用できる存在である証拠だと言う事だ。
「こ・・これは・・・シュリーベルの奇跡・・・。」
「・・・お前さん、この正体を知っているのか?」
「遠巻きから薄っすらとですが・・・。当時、冒険者ギルドで集まっていまして・・・。」
「その時に窺っていた、か。」
うーむ、見られていた訳か。まあ、隠し立てするような事はしていなかったので、これは致し方がないとしか言い様がない。となると、当時はシュリーベルで待機中だったのだろう。
防御面が磐石だと分かっても、まだまだ未熟な彼女達は、敵の攻撃を受けつつ反撃する姿が目立つ。無傷ではあるが、肉を切らせて骨を断つ戦法である。ただ、相手の急所を狙う術はあるようで、反撃は致命の一撃と化していた。
どうやら、彼女達は実戦自体が初めてのようだ。しかし、一切逃げずに戦いを挑んでいる。この姿勢は見習うべきものだわ。
暫くすると、増援として駆け付けてくる妹達。彼女達とメカドッグ嬢達のみで到来した所を窺うと、独断でこちらに来たようである。直ぐさま俺達と共同戦線を張る姿に、一切の迷いが感じられない。
それなりの規模の魔物の襲来だったが、集落自体への到来は阻止できている。先に善戦していた3人が、魔物達の集落内部への侵入を防いでいたからだ。初心者的な感じがする3人ではあるが、その勇敢さは勇者そのものだな。
「終わったぁ~・・・。」
「結構来やがりましたねぇ・・・。」
激闘を演じる事、数十分後。無事魔物達を撃退する事ができた。集落へのダメージは一切ない。見事なまでの完全勝利である。
「あれ・・・こちらのお3方、例の防御支援が・・・。」
「となると、信じられる方という事ですね。」
「その言い方は何だと思うが・・・。まあ・・無事だったから問題はない。」
自分達の言葉に悪いと頭を下げる2人。それを見た3人だが、それが何の事かは理解できていない様子だ。まあ、この3人は、バリアとシールドの防御機構の真の意味合いを知らない。だが、それを語っても信頼に値する人物なのは確かだがな。
「自己紹介がまだだったわ。俺はミスターT、こちらは・・・。」
俺を皮切りに自己紹介を始める一同。それに急に畏まりだし、深々と頭を下げて自己紹介をしてきた。
3人はエメリナ・フューリス・テューシャ。何と王城での啓示を受けた、正真正銘の勇者一行だった。それに驚愕する妹達だが、あの勇者共を見てきた手前からか、この3人には何処か共感する部分があるみたいだ。
何でも、遥か遠方の農村から出稼ぎに出たのが発端らしい。何とかカルーティアスに到着するも、そこで例の勇者共に横槍を受けたようだ。運良く騎士団に助けられ、王城に来たという流れとなったとの事。そして啓示を受けるというのだから、人生は何処でどう変わるか分からない。
しかし、勇者の掲示を受けても、基礎能力を高めようとする姿勢は崩さないでいたようだ。元から戦闘には不向きだった3人は、採取クエストなどをこなしつつ、冒険者ランクを上げる事を試みていたと言う。その最中に、この魔物の襲撃に遭遇したようだ。
ちなみに、勇者の啓示を受けたのはエメリナとあるが、フューリスとテューシャも同じく啓示を受けたようである。フューリスは騎士として、テューシャは賢者としてだ。職業としての役割はあるものの、2人も正真正銘の勇者である。
また、先程シュリーベルの奇跡を知っていると話したのは、当時周辺での採取クエストを行っていたからだと言う。一歩間違えば、黒ローブ共に襲われていたのだが・・・。その場に立ち合わせた事が、バリアとシールドの防御機構を知る事になったのだ。実に皮肉である。
「本当の勇者様にお会いできるとは・・・。」
「止して下さい・・・。今の戦闘でも、まともに戦う事すらできませんでしたし・・・。」
「お2人に助けて頂かなかったら、やられていたと思います・・・。」
「本当に感謝しています・・・ありがとうございました・・・。」
再度、深々と頭を下げだす3人。この姿勢を見ると、否が応でも妹達の心情が理解できた。あの“偽”勇者共との対比だ、雲泥の差過ぎるとな。
「とりあえず、街中に戻りますか?」
「集落の方は大丈夫そうだしな、戻るとするか。」
「集落の方々には不謹慎ですが、今回の襲撃を感謝するしかありませんね。」
彼女の言葉にウンウン頷く他の9人。俺とミツキTも頷くしかない。本当に、何処でどう縁が発生するか分からないものだわ・・・。
第4話・4へ続く。




