表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覆面の探索者 ~己が生き様を貫く者~  作者: バガボンド
第1部 異世界の旅路
26/683

第4話 襲撃と召集2(通常版)

 念話を開始してからの依頼は、正に破竹の勢いになった。意思の疎通たる念話は、文字通り言葉を交わさず相手に思いが伝わる。それは連携に最適であり、最強のコミュニケーションツールである。


 凄まじい勢いで討伐クエストを繰り返す妹達は、ここでも注目の的となっていった。当然、それは良い方にも悪い方にも至っているようだ。


「冒険者ランクがCからBにアップしましたよ。」

「やりおるわ・・・。」


 心では嬉しい一念を抱いているも、外面では淡々と語るカネッド。妹達の念話への適応能力は凄まじく、俺やミツキTの方も十二分にその恩恵を与れるに至っている。そして、それに奢る事を一切見せない。これが下積み時代を経ずに至っていたら、天狗状態になっていたと思われる。


「各々のレベルが数値化できれば楽なのですがね。」

「例のステータスのアレでしたか。」

「ここはゲームの世界じゃないからな。何処まで成長したとか、それらは各々の力量で見極めていくしかない。ここまで強くなったんだ、絶対に奢りなさんなよ。」

「愚問ですよ。」


 自分達を見縊るなと、外面でも内面でも語る妹達。隠し立てができなくなった現状だが、逆に以前よりも遥かに強くなったとも見て取れる。


「そう言えば、最終的なランクはSだったか。」

「正に冒険者の極地ですよね。」

「ランク制度ねぇ・・・あの作品を思いだすわ・・・。」

「あー、ロボットを操る傭兵のアレですか。」

「ランク制度は懲り懲りよ・・・。」


 ボソッと語った内容に、食い付いて来るミツキT。黒いモヤ事変が終わった後に嗜んだ、とあるゲームの内容だ。


「それ以前のシリーズなら、ランク制度なんかなかったのに。」

「各作品は極めの段階に至ると、要らぬ要素を詰め込み過ぎだしますからね。最悪はそれでバランスを崩し、衰退する事もザラですし。」

「もしかして、貴方が冒険者ランクをFのままで止めているのは・・・。」

「やり出したら最後、終着点を目指すから嫌なのよ。」

「そ・・そうでしたか・・・。」


 地球での話に呆気に取られているが、俺が冒険者ランクを上げない事がそこであると気付いた彼女達。今度は別の意味で呆気に取られている。


「姉さんもランクFのままですよね。」

「ん? ランクなんざ眼中にありませんが何か?」

「はぁ・・・。」


 今度はミツキTに問い掛けるも、俺と同じ回答であったために呆れ返っている。特に彼女はゲームを自由に楽しむ事を信条としているため、極める事は一切しない。ここは俺と同じ気質である。


「ただ、今は冒険者ランクが低いと、舐められる可能性が出てくるのですけど。」

「その場合は、実力での一騎打ちをしてやるわ。」

「同じく。ただ、それ以外では穏便に済ませますです、はい。」


 ミツキTの言葉に爆笑する妹達。元来から茶目っ気もある彼女なため、こうした少しでも周りを笑わせようとする姿勢は健在だ。ここはミツキと全く変わらない。


「話を変えるが、防御面だけは盤石にしてくれよ。」

「それ、何度となく聞かされていますよ。」

「装備可能な範囲の盾を持て、と。」


 カルーティアスに訪れてからは、妹達に盾装備を徹底せよと伝えてある。これは魔法使いのアクリスやジェイニーもしかり。あるとないとでは雲泥の差である。


「ゲームの話になりますが、私達が知る作品では、盾を装備できる職業が限られてきます。特に魔法使いなどは、ほぼ盾を装備できません。実際には誰でも装備はできそうですし、可能な限りの防備は整えた方が良いですよ。」

「本当にそう思う。俺達の世界では盾の概念が薄い。マデュース改みたいな大盾は、俺の独自の攻撃防具になるが、その殆どは盾を持っていない。」

「まるで盾愛好家な感じが・・・。」

「そうとも言えるわな。」


 カネッドの言葉に周りは笑い合う。しかし、その盾で攻撃を防げるなら、それで命拾いする可能性も出てくる。生き残れる方に傾く力があるのなら、何でも用いるべきだわ。


「それに、直撃して100受けるダメージが80や70になり、即死を免れるなら安いものだろうし。」

「そ・・それを聞かされると流石に・・・。」


 事の結末を想像したのか、青褪めていく感じが見て取れる。即死さえ免れれば、後は回復魔法などで何とかなる。俺やミツキTの場合は、ヘシュナ直伝たる回復能力だが。


「まあ何だ、備えあれば憂い無し、今後も精進し続けてくれ。」

「了解です。」

「お任せ下さいな。」


 俺の言葉に力強く頷く妹達。今の彼女達は相当な実力者に至っている。それでいて奢る事が全くない。むしろ、強くなればなるほど畏まる姿が目立ちだしていた。過度の考えは良くないのだが、今はこの姿勢を貫いた方が良いだろう。


 常に謙虚な姿勢を示す事こそ、本当の意味での勇者であろう。勇ましいというのは、どんな情況下においても屈しない心である。これは常日頃から心懸けねば、慢心から堕落に陥るのは言うまでもない。


 もし、あの勇者共がその姿勢を少しでも持っていたのなら、今の愚者な存在ではなかったと思われる。人は何処でどう曲がるか分からないものだわ・・・。




 それから数日後、大都会の北西に位置する集落に魔物の群れが襲撃してきた。丁度城壁の外側に位置していたため、街中への被害は皆無だった。しかし、大都会と豪語する以上、その近場の集落でも襲撃された事自体が大問題である。


 急遽、全冒険者ギルドから強者達を募り、大都会の周辺警備を委託される事となる。これは冒険者ランクB以上の人物が該当されており、同ランクに位置する妹達も全員対象となった。


 ちなみに、俺とミツキTはランクFのため該当外である。実力はそれ以上あるのを知っている妹達は、ランク制度の意味合いに初めて違和感を感じたようだ。俺やミツキTがランク制度を嫌う理由が分かったと思われる。



(どうも腑に落ちないのですよね・・・。)

(何がですか?)

(魔物の気配があれば、メカドッグ嬢達が即座に反応するのですが・・・。)


 警備巡回に出払っている妹達。彼女達とは念話を通しての会話をしている。従来では絶対に有り得ない手法だ。この点だけは優れていると言い切れる。そこで語られるのは、メカドッグ嬢達の探知能力に関してだ。


(コンピューター関連に例えるなら、セキュリティホールの隙を突いての侵入が挙がると思うが、相手の魔物は生物だからな。)

(そこですよ、だから余計気になるのです。)

(・・・予め、用意されていた襲撃プラン、でしょうか。)

(それも考えましたが、この娘達が反応しない訳がないんですよね。)


 メカドッグ嬢達の性質上、それは広範囲生体センサーそのものである。生命体であれば確実にそのセンサーに引っ掛かる。これは地球で実際に何度も確認している要因だ。


(誰かが突然、出現するように手引きしたとか? ほら、以前の鉱山のアレですよ。)

(その生体センサーとやらですが、悪心には反応しないのですか?)

(・・・そこを突かれた感じと取るべきか。例の魔法陣とかで出現させれば合点がいく。突然現れるまでは、広範囲生体センサーには反応しない。)

(ジェイニー様が仰った通り、生体センサーは善悪判断センサーとは別物ですし。)

(善悪判断は各種ペンダント効果だけしかないからな。)


 これはもう、迂闊だったとしか言い様がない。もっと裏の裏を考えるべきだった。


 メカドッグ嬢達の能力は、生命体を察知するセンサーのみとなる。善悪判断のセンサーは搭載されていない。それがあるのは、5大宇宙種族の各種能力が発動する条件のみだ。先のシュリーベルでの襲撃事変は、鉱山に集まる魔物の討伐が発端となった。


 今回のカルーティアス外部の集落襲撃は、それ自体が突発的に起こった。例の魔法陣による出現によるものなら、何時何処で襲撃が行われるかは全く分からない。それが起こったという事は、魔王軍は“それが有効打である”と察知したという事だ。


(・・・さて、これは困ったな・・・。)

(メカドッグ嬢達を更に増やします?)

(何人複製させても、元に戻す事は可能だったよな・・・。今は彼女達の力を借りるしかないか・・・。分かった、頼むわ。)


 有限実行のミツキT。前にも挙げたが、メカドッグ嬢達の基本ロジックは人工知能である。コンピューターのデータと同じく、何人でも複製が可能だ。地球でもメカドッグの筐体が存在する限り、何人でも増加が可能である。今回は精神体であるため、実質的に無制限での増加が可能となるのだ。


(何だか、彼女達に悪い気がしてならないわ・・・。)

(何を仰います、皆様己の使命に奮起されていますよ。それに、ベースとなるメカドッグ様自体は、先の黒いモヤ事変で覚醒しています。)

(殺気と闘気の心当て、か。)

(それに、小父様が指令を出した経緯は、限りなく善傾向です。反論する筈がありません。言わば皆様方は、小父様の娘達になるのですから。)

(娘達、か。)


 メカドッグ嬢達の増加に、何だか申し訳ない気がしていた。しかしそれがメカドッグ嬢達の存在意義に至るのなら、決して間違っている行為ではない。彼女達は立派な闘士なのだ。


 俺の不安を感じてか、近場に待機中のメカドッグ嬢達が触れてくる。精神体であるため、生命の次元で触れてくる感じだ。彼女達がしっかり生きている証拠である。


(そう、それで良いのです。)

(はぁ・・・お前さんに戒められるとはな。)

(フフッ、生命の次元では母親ですからね。とりあえず、200人ほど追加します。)

(もはや軍隊規模だわ。)


 即座に複製して量産できるのは、元が人工知能の機械式メカドッグだからだろうな。もはや人知を超えた力としか言えない。しかし、今は彼女達の力が必要だ。


(別働隊は10人一組で行動して貰いますね。これを大都会の周辺に展開すれば、善悪判断は無理でも魔物探知は可能でしょう。)

(総合計240人のメカドッグ嬢か、凄まじい様相だわな。)


 本当にそう思う。彼女達を簡単に創生する部分も凄いが、その規模を展開できるミツキTの実力も見事なものだわ。デュヴィジェ達が彼女を真っ先に派遣した意味は、ここにあるのだと痛感させられる。


(・・・何だか、私達の常識は一切通じない世界ですよね・・・。)

(為す術がないと言うか何と言うか・・・。)

(・・・失礼を承知で述べるとすれば、お2人の力は魔王寄りですよね・・・。)


 彼女の言葉で黙り込む妹達。超絶的な力を以てすれば、世界をも制する事ができる。これは、地球での俺達の存在と全く変わらない。異世界たるここでは、神の存在に近い魔王や大魔王に似ているだろう。


(ま・・まあでも・・・ミスターTさんなら有り得ませんよね。ほら・・・異性を変な目で見る事が偶にありますし・・・。)

(・・・お前さん、何時それに気付いた・・・。)

(えー・・・初めてお会いした頃からですけど?)

(へぇ・・・。)


 場を変えようと発した言葉は良いのだが、その内容に問題がある。流石に10人もの美女が集っているのだ、野郎としてはその魅力に惹かれるのは言うまでもない。彼女達と初めて遭遇した時も同じである。それを知ったミツキTからの、凄まじい殺気の目線が怖過ぎる・・・。


(地球でも、同じ様なエロ目線を炸裂してますよね・・・。)

(やはりそうなのですか・・・。)

(偶々じゃないのですね・・・。)

(このじゃじゃ馬娘達め・・・。)


 何ともまあ・・・。これは地球の女性陣と全く同じである。だが、殺気に満ちた一念以外に、何処か安堵感も感じ取れた。先の超絶的な力への恐怖が、この茶化しにより一層されたのだ。狙ってやったとしたら見事な手腕である・・・。


 雑談もそこそこにし、追加で創生したメカドッグ嬢達を出撃させるミツキT。文字通りの出撃である。10人一組を20チームである、正に軍団と言うべきであろう。彼女達を大都会の周辺各所に配置した。


 何らかの反応があった場合、俺とミツキTが現地に向かう事となった。妹達は引き続き、他の冒険者達と共に周辺の警戒を回る。強者達が数多くいるため、不測の事態への対応は問題ないだろう。


    第4話・3へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ