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覆面の探索者 ~己が生き様を貫く者~  作者: バガボンド
第1部 異世界の旅路
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第4話 襲撃と召集1(通常版)

 シュリーベル街から大都会カルーティアスに移動し、新たな天地での修行を繰り返す俺達。専ら妹達が先陣を切っているのだが、その姿勢は他の冒険者達に一切引けを取らなくなっている。むしろ、率先垂範する姿は模範とも言えるようになっているらしい。


 街の方でも下積み時代は長く、基礎知識力は目覚ましい成長を遂げている。諸々の防御機構はあるものの、それに奢らず突き進んでいた。同時に、その生き様は他の冒険者に目立つようになってきている。顕著なのが、例の勇者共だ。


 元は貴族のボンボンの集まりともあり、横槍の頻度が増している。これは他の冒険者にも同じ様子で、連中の評価は相当悪いようだ。まあ当然だろう。それでも、権力に物を言わせる横暴は防ぎ難い事もあり、総意は相当参っているようだ。


 同時に、魔王軍の侵攻も徐々に増加傾向にある。まさかとは思うが、一応の警戒はしておく必要がありそうだ。




(さて・・・どうしたものか。)

(様子見といきたい所ですが、難しいかも知れませんね。)


 俺とミツキTは、妹達とは別行動を取っている。今は彼女達だけで討伐クエストに赴いているのだが、一応のバリアとシールドの防御機構を施してあるため大丈夫だとは思われる。現段階での問題は、勇者共の横暴をどうするかで対策中だ。


(この異世界だと、貴族の力が相当強いみたいですからね。連中がデカい顔ができるのも十分肯けます。)

(地球での中世でも、貴族や元老院などが幅を利かせた時期があったしな。何処も彼処も同じ様相だわ。)


 地球とは異なる異世界たる惑星でも、その人間模様は全く同じと言える。もはやこれは生命に巣食う魔物とも取れるだろう。まだ魔王軍の方がマシに見えてくるわ。


(最悪、魔王軍と手を結ぶ可能性が出てきますが。)

(その場合は、問答無用で叩き潰せる理由ができる。問題があるとすれば、連中に同調する人間が出るかどうかだ。)

(冒険者全体を敵に回す恐れが出てきますからね。)


 この手の問題は、相手が出そうな行動を全て予測しておかねばならない。地球での警護者の行動時でもそうだった。油断すれば、それは即敗北を意味し、最悪は死へと繋がる。


 今は大都会の酒場、屋上カフェテラスで雑談中だ。とは言うものの、ミツキTは道具類の調整をしつつ、俺は獲物の調整をしつつの状態である。会話は念話で行っている。聞かれてはマズい内容が多々あるしな。


 この屋上カフェテラスなら、ほぼ大都会を一望できる。ここは木造建築とはいえ、3階建ての物件だ。地球での俺達の拠点とほぼ同じ感じである。


(・・・妹達も念話ができるようにするか。)

(そうですね、その方が良いかも知れません。ただ、私達の力は超絶的に逸脱したもの。余り表立って出したくはありませんけど。)

(一部では、バリアとシールドの防御機構はバレているだろう。今更隠し立てしても、善悪判断レーダーの前では使用できるかどうか分かれてくる。)


 5大宇宙種族が力は、個人の生命力によって使い勝手が変わってくる。特に悪人は無論、悪心を少しでも持つ人物は、絶対に扱えない代物だ。これは遺伝子レベルを超越しており、生命の次元での解釈となるため、どんなに見繕っても使えない者は絶対に使えない。


(一応、私に用いているような、遠方支援機構タイプにすれば大丈夫だと思います。)

(指定人物に付与する感じか、それならペンダントを持たせなくても大丈夫か。)

(悪い言い回しながらも、あの娘達は信用しても大丈夫です。どの道、バリアとシールドが可能な時点で、善悪判断レーダーはプラス面を向いていますし。)

(元からその流れだった、という訳か。)


 懸念を語るミツキTだが、既にそれを覆す結果が出ている。ゴブリン共を撃滅する前の、彼女達と出逢った時の流れだ。もし彼女達に悪心があったのなら、バリアとシールドの防御機構は一切付与されなかっただろう。


 妹達を疑いたくはないが、警護者たる存在なら、調停者と裁定者という役割は徹底的に担う必要がある。これは地球での概念ではあるが、ここ異世界でも同じく通用する。いや、俺達の力が超絶的である以上、それを通用させないと破滅をもたらしてしまう。


 一介の警護者という存在で、更に力を持たぬ状態でこの異世界に到来していたら話は別であっただろう。だが今は各種ペンダント効果による、言わば神に近い力を持つに至っている。故に、調停者と裁定者を担わなければならなくなったのだから。


 実に烏滸がましい限りだが、それが現実なのだ。ここだけは曲げてはならない。



(お嬢様方、聞こえるかい?)

(ほぇっ?!)

(萌え応対来ましたねぇ~。)


 遠方は討伐クエスト中の妹達に念話を飛ばす。すると、ジェイニーが絶対に言わなさそうな声色で応対してきた。ミツキTが言う通り、萌え的な返しである。


(な・・・何ですかこれ・・・。)

(バリアとシールド以外の業物、意思の疎通たる念話よ。お前さん達の生命に直接語り掛けている。)

(・・・もしかして、以前仰っていたものですか?)

(薄々気付いていたのか、やりおるわ。)


 俺とミツキTが念話での会話をしているのを、どうやらアクリスは気付いていたようである。しかし、その雰囲気からして確証が掴めているものではないらしい。


(いえ、今思われた通り、貴方の気質からそう思っているのではと。)

(はぁ・・・お前さんにも見抜かれるぐらいのダダ洩れか・・・。)

(やりますねぇ・・・。)


 俺が地球にいる時の念話での会話は、場合によっては内容がダダ洩れする事があった。精神力の問題だと身内は言っていたが、最近はそれが特に酷くなっている。それを、ペンダント効果がないアクリスは察知していたようなのだ。


(アクリスは霊感が強いので、恐らくその関係じゃないですかね。)

(霊感と念話が同じ類ですか・・・。)

(新たな発見を得られた感じだわ。)


 10人の中で、アクリスとジェイニーは相当強い魔力を持っている。その中で、アクリスが一際高い魔力持ちだ。裏を返せば、霊感も強まっているとも思える。故に、念話を感じ取れたと言えるかも知れない。


(と言うか、大丈夫なのでしょうか? バリアとシールドの力はまだしも、念話まで使われるのは問題があるかと。)

(大丈夫だから使ってるんだけどね。そもそも、バリアとシールドが利いた時点で、お前さん達は限りなく善寄りだ。少しでも悪心があれば、使う事すらできないしな。)

(そうでしたか。信頼して下さって、ありがとうございます。)

(お礼なら、皆様方の胸中にある生き様に感謝してあげて下さい。常日頃から心懸けねば、今の境涯には絶対に至れませんから。)


 ミツキTの言う通りだろう。彼女達は常日頃から善心を心懸けていたのは明白だ。上辺の悪態などはあれど、それ自体は全く害をなさない。この姿勢なら、間違いなく真の勇者とも言い切れる。


(勇者だなんて、恐れ多い事この上なしです。私達は私達の進むべき道を進むのみですし。勇者の役割は他の方々にお任せします。)

(うちらは傭兵家業の方が性分に合ってるからねぇ~。)

ミスターT(ハハッ、何処までもじゃじゃ馬娘の気概か、流石だわな。)


 俺の言葉に殺気の目線を投げ掛けてくる妹達。その一念を感じるぐらいである、彼女達の善心は確実なものだろう。


(まあ、小父様の茶化しはともあれ、今後の非常会話は念話を行いましょう。少々問題も出てきていますので。)

(・・・勇者共の愚行ですか。)

(あの阿呆共・・・。)


 ミツキTの一言で、何故念話を使い出したかを察知してくれた。それだけ、初対面時のあの言動からして、勇者共が大問題となるのは明白だった証拠だ。彼女達の怒りの一念が、念話を通して感じられる。


(今は大丈夫だが、何れ何らかの横槍は入るだろう。メカドッグ嬢達が仕入れた情報で、連中の執念深さは相当なものなのが分かっている。)

(何処まで他人を困らせる存在なのですかね・・・。)

(アレで勇者とか話にならないわ・・・。)


 怒り心頭の妹達。今までは外面からしか雰囲気を察する事ができなかった。しかし、念話を通してだと凄まじい怒りの一念が感じられた。


(シュリーベルの方に、要らぬ横槍が入るか心配ですが。)

(何処まで突っ込んでくるかは不明だが、その場合は俺が動くよ。相手が敵だと分かったのなら、一切の容赦はしない。)

(はぁ・・・小父様のその一念、全く以て変わりませんよね。)

(ふん、言ってろ。)


 怒りの一念以外に、不安の一念も抱いている妹達。その彼女達を安心させるために、少し態と悪役を演じてみた。それに直ぐに応じてくれるミツキT。ボケとツッコミに近い様相に、妹達が小さく笑っている。


(とにもかくにも、今は皆様方は力を付け続けて下さい。相手を一撃の下に叩き伏せられるぐらいに。)

(それは良いのですが・・・。)

(・・・自分達も、悪道に堕ちてしまうかも知れない、か?)


 通常会話から念話に変えた事で、彼女達の胸中が直ぐさま察知できるようになる。表向きは強がっていようが、胸中では不安の色が状態だ。特に俺が一番心配している一念を、念話により逆察知したのが現状だろう。


(誰もがその道に堕ちる可能性は十分ある。曲がり違えば、あの勇者共も善道に進んでいたかも知れない。だが、現実は容赦がない。)

(もし、皆様方が悪道に陥る事があれば、その時は全力を以て阻止しますよ。それでも無理な場合は・・・フッフッフッ。)


 念話を通して強烈な殺気と闘気を放つミツキT。それは遠方の妹達に襲来し、この上ない恐怖に襲われているのが感じ取れた。この戒めの一撃を放つ場合、流石は女性力と言うしかない。


(大丈夫ですよ、私達がいます。後方の憂いは全て断ち切りますので、皆様方は先に進む事だけを考えて下さい。何処の馬の骨とも分からぬ輩に、私の大切な娘達には指一本触れさせません。)

(大いに同意するわ。一切合切心配しなさんな。)


 ミツキTと俺の決意に、妹達が涙を流す一念が感じ取れる。先にも思ったが、自分達が悪道に堕ちる事が不安で仕方がなかったようだ。


 誰かが間違った流れを戒め、その道を正す必要がある。実に烏滸がましいが、それが俺に適任なら徹底的に演じてやるわ。



 その後、別行動をするようになってからは、念話を常用するようになった。大都会には俺とミツキTが駐留し、討伐クエストなどの依頼は妹達だけで挑むようになる。念話という目には見えない場所からの支援が、彼女達を精神面から支えている証拠となる。


 これは地球での各依頼時もそれで、終盤は専ら念話を使う事が多かった。無線装置などを使っての通話はあるが、敵方に傍受される恐れもある。しかし、念話は時間や空間を超越し、リアルタイムにその声色を相手の生命に語り掛ける。


 一度試したら病み付きになる、本当にそう思わざろう得ない。5大宇宙種族の力は、強烈な魔酒そのものである。


    第4話・2へ続く。

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