第1話 未知の世界2(通常版)
どれぐらい草原を歩いただろうか。そこそこ深い窪みになっている場所で、地面に倒れ込んでいる人物がいた。しかも1人ではなく複数規模だ。更にこれ、全員が女性のようである。
「・・・大丈夫か?」
「・・・話し掛けないで下さい、連中に見付かります・・・。」
何かに追われていると思い、自分も彼女達の近場にしゃがみ込む。各種ペンダントの効果に念話という力があるが、これは敵対者などを感知する能力も備わっている。確かに敵対者と思われる反応が感じられた。
「・・・と言うか貴方、連中に見付からなかったのですか?」
「連中? ・・・ちょっと待っててな。」
話を中断し、窪みから右手のマデュース改を出していく。大盾側の先端は反射鏡が搭載されており、依頼時はそこから部屋などを探る事をしていた。幸いにも曇天だったため、太陽光の反射はしていない。そして、反射鏡にはかなりの数の動く物体が映っていた。
ちなみに、俺の言動に驚愕しだす女性陣。ただ、声を出しては発見されるからか、黙って俺の行動を見つめていた。多分これは、俺が持つ兵装と、その行動自体に驚いたのだろう。見た目からしてクレイジー極まりないしな。
「確かに何かいるが・・・アレは何だ?」
「・・・ゴブリンの群れです。私達は討伐に赴いたのですが・・・あの規模だと、勝ち目がありません・・・。」
「去るまでやり過ごす形か。」
なるほど、様子見という感じだろう。女性陣の武装を見る限り、ファンタジー世界では在り来たりな軽装備を持っている。かく言う俺も軽装備なのだが、警護者特有の超重装備なのはご愛嬌だろうか。
「・・・そのゴブリンの単体戦闘力がどのぐらいかは不明だが、お前さん達が4人1組のカルテットを組めば問題ないだろうに。」
「む・・無茶言わないで下さい・・・。ゴブリンは見た目に反して、非常にすばしっこくて、直ぐに囲まれてしまいます・・・。」
「それに・・・連中は女性を・・・。」
「・・・その類のカスになるのか、これだから野郎は・・・。」
女性が語った内容に怒りが湧いてくる。人間であろうが魔物であろうが、女性を慰めものの道具にしか思わない連中がいる事だ。女性が虐げられるのは、向こうでもこちらでも何処も同じという事だな・・・。
「非常事態時の自己紹介申し訳ないが、俺はミスターTと言う。お前さん達には悪いかも知れないが、俺も加勢させて貰うよ。」
「え・・・それは願ってもない事ですが・・・。」
「ただし、1つだけお願いがある。連中を完全駆逐するのは、お前さん達の役割だ。俺は“完全なサポート”に回るから、思う存分暴れてくれ。」
うーむ、デュヴィジェが新たに開発した能力が役に立つ時が来るとは・・・。まあ、今はその恩恵に与るしかない。
ペンダントの1つに力を込めると、その場にいる女性陣の身体が淡く光りだす。それに驚きだす彼女達。これで後方の憂いは絶対的に絶てるだろう。
「こ・・これは・・・防御魔法・・・。」
「んー、魔法じゃないんだが・・・。まあ、今はカス共を屠るとしますかね。」
その場の女性陣の防御が完璧になったのを確認し、俺は堂々と窪みから出て行く。それに驚く彼女達だが、怖ず怖ずと言った感じで付いて来た。まあ、その怖ず怖ずが驚愕の表情に変わるのは目に見えているが・・・。
窪みから現れた俺達に、徒党を組んでいたゴブリン達が殺気立つ。特に女性陣を見た連中の顔はまあ・・・野郎の俺でも腹が立って来るほどの醜態さだ・・・。
対して女性陣は、相手の戦闘力を把握しているためか、俺の近場から離れようとしない。まあ、俺が持つ3つのマデュース改が大盾なのを知ったためか、防御策として使うようだ。
後手に回っている姿を見て、攻めに転じてくるゴブリン達。俺もマデュース改を構え、防御の姿勢を展開する。そこに複数の女性陣が身を隠していた。
「あー・・・攻めに転じても全く問題ないんだが・・・。」
「ご冗談を! 貴方が掛けてくれた防御魔法の効果は不明ですが、連中の姑息な立ち振る舞いには為す術がありません!」
「そ・・そうか・・・。」
物凄い真顔で詰め寄る女性陣に、ゴブリン以上の怖さを感じてしまう。だが、完全な恐怖には支配されていない様子だ。彼女が言う様に、本当に様子見をしていると取れる。
そうこうしているうちに、ゴブリン達が俺達を取り囲んで来る。複数が先陣を切り、こちらに攻撃を加えて来た。そのうちの1匹が女性陣に肉薄し、手に持つナイフで斬り付けて来た。
斬り付けが放たれたのをガードした女性だが、そこに別の1匹が突き刺し攻撃をしてくる。流石に隙がない一撃だったため、それを足に受けてしまう筈だった。
しかし、ゴブリンのその攻撃は弾き返され、相手の武器を圧し折ってしまう。当然ながら、女性の肉体へのダメージは一切皆無だ。それを見た女性陣は驚愕している。
「?! ええっ?!」
「だから言っただろうに・・・。」
「こ・・これならっ!」
攻撃自体が無力化されている事を知った他の女性陣。肉薄したゴブリン2匹に集団攻撃を開始し出した。まるで獲物に襲い掛かるカラスの集団の如く、である。
ミスターT「お前さん達が認知する、防御魔法とやらに近いのか不明なのだが、物理攻撃も火炎などの魔法的攻撃も一切受け付けんよ。だから、全て叩き潰してしまえ。」
態とらしくニヤケ顔で微笑んで見せると、それに恐怖の表情を浮かべる彼女達。だが、自分達への防御効果がズバ抜けているを窺ったからか、凄まじい勢いで行動を開始していった。
女性陣は丁度10人おり、その中から4人1組となって反撃を開始しだす。残りの2人は俺の背中を守ってくれるようだ。
「すまんな。」
「お気になさらずに。ここまでしてくれたのですから、貴方を守らねばレディガードの名が廃ります。」
「なるほど・・・。」
彼女達はレディガードという集まりらしい。防備からして、まだ駆け出しの面々といったところだろうか。しかし、その戦い振りを見る限り、とても初心者とは思えない。
「お役に立てて見せます!」
「ハハッ、身内の女性陣を思い出すわ・・・。」
トリプルマデュースシールドを展開しつつ、背中を守る2人が攻撃を開始し出した。俺は2つの大盾を上手い具合に動かし、彼女達に迫るゴブリンの一撃から身を守っていく。その俺達の死角を狙って襲い掛かるゴブリン達もいたが、人工腕部の大盾がそれを弾いていった。
そもそも、この人工腕部は俺の脳波と連動しており、更に各種ペンダント効果による広範囲生体レーダーで自動迎撃すらしてくれるのだ。デュヴィジェ達5大宇宙種族が基本力となる、生命体の感知力はここに凝縮されているのだから。
しかし、5大宇宙種族か・・・。現実世界でも逸脱した戦闘力とその技術力には呆れ返っていたが、ここ異世界らしい世界でも化け物的な能力を発揮してくれている。女性陣に集団で襲い掛かるゴブリンの一撃を、全て完全無力化しているのだから・・・。
どれぐらい対峙したのだろう・・・、何時の間にかゴブリン達は全滅していた。向こうの攻撃が全て無効化すると分かった女性陣は、事もあろうか武器ではなく素手で戦い出した。これ、今までに他の女性陣に受けた仕打ちの仕返しであろうな。
そして確信したのが、彼女達は初心者ではなかったという事だ。恐らく、その出で立ちは相手を油断させるためのフェイクと思われる。となれば、俺も彼女達の策略に引っ掛かった野郎の1人であると言えるわな・・・。
更に恐ろしいのが、絶命したゴブリン達の耳を切り落としていった事だ。これは確か、その耳が討伐確認の証拠として挙げられると思われる。デュヴィジェや他の面々が、マンガ本を見ていた時に窺った事があった。まさか実演されるとは思いもしなかったが・・・。
「はぁ・・・コイツ等が哀れに見えてくるわ・・・。」
「何を仰いますか、連中にどれだけの女性が食い物にされてきたか・・・。」
「そうですよ・・・。」
「・・・申し訳ない。」
怒り心頭の表情で死骸を見遣る女性陣。その言動からして、相当な行為があったのだと十分推測できた。だからこそ、俺も彼女達に加勢できたのだから。
「死骸はこのまま放置で良いのか?」
「構いません。他の魔物が始末してくれます。」
「・・・確かに残忍でしょうけど、受けた行動は必ず返しますからね。」
「因果応報の理、だな。」
マデュース改を地面に突き刺し、徐に一服をする。幸いにもまだ本数は残っていたが、何れ枯渇するだろうな・・・。
「あの・・・本当にありがとうございました。」
「ああ、礼はいいよ。お節介焼きの世話焼きだしな。」
「フフッ、本当ですよね。」
全ての行動を終えた女性陣が集まってくる。どの面々も、やり切った表情を浮かべていた。そんな彼女達を見ると、元の世界のトラガンの女性陣を思い出してしまう。
トラガン。正式名称はトライアングルガンナー。警護者界のニューカマーという存在で、数多くの依頼を共闘した盟友達である。何故レディガードの面々とダブるのかだが、それはトラガンのメンバー全員が女性だからだ。
「ところで・・・貴方は何処からいらしたのですか?」
「あー・・・それだが、言っても信じないと思う。確実に言えるのは、貴方達のナイトだという事か。」
態とらしく返すと、顔を赤くしていく女性陣。それに悪いながらも笑ってしまった。何から何まで、トラガンの女性陣と似ているわ。何ともまあ・・・。
「とりあえず、もう1つお願いを聞いてくれると助かる。今の俺の知識力からすれば、お前さん達よりも遥かに無知だ。できれば、詳しい事を聞かせてくれれば幸いだ。」
「お安いご用ですよ。それに、拠点に戻らないといけませんので。詳しいお話は、そちらでお話します。」
「ありがとな。」
一服を終えて、マデュース改を手に持つ。それを見た1人が、代わりに持とうとして来たが、全く以て微動だにしないのに驚愕している。
「え・・ええっ?!」
「多分これ、お前さんには持てないと思うよ。」
「そ・・そんな事はありません! 私達の中で一番の力持ちたる私ならっ!」
女性陣内で一番の力持ちを豪語する彼女が、俺の右手のマデュース改を持とうとして来る。しかし、超重量火器兵器に近い重さ故に、全く以て微動だにしない。
自棄になりつつも持とうとする彼女を、そのままマデュース改ごと持ち上げてみた。それに周りの女性陣が驚愕の表情を浮かべている。まあこれは、重力制御効果のペンダントによる恩恵になるが。
「い・・・一体その華奢な身体に・・・。」
「お前さん、相手を見た目で判断しちゃいかんよ。」
「で・・ですが・・・彼女は私達の中で一番の体重なのですよ・・・。」
「こらそこ、女性が軽々しく体重とか言いなさんな。」
俺と彼女達のやり取りを見た他の女性陣が、堪え切れずに笑いだしている。うーむ、何から何までトラガンの女性陣にクリソツだわ・・・。
「まあ何だ、何れ種明かしはさせて頂くよ。今は秘密という事で。」
「うー・・・必ず教えて頂きますからね!」
「何とも・・・。」
どうやら、この女性陣内で一番の力持ちの女性は、俺に変な対抗意識を抱いたようである。まあ、彼女が言う通り、俺自身は優男そのもので、実際にはマデュース改を片手で持ち上げる事など不可能なのだが・・・。本当に5大宇宙種族の力には脱帽してしまうわ・・・。
ともあれ、現状での危機は脱したと取れる。要らぬお節介を焼いたかも知れないが、彼女達が無事なのだから良しとしよう。それに、今の俺には彼女達を頼る以外に方法がない。
不思議な巡り逢わせになるが、これも大切な出逢いの1つだろう。警護者界で培ってきた経験が役に立ってくれたわ。
第1話・3へ続く。




