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覆面の探索者 ~己が生き様を貫く者~  作者: バガボンド
第2部 真の敵の淵源
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第11話 正しき行い4(通常版)

「そうですね・・・再戦を望まれるなら、一度退かせて差し上げましょうか。それなりに実力を得るまで、待つとしましょう。今はかの方々と退かれる事をお勧めします。」


 指し示す先には、既に地面へと倒れ込んでいる愚物共がいる。俺とエリシェと対峙している間に、周りの連中は全て倒されていた。しっかりと捕縛もされており、何時でも送り返せると言わんばかりである。


「・・・これで勝ったと思うな・・・。次は・・大戦力で駆逐してやる・・・。必ず・・皆殺しにしてやる・・・。」

「そうですか。では・・お引き取り下さいませ。」

「ハッ・・・ここには・・か弱い女子供だけがいるのは分かった・・・。貴様等を・・駆逐した後は・・・全て蹂躙し尽くしてやるわっ!」

「・・・・・。」


 男爵の言葉に、怒りと憎しみの一念以前に、それが行動として出てしまう。


 男爵へと歩み寄り、手に持つ携帯方天戟を右肩へと突き刺した。それに絶叫しだす相手。そのまま、顔面に強烈な張り手を繰り出す。その一撃を受けた男爵は、後方へと物凄い勢いで吹き飛んでいった。



「・・・“これ”は、ここで殺した方が無難だな・・・。」


 吹き飛んだ男爵に歩み寄りつつ、自然と呟いてしまう。そう、自分でも驚くぐらいの言動となっていた。一応の自我はあるのだが、それ以上の明確な怒りと憎しみが支配しているのが分かる。完全な暴走状態だ・・・。


「待って下さい、それ以上はダメですよ。」


 そんな俺の右手に、ソッと触れて来るミツキ。そのまま、そこで一回転させるかの様に、俺の身体を回してくる。ナツミAも十八番の、力の出し加減の触りによる体術だ。


「既に相手は気絶しています。これ以上やると、本当に殺害してしまいますよ。」

「・・・すまない・・・暴走していたわ・・・。」

「大丈夫です、代理の一撃を放っておきますので。」


 そう言いながら、気絶している男爵へと歩み寄るミツキ。その場にしゃがみ込み、相手の額にデコピンを喰らわせた。それを見た一同は呆気に取られるが、彼女らしいと苦笑いを浮かべている。


「Tさん、ここはポチに免じて。胸中のその怒りは、私達も同じ思いですから。」

「そうか・・・ありがとな・・・。」


 何時の間にか傍らにいるナツミA。ソッと携帯方天戟を取り上げてくる。今の俺では、獲物を持つ事は危険極まりないと判断したようだ。


「さて、イザリアさん達に指令をば。コイツ等を纏めて王城に送り返して下さい。」

「あ・・はい、分かりました。」

「す・・直ぐに準備します。」


 近場にいたイザリアとイザデラが行動を開始しだす。男爵以外は既に捕縛済みだったので、男爵だけ捕縛して王城へと送るようだ。一応、治療の方を行ってくれている。


 その後、後始末を行う面々。その彼らが、恐々そうに俺をチラ見してくる。それだけ、今の言動が強烈過ぎたのだろう。自分でも信じられないぐらいの、怒りと憎しみの様相だった。だが、俺としては後悔はしていない。


 男爵の言動は、間違いなくタブーに触れてきた。リューヴィスの女性陣の様相を窺えば、その言動がタブーであるのは言うまでもない。ナツミAが語ったように、他の面々も同じ様な怒りと憎しみを抱いていたのが分かる。


 だが、その一念を抑え込み、自重する事が俺にはできなかった。しかし、ああまで言われて怒らない方がおかしい。痛みを知らない愚物が言える、愚の骨頂極まりない愚行だ。


 簡易的に治療を行い、連行されていく男爵。転送魔法により移動されるまで、“それ”を凝視し続けた・・・。




 全ての後片付けが終わり、中央広場へと集まる一同。その彼らに茶菓子を配るミツキ達。呆気なく終わった闘争だが、最後の行動がインパクトがあったようである・・・。


「はぁ・・・何時かは出ると思っていたけどね。」

「航空機事変前に、同じ様な事がありましたよ。」

「そうなのか・・・。」


 呆れ顔で語るシルフィアとスミエ。内容は、俺が航空機事変で記憶を失う前の事らしい。今も思い出す事ができないため、彼女達の記憶だけが頼りとなる。


「でも、小父様の立場が私だったら、確実に殺害していますよ。ああまで言われて、黙っていられるほど、私はカスではありません。」

「はぁ・・・貴方の闘争本能も凄いものだったからねぇ。」

「病魔には屈されましたが、それ以外では一切屈されませんでしたし。」

「不意を突かれなければ、絶対に負けませんよ?」


 何時になく興奮気味のミツキT。どうやら、先の俺の激昂状態を、生命の次元で感じ取ったからだろう。精神体の彼女からすれば、他の面々の気質を感知するのは容易である。


「・・・マスター、大丈夫ですか?」

「ああ・・・すまない。」


 一際心配してくれるエリシェとラフィナ。その表情から察するに、相当心配してくれているようだ。それ程までに、先の暴走は堪えたのだろう。


「こう言うと、貴方の行動を助長しかねないのですが、先の暴走には一切の迷いがなかったのを感じました。今までの行動では、何処かしら迷いがあるのを感じましたが。」

「でも、ミツキ様とナツミA様が止められなかったら、あの男爵を殺害していましたよ。確かにどうしようもない愚物でも、無益な殺生を行うのは良くないです。」

「まあな・・・。しかし、次に現れても、先刻と考えを改めなかったら殺す。あんな愚物をのさばらせる方が罪深い。」


 俺の語りに、周りの面々は顔を青褪めている。今の俺の心境は、不殺の精神が解き掛かっていると思われる。それに、“そういった愚物”をのさばらせる事は、更なるリューヴィスの女性陣を作りかねない。


「・・・そうですね、分かりました。次は私も同伴します。Tちゃんがそう決めたのなら、私もその道を歩むとしましょう。それに、あの時止めてくれなければ、私が彼を殺害していましたので。」

「両腕の衣服への斬撃は、最後通告だった訳ですか。」

「結果的にそうなりましたがね。それに、どうしようもない愚物は潰すに限ります。過去の警護者での戦いでも、それの繰り返しでしたから。」


 サラッと語るスミエだが、全盛期の様相を振り返っているのか、その表情は悲壮感に溢れている。全盛期の警護者となれば、不殺の精神を抱く暇すらなかっただろう。つまり、相手を殺害する事に躊躇はしない。


「・・・警護者とは、こうまでして他者の無念を晴らそうとするのですか?」

「そう言われると、実に烏滸がましい限りだがな。だが、声無き声を掬い上げ、その無念さを晴らそうとするのも確かだ。リューヴィスの女性陣、トライアングルガンナーの女性陣がそれだ。それに、相手は俺と同じ性別、腐った野郎共。それだけで、叩き潰すには十分な理由になる。」


 本当に烏滸がましい。それでも、実際に目が届かない場では、無念に苛まれる存在がいる。警護者の役割は、そうした無念さを抱く人物を守る事である。


「そうでなければ、ただ単に復讐者に成り下がる、ですか。」

「ハハッ、お前さんにも読まれるとは・・・。」


 紅茶を啜りつつ、真顔で見つめてくるゼデュリス。異世界組の中で魔力が高い彼女からして、相手の心中を読む事は容易であろう。念話も合わされば確実である。


「先程、正しき行いと仰っていましたが、その経緯に誰かの不幸が必要となるのなら、私はそんな経緯など要りません。無様でもいい、悲惨な様相に至らないのであれば、先の様な一進一退の攻防を繰り返した方がまだマシです。」

「無様な生き様、か・・・。」


 悲痛なまでの叫びを挙げる彼女。いや、今の俺からすれば、彼女の言動こそ正しき行いとも言えてくる。それだけ、先の俺の暴走は、人ならざる存在に成り掛けたも当然だ。


「君には何度か、無様な姿を曝すなと言ってきたけど、ゼデュリスさんが挙げた無様とは全く異なる事だけは言っておくわ。むしろ、先の暴走状態の方が無様とも言えるし。」

「それでも、Tさんが思われた怒りと憎しみ、それは汲めるという矛盾点ですよね。」

「そりゃそうよ。あの阿呆は、更なるリューヴィス事変を起こそうと画策していたし。T君が我を忘れて激昂し、相手を殺そうとしたのも十分分かるわ。」


 先の俺の言動を思い呆れつつも、同じ様に怒りの表情を浮かべだすシルフィア。彼女も俺と同じく、理不尽・不条理の概念に痛烈なまでの怒りを抱く存在だ。特に同性への仕打ちには、恐ろしいまでに怒りを露わにする。ミツキTも同じだが、ある意味シルフィアの方が遥かに恐々しい。


「以前、Tさんが挙げていた通り、異世界惑星に準拠した生き様には、私達は順応し難い感じですよね。皮肉にも、地球でのライフワークとなる警護者の理が、ここで確実に弊害を引き起こしていますし。」

「だからこそ、ゼデュリスさんが挙げた、無様ながらも一進一退の攻防が無難である、と。今までの各事変を経るように、流れに乗るかの様に動くのが良いのかもね。」

「いえ、良いではなく、その方が確実に楽ですよ。同時に、それが現状では有効打となり、一切の矛盾度を孕んでいませんし。」

「矛盾度、か。」


 改めて、己の立ち位置を考えさせられるようである。いや、異世界惑星という事から、深く考え過ぎているのかも知れない。


 閉塞感が否めない現状を打破するべく、一歩前に進んだ行動を取ろうとした。その結果が、先の男爵事変となる。悪党の本質とは、こちらを言葉巧みに挑発し、逆上させて動かそうとしてくる。それに乗ってしまうのは、相手が間違った行動をしていると認識するためだ。


 しかし、何が正しく、何が間違っているかは、その世上などの流れにより異なってくる。だが、確実に言えるのは、二度とリューヴィスの女性陣の様な存在を出してはならない事だ。俺の目が黒いうちは、それを貫き通す、そう誓ったのにな・・・。



 ふと、寄り添って来る人物があった。そちらを窺うと、先に共闘した魔物娘達の4人だ。その目線は、何も心配する事はないと語っている。彼女達の方が、現状をしっかりと見定めていると言えるだろう。


「4人の方は、小父様に同苦されていますよ。元から魔物という生命体は、精神面の強さが人間よりも遥かに強いと知りました。私達と共闘してくれる彼らは、間違いなくその力が出ています。」

「・・・何時の時代も、女性は本当に強いわな・・・。」

「そりゃそうですよ。生命体の元来の素性は女性ですからね。小父様も無論、四天王の方々もオルドラ様も、女性の起源を持ちますから。」


 そう言いつつ、一同を見回す彼女。その視線に気付いた一同は、微笑みながら小さく頷いてくれている。本当に女性が・・・女性という精神性が強いと痛感させられるわ。


「今度も、あのカス共が到来しても、何度も撃退してやれば良いだけです。そうすれば、何れ飽きて来なくなりますよ。」

「そうわぅそうわぅ! 一進一退、前三後一の精神で突き進むわぅ!」

「三歩進んで一歩下がる、よね。」

「・・・ありがとな。」


 傍らの魔物娘達の頭を撫でつつ、一同に礼を述べた。周りあっての自分自身、それを痛感させられる思いだわ。いや、最早確信論である。生命体は1つでは生きて行けないのだから。



 警護者の生き様は前途多難。しかし、だからこそ生き甲斐として求められる。それを忘れ、先の様な暴走状態に至る事こそ愚の骨頂だろう。ゼデュリスが挙げた、無様ながらも一進一退の戦いを繰り広げる方が遥かにマシだ。


 効率だけを求めるなら、王城側を完全撃滅させた方がいい。そうすれば、今直ぐにでも安穏が訪れる。だが、それでは連中と同じ様相となってしまう。分かっていたつもりだったが、男爵の挑発に乗せられての愚行をしてしまった。まだまだ未熟な証拠だわ。


 今後は、もう少しまともな行動を取れるようになりたいものだ・・・。


    第12話へ続く。

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