第11話 正しき行い1(通常版)
セレテメス大陸の調査中、王城からの襲来者が現れた。急遽探索を中断し、城下町の方へ戻る事になる。デュヴィジェが十八番たる発展型テクノロジー、転送装置による個別指定の大移動だ。
今となっては、異世界惑星内の移動はおろか、地球へと簡単に帰還できる程の様相らしい。何時でも地球に帰れるというのは有難いが、今はこの異世界惑星事変を解決せねば、戻るに戻れない。
と言うか、幾ら王城軍が最後の敵だとしても、それを潰せば全て解決するのかが問題だ。俺達の場合は各作品群の様に明確な目標がなく、ただ流れるだけの旅路を続けるしかないのが実状だ。正に探索者そのものだが、終わりなき道筋は一種の絶望度を叩き付けて来るかのようである。
それでも、今後どんな経緯になろうが、一度首を突っ込んだからには、最後まで貫き通す。地球だろうが異世界惑星だろうが、そこに住まう人物は大切な生命体に変わりはない。彼らを守り通すのが、俺達警護者の理である。
城下町の各層に分かれて展開する俺達。今回は身内全員とあり、メカドッグ嬢達も含めてある程度分散させた方がいい。向こうが到来したら、その場所に集合すれば問題ないだろう。
一応、要らぬ威圧を避けるために、レプリカヴァルキュリアはレプリカ伊400の直上へと移動させた。そこに転送装置によりレプリカ大和も合流している。城下町の真上には、一切の威圧する存在はいない。これは1つの作戦でもある。
(スミエ様、連中は今どの辺りにいらっしゃいますか?)
(共和国外に接近中です。あの速度だと、数時間後には内部に侵入してくると思います。)
(侵入という点がミソですよね。)
(ゴロツキのハイエナ共わぅ。)
本当だわな。何処にでも大規模軍勢で現れる連中。これをゴロツキやらハイエナと言わずして何と言うのやら。特に連中の気質は略奪者そのもの、悪であるのは言うまでもない。
(・・・この生命波動、伯爵共もいやがるな・・・。)
(あー、リューヴィス事変のアレですか。)
(となると、女傑陣の皆様方は退避させた方が良いですかね?)
(嫌な記憶だからな、離した方が良いだろう。)
当時の様相を思いだし、怒りと憎しみの心が湧き上がってくる。時間が経てば経つほど、その一念は力強く広がっていた。
俺達のやり取りを伺っていたのか、リューヴィス女傑陣が俺達の周りへと集まって来る。どの面々も決意に溢れた表情を浮かべていた。つまり、共闘するという一念である。
(皆さんは、ミスターTさんと共にある事を選んだという事ですよ。)
(今となっては、誰も兄貴を避けたりしませんよ。あれだけの事をしてきたんですし。)
(そうか・・・すまない。)
リューヴィス女傑陣の表情は、彼女達と初見後、俺が男性に戻った頃とは大違いだ。当時は腫れ物を見るかの様なものだったが、今は同士を見る様な表情である。それを見れば、あの時行動した事は間違いではなかったと痛感させられる。
(それに、ミスターT様には下心がないのも事実ですからね。)
(はぁ・・・上辺ならあると言いたげだな・・・。)
(ん? 相手が異性ならエロ目サーチは当たり前じゃない? 嫌な意味ではなく、必ず出る一念になるし。)
(そこだけは仕方がありませんよね。私達もマスターが性転換状態の姿を見ると、何か違和感を感じずにはいられませんし。)
(人はそれを興奮度と言うのだよ諸君。)
(興奮度ねぇ・・・。)
ミツキの言葉に苦笑いを浮かべる一同。この場合は自然的に発生するものであり、どうする事もできないのが実状だろう。しかし、根底は彼らを支えたいという一念は明確だがな。
(そう、それですよ。貴方様の場合は、上辺よりも根底が大切です。その力強さは私達の比ではありません。だから、こうして心から信頼できるのですから。)
(まだまだ女性心を学ばねばならないわな・・・。)
あれだけの性転換状態をしながら、何一つとして学べていない。それだけ、女性心は奥が深いと言うべきか。それか、今世での性別が男性である俺には、学べないものなのだろうな。
(伯爵共にバレていなければ、ミスT様でも良かったと思います。むしろ、連中は素体の貴方を毛嫌いしていたので、強烈なインパクトを放つには現状で良いと思いますよ。)
(あそこまで女性を見る目が酷い奴は、今までで誰もいませんよね。)
(流石の兄貴でも、あそこまでは酷くありませんし。)
(俺としての女性とは、憧れの存在であり、華であり癒しだ。それを私利私欲の為に利用するとか、何処からそんな考えが出てくるのか教えて欲しいわ・・・。)
やはり、怒りと憎しみしか出て来ない。あの伯爵共の言動は、愚の骨頂を通り越している。旧リューヴィスに到来した野郎共も同じだ。アレでは、戦乱を助長させるようなものだわ。
(・・・俺の目が黒いうちは、貴方達を絶対に不幸になんかさせない。如何なる災厄も全て蹴散らしてやる。)
(そうだな。これはもう、女性の尊厳を賭けて戦うようなものだわ。)
(姉御やミツキさんも含めて、全ての女性を支えるための戦いっす!)
(地球でも同じ流れだったので、全く問題ないですよ。)
(本当ですよね。)
俺の肩を持ってくれた四天王。彼らには共通する守るべき存在、ナツミAとミツキがいる。そこから派生すれば、全ての女性を守るべきだと帰結してくる。俺も彼らと全く同じ思いだ。
(・・・今日ほど、女性として生まれて来て、嬉しいと思った事はないわね。)
(フフッ、自然とそこに帰結しますからね。むしろ、5人の方が女性気質そのものですし。私達の方が男性気質になりますからね。)
(男性気質ねぇ・・・見事に言い当てられる感じよね。)
(お前さん達は、永遠の三女神そのものだしな。)
四天王の思いを知り、歓喜状態の3人。この場合はシルフィアが語る通り、彼女達に男性心があるからだろうな。意外なほどそれが当たっているのが見事でもある。
ナツミツキ姉妹・ナツミツキ四天王・恩師シルフィア。この7人は1人の人間の意思が、7つに分かれたかの様である。彼らとは不思議な出逢いを経てきたが、その思いは年々強くなってきている。俺の永遠の盟友達、本当にそう思うわ。
(・・・オルドラ様が一目置かれる理由を痛感しました。これなら確かに、関わりたくなりますよね。)
(女性でもない、男性でもない。相手を生命体として捉えるからこそ、無限大の思いが現れてくるとも。)
(そこまで帰結できるなら、後は総意を支えるために突き進むのみよ。今も進軍してくるカス共は、それらを全て破壊する存在だ。あんなカス共に負けてたまるかとな。)
一服しつつ、吐き捨てるかのように呟いた。2人が挙げたように、そこに帰結するなら見事としか言い様がない。むしろ、そこに帰結できる事自体凄いと言える。地球では普通に湧き出て来た感情なだけに、異世界惑星でそれを見れたのには感動を覚えるわ。
(むしろ、連中を蹴散らした後、どうするかで悩むのですがね。)
(先程の探索場所から再開し、この大陸の調査を完了しませんと。)
(終わりなき探索道、か。王城共を全て駆逐しても、俺達の戦いは終わらないしな。)
(全部終わるまで、わたは帰らないわぅよ?!)
(黒いモヤ事変後は、目立った事変は起きていないからねぇ。向こうはメンバーに任せて、今はこちらを最優先とすべきよね。)
(臨時の追加報酬は茶菓子を所望するわぅ!)
最後の最後でボケが繰り出される。何度もあったが、ミツキの報酬は大体が茶菓子を所望してきていた。それを伺った一同は、堪え切れずに笑ってしまっている。普通なら、大きな報酬を望むのだろうが、彼女の場合は無欲の塊故に、この形になるのだろうな。
(それでは、城下町の菓子店にオーダーして、特注品の作成をご依頼しますね。)
(おおぅ?! お主、やりおるわぅね!)
(はぁ・・・。)
ゼデュリスの言葉に瞳を輝かせるミツキ。本当に何処まで無欲の塊なのやら・・・。傍らのナツミAは呆れ顔だが、彼女らしいと小さく笑っていた。
俺達は何時の間にか中央広場におり、そこで雑談をしつつ相手を待ち続けた。自然にそこが戦いの舞台となる事を察知したのだろう。そして、待つ事数時間、南大門より侵入して来る連中が見えた。正に愚物そのものとも言える。
それに、相手の気質からして、その誰もが男性である事を感じ取れた。つまり、訪れた理由が正にそれとなる。これ程までに私利私欲に走るのか・・・。
(・・・マスター、本当にありがとうございます。そのお気持ちだけで、私達がどれだけ救われるか分かりません。)
(この世界は男尊女卑の色が根強い。力を持つ女性は叩かれるのが常になります。)
(・・・俺は、女尊男卑だと断言したいがな。)
空間倉庫よりマデュース改3挺を取り出し、3つの人工腕部に装着させる。そして、腰の携帯方天戟を展開させ右手に持つ。訪れた愚物に対して睨みを利かせた。他の面々も、自前の武装を展開させている。こうなれば、何時でも抗戦が可能だと態度で示すしかない。
(ばあさま、空への警戒を強めておいてくれ。宇宙船を出してくる事を踏まえねば。)
(了解です。それと、躯屡聖堕チームの狙撃手に、甲板上から狙いを付けておきますね。)
(ああ、すまない。)
スミエが語るそれは、レプリカヴァルキュリアの火力が余りにも強過ぎるためだ。そこで、躯屡聖堕チームの狙撃手に直接的な援護射撃を任せる事にした。体術以外に、狙撃の腕も一流の面々が出揃っている。
(さて・・・やるかな・・・。)
(俺達も同伴させて貰うよ。前回は地球で燻っていたしな。愚物は直接叩くに限る。)
(体術に持ち込めれば勝ったも当然っすよ。)
(獲物は防御に用いて、体術で攻撃を仕掛ける。俺達らしい戦術ですよね。)
(一応、男らしい所は見せないと。)
(ハハッ、そうだな。)
俺と四天王を含む5人が一列に並ぶ。完全武装状態での出で立ちだ。こうして彼らと共闘したのは、激昂軍服事変以来だろうか。それ以外では裏方に回っている事が多かったしな。
中央広場より南大門側を向き、俺達は相手が到着するのを待つ。裏の裏を考えれば、城下町に入った途端悪事を働くだろう。しかし、相手は軍勢を維持したまま、こちらへと向かって来ている。
遠目となるが、その様子は見た事がない人物を先導に、その後ろにはあの伯爵共がいる。今回も重装兵や騎兵が数多くおり、何度見ても“ゴロツキの集まり”としか見えてこない。
恐らくだが、この先導の奴は、ゼデュリスが挙げていた宰相であろう。今になって到来した所を窺えば、先の旧リューヴィスの伯爵共と同じく、明け渡せウンタラを言うに違いない。
第11話・2へ続く。




