第3話 大都会の喧騒2(通常版)
(なるほど・・・。)
(どうした?)
(例の勇者一行がいました。どうやら、貴族出のようで、色々とボンボンな感じです。)
(平民出じゃないのか。となると・・・。)
今後の考えられる横槍の予想は、偏見による差別思考だろう。特に妹達は全員、孤児院の出身である。言い方は悪いが、平民以下の境遇だ。連中の情報収集能力が高いのなら、確実にそこを突いて来るだろう。
(ただ、別の勇者一行の話も耳にしました。今はこの大都会にはいないようですが。)
(どちらかが偽者という事か。)
(私は今いるコイツ等の方が、偽者だと断言しますがね。)
(ハハッ、そう怒りなさんな。)
かなりのご立腹の様子のミツキT。前にも挙げたが、彼女は理不尽・不条理の概念が大嫌いである。俺も同じクチだが、彼女の方が遥かにその度合いは強い。特に、生まれによる偏見が超絶的に嫌いとの事。これは、病床前と病床時に受けた差別が原因でもあるという。
(何処の世界でも、人間が犯す罪は同じという事だな。)
(人間と言うより、生命体に備わる業病でしょうね。それに気付き、誤った考えだったと改めていけるかが勝負所ですよ。)
(連中は、悪い見本の代表格とも言えるわな。俺達も肝に銘じておかねばの。)
本当にそう思う。この業病的要因は、俺達にも内在していると言い切れる。何時何処で出現するか分からない。常日頃から己を律し続け、それらを封じ込める必要があるしな。
(ミツキ様の生き様が、どの世界でも特効薬だと痛感させられます。)
(あー・・まあねぇ・・・。良い意味で変人だからな、彼女は・・・。)
(フフッ、本当にそう思います。)
自然と笑みが溢れてくる。存在そのもので鼓舞激励に叱咤激励をするミツキの生き様は、本当に見習うべき指針とも言えてくる。超自然体で繰り出されるその力は、純粋無垢の一念だわ。
(戒めてくれる存在がある事が、どれだけ大切なのかと思い知らされますよね。)
(そうだな。周りあっての己自身、ここを忘れてはならないわ。)
(感謝感謝の連続ですよ。)
常に精進せよ、それがミツキ流の生き様である。それは何も難しい事をするものではなく、目の前の存在を励まし支え抜く事が淵源となる。その繰り返しが、世上の抗争などを撲滅する特効薬になるのだから。それを自然体で繰り出す彼女は、やはり超人的と言うしかない。
(とりあえず、指定の冒険者ギルドで合流するか。)
(了解です。現地で落ち合いましょう。)
粗方の情報収集は取れたので、向こうの街が紹介してくれた冒険者ギルドで落ち合う事にした。今はこの喧騒に慣れるのが最優先だろう。
しかし・・・どうも人混みは慣れない。俺自身の気質の問題もあり、1人でのんびりとしている方が性分に合う。この大都会は、まるで地球の秋葉原を思い浮かべる。
いや、向こうの方が遥かに良いわ。それは、ヲタク気質の方々が数多く居る聖地でもあり、同じ趣味などを持っている強者がいるからだ。過去の依頼時には共闘にまで発展した戦友でもあり、今では盟友の域にまで達している。
過去にはコミケの会場で襲撃を受けた事があった。あれがヲタクの方々との接点というのだから、何処でどう化けるか分からないものだわ。これも大切な縁というものなのだろうな。
シュリーベルで紹介された、冒険者ギルドで落ち合った俺達。同系列のギルドだが、その規模はケタ違いに大きい。各種依頼も凄まじい数が出揃っている。同時に、その内容は結構な難易度となっている。
「これは・・・恐ろしい難易度で・・・。」
「迂闊に手を出せば、無事では済まされませんね・・・。」
掲示板に掲載された各種依頼を見て回る妹達。どの依頼内容も凄まじいまでの難易度で、それらを見て戦々恐々の状態になっている。同時に好奇心も出ているのだろう、瞳を輝かせているのが何とも言えない。
「ここでも方針は変わらんよ。一番低い難易度のクエストから慣れていこう。その積み重ねが礎になる。」
「勿論ですよ。流石にあの戦いを見させて頂いた手前、無駄な行動は慎みませんと。」
「黒ローブ戦か。あんなの、ウォーミングアップに過ぎないのだが。」
一服しながらボヤいてみせる。それを聞いた妹達は呆然としていた。その彼女達を見て小さく笑うミツキTである。
「ゲームの中での魔王戦などは、想像を絶する戦いになるからな。あんな程度で驚いていたら、直ぐにやられちまうぞ。」
「物理・魔法・特殊、どの攻撃をとっても半端じゃありませんからね。」
「何か・・萎えてきます・・・。」
「何とも。」
異世界での魔王や大魔王の戦闘力は、各種ゲームの連中と同じ力なのかは不明だ。しかし、それ相応の凄まじい攻撃を繰り出してくるだろう。それがラスボスという存在だしな。
その後も各種依頼を見て回っていると、入り口付近が騒がしくなる。そちらを伺うと、複数の人物が入ってくる。実際に見たのは初めてだが、恐らく連中が勇者一行だろう。ミツキTが偵察通り、向こうは7人の構成である。
(おいでなさったか、一応は警戒してくれ。)
(了解。メカドッグ嬢達もヒドゥン状態で展開させます。)
どういった流れに至るか、一応警戒はしておいた方が良いだろう。あの雰囲気からして、とても同調できる存在には到底思えない。問題は、この大都市では英雄的存在なのが痛い。下手に手を出してよいものかどうか。
そんな考えを巡らしていると、案の定こちらに接近してくる。掲示板を見ている妹達の前で立ちはだかった。何ともまあ・・・。
「・・・お前達が噂の英雄気取りの連中か。」
「・・・お噂は兼ねがね、想像通りの様相ですね。」
「なるほどねぇ・・・。」
勇者一行の様相は、既に承知済みの妹達。予想通りの気質が当たって、余計ゲンナリしている。少しは立派な人物を想像していたのだろうな。
「ふん、生意気なガキ共だ。あまりでしゃばらない方が身の為だ。」
「最初に突っ掛かって来たのは誰なのやら・・・。」
「もっと偉大な存在かと思いましたが、ガッカリですよ。」
うーむ、普段は大人しそうな妹達も、この勇者の気質には怒り心頭のようだ。かく言う俺も、生理的に受け付けない事が痛感できる。
妹達の挑発応酬に、自前の獲物を抜き向けてくる勇者。剣先が目の前に迫るも、一切動じないネルビアとカネッド。特にカネッドは気性が粗いため、この様な挑発行為には一番激昂しそうな気がしていたが、成長したものだわ・・・。
「おいおい、ここで一戦交える気か? もう少し落ち着きなさいな。」
「誰だ貴様は?」
「彼女達の“警護者”でね。万般に渡って補佐をしている優男さ。」
「ならば、コイツ等の態度を改めさせろ。他所様に向かって無礼な醜態だ。」
「無礼な醜態ねぇ・・・。」
徐に一服しつつ、その煙草を左手に持った瞬間、右手で腰の携帯方天戟を颯爽と展開する。それを勇者の首元に近付けた。絶対にそこには格納されていないと思われる場所からの出現、度肝を抜かれているのは言うまでもない。
「お前さんこそ、余り舐めた真似をするなや。仮に勇者なら、総意に模範となる行動を示すのが筋だ。会頭直後から挑発行為をしだしたのは、一体どちらが先なのやら。」
「ぐっ・・貴様・・・。」
俺の行動に殺気立つ勇者一行。他の6人も武器を抜き構え出す。が、俺の十八番の殺気と闘気を目の当たりにし、恐怖に慄く表情となっていく。
「一旦退かれてはどうでしょうか? 勇者という存在は、謹みが大切ですよ。それとも、どちらかが倒れるまで・・・殺し合いをされますか?」
既に我慢の限界を超えている様子のミツキT。背中に背負っている携帯十字戟を手に持ち、俺に匹敵する殺気と闘気を放ちだした。特に彼女の場合は超ドギツイため、俺以上に恐怖に慄いた表情を浮かべだす勇者一行。
「・・・この借りは必ず返す・・・。」
「借りた憶えも返す気もない、とっとと失せやがれ阿呆。」
「マスター、始末した方が良いと思いますけど?」
不気味な声で語るミツキTのそれを聞き、脱兎の如く去って行く勇者一行。ドスが利いた声を放っていた勇者だが、逃げ足は凄まじく速かった。何と言うか、ある意味見事である。
一触即発の状態だった場が白け、静寂さが戻ってくる。店内にいる人物は黙って行動を再開しだすが、俺達に向けて小さく親指を立てていた。これを窺うに、どうやら勇者一行の悪行が相当酷い証拠だろう。表向きは黙っているが、同調してくれたようである。
「・・・はぁ、肝を潰しましたわ・・・。」
「ハハッ、お疲れさん。」
「勘弁して欲しいですよ本当に・・・。」
一気に緊張が解かれ、深い溜め息を付く妹達。逆に、今の様相が結構な修羅場だったのに、平然としている俺やミツキTは変人だろうな。
「よく・・平気でいられますよね・・・。」
「んー、向こうでは今以上の修羅場を潜って来たからな。激昂軍服男事変なんか、今のよりも酷かったが。」
「あー、皆様方が何度もボヤいていた、最初の大きな事変ですか。」
「ああ、絶対悪を持ち出してきやがったしな。」
地球での各事変を振り返り、懐かしい気分になっていく。それだけ、今は異世界にいるのだと否が応でも痛感させられる。同時に、目の前の妹達は確かに存在しているのだとも、改めて痛感させられた。
「とりあえず、今後の行動プランも同じでいこう。お前さん達は10人一組で行動を。ミツキTさんも加勢してくれ。」
「ですねぇ。あの様子だと、何処で要らぬちょっかいを出してくるか分かりませんし。」
「兄貴は1人で大丈夫で?」
「俺が掴まったりすると思うか?」
俺の言葉に首をブンブン振る彼女達。そもそも、彼女達にも付与しているバリアとシールドの防御機構。これは放射性物質やガンマ線すら防ぐのだ。特殊的な攻撃など効く筈がない。
「ただ、言い方は悪いが、使い魔的な存在が欲しいか。」
「メカドッグ嬢達ですか? 筐体さえあれば、再現可能なのですけどね。お嬢様方、防具で何か良いものはありますか?」
「お・・お嬢様ですか・・・。」
意外な言い回しに顔を赤くしだす妹達。以前は妹達と言っていたと思われるが、元来はメイド気質のミツキTだ、こうした言動の方が性分に合うと言っている。
「す・・すみません、呆気に取られて。お話を窺う所、そのメカドッグさん達は多分、隠密行動を取られると思います。ミツキTさんと同じ全身鎧だと、機動性の問題が出てくると思いますし。」
「となると・・・スーツとかの方が良いのかな。」
「スーツと言うも、鎖帷子的な感じしかないと思いますが。」
メカドッグ嬢達の筐体を考え始める一同。そもそも、まだ姿を見た事がないのに、どうしてそういった発想が出てくるのかが不思議でならない。まあ、ミツキTの甲冑姿を見ているからなのか、精神体の類であると把握できたのだろうな。
「依頼は後日に回して、今は装備などを整えますかね。」
「その方が良いかも知れませんね。それに、連中の横槍に備えねばなりませんし。」
「ある意味アレだ、モンスを相手にする方が気が楽だわな。」
俺の言葉にウンウン頷いてくれる。人間ほど嫉妬深い生き物はいない。まだ魔物達の方が野生的に動いているとも言える。連中の長たる魔王や大魔王は、野生の王とも言えるのだろうな。
依頼の吟味を中断し、俺達は防具屋と武器屋に赴く事にした。先ずは防具屋で、メカドッグ嬢達の筐体となる一品を探してみる。上手い具合に合うものが見付かるかどうか・・・。
防具屋への移動の道中、声を掛けられる事が多かった。それは、例の勇者一行に怖じずに撃退した事への感心だろう。どうやら、連中の悪行は相当なもののようである。しかし、連中の実力も確かなもので、誰も抵抗する人物がいなかったとの事だ。
唯一あるとすれば、各冒険者ギルドと自警団と騎士団、そして王城だろうか。どんなに強い連中だろうが、組織的に動かれた場合は為す術がない。これは地球での警護者での活動時にも思い知らされている。
まあ今のこの異世界では、警護者の役割はサブ的要素。メインは探索者としての活動だ。それに、主役は10人の妹達である。俺がでしゃばるのは無粋だしな。
第3話・3へ続く。




