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覆面の探索者 ~己が生き様を貫く者~  作者: バガボンド
第2部 真の敵の淵源
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第8話 探索者の理4(通常版)

 数時間後、探索を終えて戻ってきた一同。共和国領土の各ダンジョンは、結構な魔物が生息している事が判明した。しかし、身内達の実力の前には、朝飯前な感じだったとの事だ。相手は野生の魔物なのに、それを物ともしないのは何とも・・・。


 ただ、問題としては、その各ダンジョンが共和国を取り囲んでいる状況だ。王城軍が転送魔法などで各ダンジョンに魔物を召喚させ、現地の魔物と共に攻めて来た場合は非常に危険となってくる。ありとあらゆる事態を想定しないと、今は非常に危険極まりない。


「これが今度の実験体・・・もとい、今現在の現状わぅか。」

「資料では元レ・・・もとい、状況は良くない感じですね。」


 ボケとボケの応酬をする2人。それに元ネタを知る面々は笑いを堪えている。だが、ミツキとナツミA、そして俺の表情が曇っている事に気が付いたようだ。


「・・・あの、マスター、脳内を読ませて頂いてもよろしいですか?」

「ん? ああ、お前さんが好きで仕方がないと分かると思うがな。」

「な・・何をご冗談を・・・。」


 茶化しも踏まえたボヤきをすると、顔を赤くする彼女。同時に周りの女性陣からは、殺気に満ちた視線で睨まれる。だが、冗談を言うものの、俺の表情が変わらない事を気にしている。姉妹の方もしかり。


 俺の前まで歩み寄り、右手を額へと当てるヘシュナ。カルダオス一族が得意とする、相手の内情を読み取る力だ。過去にはミツキTとの今生の別れを読んでくれている。今回は、全く異なる様相となるが・・・。


「・・・そうでしたか、ミツキ様とナツミA様も貴方と同じお考えと。本当に色々と申し訳ありません。」

「いや、お前さんには全く責任はない。むしろ、俺達が会話の間に先読みしたのが淵源。それに、実際に本当かどうかはまだ分からないしな。」


 こちらの内情を窺い、俺達と同じく表情を曇らせるヘシュナ。今の所は確定的ではないが、彼女の表情を窺えば、それがほぼ確実である事を物語らせてくる。


「ヘシュナさんに読んで貰った直後で悪いが、先程姉妹と語り合った内容だが・・・。」


 徐に一服しつつ、3人と語り合った内容を一同に話しだした。ヘシュナが内情を読んでくれた事に関しては、寸分狂いなく読めるとあり、会話の補佐に回って貰う事ができる。それを期待した事もあった。


 今は先読みと推測の域でしかないのだが、話した内容を聞いた面々は同じく表情を曇らせていった。もし事実となるなら、相当厄介な事になるからだ。特に5大宇宙種族の面々は、相当驚愕している。



「・・・以上が、先程2人と語り合った推測の域の現状よ。」

「端から伺えば、信憑性が無さ過ぎだから、否定したいと言いたいのですけどね・・・。」

「余りにも全てがマッチし捲くってるので、否定しようがないのが実状でも・・・。」

「そうでしたか・・・。」


 表情が暗くなる一同を尻目に、色々と考えを巡らしだしているデュヴィジェ。他にイザリア三姉妹も色々と考えを巡らせている様子だ。


「・・・確かにそのお考えなら、全ての辻褄が合致してきます。魔力と魔法、魔物の概念も十分実現可能になりますし。」

「私達がここに到来する前に来ていたとすれば、十分可能性は有り得ますね。その者がこの惑星に到来したのも、時間と空間を超越した存在である、という部分に当てはめれば、小父様がソイツを倒した後にここに訪れたとしても、決しておかしくはありませんし。」

「色々な要因が重なり、今に至るか・・・。」


 近場の椅子に座り込み、天井を仰ぐ。今は城下町の酒場におり、一応寛ぎながらの作戦会議を行っている。だが、どう見ても、今の俺達は暗い雰囲気丸出しである・・・。


「・・・マスター、もしかして負い目を感じられていますか?」

「黒いモヤを倒した事で、この異世界惑星にそれが飛び火した事か。いや、それはない。現にあの時、アイツを倒さねば、俺達の方が完全消滅していた。それに、後にこうなる事は誰も予想してなかったしな。」

「何と言うか、凄いと言うか。私達が小父様の黒いモヤ事変を対処された後に、こちらへと召喚する間に、既に転生してここにいるという自体が凄いですよ。」


 愕然としつつも、物凄い事であると興奮気味のイザリア。イザデラとイザネアも同じく、興奮気味である。


 普通ならば、絶対に否定ないし有り得ないと言うのだろう。だが、ここに出揃っている面々の誰もが、非常識を常識として目の当たりにしてきた経験をしている。否定するには、あまりにも多くの合致する部分が有り過ぎるからだ。


 特に、5大宇宙種族の面々は、そういった事が起こり得る事を痛感してきている。それが実際に起きたとしても、驚愕はするものの納得はしているようだ。イザリア達を見れば、一目瞭然である。


「まあ、小父様やお姉様方のお考えが当たらなくても、それはそれで良いと思います。むしろ、当たらない方が撃滅し易いですし。ですが、魔力・魔法・魔物、これらの概念があまりにも後押しし過ぎています。」

「黒いモヤ事変後に召喚とあれば、それらの因果関係も十分有り得ますからね。」

「となると・・・黒いモヤの転生者は、復讐心で動いているともなりますか。」


 ナセリスの言葉で黙り込む一同。その概念も十分有り得ると思えてくる。いや、普通なら起こり得るものだろう。しかし、その場合はあまりにも回りくどい復讐事になるが・・・。


「そうですね、確かに回りくどい復讐事と。」

「心中読みどうも・・・。」

「まあまあ。ともあれ、相手がその考えで動いていると仮定し、こちらも動くのが無難でしょうね。黒いモヤの撃滅には、私達カルテット・キャノンも一役買っています。そこに明らかに要らぬ横槍を放つなら、叩き潰してやりますよ。」

「大いに同意します。」


 物凄い怒りの表情を浮かべているデュヴィジェとヘシュナ。そりゃそうだろう。俺の方も怒りを沸かずにはいられない。


 黒いモヤ事変に関して、俺達は俺達の生き様を貫き通したに過ぎない。そこにナセリスが挙げた、黒いモヤが復讐心で動いてくるなら、間違いなく要らぬトバッチリそのものだ。


「ぬぅーん、正に暗黒卿の理に近いわぅか。」

「もしそれが事実となるなら、フィクションながらも、根底が復讐心で突き動いているとなるからね。」

「理不尽・不条理の概念には、徹底的にやり合うがな。事実じゃないなら申し訳ないが、もし事実ならそもそも、アイツがこちらに攻めて来たのが原因だ。それに対して蹴散らしただけの事。復讐心を抱かれるなど愚の骨頂だわ。」


 子供っぽい感情にも見えなくもないが、これには怒らない方が絶対におかしい。もしその仮定が確定的となったのなら、確実に相手を叩き潰してやる。


「今回は大いに同意します。そして、今度こそ完全撃滅をしないといけませんし。」

「マスター、余り好ましくないのですが、アレを解放した方が良いと思いますよ。」

「ああ、不殺の精神の除外、“黒い愚者”への明確なる殺意、だな。」


 俺の言葉に震え上がる面々。前にも挙げたが、俺が本当の力を出す場面は、相手を確実に殺害すると思った瞬間との事だ。つまり、不殺の精神の解放である。


「まあでも、一応徹底的に様子を見つつ、待つしかないのが現状だけどね。」

「最後の一手はTちゃんになりますが、今は相手の出方を待つとしましょう。ミュティナ様、念のため“地球の皆様方”の力を出せるようにして下さい。“この惑星から出させない”という事をしないといけませんし。」

「了解です。下準備は済ませておきますね。」


 小さく微笑むスミエに、不気味に微笑むミュティナ。ミツキの言葉を借りるとするのなら、まだまだ奥の手は残っているという事だ。


「・・・すまない、俺達が淵源の可能性が出てきた。」

「そんな、お気になさらないで下さい。これはもう、この世界に住む私達の問題にもなってきます。王城軍とかの話ではありません。」

「“黒い愚者”が現実のものとなるなら、それが諸悪の根源になりますからね。それに、相手がその行動をしたのなら、全てそれが原因ですし。」

「淵源説、と。まあ相手の真意が分かるまで、今は仮説で済ませておきましょう。」

「大丈夫ですよ、気にしないで下さい。」


 そう語りつつ、俺の背中に抱き付いて来るカネッド。その首に回された腕を優しく叩いた。流石にこの場合の茶化しは入って来ない。どの妹達も同じ思いである感じだろう。かく言う俺も、彼女の立場なら同じ事をしている。


 とにかく、今は相手の出方を待つしかない。俺達が立てた仮説が当たっているかは、まだ分からない。だが、ほぼ確実に当たっているとも思える。余りにも信憑性が高過ぎだ。


 それでも、俺達の力を以てすれば十分消滅は可能である。そう、今回は完全消滅を狙わねばならない。幸いにも相手の規模は、黒いモヤ程ではないだろう。小柄なのなら、間違いなく完全消滅は可能だ。


 本当に、自分が定めた生き様を貫くのは、並大抵の力では成し得ないわ。それでも、自分が決めた事なのだ、最後まで貫き通すしかない。途中で曲げるぐらいなら、最初から貫く事などしなければいいだけだ。




「茶菓子を漁れー!」

「はぁ・・・暴走状態と・・・。」


 作戦会議を終えた後、それはそれは暴走状態になるミツキ。それに呆れ顔のナツミAだが、先の様相を踏まえると黙認している感じだ。俺の方もそれに釣られ、静かに茶菓子を漁っている。


「今夜はお前さんに付き合うわ。」

「おおぅ! 無礼講わぅ!」

「・・・こりゃ、重症よね・・・。」


 本来なら酒に酔い痴れたいのだが、酒も滅法弱いため別の手段での酔い痴れを行っている。今はミツキに便乗し、茶菓子に酔い痴れるでいい。


「ぬぅーん! ウイスキーボンボンを食うしかないわぅ?」

「あー・・・リキュール入りのチョコレートか、頂こう。」

「ウッシッシッ♪」


 言うか否か、空間倉庫より同菓子を取り出す彼女。それを開封し、俺へと差し出してくる。見た目は普通のチョコレート菓子なのだが、中にリキュール入りとあり、個数によっては酔う事もある。それを徐に口に運んだ。


「うーん・・・こういう時はお酌すべきなんだろうけど・・・。」

「悪化するので止めて下さい・・・。」

「世も末の状態よねぇ・・・。」


 そんなに酷い様相なのかと思いたくもなるが、今は何かに酔い痴れないといられない気分に陥っている。これが本当の酒ではなくて良かったと思う。


 ウイスキーボンボンを口にしつつ、周りを見渡してみる。他の面々も飲酒したりと寛いでいた。その姿に変な憧れを覚えてしまう。実際に飲兵衛になれない自分故のものだろうな。まあ、飲めなくはないが、その後がどうなるかは良く知っているので止めるしかない・・・。


「あの・・・ミスターT様。少なくとも私だけは、貴方様の行動を最大限補佐致します。だから、悲観的にならないで下さい。」

「ああ、ありがとう。大丈夫よ、何時もこの調子だから。」


 心配そうに声を掛けてくる彼女。今の俺の姿は、周りに滅多に見せた事がない落ち込み度からして、相当心配になるのだろう。ただ、今の俺には時間が解決するとあって、どうする事もできないのだが・・・。


「相手が何時攻めて来るかが分かれば、事前に休息などができるのですけどね。」

「いや、何時来ても迎撃するだけで事足りる。」

「いえ、そう言う意味ではなく、マスターは数日間は休んだ方が良いと思いますよ。幾ら睡眠欲を無効化するといっても、心労度の蓄積は回避できません。本来、睡眠は心労も癒す効果がありますし。」

「今のマスターは崩壊寸前に近いですし。寝ないにせよ、休んだ方が良いです。」


 毎度の事だと軽い感じの2人だが、俺の深層を見事に察知してきた。確かに睡眠欲は無効化されているが、心労などの蓄積は無効化ができない。むしろ、睡眠を取らないため、余計心労が溜まっている感じが否めない。


「ただし、もし横になって仮眠するにも、例の効果は絶対に切らないようにして下さい。今切られると、数日間は確実に起きれなくなります。それこそ、不測の事態に最悪の状態で挑む事になりますので。」

「・・・少し横になってくるわ。問題は、何処で仮眠するかだが・・・。」

「街中の喧騒から離れるのと、非常時に必ず起こされるのを踏まえると、レプリカ大和での仮眠をお勧めします。現地のメンバーに伝えておきますよ。」

「分かった。後の事は任せるわ。」


 周りの助言通り、今は休んだ方が良さそうだ。非常時は起こしてくれるように確約を取る。


 酒場を退席する際に分かったのだが、こちらを窺う目線が何時になく不安そうだ。そこまで落ち込んでいるとは思えないのだが、相当表面に現れているようである。その一同に深々と頭を下げて、酒場を後にした。


 表に出ると、辺りは漆黒の闇に包まれている。地球での都市群の神々しさとは真逆である。だが、夜空に浮かぶ星々の光が実に美しい。大自然の力をマザマザと見せ付けられる感じだ。


 同時に胸中に湧き出て来る一念、それはこの掛け替えのない異世界惑星を、何が何でも守り切るというものだ。こうして、些細な思いから原点へと回帰できるのは、本当に幸せである。


 夜空の星々に見守られつつ、今は仮眠場となるレプリカ大和へと歩みを進めた。


    第9話へ続く。

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