第3話 大都会の喧騒1(通常版)
鉱山での討伐クエストと、シュリーベルの襲撃事変。これらを無事終えた俺達は、街の英雄扱いになっていた。とは言うものの、まだ魔王軍は数多くいるため、油断はするなと伝えていった。それに、この街に俺達がいるとなると、今後は襲撃対象になりかねない。
そこで、俺達が大都会に移動するという事を大々的に触れ回った。街の住人達は残念がっているが、要らぬ火種が残るのは良しとしていない。そこが唯一の安心材料だろうか。つまり、シュリーベルから出て行く事には、半分は賛成してくれている事だ。
大都会に移動するには翌日。その間までに色々と準備に取り掛かった。
「・・・魔物も生命体の1つ、か。」
「永遠に終わらない闘争、とも。ですが、当事者が何をしたかも重要です。ならば、警護者としての役割と、冷徹無慈悲なまでに遂行すべきですよ。」
「・・・今じゃ一端の警護者だしな。」
冒険者ギルドの隅に座り、束の間の休息を取る。傍らに座るミツキTだが、全身鎧の甲冑姿が様になりだしていた。まあ、中身は蛻の殻の状態なのだが・・・。
「お・・お疲れ様でした・・・。」
「お疲れ様。」
全ての作業を終えて戻ってくる妹達。住人達や冒険者ギルドから揉みくちゃにされたようで、戦っていた時よりもゲッソリとしている。
「えー・・・何からお話すれば良いのやら・・・。」
「困っている時は、何も話さず黙り込むのも一興よ。」
「小父様が黙り込むと、話し掛けない限り動きませんからね。困ったものですよ。」
「ふん、言ってろ。」
極度の緊張による凝縮状態の妹達。しかし、ミツキTとのやり取りを窺って、自然と笑ってしまっていた。場の雰囲気を行動で覆していく、ミツキ流の生き様の1つである。
「あの・・・お姉様、とお呼びすれば良いのでしょうか。」
「何でも構いませんよ。ただ、実年齢は7歳で止まっていますけど。」
「7歳ですか?! た・・達観し過ぎている気が・・・。」
「軽く経緯を語るとするなら・・・。」
俺は支障を来たさない範囲で、ミツキTの境遇を妹達に語った。7歳で逝去した身だが、それからは永遠とも言える時間を過ごしてきた。実質的に凄まじい年齢の女傑である。
「そ・・そんな事があるとは・・・。」
「それだけ、生命力は無限大だしな。時間と空間を超越し、近くも遠く、遠くも近く、常に共に存在している。俺がこの世界に飛ばされたのも同じ原理らしい。その俺を察知して馳せ参じたのがミツキTさんだ。」
「肉体を持たない精神体の場合は、実質的に無限大の行動力を得られますからね。」
自慢気に語るミツキTが、近場にある紅茶を一同に振る舞っていく。地球でもそうだったが、彼女は非常に気が利く秘書的存在である。疲れ知らずなため、その行動力は計り知れない。
「となると・・・その甲冑の中は・・・。」
「あ・・はい、この様になっています。」
言うか否か、被っている鉄仮面を取り外す。そこには何もなく、ただガランとした空間だけが存在している。それに恐怖に慄きだす妹達。
「こらそこ、アンデットじゃないんだから。」
「魔生命系でしょうかね。」
「リビングアーマーとでも名乗るか。」
再び鉄仮面を装着し、何気なく普通の行動を続けるミツキT。俺との会話の普通さを窺い、開いた口が塞がらない状態の妹達である。
「と・・とにかく、助かった事には変わりありません。本当にありがとうございます。」
「お気になさらずに。小父様が一目置かれる方々です。厳守せねば失礼極まりません。」
「小父ですか・・・う~ん・・・。」
小父という言葉に首を傾げる彼女達に、細かい事は気にするなと素振りを見せるミツキT。実際に彼女に小父と呼ばれるようになったのは、生前の時にまで遡る。
「俺が17歳の時、彼女は7歳だった。10歳差になるが、まあ小父的な感じだろう。」
「万般に渡って、色々と学ばせて頂きましたからね。」
「確かに、父娘の様に見えますよ。」
先の恐々しさは何処へやら、徐々に打ち解けだしていく妹達。これもミツキTが気質である、誰とでも打ち解ける性質の恩恵だろうな。地球にいるミツキも同じ性質を持っている。
「さて・・・予定通り、明日は大都会に“大々的”に向かうとするか。」
「陽動作戦も兼ねたものですからね。」
「この街から、私達が完全に撤退した事を知らせませんと。」
「冒険者ギルドの方でも、手を打ってくれているようですし。」
今後、この街に俺達がいる事を認知されないようにするには、完全撤退を演じるしかない。大都会ならば、多少目がいったとしても問題はない。
「要らぬ横槍を気にするとなれば、勇者一行がどう出てくるか、だが。」
「こちら以上に目立つな、と言って来そうですからね。」
「個人戦闘力は向こうの方が上手だと思うんだが。」
「私達の真骨頂は、連携による団体戦ですし。」
「連携ありきの戦闘ですよ。スタンドプレイじゃ、得られるものも得られません。」
一端に物を言う様になったが、正にその通りだわ。それだけ成長した証拠だろうな。
推測の域だが、恐らく勇者一行の方が個人戦闘力は遥かに上手だろう。相当の手練れがいると予測できる。だが、団体戦闘力なら妹達も引けを取ってはいない。先程のスケルトン掃討作戦時を伺う限り、相当な実力に至ったと言える。
全ての戦術や戦略は、個人プレイより複数プレイでこそ真価を発揮してくる。特に妹達は全員孤児院出身で幼馴染同士、その絆は凄まじいものだと痛感している。勇者一行がどの様な繋がりかは知らないが、この部分では一切引けを取らないだろう。
「大丈夫ですよ。今度からは私も加勢致します。小父様が敬愛される妹様方、その皆様を守ってこそ警護者というもの。万事お任せ下さいませ。」
「・・・本当にありがとうございます。」
「ミツキT姉にはお世話になりますぜ。」
「達観度を除けば、お前さん達の妹分になるんだがな・・・。」
「フフッ、そうとも言いますね。」
俺のボヤきに周りは笑い合う。実年齢が7歳で止まっているミツキTに、妹達の現年齢は15歳、8歳差の姉妹そのものである。だが、実際には俺をも超越する高年齢のミツキTだ。俺達の母親的存在とも言えるのだから。
「このまま一気に、魔王軍を叩き潰して回りましょうや!」
「やったりますぜ!」
「まるで蛮族だな・・・。」
「ハハッ、何とも。」
勢いをつけた妹達が一気盛んに吠え捲くる。実際に力を付け出している事と、シュリーベルでの実力が英雄クラスである事、名実共に見事としか言い様がない。その姿を見たギルド職員が頬笑ましい視線を送って頷いている。その彼らに小さく頭を下げた。
この姿勢は決して奢っている訳ではない。言わば、己自身を鼓舞激励、叱咤激励をしているに過ぎない。仮に奢っているのであれば、もっと突っ込んだ勢いになるはずだ。それを見抜けないギルド職員達ではあるまい。
下積み時代を長く経て来た事により、この街での妹達の総合評価は凄まじい域にまで至っているようだ。ならば、それに甘んじる事なく、己にできる事をし続けるのみ。もし、道を踏み間違えようとするなら、その都度正していけば良いだけだ。
何だか、今では彼女達の保父的存在になりつつあると実感せざろう得ない・・・。
そして翌日、作戦通りに大々的に大都会へと出発した。それはパレードで出送りをすると言ったものではなく、冒険者ギルドなどの情報部門からの発信である。これなら、大都会以外の都市などにも情報が行き交うだろう。当然それは、魔王軍にも伝わる筈だ。
一応、不測の事態の対策としては、ペンダント効果の転送による瞬間移動が可能である。この場合は俺がシュリーベルなどに飛び、不測の事態を対処するという流れになるだろう。ミツキTには妹達の専属護衛を任せ切りにしたい。
もし、地球からの増援が到来するのであれば、更に突っ込んだ行動が可能となる。しかし、余りにも力を出し過ぎるとパワーバランスを崩しかねない。調停者と裁定者の役割、これをしっかり担い続けねばな。
荷馬車に揺られる事、数時間後。無事何事もなく大都会へと到着した。そう、本当に何事もなく到着できた。妨害工作があると踏んでいたが、要らぬ考えだったようである。
そして、大都会の規模を見て度肝を抜かされた。先のシュリーベルの数十倍の規模の大都市だったのだ。故に大都会という呼び名が付けられたのだろう。これなら、先の襲撃など埃を払う程度のものだっただろうな。問題は、ここでの俺達の動向がどうなるか、である。
ちなみに、この大都会の正式名称は、カルーティアスとの事だ。かなり昔に街を救ったとされる、英雄の名前を拝借したらしい。
「す・・すげぇ・・・。」
「こんなデカい街、見た事がないっすよ!」
「何とも。」
まるで小さな子供のようだわ。まあでも、シュリーベルが最大規模のものだと思っていたと言っていたからな。それに数十倍の規模となれば、こうなるのは当たり前か。
「どうする? 情報収集をするなら、分かれて行動した方が良いか?」
「ですね。ただ、不測の事態に備えて、小父様単独での行動が良いかと。私は皆様方と一緒に行動をします。」
「分かった。連絡はアレで頼む。」
俺の言葉に、裏方のメカドッグ嬢達を動かしていくミツキT。その中で、4人ほど俺の護衛に就いて貰った。表には姿を出せないが、各ペンダント効果を使えば具現化は可能である。
俺達は別行動を取り、大都会の情報収集を開始しだした。先にミツキTとメカドッグ嬢達で探索をしてくれているが、情報は常に新しいものが良い。他の16人のメカドッグ嬢達も、縦横無尽に動き回ってくれているようだ。
確かに、大都会と言われるだけある。武器防具に道具類、衣類や雑貨、多種多様なものまで取り扱っている。恐らく、この異世界で最大規模の大都市だろう。勇者一行が屯するのも十分肯ける。
また、冒険者ギルドも多数あり、お互いに切磋琢磨しているようだ。無論、俺達が赴く先はシュリーベルの同系列ギルドである。既に紹介状も頂いていた。他にも自警団や騎士団も存在しており、極め付けは大都市の中央に鎮座する王城だろう。
通常の異世界作品物なら、こうした大都市の王城に召喚者として招かれるケースが多い。俺の場合は地方の、しかも草原に放り込まれた感じだったが・・・。変人と言われても、全く反論の余地はない・・・。
第3話・2へ続く。




