第7話 束の間の休み4(キャラ名版)
星空が美しい夜、俺達だけでパーティーが開かれた。ここ数ヶ月は、移動やら戦闘やらの繰り返しであり、こうしてお互いを労えるのは久し振りである。ただ、急拵えで開催となったため、ただ手料理だけの出し物となった。
しかし、どの面々も安らいだ表情を浮かべている。それら表情を窺えば、今までの苦労が報われる思いだ。特にリューヴィスの女性陣と幼子達。彼女達の喜ぶ姿が何よりの宝である。
イザリア「深夜に食事とか、お子さん方には良くないのですけどね。」
ミスターT「心中読みやめれ・・・。」
軽食を取りつつ見守っていると、こちらの心中を読んで来た彼女。見掛けに寄らず大食漢のようで、凄まじい量の食事を摂取していた・・・。
イザリア「しかし、地球と宇宙種族の合作と言うべき兵装には、本当に感嘆させられました。」
ミスターT「俺もそう思う。小さなものだと、レールガン搭載のマデュース改、大きいものだと、レプリカシリーズとなる。あと、まだ出していないが、7隻の宇宙戦艦が待機中だ。」
イザリア「そ・・そうですか・・・。」
ミスターT「それに、連中と同等の宇宙船も出そうと思えば出せる。母船や大母船もしかり。まあ、規模の問題もあるから、地表に出したら大変な事になるが。」
お互いに食事を取りつつ、今までの様相を語り合った。
帝都対決までなら、レプリカ大和が最大戦闘力だった。しかし、敵側が宇宙船を出した事で事態は急変する。20kmもの規模を誇る宇宙船に対抗するには、レプリカ大和だけでは実に心許ない。そこで、レプリカヴァルキュリアとなった。同艦は3kmを超える様相だ。
それでも、相手の規模からすれば、7分の1程度の様相でしかない。連中が宇宙船を最大限活用できるようになれば、レプリカヴァルキュリアだけでは絶対に不利になる。しかも、今はまだ未稼働の2隻の宇宙船も出揃えば、確実に劣勢になるのは言うまでもない。
そこで投入する予定なのが、7隻の宇宙戦艦となる。レプリカ大和の10倍、2630mの艦体が7隻とあれば、一応の互角性を維持はできるだろう。それにこの7隻は、あの黒いモヤ事変を解決させた立役者の面々だ。
エリシェ「ん~・・・超レプリカ大和と超レプリカ伊400もあるんですけどねぇ~・・・。」
ミスターT「アレは海上でしか運用できんだろうに・・・。」
イザリアとの雑談会食中に乱入してくる、ワインを片手のエリシェ。既に出来上がっているため、エラい絡んでくるのが何とも言えない。傍らのラフィナも、顔を真っ赤にしてワインを啜っていた。
ラフィナ「圧倒的戦闘力で駆逐するのはぁ~・・・ロマンですよロマンっ~・・・。」
エリシェ「最強の力はぁ~・・・万歳ですぅ~・・・。」
ミスターT「はぁ・・・勘弁してくれ・・・。」
俺の膝のそれぞれに腰を降ろし、肩に手を回して飲み捲くる2人。ここまでの酒乱だとは思いもしなかった・・・。対面するイザリアは、苦笑いを浮かべるしかないようだ。
そんな酒乱2人の首を掴み、そのまま連れ去って行くはスミエだった。彼女もかなり出来上がっているようだが、恐ろしいまでに目が据わっている。それを見たエリシェとラフィナは顔を青褪めて震え上がっていた。
ちなみに、首を掴んで持ち上げた様には驚くが、それはあのペンダント効果によるものだ。ギガンテス一族は十八番、重力制御の力である。スミエもその力を持つペンダントを持っているので、こうして時と場合を選んでは使う姿が見受けられる。
ミスターT「はぁ・・・ばあさまに助けられたわ・・・。」
イザリア「アハハッ・・・。」
ミスターT「まあ何だ、手持ちのカードは大いに越した事はない。このセレテメス国全体を守るだけの力はあるからな。」
イザリア「・・・そのためのレプリカヴァルキュリアですか。」
俺の言葉に納得した様子の彼女。バリアとシールドの防御機構の真髄を、改めて窺い知ったようである。
そう、このバリアとシールドの防御機構は、放つ存在が大きければ大きいほど、その規模を拡大させる事ができる。レプリカ大和を例に挙げると、その範囲の広げ方なら、港町全体を包み込む事も可能だ。
ましてや、直径3kmを超えるレプリカヴァルキュリアが放つバリアとシールドなら、その規模はセレテメス国全体を包み込む事も容易だ。これは、地球は地元で、過去に同じ運用を行った事もある。
ミスターT「ナセリスさんの偽者がいた時に、種族の応用で5大宇宙種族の力を使える可能性が出て来た事があったのよ。それを解決するために、ルビナさんやヘシュナさんが新たな力を開発した。それが新バリアとシールドの防御機構でね。」
イザリア「なるほど、各レールガンの最大攻撃を、確実に弾くか相殺する事ができる防御膜と。」
ミスターT「実際には相手は使って来なかったんだが、後の黒いモヤ事変では、その防御膜を利用した包み込み作戦を展開させたのよ。黒いモヤ自体を新バリアとシールドで覆い込み、そこにハイパーレールガンの応用で殺気と闘気の心当てを放ち消滅させた。」
イザリア「・・・私には考えられない戦術ですよ。」
とんでも無い事をして来たのだと、驚愕と感嘆の表情を浮かべるイザリア。地球での戦いの終盤戦は、今までの技術力を全て活用しなければ、間違いなく滅亡していただろうな。
ミスターT「お前さん達には大変悪いが、この異世界惑星での流れなど、ウォーミングアップにすらなってない。」
イザリア「まあそこは小母様にも伺いましたし、重々承知しています。何度か思いましたが、小父様のその余裕度は何処から来るのかと呆れましたし。」
ミスターT「ハハッ、ごめんな。まあ、それらの経験があるからこそ、ここでも暴れられる訳よ。上辺の右往左往はあれど、根底が据わっていれば恐れるに足りないしな。」
食事を終えて一服する。振り返れば、異世界惑星の全ての事変は、地球での各事変にすら比較できないほど弱々しいものばかりだ。ただ、魔力や魔法、魔物などのファンタジー要素が存在していたため、幾分か怯んでしまった部分はある。
デュヴィジェ「最強という存在を、最初から持った状態でスタートする。ファンタジー作品での目玉となる魅力的な概念ですが、小父様の場合も見事に該当しますよね。」
ミスターT「そうだな。」
何時の間にか傍らにいる彼女。近場の椅子に座り、茶菓子を食べながら語ってくる。異世界惑星に召喚された時の、俺の初期状態のそれだ。
イザリア「小父様をここに召喚した時、その実力を窺う事はできませんでしたが、デハラードでの一戦で痛感しましたよ。これこそ私が求めていた力だと。」
ミスターT「買い被りなんだがねぇ・・・。俺の戦闘力は、各ペンダント効果があってこそだ。背中の人工腕部も取り外しが可能だし、本当に生えている訳じゃない。お前さんとサシで勝負したら、間違いなく瞬殺される。」
イザリア「それこそ買い被りですよ。小父様の真骨頂は、武器や魔法などの力を発揮しない瞬間に出てきますし。プロレス技でしたか、それらも含めた格闘技が目玉とも。」
ミスターT「肉弾戦の方が一番気が楽だしなぁ。」
デュヴィジェ「急所や致死性を除くなら、殴り合いで解決できる試合になりますからね。」
イザリア「し・・試合ですか・・・。」
デュヴィジェの言葉に笑い出すイザリア。命のやり取りたる戦いを、試合と例えたのがヒットしたみたいだ。まあ、地球での各事変も、中盤から終盤は試合と言い出していたが・・・。
ミスターT「警護者の当初は、格闘技は補佐程度でしかなかった。その殆どを重火器に便り、相手を殺す事で任務を達成していたしな。それが間違った事だったと知ったのは、ミツキTの逝去後だ。」
デュヴィジェ「重々承知しています。後の航空機事変で覚醒されましたからね。」
イザリア「記憶を代償に、と。」
ミスターT「記憶程度の代償で、真の力に目覚めるなら安いものよ。それで不殺の精神を貫く事ができるようになったしな。」
実際には、これは半分嘘になる。その不殺の精神は同族たる人間に該当するだけで、魔物や多種族は問答無用に殺害している。人間だから殺さない、多種族だから殺す、この上なく烏滸がましいわ。
ミスターT「・・・それでも、俺は俺の生き様を貫き続ける。そう生きると決めたしな。」
デュヴィジェ「ええ、そうですね。最後は己自身が決めて動かねばならない。お互いに支え合う事はできても、最後の決断は己自身でしかできませんから。」
イザリア「小父様の本当の強さは、己が信念と執念を絶対に曲げない所にあるのでしょうね。」
ミスターT「上辺の右往左往には、翻弄されっ放しだがな。」
俺の言葉に笑い合う2人。今の今までの俺の姿を見れば、上辺の右往左往は日常茶飯事とも言えてくる。その都度、周りに迷惑を掛けるのだから、本当に理不尽極まりない。
ミツキ「300年前に言った筈だ! 己の信念を曲げるなと!」
ナツミA「それ、某司令の義理の息子さんの名言ね。」
更に突然の乱入は、ミツキのボケにナツミAのツッコミだ。大量の茶菓子を持っており、それを漁りつつ暴れている。幼子達は時間的に就寝したのだろう、全く姿が見られなかった。
ミツキ「まあ、彼の方とTさんの姿勢は似てますからね。信念と執念・・・執念と信念とも、それを最後まで曲げない者の勝ちですから。」
ナツミA「その姿勢には何度となく助けられて来たからね。」
ミスターT「お前さん達の方が、俺よりも遥かに据わっていると思うがな。」
彼女の手持ちの茶菓子を分けて貰い、それを口にしつつボヤいた。俺より姉妹の方が、遥かに執念と信念が据わっている。だからこそ、態とボケやツッコミを展開し、周りを和ませているのだから。
ミツキ「力を持ち過ぎると全てを壊しかねません。しかし、そんな時こそ支えてくれる存在の出番。持ちつ持たれつ投げ飛ばす、これに限りますよ。」
ミスターT「本当にそう思うわ。」
ナツミA「イザリアさん達も、三姉妹で支え合ったからこそ、この異世界惑星での覇王を演じる事ができたのでしょうからね。」
イザリア「ありがとうございます。そう言って頂けると、私達の生き様が無駄ではなかったと痛感させられます。」
デュヴィジェ「大丈夫ですよ。貴方達は紛れもない警護者、調停者と裁定者ですから。」
調停者と裁定者、か。イザリア三姉妹も、その理は違えど、警護者としての生き様に似ていたと言うべきだな。そう、自然とそこに回帰していったのだ。
5大宇宙種族の気質は、警護者に非常に通ずる部分がある。調停者と裁定者を演じる点が正にそれだ。デュネセア一族のイザリア・イザデラ・イザネアの三姉妹、魔王・大魔王・魔女を演じるものの、胸中の一念は警護者と何ら変わりなかった。
思いは時として、時間と空間を超越する。もしかしたら、俺達の生き様が、遥か遠くのこの異世界惑星の三姉妹に伝わったのかも知れない。そう、生命は深い次元で繋がり合うしな。
和気藹々とする彼女達を見つめ、今後も己が生き様を貫き通すと胸中で強く誓った。
第8話へ続く。




