第6話 帝都解放3(通常版)
(帝国城内部に潜入中のメカドッグ嬢達が、内部に複数の魔物を発見したとの事です。)
(着々と準備を進めている感じだな。)
帝国本土へ訪れてから1週間後、転送魔法で偽勇者共も訪れてから数日後となる。ヒドゥン状態で城内に潜入しているメカドッグ嬢達が、複数の魔物を目撃したと語るミツキT。決行の時は近いと思われる。
(完全撃滅を狙いますか?)
(四の五の言ってられない感じなら、問答無用で撃滅を。人間は・・・いや、こちらに被害が及ぶのだから、もはや何振り構わないで動くしかないか。)
(そこは、格闘術で無力化を図れば問題ないわ。地球でも同じ手法を取ってるし。)
(無血革命ですね。)
不殺の精神を貫くのなら、格闘術で応戦するしかなさそうだ。今も迷いはあるが、現状はこれしかできない。生半可な覚悟では貫けない生き様、それが警護者の真髄、か。
(・・・相手を殺す事が怖いですか?)
(・・・私利私欲で殺す事が怖い。だが、大切な存在に害が及ぶなら、容赦なく殺すがな。)
(そう、それで良いんですよ。誰でも好き好んで殺傷などしたくありません。特に警護者であれば、それは痛感してきた事ですし。)
(はぁ・・・本当に弱くなったわ・・・。)
心が非常に重苦しい。何時からこうなったのか、本当に弱くなったと思わざろう得ない。
警護者としての力を付けだし、過剰なまでの力を得だしてからは、この概念が痛烈に突き刺さってくる。進むべき道は定まっているが、上辺の右往左往が酷過ぎて参り気味だ。
過去の地球で言い換えるなら、核兵器が該当するだろう。実質的に最強の兵器だが、使う事ができないときた。何処ぞで使えば、必ず報復攻撃がなされる。それは、地球の終焉となる。
まあ今は、黒いモヤ事変後、5大宇宙種族により全ての核兵器は撤廃させられた。今の地球には核兵器は1発も存在していない。あるとすれば、ミュティナお手製のガンマ線バースト発生装置だろうか・・・。アレは宇宙最強の核兵器にはなるが・・・。
(恒例の自己嫌悪が炸裂と。でも、その姿勢が無くなれば、確実に私利私欲で殺す輩と化しますよ。マスターのその姿勢は見ていて重苦しいですが、私は大いに悩む方が良いかと思います。)
(端から見れば、何を考えているのかと思いますけどね。それでも、それがマスターらしいと思いますし。)
(・・・本当に、お前さん達には気苦労を掛けさせるわ・・・。)
一服はどうだと、煙草を手渡してくる2人。表情は温和なのだが、喫煙する回数が激増している事を踏まえると、相当なストレスが溜まっていると思う。その一端が俺のこの愚痴だ。本当に申し訳ないとしか言い様がない。
(それでも、裏を返せば、私達を支えるべく行動をするために、色々とお悩みになられているのですよね。謝らねばならないのは私達の方ですよ。)
(本当にそう思います。貴方様は全ての苦悩を1人で抱え込もうとされている。だから、エリシェ様とラフィナ様にも飛び火してしまい、心労を蓄積させていると。)
(それ・・・さり気無く貶されているような・・・。)
(アハハッ、バレました? お2人の心労が相当なものなのは、覇気を窺えば十分感じる事ができます。その発端が貴方様にあるなら、同性として戒める必要もありますし。)
(陛下もやりますねぇ。)
生粋の淑女といった感じのゼデュリスだが、実際には思っている事を遠回り的に語る事を痛感させられた。シルフィアやシュームがドストレートに語るのとは違い、非常に強烈な影響がある言い回しである。
(この艶めかしい陛下に祝福を!)
(そんな陛下がいたら、物凄く嫌なんだけど。)
(ミスT状態のTちゃんなら、その役が担えるわぅ?)
(衣服の問題を解決すれば、できそうだけどねぇ。)
ボケとツッコミを入れるも、実際にどんな姿になるか想像しだす一同。そのまま、俺の方をニヤケ顔で見つめてきた。この美丈夫達は・・・。
(ミスTさんが皇帝陛下になったら、とんでもない事になりそうな気が・・・。)
(・・・カネッド君、それはどう言う意味かね・・・。)
一際ニヤケ顔のカネッドをとっ捕まえ、その頭に拳骨をグリグリと押し付けた。それに悲鳴を挙げて降参しだす。それを見た妹達は笑っているのだが、何処か納得がいかなそうな表情を浮かべている。間違いなくヤキモチの類だろうな。
(ぬぅーん! Tちゃんにチアガールの衣装を着させるわぅ!)
(・・・その状態で男性に戻ったら?)
(物凄く嫌な姿になりそうよね・・・。)
(ぶっ潰してやるわぅ!)
(はぁ・・・勘弁してくれ・・・。)
ミツキとナツミAのボケとツッコミから連想して、大爆笑しだす一同。良いネタにされるのは本当に勘弁願いたいが、それが一同の心を落ち着かせるのに一役買うのだから、本当に見事としか言い様がないわ・・・。
そして、頭を捏ねくり返していたカネッドを、無意識に胸に抱いていた。身内にも何度か行う厚意の1つで、女性ならではの気質が力強い癒しを放っている。顔を真っ赤にしている彼女だが、抵抗はせず為すがままの状態だ。
不思議と、殺気に満ちた目線は放たれなかった。身内の女性陣の一念が、カネッドを代表として演じてくれている感じである。彼女達あっての俺自身、それを痛感させられた。
(ん? 動きがありましたよ。)
(了解した。全員、何時でも動けるようにしてくれ。)
(((了解っ!)))
雑談より数時間後、城下町の美化を行っているスミエより念話が入った。明らかに殺気に満ちた雰囲気が放出されだしている。既に準備は整っているため、後は動きだすのみだ。
(おっ、城の方から出撃する部隊が。メンツは・・・例の偽勇者共ですね。)
(ついに来やがりましたな。因縁の対決、ここで決着を着けるとしましょうや!)
彼女の叫びに、妹達が雄叫びを挙げて返しだす。出逢った当時とは、全く比べものにならない覇気を放っている。同時に、偽勇者共へ激しい怒りが込められていた。
(お嬢さん方、怒りは程々にしないと、マイナス面に引き込まれるので注意。)
(ぬぅーん、暗黒面わぅ!)
(大丈夫だと思います。もし私達がマイナス面に引き込まれるなら、ミスT様は既にそちらに堕ちているでしょうし。)
(にゃんと! 既に実例があったわぅね!)
(実例ねぇ・・・。)
皮肉が込められた言い回しだが、確かにその通りである。彼女達がマイナス面に傾くのなら、俺は何度傾いているか分からない。それに、彼女達の怒りは明確な名目がある。俺の場合はただ漠然と怒るだけが多い。
(大丈夫ですよ。皆様方がいらっしゃるなら、私達は絶対に歩みを踏み外しません。)
(それに、連中がして来た事を踏まえれば、絶対に退けられない理由がありますし。)
(ああ、そこは大いに同意する。)
今までの愚行を踏まえれば、怒りが湧かない方がおかしい。それだけ、連中がして来た行為は許されるものではない。声無き声を汲み、執行人としてそれを遂行する。警護者の役割は、ここにあるしな。
空間倉庫よりマデュース改3挺を取り出し、3つの人工腕部に装着させる。そして、腰にある携帯方天戟を展開し、右手に持った。恒例の戦闘スタイルである。
(よし・・・カス共を叩き潰して回るとしますか。)
(良いわねぇ~・・・そのギラついた殺気、何度感じてもゾクゾクするわぁ~。)
(ですねぇ。)
通常の気迫の状態でも、心構え次第では十分な殺気と闘気を繰り出す事ができる。それを感じたシュームとナツミYUが、その波動を目の当たりにして酔い痴れていた。対して、その様相を見た妹達は、顔を青褪めて震え上がっているが・・・。この差が実力の差だろうな。
(相手がどんな戦術を取るか分からない。絶対に単独での行動はするな。最低でもタッグ、通常はトリオで対峙するんだ。)
(((了解っ!)))
こちらの指令に雄叫びで返す妹達。追随してリューヴィス女傑陣とトラガンチームの面々だ。俺達は彼女達の補佐に回り、不測の事態に備える事にする。
(今回は私達も暴れさせて頂きますよ。)
(お任せ下さいませ。)
(ここが大一番ですよ。)
共闘は今回が初めての2人。イザデラは身丈以上の大斧、イザネアも身丈以上の槍を持つ。イザリアは隕石方天戟と携帯イルカルラを持っている。正にモンスター姉妹だ。
(アルディアさんとゼデュリスさんはどうする?)
(待機なんかしませんよ。私も同行致します。)
(皇帝の名が、飾りだけでない事を証明しますよ。)
何時の間にか、武器を手に持つ2人。アルディアはマデュース改に搭載している大盾と同じ巨大な盾を、武器は片手剣を持っている。ゼデュリスはナッツが持つ偃月刀に近い、片刃の巨大な槍を持っていた。どちらも華奢な2人には似合わない武装である。
(T君、後方の憂いは私と師匠で何とかするわ。君は皆さんと一緒に暴れなさい。)
(了解。)
(野郎共、やっちまえー!)
(野郎共じゃないんだけどねぇ。)
準備が整った段階で、ミツキによる号令が入る。しかし、その啖呵は男性達を意味する言い回しだ。それに苦言を呈するナツミAである。だが、他の女性陣はその啖呵を聞いて、より一層大きな雄叫びを挙げて突撃を開始しだすのである・・・。
(・・・山賊か蛮族だな・・・。)
(ある意味、女族よね。)
(ハッハッハッ! その方が合うかもな。)
一斉に行動を開始しだした女性陣を見つめ、小さく呟くシルフィア。女族は見事に言い得たものだろう。それを聞いて大笑いしてしまった。まあ、それだけ実力も据わっている事から、ハッタリとしては上出来である。
進軍を開始した女性陣は、一路帝国城の方へと向かって行く。今後の流れを見て、街中に転送魔法で魔物共が召喚される可能性もある。そこはシルフィアやスミエ達に任せるとする。
俺は他の女性陣と共に、妹達全員を後方から見守りつつ、不測の事態に備えて待機した。連中の事だ、色々と姑息な真似を展開するだろう。それが悪党たる所以だしな。
第6話・4へ続く。




