第6話 帝都解放1(キャラ名版)
帝国都市へと辿り着き、現地での情報収集を開始する。そこに不意の来訪者に遭遇した。セレテメス帝国皇帝、ゼデュリス=ラージュベラネア、その人である。
名前だけは、オルドラやイザデラより伺っていたが、まさか街中の方で皇帝陛下に直に遭遇するとは思いも寄らなかった。だが、彼女の方も色々と内情を抱えていた。
義理の父を宰相に殺され、全ての実権を握られている事。それにより、表向きは皇帝だが、実際には一般女性そのものであった。まあ、それにより街中で逢う事ができたのだが・・・。
そして、その偽皇帝こと宰相は、人間ではないという事だ。魔族の誰かが化けていると推測される。レプリカ大和の甲板上で、仲間の魔物達が帝国都市側を見つめていたからだ。そう、魔物という同族を察知する能力に長けている。
当然、人間ではないのなら、ゼデュリスの血縁者でもない。人間であり血縁者であったのなら、穏便に事を進める必要があった。だが、人間ではなく、しかも私利私欲を貪る愚者である事も分かった。
となれば・・・最悪は暗殺なり殺害するなりで解決できる・・・。
大海原を旅して、帝国本土へと上陸してから数日後。ゼデュリスとの出逢いにより、ある程度の自由度を得られる事になる。城の実権を握っているのは宰相のみらしく、城下町の方は手を付けていなかった。
むしろ、彼女の義理の父が平民出より皇帝に這い上がった人物からか、ゼデュリス自身も民を慈しみ共に行動する事を心懸けていた。以前、帝国自体が善政を敷くとあったのは、彼女の力であろう。今は宰相に乗っ取られている形だが。
裏にどんな罠があるのかなど、ヲタク気質の身内が読み捲くっている。しかし、実際には本当に善政を敷くようで、宰相を潰せば解決できそうな感じがしている。
そこで、レプリカ大和にいる仲間を、地球組の躯屡聖堕メンバー以外全員呼び寄せた。海上で待機するよりは、地上にいた方がいい。
アルディア「ミスT様、その物凄い殺気はお止めになられた方が・・・。」
ミスT「あ・・ああ、すまない。」
城下町の中央広場で仁王立ちをしつつ、静かに帝国城を見入っている。その姿が殺気立っている事に、アルディアから告げられるまで気付かなかった。
アルディア「オルドラ様が仰る通り、本当に目を離すと危なっかしい行動をされますよね。」
ミスT「ハハッ、お前さんにも戒められるとは・・・。」
アルディア「本当ですよ。」
造船都市アルドディーレの市長だった彼女。行動力がある凄腕の女傑なのだが、市長になる前は盗賊だったとの事なので、突然現れる行動には本当に参り気味である。
アルディア「本当にここに移住するのですか?」
ミスT「俺はその方が良いと思う。ゼデュリスさんには申し訳ないが、帝国本土を徹底的に探っている。裏に何か隠し事があるかどうかをね。まあ、彼女の生粋の真面目さからして、今の宰相が諸悪の根源のようだ。彼女が実権を握れば、今より更に良い大都市になると思う。」
異世界の住人にも、帝国が悪道に近いという偏見を持っている。いや、十中八九、悪道扱いされているのだが。しかし、それは名ばかりであり、国のトップがしっかりしていれば全く問題はない。何れ、帝国という名を改名した方が良いかも知れないな。
アルディア「艦の方にて、リューヴィスの女性の方々と対話をしました。新大陸への道程は何とかなったものの、そこでの実質的な裏切り行為により、アルドディーレへと訪れたと。」
ミスT「発端は俺の方にあったんだがね・・・。」
些細な亀裂から、巨大な分断に至るのは日常茶飯事だ。人間である以上、そこからは逃れる術はない。大企業連合や躯屡聖堕フリーランス、トライアングルガンナーみたいに一枚岩でいられれば、全く問題はないのだがな・・・。
アルディア「いえ、皆様方は貴方様の力で、立ち直れたと仰っていました。それらは、数多くの苦難を経て来た故に至った。貴方の苦悩する姿こそが、彼女達が立ち上がった全てです。それに対して難癖を付けられたのであれば、彼女達を愚弄する事にも繋がりますよ。」
ミスT「愚弄、か・・・。」
実際にどうなのかまでは分からない。些細な亀裂から分断に至った事を踏まえると、起こるべくして起きたとも言える。それか、元からこちらを利用する事を前提としていたか、だ。
アルディア「もし、貴方の苦悩が新天地の方々を離反に導いたとしたら、実質的に全ての方々がそうなる筈です。しかし、地球の方々・宇宙種族の方々・オルドラ様方・リューヴィスの方々は、貴方に付き従っています。これが唯一の証拠ではないでしょうか。」
ミスT「そうだな・・・。」
アルディア「私も、貴方と初めてお会いした時、確かに危なっかしい方だと思いました。しかし、絶対にブレない一念をお持ちの方だとも痛感しました。絶対不動の原点と信念と執念を持ち続けている。折れる事は皆無だと。」
ミスT「そうか・・・。」
身内の女性陣の如く、こちらを読み切って来るアルディア。その力強さは、彼女がシューム達と同じ気質を持つからだろう。彼女には失礼だが、未亡人の強さを痛感させられる。
シューム「君さ、私達と同じ事を言われているけど?」
ミスT「茶化しなさんな・・・。」
ふと見ると、近場にシュームが立っていた。傍らにはナツミYU・デュリシラ・カラセアもいる。先に挙げた、未亡人の女傑達である。
ナツミYU「何ですか? 未亡人を馬鹿にすると、後でとんでも無い事をしますよ?」
ミスT「馬鹿にしてないだろうに・・・。」
カラセア「私達はともかく、アルディア様への悪態は我慢なりません。それ相応の報いを受けて頂くしかありませんね。」
ミスT「はぁ・・・勘弁してくれ・・・。」
凄みのある発言をする彼女達だが、その表情は嫌みたらしいぐらいにニヤケ顔だ。その言動により、会話の信憑性を大きく欠けさせるのだが・・・。
アルディア「・・・ミスT様は何時もこの調子なのですか?」
シューム「ええ、そうですよ。」
ナツミYU「この異世界に到来してから、何時になく過激になっていますよね。」
デュリシラ「自ら悩み苦しみ追い込み、そして這い上がる事を繰り返している。端から見れば、馬鹿丸出しなのですけどね。それでも、その言動で私達も助かる事の方が多いので。」
アルディア「フフッ、そうですか。」
エラい難癖を付ける身内達なのだが、その表情が優しくなっている事に気が付く。それを見たアルディアは、小さく笑みを浮かべている。俺の方は苦笑いを浮かべるしかないが・・・。
カラセア「確実に言えるのは、マスターは皆様方の味方だという事です。皆様が抱かれる苦痛や苦悩を自らに据え置き、一緒になって苦しむ。地球でも全く変わらない生き様です。」
シューム「その度に振り回される身にもなって欲しいものだけどねぇ~。」
ナツミYU「本当ですよ。」
ミスT「・・・ごめんなさい・・・。」
自然と謝罪の一念が出てしまう。エリシェとラフィナが一番知っているが、俺の自己嫌悪の一念は、こうしてしょっちゅう出てしまう。その度に共に悩み、思いを巡らせてくれている。本当に感謝に堪えないわ・・・。
ゼデュリス「この帝都に必要なのは、皆様方の様な和気藹々とした力なのでしょうね。」
ミスT「余り参考にしない方が良いと思う・・・。」
アルディア「何を仰いますか。私ですら皇帝様と同じ事を思っていましたよ。しかも、それを自然と発するとなれば、一体どれだけの鍛錬を積んできた事か。」
何時の間にか、傍らにゼデュリスがいた。その近場には妹達もいる。彼女の身辺警護を任せたので、常に行動を共にしてくれていた。その彼女が挙げるのは、俺達の基本スタイルである。
ミスT「鍛錬ねぇ・・・アレを見て鍛錬と言えるのかね・・・。」
俺が指し示した先には、幼子達と仲間の魔物達と戯れる、ミツキとサラとセラの姿がある。今ではすっかり馴染んでいるようで、まるで姉妹にしか見えない。しかし、時偶ミツキのボケが炸裂し、否が応でも周りは笑わせられている・・・。
ミスT「はぁ・・・ここに来てからは、正に水を得た魚そのものだしな・・・。」
デュリシラ「フフッ、良いではないですか。それだけ、己が成すべき使命を全うされていますよ。その生き様が、ゼデュリス様が挙げられた言葉に見事に帰結している。ミツキ様の手腕には、本当に感嘆します。」
ミスT「そうだな・・・。彼女のためなら、俺は喜んでこの生命を捧げるわ。」
本当にそう思う。いや、そう誓える。これは、何度も己に言い聞かせたものだ。
彼女の生き様は、今の世上に燦然と輝く太陽の如く。純然的に繰り出されるその力は、一切の分け隔てなく相手の生命に浸透していく。そこに私利私欲は一切ない。またこれは、姉のナツミAや恩師シルフィアも同じである。
当初はその力を信じ切れていなかった。警護者は殺人者でもあり、要らぬ一念や概念は自身を破滅へと向かわせかねない。只管自我を封じ込め、ただ漠然と依頼のみを遂行する、それが警護者の生き様だ。
そこに待ったを掛けたのが、ミツキ流の生き様だ。ナツミAとシルフィア、それにスミエもしかり。四天王も追随している。彼らのお陰で今の俺がある。感謝しても、感謝し尽くせないと断言したい。
ナツミYU「相変わらずの心構えです。でも、そんな貴方だからこそ、私も心から魅入られたのでしょうから。」
シューム「恋愛感情を通り越し、師弟の理に帰結する、よね。むしろ、私達も君と同じ一念に立つ事も多い。戦闘狂とも言われる警護者が、他人様の役に立てる事が何よりの証だし。」
ミスT「それこそ、誰彼がどうこうじゃない、自分自身がどうあるべきか、それが重要だ、とな。」
シューム「フフッ、そうね。シルフィアさんの指針、今後も奮起しないとね。」
静かに一服をしだすと、釣られて一服をする女性陣。純然たる一念での喫煙だと、その姿が物凄くクールビューティーに見える。シュームとナツミYUの一服姿は、本当に格好いい。
地球では何度となく回帰する姿。それを普通に繰り広げていると、妹達は無論、アルディアやゼデュリスが羨望の眼差しで見つめていた。今の所、異世界組にはない警護者の理に触れ、自身の生命を揺さ振られているのかも知れない。
啓示やランク制度などではなく、己自身が決めて勝ち取って行く生き方、その姿に。
第6話・2へ続く。




