第4話 覇道の存在4(通常版)
「そう言えば、魔大陸の方は誰もいないのか?」
造船都市アルドディーレを出航して、一路西側のセレテメス帝国へと向かう。そんな中、丁度北側に位置する魔大陸が見えてくる。そこに住人はいないのかと、元魔王のイザリアに尋ねた。
「同士と言える魔物がいますが、同伴するのはマズいと思いますよ。」
「人間などへの敵意は完全にありませんが、姿形からして威圧感を放つと思います。」
イザリア達の同士である魔物達が、現地には結構いるらしい。もしそのまま待機させたら、後に王城側が侵略して来た際に殺害される恐れが出てくる。幾ら魔物でも善側に寄るのなら、助けるべきだろう。
「ぬぅーん、モンスターテイマーが必要わぅ。」
「そうね。イザリアさん達の同士となるなら、助けない訳にはいかないわね。」
「了解です。魔大陸に向かいますね。」
有限実行の身内達。その姿に呆れるも感謝しているイザリア達。種族や容姿の問題からして、仲間の魔物を出さなかったようだ。だが、今はこちらも仲間として受け入れたい。
レプリカ大和とレプリカ伊400を魔大陸へと向かわせる。同大陸は、海上から見ても、実に禍々しい様相を醸し出している。しかし、実際にはそこに悪という存在はなく、毒気を抜かれた魔物達が過ごす世界なのだ。
異世界惑星での調停者と裁定者を担うイザリア達の同士となれば、これは助けるしかない。何れ魔大陸にある宇宙船に向けて、王城軍が侵略して来ると思われる。ならば、そこに住まう魔物達を移動させるべきだ。
造船都市から出航し、魔大陸へと進路を変えてから数時間後。辺りはすっかり夜となり、より不気味さを放つ魔大陸。現地へは人員を抜粋し、小型船舶で向かう事にした。問題は、これら小型船舶に魔物達全員を搭乗させられるかどうかだが・・・。
しかし、魔物の仲間か・・・。地球での各作品で挙がっている、モンスターテイマーが思い浮かんでくる。まあ、この異世界自体がファンタジー要素を放っているため、魔物の仲間がいてもおかしくはない。この世界では、地球の常識に囚われない方が良いわな。
その後、小型船舶から魔大陸へと上陸、イザリア達が仲間の魔物を呼びに向かって行った。凄まじいまでの不気味さであるが、恐怖度が一切ないのが不思議である。恐らく、敵意や殺気がないからだと思われる。むしろ今は、王城の方が遥かに恐怖度を放っているぐらいだ。
彼らを呼ぶ合図は魔力らしいが、魔力の魔の字すら分からない俺にとっては、とにかく召集されるのを待つしかない。異世界惑星にある概念、魔力と魔法、か。地球では考えられない力である。
「そう言えば、今の王城の呼び名、大都会じゃないですよね。」
「大都会は街全体を指し示すからな。今は王城が牛耳っている感じだから、王城で呼ぶ方が良いと思う。」
「神懸かり的な啓示を行う場が、今では悪の巣窟ですからねぇ。」
「本当にラスダンになった感じですよ。」
仲間の魔物が集まるまで、小型船舶近くで待機する俺達。魔大陸自体は未知の領域なため、迂闊に動くと迷子になるだろう。ここは同大陸の住人に任せた方がいい。その中で挙がった、現段階の王城の呼び名だ。大都会から王城に変わっているのを、ミツキの発言で気が付いた。
「それに、西側のセレテメス帝国がどう出るかで変わってきます。向こうが王城側と組むのであれば、私達は完全に孤立化したとも言えますし。」
「それでいて、3隻の宇宙船の稼動、と。もし最悪に傾くなら、“8つ”の巨大兵装を出すべきかと。」
「その場合は、巨大兵装を用いるのは致し方がないかもな。」
一服しながら思う。今は逃避行状態だが、セレテメス帝国の出方次第で全てが変わってくる。最悪は俺達が孤立化するが、完全な無力ではないのが唯一の救いだろう。
「それさ、本来のファンタジー作品群だと、全てが敵対する流れが多いわよね。味方側は戦力も乏しい中を進むしかなくなるし。」
「ですねぇ。ただ、そこはTさんも思われた通り、“最強の力”が備わっているのが唯一の救いですよ。」
「心中読みどうも・・・。」
「まあまあ。」
心中を読まれる事は、最早日常茶飯事である。今もナツミAに心中を読まれ、それを絡めた発言をされた。実に参りモノだが、彼女が言う通り無力ではないのが救いである。
「単体戦闘力では、5大宇宙種族の各ペンダントが最強の力よね。総合戦闘力では、同じ5大宇宙種族のテクノロジーが施された、重装甲飛行戦艦と7隻の宇宙戦艦が最強の力に該当するし。」
「究極は、王城側が狙っている宇宙船ですよね。まあ、向こうはオリジナルの改修されていない量産型。私達の方は数多くの事変を経て、そのノウハウを施された改修型。戦闘力は雲泥の差ですよ。」
「欠伸が出る感じですよね。」
そう言いつつ、実際に欠伸をしだすミツキ。それに釣られて、ナツミAとシルフィアも欠伸をしだしている。俺の方は睡眠欲無効化能力のお陰で、今は一切の眠気を感じないが・・・。
「・・・ん? 戻って来たわね。」
更に待つ事、数十分後。イザリア達が仲間の魔物を連れて戻って来た。その仲間の様相を見て、呆気に取られてしまう。
魔物と言うからには、ゴブリンやミノタウロスなどの獰猛な野獣を想像していた。しかし、イザリア達が連れて来たのは、容姿が美しい魔物達だったのだ。先のデハラード襲撃戦時は、彼らの様な魔物はいなかったようだが・・・。
「ああ、デハラードで貴方と初対峙した時ですか。当時も同じ仲間でしたよ。ただ、変身魔法により、禍々しい姿に変えていましたけど。」
「はぁ・・・全てにおいて先を読んで動いていた訳か・・・。」
悪い言い方では、見事に騙された感じである。当時の戦いからして、相当な戦力を集めていたのだと思われた。しかし、実際には見た目だけ変えていたようである。
「もし、貴方が完全に敵対されていたら、私達はあの場で全滅していましたし。」
「ハハッ、まさか。俺達の総合戦力は、お前さん達を遥かに下回っていた。デハラードに到来した面々を全滅はできなかったと思う。」
「またまた、ご冗談を。貴方は姉を速攻黙らせたそうなので、そのお力なら怖じさせて撃滅するで事足りますよ。魔物は殺気と闘気には弱い性質ですし。」
「そ・・そうか・・・。」
アッケラカンと語る彼女に、呆気に取られるしかない。どう考えても、当時の戦力からして、俺達の劣勢は明白だった。それが、簡単に捻じ伏せられると伺ったからだ。
「私達以上の力を持つデュヴィジェ女王をも、完全に圧倒される力をお持ちですからね。私達が貴方に全力を以て挑んだとしても、足元にも及ばないと思います。」
「彼女がお前さん達よりも強い、か。デュヴィジェさんは、彼女が幼い頃から知っているんだがね・・・何か釈然としないわ。」
本当にそう思う。今でこそ気丈な母親であり、デュネセア一族の女王なのだがな。
5大宇宙種族の時間と空間の概念は、地球人のそれとは全く異なる。俺がミツキTと出逢う前に、幼いデュヴィジェと出逢っている。それが数年後には、青年に近い状態にまで成長をしていた。そして、ミツキTとの今生の別れに立ち会う事になる。
彼女がミツキTを小母と呼ぶのは、その幼い時期に面倒を見て貰ったからだ。今では実質的に年齢を超えてはいるが、それでも小母と呼んでいる。あの幼子だったデュヴィジェが、目の前にいる三姉妹の女王なのだから不思議なものだわ・・・。
「・・・やはり、貴方は私達にとっても小父様ですよ。デュヴィジェ女王が貴方の娘なのですからね。」
「娘ねぇ・・・。」
「フフッ、私達姉妹は天涯孤独だと思っていましたが、まさかこうして一族の女王と小父にお会いできるとは思いもしませんでした。」
「今後もよろしくお願いします、小父様。」
三姉妹から小父と言われ、コソバユイ感じになる。しかし、デュヴィジェが小父と言うのだから、確かにそう言われてもおかしくはない。まあ、この時間と空間を超越した概念には、本当に呆気に取られるしかないが・・・。
「ともあれ、我ら“全魔王軍団”、今より我が主、ミスターT様の指揮下に入ります。」
「ああ、よろしく頼む。」
三姉妹が跪き、それに仲間の魔物達も続いて跪いていく。魔物という生命体だが、自我の方は遥かに研ぎ澄まされている。王城の連中に見習わせたいものだわ。
「おーしっ! お主達のリーダーは、わたが務めるわぅ! これからは、ワンコロ軍団として活躍して貰うわぅよ!」
「ワンコロ軍団・・・。」
「はぁ・・・3人の決意が台無しよね・・・。」
割って入るミツキの語りに、呆れ顔のナツミAとシルフィア。しかし、そこに込められた一念は、仲間の魔物達を一生命体として見つめているのが痛感できた。それを感じた彼らが、小さく頭を下げるではないか。それに驚愕している三姉妹である。
ミツキの強さは、相手を対等の存在と見入る事だろう。これはナツミAとシルフィアも同じであり、スミエも心得ている一念である。俺は無意識に演じる事はできなさそうだが、周りは同じ気質を放っていると言ってくれている。
相手が誰であろうが対等に接する。ミツキの生き様には本当に感嘆せざろう得ない。本当に心から敬愛する師匠そのものだわ。
イザリア達の仲間の魔物達は、総勢100人程度。しかし、その身体から発せられる魔力は凄まじいものがある。魔力の強さだけなら、三姉妹には劣るが、異世界組の誰よりも強い。この世界が魔力と魔法が強いとされるなら、仲間の魔物達は相当な戦闘力を有している。
ただ、今後はどうやって共闘していくか悩み所か。特に見た目の問題で、都市群に連れて行く事はできない。レプリカ大和などの限定的な場で、活躍して貰うしかないかも知れない。いや、それでは差別になるか・・・。
色々と考えつつ、小型船舶に全員乗船してレプリカ大和へと戻った。
「おおっ?! すげぇ~!」
「マジモノでの仲間モンスですよっ!」
「これは・・・堪らないですね・・・。」
「ほむ・・・未知の生命体・・・興味深いですね。」
レプリカ大和へと戻り、仲間の魔物達をどう紹介するかで悩んでいたが、それはトンだ取り越し苦労だった。異世界組は恐怖から距離を置いているが、地球組と宇宙種族組は瞳を輝かせて大歓喜していた。
「こちら、イザリアさん方の盟友達で?」
「は・・はい・・・。」
「仲間モンスと意思の疎通、か・・・。」
「改めて思うが、俺達は本当に異世界にいるんだなぁ・・・。」
イザリア達が呆気に取られるほど、地球組と宇宙種族組の順応度は半端じゃなかった。彼女達も初対面からどうするかと悩んでいたようだが、それを完全に破壊するかの様な対応をされて戸惑っている。
「姿形は違えど、宿す生命力や魂は全く同じ。皆様方を特別視するなら、正に差別そのものになりますよね。」
「本当にそう思います。はぁ・・・ファンタジーかぁ・・・。」
何ともまあ・・・。俺も初見では圧倒されたが、そこに生命体がいるのだと思っていた。見た目は千差万別なのが生命体の長所である。宇宙種族の面々が正にそれだしな。
恐らくだが、地球組や宇宙種族組は、地球でお互いに未知の領域を経験したからだろう。その環境に慣れ親しんでしまい、異世界組の仲間の魔物達にも順応を示したのだと思われる。でなければ、異世界組の人間達と同様に、一歩置いてしまっただろうからな。
「イザリア様、皆様とは会話はできるのでしょうか?」
「いえ、言葉を発する事はできません。私達の場合は、魔力や魔法などを使っての会話になりますので。」
「何とか話せないものですかね・・・。」
相槌などのコンタクトはできるのだが、心からのコミュニケーションが取れていない現状。打開策を講じるセラだが、彼女の話で思い付いた事がある。
目の前でオドオドする仲間の魔物に近付き、その手を取って軽く会釈をした。そこには通例の念話を込めての挨拶を行ってみる。すると、オドオドしていた様相が一変し、笑顔で俺の顔を見つめて来てくれたのだ。それを見た一同は驚愕している。
「彼女はダークエルフに近い種族のメイジらしいよ。」
「おおぅ! 念話があったわぅね!」
「Tさん、やりますね。」
有限実行の姉妹。近場の仲間の魔物達に、念話を通して自己紹介をしだしている。それに続いて行く地球組と宇宙種族組の面々。念話の応用は地球でも散々使ってきたため、実に楽に繰り出している。異世界組の面々は呆然と眺めているが。
「はぁ・・・小父様の手腕には驚かされっ放しです。彼らと意思の疎通ができるようになるまで、相当な時間を要しましたし。」
「お前さん達には悪いが、相手を一個人の生命体として見れなかったんだろうな。俺達は地球で何時の間にか、その生き様が定着していた。だから今の応用が活かせたのよ。」
「・・・小父様は正に魔女ですよね。」
「んー、その場合は魔男じゃない?」
「アッハッハッ! 魔男ですかっ! こりゃ傑作ですわ!」
「はぁ・・・。」
シルフィアの魔男の例えに、大爆笑しだすデュヴィジェ。普段のクールビューティーな風格は全くない。ただ、その例えは見事に当てはまっているのが何とも言えないが・・・。
「マスター、異世界は楽しんでナンボだと思いますよ。警護者の手前、色々と考えて行動しなければなりませんが、その前に普通の人間なのですから。」
「そうですね。根幹はその理を据えるも、上辺は異世界の旅路を満喫すべきだと思います。今までは、それが抜けていたんだと思いますよ。」
「う~む・・・。」
「堅苦しいのはナシとして、大いに楽しんで行きましょうぜ。何とかなるさ、これが俺達の生き様じゃないですか。」
「姉御達が正に率先垂範で挑まれていますからね。」
それぞれ一服する四天王が指し示す先には、仲間の魔物達と戯れるミツキとナツミAの姉妹がいる。そこに異世界組の幼子達が、興味津々といった感じで近付いて行き、2人のフォローもあって打ち解けていっているのだ。
「・・・大人心は、子供心を失わせる、か。理路整然と解釈する事を最優先とし、大切な事を忘れてしまっている。」
「でしょうね。地球では皆さんの様な幼子がいなかったので、その理を知る機会がなかったのも原因でしょうけど。」
「アレだ、全て終わったら、地球にある孤児院に表敬訪問すべきですよ。」
「そうだな。今後の課題として、心に留めておくよ。」
「異世界で真の理を知る、と。生きるって、本当に不思議な物事の連続ですよね。」
「ああ、本当にそう思うわ。」
すっかり仲間の魔物達と打ち解け、和気藹々とする幼子達とナツミツキ姉妹。そして、それに追随する身内達と異世界組の面々。
切っ掛けは、些細な事から起こっていく。イザリア達の盟友、仲間の魔物達との出逢いは、俺達が本当に大切にしなければならない概念を教えてくれた。本当に感謝に堪えないわ。
同時に、生きる事の素晴らしさも教えてくれている。それは、俺達が生きる上で、永遠に続く課題でもある。むしろ、絶対に避けられない命題とも取れるかも知れない。まあ、そこを難しく考えるのが盲点なのだろうがな。
夜明けの朝日が差し込んで来る中、レプリカ大和の甲板上での“本当の生命体同士”の交流は続いていった。
第5話へ続く。




