第3話 禁断の兵器4(通常版)
大海原を進む事、数日。漸く造船都市アルドディーレへと到着した。そう、新大陸から造船都市は、意外なほど距離があった事に驚いている。特に大海原だと海水の動きなどもあり、移動速度は陸上よりもかなり遅くなる。
ちなみに、海水だと分かったのは、興味本位で大海原の水を舐めてみた事が切っ掛けだが。それに周りの面々に呆れ顔をされていた・・・。
流石にレプリカ大和の規模では、アルドディーレの港には寄港できない。そこで、小型船舶に上船して現地へと上陸する事にした。当然ながら、俺達の行動を一部始終見られている。だが、ヘシュナ達の根回しにより、大戦力が得られたと大歓迎された。
「ようこそ、アルドディーレへ。」
熱烈大歓迎状態の様相に、呆気に取られてしまう。戦力の増強もあるのだろうが、身内が相当水増し的な言い回しをし続けたとの事だ。何を言われたのか気になるが・・・。
「いや・・・すまない。以前、ここに訪問させて頂いているんだが・・・。」
「ご存知です。ウインド様とダークH様にお伺いしております。私ですが、市長のアルディアと申します。」
「ご丁寧に、ミスターTと言います。」
初対面となる市長のアルディア。エロ目ではないのだが、相当な美人である。シューム達と同じく、女性を地で行くとも言うべきか。それだけ修羅場を潜って来た証拠だろう。同時に、その道筋が苦難に満ちていたのも痛感できる。
「よう、元気そうだなアルディア嬢。」
「お久し振りですオルドラ様。貴方もご一緒でしたか。」
「ああ、彼らには厄介になっている。少々面倒な事が起きだしてな。」
どうやらオルドラは、アルディアと面識があるようだ。そして、今までの流れを話してくれるとの事だ。ここは彼に任せた方が良さそうである。
その後、アルディアに市長の館に案内され、そこで諸々の話をする事になった。今でも油断ができない状況なのだが、それなりの防備や軍事力を持つため何とかなるとの事だ。今は一時の休息を取るべきだろう。
「・・・以上が、今までの流れになる。」
「状況は芳しくない様子と・・・。」
表情を厳しくするアルディア。通常大陸の情報は把握しているようで、それらとオルドラの情報を照らし合わせている。他にも、外部から引っ切り無しに情報が入って来ていた。
「王城大都市には、大陸各地にいたならず者や傭兵が大勢集まっています。デハラードの都市では、大規模な発掘作業を行っているとも。シュリーベルとリューヴィスでは、魔物を召喚して兵力を増強している様子です。」
「正に魔窟だなこれは・・・。」
一服しつつ、呆れ返るしかない。アルディア達が集めた情報と、メカドッグ嬢達の情報は、ほぼ内容が一致していた。しかし、実際に現地での意見とあり、相当逼迫した状態である。
「マスター、一応アルドディーレから、退避できるようにはしてあります。」
「・・・最短ルートとして、魔大陸への移動か。」
「はい。ただ、現地には宇宙船があるため、王城兵力が来ると思われます。新大陸が唯一の希望でしたが、現状からして無理になったようですし。」
「はぁ・・・。」
深い溜め息を付きつつ、イザリア・イザデラ・イザネアの三姉妹を凝視するデュヴィジェ。それを見た3人は、恐怖に慄きだしている。と言うか、彼女達に責任はないのだが・・・。
「ヘシュナ様とナセリス様が仰る異世界の様相や、宇宙船などの兵器に関して伺うも、どうしても信じ切れない状態です。ですが、ミスターT様やデハラードの様相、そして魔大陸と新大陸を踏まえると、信じざろう得ない状態でも。」
「・・・申し訳ない、俺が招いた不祥事も何件かある・・・。」
「いえ、お気になさらないで下さい。オルドラ様と同じく、何れ王城が覇道に乗り出すと考えていました。その手順に圧倒されているだけですので。」
今も混乱気味の彼女だが、それでも現状が危険であると判断できているようだ。でなければ、ここまで身内を信用しなかっただろう。それに、アルディアの気質からして、彼女に一切の野心はない。オルドラを女性にしたかの様な存在だしな。
「それに・・・憎まねばならない存在ですから。」
「・・・その指輪、ご主人のか。」
彼女が自然と摩る先は、左手の薬指にはめてある指輪。それを見れば、どういった経緯があったのかを自然と読めてくる。本来なら胸の内に秘めておくものだが、俺が生前のミツキTを自身の奮起する要因にしているのと同じだ。
「・・・すみません、空気を重くさせてしまって・・・。」
「いや、大丈夫よ。俺も大切な人物を失っている。今はそこに舞い戻っているけどな。」
涙ぐむ彼女にハンカチを差し出すミツキT。それを見て驚きの表情を浮かべるアルディア。以前妹達に伺ったが、この異世界惑星でも死者の復活は不可能とされている。それが実現可能と思ったのだろう。
「失礼ながらアルディア様、私は一度死せる身でして。とある事変により、精神体として舞い戻り、今のこの姿は機械の身体を用いています。」
「そ・・そんな事が・・・。」
「この世は、理路整然と解釈できる物事だけじゃないんだよ。」
慰めの一服を進めるオルドラに対し、それに応じ一服しだすアルディア。普通に喫煙する姿を窺うと、彼女もバリバリの喫煙者のようである。
「・・・復讐事は好ましくないが、連中が今後も貴方の様な存在を出そうとするなら、完全駆逐しなければならないわな。」
「ええ、そこは決意しています。私の悲願は、王城への復讐ですから。それで身を滅ぼす事になろうが、全て覚悟の上です。」
「・・・分かった。しかし、その決意と覚悟だけにするんだ。実行は俺が行ってやる。貴方は、ここに住まう方々の母として、今後も生き続けてくれ。復讐は、覆面の警護者が全て担うからな。」
徐に一服しつつ、彼女の代役を買って出た。どの道、王城を叩く事には変わりない。それを代理で担うだけである。
「はぁ・・・マスターらしいですね。ならば、その時は同伴致しますよ。復讐対象が王城全体であるなら、王城の概念を消し去れば達成されるでしょう。当然、悪党は片っ端から叩き潰しますけど。」
「人を憎まず、その思想を憎め、と。ですが、その思想に魅入られし愚物は、容赦なく叩き潰すに限ります。アルディア様の無念の一念、必ず達成させますよ。」
俺よりアルディアと接していた時間が長いヘシュナとデュヴィジェ。彼女が抱く一念を感じ取っている。元来から生真面目で、曲がった事が大嫌いな2人。アルディアの無念に同調した感じだろう。
「調停者と裁定者を担う、宇宙種族のお前さん達が復讐、か。」
「それ、ものの見事に矛盾されていますけど。先程、貴方も同じ事を決意されましたし。」
「時と場合によっては、本能に従って動く事も必要ですよ。イザリア様方が、どれだけの苦痛を経ながら、悪役を担ってきたのかを痛感しましたので。」
そう言いつつ、三姉妹を見つめるデュヴィジェ。彼女の視線に驚くものの、その目線は慈愛に満ちているものだった。むしろ、その苦痛を己の苦痛へと同調させている。
「・・・本音を言わせてくれ。造船都市の面々は、要らぬ考えを抱いてはいないか?」
「ご冗談を。私利私欲に走る冒険者は、王城側に去って行きました。ここに残るのは、家族や大切な人物を向こうに殺された者達だけです。復讐心を抑え込んでいますが、自らの手で達成させたいと決意しています。」
「そうか・・・すまない。」
静かなる怒りを放つアルディアやその仲間達。ヘシュナとデュヴィジェを見遣るが、それに小さく頷いている。宇宙種族たる彼女達は、既にアルドディーレの面々の胸中を察しているようだ。
「・・・ならば、彼らの分まで貫かねばな、己が生き様を。」
「復讐心、か。イザネアが生きていた事で、その一念は消え失せた。だが、アルディア嬢の一念は痛いほど分かる。俺にはそこまでの覚悟が持てないが・・・。」
「お前さんはお前さんの生き様で、アルディアさんを支えてくれ。復讐の刃の代役は、俺が全て担う。それが、覆面の警護者の使命だからな。」
「うむぬ、後は全て任されるがよい♪」
同室内で茶菓子を漁るミツキが語る。それに呆気に取られた異世界の面々。だが、次の瞬間、凄まじい殺気と闘気を放ちだす彼女。その彼女を目の当たりにし、この世の者とは思えないような表情を浮かべて恐怖に慄きだす面々だった。
「1つだけ、言わせて下さい。異世界の理は不明ですが、殺しは重罪です。しかし、それでも倒さねばならない相手がいるなら、己自身を信じて禁忌を犯して下さい。それぞれの生き方とは大変矛盾していますが、最後は自分自身が決めて突き進むのみですから。」
「そうね、結局はそこに回帰してくるからね。まあでも、Tさんは最後まで皆さんを守る側に走ると思いますし。」
「覆面の風来坊は伊達じゃない、本当にそう思うっすね。」
「その度に姉御達がヤキモキするのは何ともですが。」
「ハハッ、全て承知の上での役割ですよ。」
「ああ、本当にそう思う。」
ミツキを筆頭に、ナツミAや四天王が語る。普段はノホホンとしている姿が一変し、その気迫に圧倒されている異世界組の面々。地球組と宇宙種族組は日常茶飯事のため、幾分か呆れ顔で見つめているが・・・。
そして、6人のその気迫は、異世界組の不安や恐怖を一掃するものとなった。これだけは狙って演じたのだと痛感した。俺の視線に気付くと、小さく頷いてくれた。本当に、素晴らしい盟友達である。
会議と言う名の雑談を終えて、一同気を抜き出していく。そこに突然、シルフィアとスミエが現れる。それに度肝を抜かれる俺達一同。突然現れたとなると、転送装置で戻ってきたと思われる。容姿が変装装備のままなので、急いで到来した感じだろう。
また、潜入時は性転換状態で男性化していたため、今も男性の姿の2人。直ぐに同効果を切ると、その場で男性から女性へと変化していく。当然ながら、それを見た異世界組の面々は驚愕している。
「ご・・ごめん。T君の生命力を座標にしたから、直接飛んでしまったけど・・・。」
「急だったので・・・申し訳ありませんでした・・・。」
突発的に到来した事を思えば、それが重要であったという事になる。同時に、2人の身に危険が迫った証拠だ。となれば、考えられる事は1つしかない・・・。
「・・・ついに動いた訳か。」
「ええ、魔力と魔法を駆使して、デハラードの宇宙船を稼動させてしまったわ。」
「幸いにも、まだ浮き上がるまでには至らないようですが、王城側は禁断の兵器を手に入れたと大歓喜状態です。」
「・・・あの愚物共は・・・それが何を意味しているのか分かっているのか・・・。」
ドギツい男言葉で激昂するナセリス。彼女がここまで怒るのは初めて見た。同時に、連中がしでかした行動が、どれだけ危険を孕んでいるかを痛感させてくる。
「・・・ヘシュナ様・デュヴィジェ様、最悪は奥の手を出すしかありません。」
「でしょうね・・・。」
「ただ、当面は浮上後に停滞すると思いますけど・・・。」
激昂している宇宙種族組だが、その表情にはまだまだ余裕が見られる。連中の行動は、全て予測していたものだからだ。
そう、5大宇宙種族の面々からすれば、今の非常事態はまだまだ序の口。これらの愚行を、異世界の住人達に見せる必要がある。地球でも各事変時は、態と敵を泳がせて叩くという姿勢を貫いていた。警護者縁の、調停者と裁定者を担っている証拠だ。
もし、俺が警護者の理を知らなかった場合、彼らの現状を見て慌てふためき、同時にもっと早く動くべきだったと後悔するのだろう。免疫力と言ったら失礼だろうが、地球組と宇宙種族組の据わり様は、ある程度耐性がある俺でも呆れるぐらいの様相だわ。
知らない方が幸せな事がある、本当にそう思う。しかし、今は知っている者として、今後の流れを警視していくしかない。
第4話へ続く。




