第3話 禁断の兵器2(通常版)
四女傑が異世界に到来してから1ヶ月が経過。俺が異世界に召喚されて、もう時期半年が過ぎる。実に早いものだわ。
新大陸での新国家樹立は順調そうで、小都市ながらも着々と国としての開発が進んでいる。ただし、3大都市のリーダー格が、王城といった象徴的な建築物は絶対に作らないと決めているため、普通の都市としての形にするとの事。それだけ今の王城を心底嫌っている。
その王城周辺はどうなっているかというと、以前よりも増して巨大な国家と化していた。あれだけの暴虐的な様相を醸し出していたのが、今では大人しいものである。相手の意図は読めずにいるが、今の所は問題ないと思われる。
むしろ、街自体が悪に染まったのだろう、私利私欲に酔い痴れる愚者共の街と化していた。そして、それを支持する連中も多いのが実状だった。正義漢ある仲間達は、現状を打開するべく進軍すべきだと言うが、連中がそれを望んでいるなら関与はしない。
この意見を周りに述べたら、心底呆れ返られた。だが、そもそも警護者の役割は、調停者と裁定者である。相手の生き様を汲むのも含まれる。この部分だけは曲げてはならない。以前の俺とは完全に矛盾しているが、それが警護者の本質でもある。
それに、即座に完全制圧が可能な力は有している。しかし、それは究極の奥の手だ。連中が手が付けられない程に至った場合は、動くべきだろう。
今この場に何故いるのか、それを常に問い続けなければならない。警護者とは、そういった存在なのだから。
「嫌な役回りですよね。」
「そうだな。」
以前までの苦悩から一変して、傍観者に至った俺に対し、大多数の異世界の面々は冷ややかな目線を投げ付けてくる。地球組全員と宇宙組全員は警護者の理があるためか、微動だにしていないのが見事であるが・・・。
「私達は言わば、他国の紛争に介入した存在ですからね。地球でも全く同じ対応をされる事もありますし。警護者でも大企業連合でも、向けられる視線は全く変わりません。」
「・・・お前さん達が来てくれなかったら、あのまま悩み続け、現状打開の駒を進めていたのだろうな。」
「でしょうね。」
大いに一服をするエリシェとラフィナ。今の現状からして、相当なストレスが溜まっていると思われる。喫煙する回数が激増しているのが証拠だ。かく言う俺も同じなのだが・・・。
「・・・最悪は、異世界全体を敵に回す事になる、だな。」
「その場合、魔王イザリア様が破壊神イザリア様に化けますよ。お3方の望む姿とは掛け離れてしまうため、もはや守る意味もなくなりますし。」
「下手をしたら、異世界組に唆され、私達に敵対する可能性もありますね。」
「はぁ・・・自己嫌悪以上の、疑心暗鬼に陥っているわ・・・。」
本当である。現状の空気が正にそれとなる。逆を言えば、王城の悪党共は、内部分裂を図っているとも思われる。シルフィアとスミエからの情報により、私利私欲を貫いている事が明白だしな。
「某宇宙戦争の暗黒卿な感じですよね。」
「ああ、彼か。静かなる暗躍を行い続け、最後は銀河帝国を立ち上げた。全ての人々のマイナス面を駆り立てる感じでもあったな。」
「暗黒面、と。」
ここまで疑心暗鬼に陥る2人を、今まで見た事がない。根底は絶対不動の原点回帰が据わるのは分かるが、上辺の右往左往が数ヶ月前の俺と同じなのだ。自分自身を見ているかの様な錯覚に陥ってしまう。
「・・・俺達・・俺の存在は、この異世界では害虫に過ぎないのかもな。」
「大いに有り得ますね。ですが、一度首を突っ込んだからには、最後まで介入しますよ。」
「貴方がここで過ごされた事により、実際に助けられた生命は数多くあります。先の苦悩は全ての存在を守ろうとしたため、一種の折れた感じになったと思いますし。」
「もし、その方々がマスターに刃を向けるような事になったら、私は容赦なく引き金を引かせて頂きます。」
「私も心から同調致します。」
恐ろしいまでの一念を示す2人。完全悪には至っていないのだが、端から見れば完全悪そのものである。いや、かつて悪役を担ったヘシュナの様な感じだろうか。そうでもしなければ、己自身の信念と執念が曲がってしまうと思ったからだろうな。
ダーティー状態まっしぐらの2人の頭を軽く叩いた。それに驚くも、その真意を察知してくれたのか、申し訳なさそうに見つめてくる。かく言う俺も、2人と同じ感情に支配されているため、お世辞にマトモとは言えないのだがな・・・。
ふと、脳裏に過ぎる。バリアとシールドの防御機構のそれだ。物理攻撃と魔法攻撃を完全に防ぎ切る、完全無欠と言われる防御壁。しかし、精神面の攻撃には為す術がない、と。今の現状が正にそれだ。
小説・マンガ・アニメの各作品群でも、悪党の究極的な攻撃手段は精神攻撃となっている。大切な存在に危害を加えられたりするのが顕著だ。悪党共はそう言った行為に、喜び勇んで取り組むのだから、実に馬鹿げた話である。
もし、警護者の理がなかったら、今の現状に押し潰されていただろうな。同時に、無策に王城へと攻め入っていただろう。偽勇者共の挑発にも乗っていたと思われる。
地球で得て来た経験は、掛け替えのない大切な存在となっていたわ。当たり前の様なその恩恵の力に、異世界惑星に来てから痛感させられるとはな。本当に皮肉な話である。
綻びは、些細な事から一気に生じだす。それを痛感させられる事となった。新大陸に移住してきた住人達の大多数、その彼らの不信感が一気に膨れ上がったのだ。これは念話の応用で即座に感じ取れた。
流石に一念が据わる面々までは至らなかったようで、妹達とオルドラとその盟友達、そしてリューヴィスの女性陣全員だけは平常心を保っている様子だった。その他の面々は、俺達への不信感は凄まじいものである。
ここまで至るとなると、身の危険を感じずにはいられない。幸いにも総合戦闘力からして、簡単に鎮圧可能な流れなのだが、リューヴィスの幼子達には見せたくないものだ。となれば、ここにいる意味はなくなったも当然である。
(・・・流浪の旅路に回るかね。)
(レプリカ大和に退避し、ほとぼりが冷めるまで動きますか?)
(逃げるようで無様だが、今はこれが無難だろう。それに、この子達の悲しむ顔は見たくない。)
ヘシュナが挙げた通り、俺達はレプリカ大和へと退避している。殺伐とした世界観故か、即座に暴動が起きるのが日常だ。地球では考えられないものである。
(俺は、ミスターT殿に付いて行くよ。それに、何れ起こるであろうと踏んでいたしな。)
(私達も同伴させて下さい。正直な所、貴方がいない所など、安らぎの場とは言えません。本当は良くない事なのでしょうけど、今は本能に従って動きます。)
(そうですね。ミスターTさんが以前仰っていた通り、最後は己自身になります。ならば、私達も自分で決めて動きますよ。)
(・・・ありがとう。)
心からの叫びを痛感させられる。ここ最近は、疑心暗鬼の念に襲われていたため、周りが敵としか見えて来なかった。それを払拭させるかの様な一撃である。本当に感謝に堪えない。
(T君、君を慕う面々はここに揃っているわ。後はT君がどうするかよ。)
(・・・お前さん達の一念、確かに受け取った。今は流浪の旅路に出るとする。)
(了解! 出航準備を開始しますね。)
(大忙しだぎゃ~。)
レプリカ大和の出航準備を開始する一同。既に身支度は済ませて乗船していたようで、後は出発するだけのようだ。本当に逃げるかのような感じだが、不要とされるなら去るしかない。要らぬ争いは避けるに限る。
この数ヶ月、絶対不動で鎮座していたレプリカ大和。それが稼動しだした事に、移住組の面々は驚いているようだ。だがその雰囲気からして、逃げ出すのだと嘲笑っているのが感じられる。そう、念話には嘘は一切通用しないのだから。
こうした対応には、俺達は慣れている。しかし、異世界の一同は慣れていない。どうしてこう至ったのかと考えるのだが、今は新大陸を離れるに限るだろう。
桟橋から離脱したレプリカ大和は、俺達を乗せて大海原へと進み出る。有限実行とは正にこの事だが、“何時でも行動が可能なのだ”と見せ付ける意味も十分あるだろう。それに、対策を講じたりして余計悪化するよりは、素直に離れるに限る。
争い事を嫌う、超チキンの俺が成せる技、か。実に皮肉だわな・・・。
(思い切った事に出たわねぇ。)
(色々と気苦労を掛けます。)
新大陸から離れて、大海原を進むレプリカ大和。そんな中、シルフィアより念話が入ってくる。呆れた雰囲気を出してはいるが、こちらの一念を尊重してくれているようだ。ほぼ黙認に近いとも言えるが・・・。
(補給とかは大丈夫です?)
(地球から転送移動により、各物資を運び入れられます。全く以て問題ありません。)
(何か、私達が来た途端、悪化した感じよね。)
(いや、お前さん達が原因じゃないよ。徐々に嫌な雰囲気にはなっていた。そこに、俺の苦悩のアレが効いたんだと思う。)
(んー・・・一応、自己嫌悪として取っておきますね。)
(相変わらずです。)
淵源を探った俺に、呆れ雰囲気をするものの、気にするなと返してくる一同。至ってしまった事には変わりない。むしろ、これからどうするのかを考えねばならない。
(マスター、一度造船都市にいらしては? 既にこちらレプリカ伊400の姿は、向こうに目撃されています。むしろ、不意に現れる王城軍団への切り札として取られている様子ですし。)
(現状は、造船都市のみ中立状態と取るべきか。)
(それなりの軍備がありますからね。それに、不測の事態に備えて、色々と根回しはしておきましたし。)
(交渉術なら、ヘシュナ様が最強ですからね。)
(ふふり♪)
ドヤ顔でニヤケるヘシュナの姿が脳裏に浮かぶ。確かに彼女の交渉術は、エリシェやラフィナも感嘆するほどのものだ。アルドディーレの面々と仲良くなるのは、全く以て造作もない事だろう。
(ところで、新大陸からは、小父様に心から慕われる方々だけ離脱されましたよね?)
(大凡は、だが・・・。)
(大変悪いのですが、向こうの流れが実質的に裏切り行為となるのならば、例え小父様が許されたとしても、私は絶対に許しません。そのつもりで。)
(はぁ・・・そうですか・・・。)
うーむ・・・裏切り行為、か。発端は俺にあるのだと思うのだが・・・。しかし、彼女の怒る姿を久し振りに見たわ・・・。以前は彼女の偽者事変時か、あの時も相当なものだった。それだけ、彼女からも慕われている証拠なのだろうな。
(イザリア様・イザデラ様・イザネア様、後でお話があります、ご足労を。)
(((は・・はい・・・。)))
・・・恐ろしいまでの一念を放っていらっしゃる・・・。ここまで激怒しているデュヴィジェを初めて見るわ・・・。そして、同時に俺にも向けられている気がして、何だか申し訳ない気持ちになる・・・。
(ですが・・・久し振りの船旅は良いものですね。)
(そこは同感します。)
(以前は移住に焦点を当てていましたからね。)
(楽しまなきゃ損ですよ。)
場の雰囲気を変えようとしてくれたのか、カラセアの言葉に便乗しだす妹達。確かに今まで陸上生活だったため、海上に出たのは数ヶ月振りとなる。特にダリネムが語った通り、以前の船旅は移住計画の真っ只中だったしな。
(戦艦をクルーズ船扱い、か。)
(釣りを楽しめるのがグッドわぅ♪)
(そうね、私も便乗しようかしら。)
(お供しますよ。)
空間倉庫から釣り道具を取り出していくミツキ。どうやら、予め用意してあったようである。以前も同艦やレプリカ伊400から釣りを満喫していた。魚類の捕獲も踏まえると、食料事情は良好となるのが何とも言えない。
釣りに興味津々の幼子達。その彼女達それぞれに、釣り竿を手渡していくミツキ。こうなる事を予測していたのか、あれよあれよと空間倉庫から出されていく。場の雰囲気を盛り上げる行動は、率先垂範して動く姿が誇らしいわ。
ちなみに、今更ながら気付いたのが、旧リューヴィス在住の住人は全員女性だった。幼子達ですら全員女性である。誰1人として男性がいない。まあ、あの虐待を踏まえれば、絶対に居住させる事はしないだろう。
そして、こちらに全員付いて来たのは、トラガンの女性陣の影響が強いようだ。彼女達が徹底的に育て上げた女傑達なので、何が正しく何が間違っているかを見定めている。これは、こちらも大いに学ばねばならない。
第3話・3へ続く。




