第2話 最強の武を示す3(通常版)
(経過報告でし。)
(久方振りだな、どんな按配だ?)
更に数日後、ゾンビ掃討作戦から1ヶ月が経過した。久方振りにミツキTから念話が入る。傍らでザワザワと声が聞こえるが、どうやらメカドッグ嬢達らしい。
ちなみに、メカドッグを嬢と言ったのは、基本ロジックが全て女性だからである・・・。元ネタは某ゲームのメカ型主人公が、設定上では女性である部分を捩った事によるものだ。俺もその導入に関しては大賛成だが。
(大都会を中心に、商業都市・工業都市・造船都市が点在しています。遥か遠方が、魔王が鎮座していると思われる魔大陸らしいですが、実際に赴いていないので何とも。それと、どうやら裏で大魔王となる存在がいるみたいですよ。)
(大魔王か・・・。まあ何だ、今の現状は情報のみでの確認止まり、という事だな。)
(一歩突っ込んでいないのは、私達のレベルが何処までのものかを見極める、これが最重要課題でもありますし。ヘシュナ様が仰られた通り、調停者と裁定者の役割も担うため、迂闊な行動はできませんからね。)
(警護者魂、異世界でも炸裂だな。)
調停者と裁定者、実に烏滸がましい存在だろう。しかし、誰かがそれを担わなければならないのも確かである。地球ではそれを怠っていた期間が長かったために、要らぬ抗争を助長させてしまった。この異世界ではそれらを改善する必要がある。
(異世界にまで警護者の理を持ち込むのは、実に嫌みったらしいですよね。)
(んー、俺は構わないと思う。5大宇宙種族が曰く、生態系の破壊を防ぐ事にも繋がると思うしな。まあ、それでどう思われようが、俺達は俺達の生き様を貫けばいい。後の歴史に采配を委ねるわ。)
(フフッ、小父様らしいです。)
何度も言うが、結局最後は己自身の生き様に帰結してくる。周りがどうこう言おうが、最後は己自身がどうあるべきかに至るのだからな。これは異世界の宿敵たる、魔王達にも十分当てはまるだろう。むしろ連中こそ、己が生き様を貪欲なまでに貫く存在だしな。
(各ゲームでのラスボスたる魔王や大魔王ほど、己の生き様が明確な存在はいないわ。勇者側もそのぐらい据わっているのなら、後は実力勝負になるんだが。)
(でしょうね。勇者側は魔王撃破を念頭に入れていますが、無勢の場合が数多い。対して、魔王側は世界征服か人類の抹殺、更には世界の破壊が主な目的。しかも軍勢は凄まじい規模に至っている。)
(それに、RPGの根本を壊す事実を突き詰めるなら、勇者側が力を付ける前に叩き潰すのが最善の策だ。配下に勇者達を襲わせる時点で、それが相手にとって格好の修行相手になるのは目に見えないのかね。魔王や大魔王が自ら出向き、力を付ける前の勇者を襲い、皆殺しにするのが最善策だというのに。)
(ゲームでのその考えは、完全に作品破壊の何ものでもありませんよね。でも、この異世界では十分真っ当な戦術と戦略でしょう。むしろ、確実に勝ちに徹するなら、それを実行すべきなのですがね。)
お互いに吐き捨てるように語って見せた。各作品の魔王や大魔王は、実に不効率な行動をする存在でしかない。
過去に身内にボヤいた事がある。先に挙げた通り、魔王や大魔王は実に生温い戦術や戦略を展開している。自らは居城に踏ん反り返って、部下達に勇者打倒の命令を下すのが定石だ。
その波状攻撃を辛くも撃破し続け、レベルアップと題した修行を繰り返す事で、勇者達は魔王や大魔王に匹敵する戦闘力を得るに至っていく。絶対的に不効率である。
(俺が魔王や大魔王なら、先ずは世界の住人ないし、全ての生命を人質に取る。勇者を差し出さねば、1時間などの時間経過で1つの生命を殺していけばいい。一切の戯言を抜かさず、ただ淡々と実行し続けるのみだ。)
(う~ん・・・小父様のダークサイドを垣間見た感じです。)
(悪逆非道に徹し抜くなら、徹底的にそれを実行すべきだがね。全ての魔王や大魔王は、本当に甘過ぎる。例外を除けば、魔王と大魔王の末路は滅びの道しかない。)
一服しながらボヤいて見せた。本当に連中は不効率な行動をし続ける。超効率を求めるのなら、何振り構わず実行すべきだろう。しかし・・・。
(・・・自分がこの場にいるのが運の尽き、ですね。)
(・・・ああ、そうなるわ。幸いにも、各兵装に5大宇宙種族がペンダントがある。更に惑星事変と黒いモヤ事変を乗り越えた手前、惑星内でしか活動ができない相手など話にならない。)
(あの黒いモヤは、既存の魔王や大魔王を遥かに超越してましたからねぇ~。)
(黒いモヤの方が遥かに怖いわな。)
本当にそう思う。惑星事変だと、地球を一撃で破壊する惑星の到来。黒いモヤ事変だと、地球はおろか、太陽系や天の川銀河をも呑み込み消滅させようとする存在の到来だ。魔王や大魔王の存在など、赤子の手を捻るかのようである。
(ぶっちゃけ、スーパーレールガンやハイパーレールガンをぶち当てれば、どんな魔王や大魔王だろうが完全消滅するんだが。更には、極大消滅兵器たる、ガンマ線バースト発生装置も該当する。)
(えー・・・それは大破壊大殺戮そのものですけど・・・。)
(冗談よ。まあでも、超奥の手としては申し分ない力だ。故に、調停者と裁定者を担う必要がある、となる訳だ。)
何ともまあ・・・実に遣る瀬無くなりそうな結果論となった。俺達が本気を出せば、今現在の最大の脅威は簡単に根絶できる。しかし、それでは全く以て意味がない。それに、主人公たる存在は、この異世界の住人達になるのだから。俺達はゲスト的な存在でしかない。
(はぁ・・・小父様が理不尽・不条理な概念を徹底的に嫌うのを、改めて思い知らされた感じです。その超奥の手は、正にその概念を叩き潰すための究極の一手ですからね。)
(俺の目が黒いうちは、各作品群の悲惨な結末なんざ絶対に至らせんよ。それこそが、最強の武とも言える。形は違うが、リョフ氏のそれと同じ武勇だわ。)
(天下無双以前に、天下絶望になりそうな気がしますけど。)
(全くだな。)
最後の言葉で笑い合う俺達。考えが暴走した先の末路とも言える。だが、超奥の手は持っておくべきだろう。
悪役という存在は、不測の事態という概念に非常に恵まれており、それらを駆使してこちらを潰しに来る。実に厄介極まりない。しかし、それこそが悪役なのだ。こうも役割が徹底している存在は、ある意味気が楽だろうな。
(ぬぅーん! 不測の事態は茶菓子が枯渇した時だけで十分わぅ!)
(何その理不尽な様相。何時もポチが食い尽くすのが原因じゃない?)
(バレたわぅか?!)
(アッハッハッ!)
突然の声に驚くが、それは念話を通して地球にいる身内からのものだ。その中で、一際笑いが強いのがある。恩師シルフィアの声だ。
(しかしまあ・・・何でそんな遠方に飛ばされたのかしらね。)
(俺に聞かんで下さい・・・。)
(5大宇宙種族が力をすれば、君を指定の場所に飛ばす事は容易だろうし。問題はそれを誰が行ったか、になるけど。)
(それですが、今現在調査中です。同時に、小父様が飛ばされた惑星の座標も解析中。判明次第、増援を送る事が可能になります。)
(増援ねぇ・・・。)
何やら色々と画策している様子が窺える。特にシルフィアはこの手の作品群に造詣が深く、ミツキやナツミAと共に超絶的なゲーマーの1人だ。そして、今では警護者の実力を持つに至る女傑達でもある。
(まあでも、ヘシュナさんが言う通り、調停者と裁定者の役割も必須よね。君とミツキTさんが居る限り、超劣勢にならない限りは安心だろうし。)
(力をセーブして行動するのは難しいですがね。)
(んー、なら一度何処かで仮本気でも出してみれば良いわね。君の怖ろしさを示せば、相手の通常戦略が覆されてくるだろうし。)
(その後に、色々と画策してくる連中が出てくるのを狙う、ですね。)
(正にそれね。現状は出る杭自体が出てない状態。それらを出して叩く、これに限るし。まあ・・・さっき君が思った、ハイパーレールガンやガンマ線バースト発生装置を駆使すれば、意図も簡単に終わるんだけどねぇ。)
(大破壊わぅ!)
うーむ・・・怖ろしい事を淡々と言ってくれる・・・。しかも、先程の俺は恐る恐る語ったのだが、彼女達の場合は一切の容赦がない。冷徹無慈悲な鉄槌を下す事を信条としているため、その怖さは変な意味で折り紙付きである。
(とりあえず、君は無論、ミツキTさんがいれば安心よね。私達も何れ赴く事になると思うけど、それまでは上手くやって頂戴な。)
(・・・尽力できるよう心懸けます、はい・・・。)
(久方振りに皆様のお声を聞けて、何か安心しましたね。)
(安心どころか、恐怖を植え付けられた感じだがね・・・。)
俺のボヤきに、遠方でニヤケ顔で笑う姿が脳内に映し出される。恐怖の何ものでもないわ。しかし、ミツキTが言った通り、彼女達の声色を聞いて不安な一念が一瞬で消え去った。
これを予測して態と言い出したのなら、彼女達の手腕は実に恐ろしい限りだわ・・・。
「不穏な動きですね・・・。」
「警戒はしておいた方が良さそうだな。」
妹達が破竹の勢いで討伐クエストを繰り返す。その最中、近場の破棄された鉱山から、魔物が出現しだしたという話が挙がった。
「住み着いていた、という訳ではなさそうですが。」
「魔王軍が転送魔法などを使うのなら、人気がない場所を指定して、軍勢を配置する事も十分考えられる。大都市側にも同じ動きがあるなら、これは一斉攻撃の合図だと思う。どうしたものか・・・。」
冒険者ギルドの討伐クエスト一覧を見つつ、現状の確認をし続けた。大都市側は大きな混乱はなさそうだが、この街はかなり殺気立っている。
「ギルド長が仰るには、規模が大きい場合は増援を呼ぶとの事です。」
「鉱山の制圧に街の守備、戦力を分散させるのは厳しいですよ。」
「・・・例の防御支援だが、距離を一切関係としない。お前さん達に付与しておけば、後は余程の事がない限りは安全だ。となれば・・・。」
「街の方は貴方が単独で守る、ですか。」
「鉱山は狭く縦長になる。前衛・中衛・後衛をしっかり展開すれば、お前さん達だけでも十分やれる。それに、俺の真骨頂は対多段戦闘だしな。」
俺は警護者での戦闘柄、1対複数を得意としている。身内は1対1を得意としており、俺がいかに異端であるかが窺える。だが、今回の様な防衛は非常に有利だ。
「・・・お任せしてもよろしいですか?」
「ああ、大いに任されよ。お前さん達が戻るまでは、確実に防衛してみせるわ。」
「貴方の戦闘を見てみたい気もしますけど・・・。」
憧れ的な目線を送ってくる妹達。俺は今の今まで、表立って戦闘をした事がない。彼女達に付き従っていた時は、ほぼ全て支援に回っている。攻撃に回った事は一度もない。
「それに、ささやかな支援部隊を展開してみる。後方の憂いは全て断ち切っておくから、思う存分暴れるといい。」
「分かりました。可能な限り暴れて見せますよ。」
「お任せ下さいませ。」
初めて出逢った頃の初々しさは何処へやら。冷静なまでの表情で頷いてくる。この1ヶ月強は下積み時代と題して、とにかく精神面の強化を図っていった。それが功を奏した形である。
ともあれ、今回は二重作戦となるだろう。鉱山の方は妹達に任せ、俺は街の守備に当たる。それに彼女達は認知できないが、メカドッグ嬢達を全員派遣する事にした。1人につき2人の護衛となる。まあ、相手への攻撃は、精神面への威圧しかできないが。
うーむ、街の防具屋にある全身鎧を1着拝借してみるか。そこにミツキTの精神体を付与すれば、現実面での行動が可能となる。鎧の重さを物ともしない行動なら、正に化け物的な動きが可能になるだろうか。
それにこの場合は仲間が増えるため、いざという時に直ぐに行動が可能になってくる。後方の憂いは全て断ち切る事にこそ意味があるしな。
「これ、どうなされるのです?」
「まあ、奥の手の1つだな。」
有限実行とし、防具屋で一番高価な全身鎧を購入して貰った。幸いにも金額は討伐クエスト1回分程度のものだ。武装は携帯十字戟辺りで十分だろう。
「では、そろそろ向かいますね。」
「ああ、十分気を付けてな。」
妹達にバリアとシールドを再度掛け直し、探鉱へ向かうのを見送った。このバリアとシールドがある限り、まず傷付く事は皆無である。毒などの状態異常すら至らないしな。
前にも挙げたが、バリアとシールドの防御機構は放射性物質は無論、ガンマ線すらも遮る。どんな状態異常攻撃だろうが怖くはない。恐らく、呪いなどの特質的な状態異常すらも弾くだろう。5大宇宙種族のテクノロジーには、ただただ感嘆するしかないわ。
第2話・4へ続く。




