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覆面の探索者 ~己が生き様を貫く者~  作者: バガボンド
第2部 真の敵の淵源
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第2話 私利私欲の罠4(通常版)

 塔周辺の探索を終えて、次は遺跡周辺の探索を行った。こちらも不可解なもので、未踏査の新大陸には有り得ないものだ。塔とセットで建築されたと取れるが、誰が作ったのかは全く不明である。


 そして思った、この周辺には魔物の痕跡が一切ないのだ。足跡や遺骨などの痕跡すらない。それから推測すると、塔や遺跡は魔物を寄せ付けない力が働いていると取れるかも知れない。


「・・・その場合だと、魔力など何らかの反応がある、ですか。」

「・・・はぁ、心中読みどうも・・・。」


 今正に思っていた事を彼女に言われた。内情を見透かされ、それを挙げられた感じである。それに周りの女性陣はニヤニヤしながら見つめてくる。


「念話を行う事により、心中の思いがダダ洩れになるというのは、正にこの事ですね。」

「その嬉しそうな表情やめれ・・・。」

「まだまだ甘い証拠ですよ。」


 この美丈夫達は・・・。ただ、サラとセラ達地球組は、内情を察知するのに遅れを取っている感じか。となると、彼女達との異なる点は1つしかない。


「魔力や魔法の概念がある者、ですね。」

「・・・寝ても良いでしょうか?」


 本当に見事としか言い様がない。どうやら異世界組は、念話を使う事で魔力が増加していると思われる。それにより、念話の感度が上がっているとも取れる。念話を使わずとも関知する事ができるのは、この概念があるからだと思われる。


「本当に羨ましいですよ。私達やマスターは、魔力や魔法の概念が全く理解できていません。使う事すらできませんし。」

「念話や各能力も、5大宇宙種族がテクノロジーの恩恵ですからね。地球人の素体能力は、何もないですから。」

「確かにそうだな。」


 2人が羨むのも無理はない。俺すらも羨ましいと思うぐらいである。地球組の人間は、何も特殊な能力がないのだから。あったとしても、限定的なものでしかない。


 その時、ふと脳裏を過ぎった。王城側の言動が、俺達を煽動しようとしている流れが、もし人為的であった場合だ。あの餓鬼と畜生の如き行動も、全てこちらを挑発させる行為なら、全て向こうの筋書き通りという事になる。


「・・・私利私欲、そう言う事か・・・。」

「羨ましさから出る愚行、ですか。」

「そう考えると、全ての辻褄が合ってくる。あの偽勇者共や伯爵共も全てだ。」


 徐に一服しながら思いを巡らす。連中が力を得ようとしても、得られないのは明白である。となれば、力を使える者を呼び寄せればいい。その者を利用し、私利私欲に走り出すと。


「王城周辺の略奪や虐待なども、全てこちらを混乱させるための行動、と。」

「・・・となると、敵は・・・。」

「ああ・・・宇宙種族か、その力を持つ人間としか考えられない。ヘシュナさんすらも言い切っていた。善心同士を読むのは楽だが、悪心同士を読むのは難しいと。王城にいるであろう存在が、今も察知できていないのも、悪心を持つ宇宙種族か相応の存在と位置付ければ合点がいく。」


 あくまで推測の域ではあるが、そう考えれば辻褄が合うのが嫌味過ぎる。それに、不死族系の魔物を召喚するとなると、イザリア達みたいな力を持つ存在しか考えられない。


「・・・だから、伯爵共を呼び寄せた訳だな。イレギュラーが発生した故に。」

「マスターがリューヴィスの女性陣を癒したそれですよね。」

「お前さん達には大変失礼な言い回しになるが、女性の元来の壁と言える現象まで治癒したんだ、慌てふためくのは言うまでもない。だとすれば、全て連中が長年に渡って仕組んだ罠としか言い様がなくなる。」


 この上なく怒りが湧き上がってくる。もしそうだとしたら、リューヴィスの女性陣への虐待などは、全て仕組まれた行動であったとなる。しかも、イザリア達が俺を召喚する事すらも見越してのものだったとなってくる。


「・・・地球出身の方々が強いのは、先読みする一念が強いからなのでしょうね。」

「フッ、ヲタク気質の思考が爆発と取れるけどな。」

「アハハッ、本当ですよね。我ながら、ここまで先読みできるとなると、怖くなりますよ。」

「アキバの力には感嘆します。」


 ヲタクの概念というか、未知との遭遇に対しての順応力には、本当に感嘆せざろう得ない。もし俺がこれら概念に免疫がなかったら、今頃は右往左往のシドロモドロだっただろう。


「はぁ・・・シルフィアさんやナツミツキ姉妹に感謝だわ。全て読んでいた事になる。」

「シルフィア嬢はまだお会いした事がありませんが、ナツミAさんとミツキさんの力には脱帽し捲りですよ。常に先を見据えて動かれているので、絶対に勝てませんし。」

「地球組の方々は、そのヲタク気質が最強の武器なんでしょうね。即ち順応力とも。」

「本当にそう思うわ。」


 変な所で納得し、一同してウンウン頷くしかなかった。第3者視点での考えになるが、確かに地球組の順応力は凄まじいの一言だ。だからこそ、この異世界で生き抜けるのだから。


「まあ何だ、今はやるべき事をし続けるのみだわな。」

「おおぅ、やっと元に戻られましたね。」

「戻らなかったらどうしようと、ヒヤヒヤしてましたよ。」

「ハハッ、すまんな。」


 笑顔で見つめてくる双子。その2人を抱き寄せ肩に担ぐ。ミツキよりも小柄なので、難なく担ぎ上げられる。それに一際笑顔になっていく。色々と心配を掛けさせてしまったわ・・・。


 そして、再度誓った。彼女達全員の笑顔を厳守すべく、今後も己が生き様を貫き通すと。そのために、今ここにこうしているのだから。かなり遠回りをしたが、原点回帰ができて本当によかった。この美丈夫達には、心から感謝するしかない。



 その後も遺跡探索を行い、異常が見られなかったため撤収となった。ただ、既に夜を回っていたので、近場で野宿をする事にする。幾ら魔物が出ないといっても、油断は禁物である。


 また、ある程度は男性慣れをした女性陣とは言え、男1人だと要らぬ不快を与えかねない。そこで、夜の間は性転換状態でいる事にした。目の前で男性から女性に変化するのを、初めて見る面々は驚愕の表情を浮かべていたが・・・。


「これが重複できる防御機構ですか?」

「詳しい原理は不明だが、少しでも悪心を持つ存在は、絶対に侵入する事ができないらしい。例のバリアとシールドの防御機構の発展型だわ。」

「一応、安心はできますね。」


 そう言いつつ、俺を見つめてくる一同。“悪心を持つ存在”と言った部分に、俺が該当していない事が不服らしい。だからこそ、こうして性転換状態になったんだが・・・。


「見張りはどうします?」

「例の睡眠打ち消し状態だから、俺が担当するよ。無尽蔵に動く事ができるしな。」

「はぁ・・・ある意味、便利ですよね。ただ、ご無理はなさらぬように。」


 睡眠欲無効化状態の末路を知っている双子。それ故に一際心配してきてくれる。今は何ともないが、この状態を解放した後が大変な事になるのだから。まあそれは、全てが終わった後で構わない。


 この大パーティーで唯一の男性の俺。それを気にしている女性陣だが、昼間の探索などによる疲れからか、直ぐに寝に入っていった。疑心暗鬼な一念も、睡魔には到底敵わないようである。


 逆に、こちらとしては、これだけの女性陣を前にすれば、シドロモドロ状態になるのだが。性転換状態により、男性から女性に変化したのは正解だったようだわ・・・。



 夢の中に旅立っていった女性陣を見つめ、静かに一服をする。何だかんだ言うも、その表情を見れば俺を信用してくれている事が分かる。それを踏まえれば、俺の方こそ彼女達に感謝すべきだわ。


 今は性転換状態で女性となっているが、それでも素体の性別は男性だ。リューヴィスの女性陣に虐待した、同性共と同じ野郎なのだ。それを踏まえれば、この場にいる事に申し訳なくなるのと同時に、己自身にも痛烈なまでの怒りを覚える。


 だが、それでいい。その怒りと憎しみすら沸き立たなくなれば、俺も同じ行為に走る可能性が十分ある。これは個人の問題ではなく、性別自体にある衝動とも取れるだろう。それ故に、俺の場合だけは、こうして痛烈な怒りと憎しみへの回帰をすべきだ。


 そして、皮肉にも性転換状態を経る事で、少なからず女性の痛みを知る事ができた。彼女達を少しでも支えられる側に回れるなら、今後もこの痛みを受け続けよう。野郎には経験できない苦痛だが、今は知る事ができるのだから。何事も経験とは、嫌味な言い回しだな。


 ・・・身内の女性陣に、また自己嫌悪かと言われかねないわ・・・。




 翌朝。軽食を取った後、塔と遺跡の探索を終えて本陣へと戻った。今回の目的は、この2つの探索だったので、一度戻るべきだろう。


 帰路中にも、野生の魔物が出現してくるが、トラガンとリューヴィスの女性陣の前には足元にも及ばない。正に瞬殺である。目に付く相手は、片っ端から叩き潰して回っている。実に恐ろしい・・・。


 俺の方は、手持ちの資料に今回の調査内容を簡潔に記録していく。傍らのサラとセラが資料を持ってくれているため、動きながらも何とか記述ができていた。


 これなのだが、本陣でも各地域の調査を調べているため、現地に戻ってからでは遅いのだ。予め済ませておけば、帰路後に次の調査に出る事が可能となる。暴れ足りない女性陣からは、次も暴れさせろと言ってくる始末である・・・。


 それでも、今はこの未踏査の新大陸を解明し続けるべきだろう。塔や遺跡など、不可解な建築物があるだけに、その謎は今後の不測の事態を招く恐れがある。



 本陣へと帰ると、その場を取り仕切る人物に気が付いた。4人ほどおり、テキパキと指令を周りに言い放っている。その人物を見た瞬間驚いた。何と新たな召喚者だったのだ。


「おかえりなさい。ご無事で何よりです。またそのお姿、周りへの気苦労もお疲れ様です。」

「はぁ・・・お前さん達も来るとは・・・。」


 俺達に気付くと、気さくに声を掛けてくる。その中の1人が語り掛けて来るが、俺の容姿を見て全てを把握したようだ。人物の名はデュリシラ、俺達の司令塔を担う1人である。


「遠征から帰って来たら、皆様異世界に飛ばれたと伺いましたよ♪ 当然ながら、私達も馳せ参じた次第で♪ ナツミYU様とシューム様もカラセア様も、やる気満々です♪」

「そうですよ♪ こんな機会など滅多にありません♪」

「はぁ・・・そうですか・・・。」


 デュリシラもヲタク気質を持つためか、この異世界の様相に瞳を輝かせている。水を得た魚そのものだ。そして、何時の間にか毒されていたカラセア。同じく瞳を輝かせて喜んでいた。対して、ナツミYUとシュームは物凄い目線で睨んできている・・・。


「・・・その目線を止めて欲しいんですが・・・。」

「両手どころか、周りを華で囲ませるとか、さぞ気分が良さそうですね・・・。」

「と言うか、何故に性転換状態でいるのかを、ご説明して頂きたいのですけど・・・。」

「はぁ・・・勘弁してくれ・・・。」


 大人の目線の恐々しさを目の当たりにした若手女性陣は、顔を青褪めて震え上がっている。この4人は身内の中で年輩者になるため、女性としては完成された存在と言えた。


「何よ、君とは1歳しか違わないじゃない。」

「若い世代の方が好みなのでしょうね。」

「だー・・・これ以上責め立てるのは止めてくれ・・・。」


 留まる所を知らない2人の猛攻に、周りの女性陣は青褪めるしかないようだ。2人の気質は女性陣の中でトップクラスの強さがあるため、反論しようものなら瞬殺されるだろう・・・。


 修羅場となりつつあるこの場だが、徐に一服しだすと一変していく2人。一瞬にして怖さが消え失せ、慈愛の目線に変わっていた。それに対して、別の意味で怖がる周りの女性陣。


「ふぅ~・・・とまあ、愚痴は以上よ。むしろ、そちらの女性陣を庇ってくれたそうね。地球でも全く同じ行動をしているし、君もお人よしそのものよね。」

「全くですよ。最近の貴方は、女性への悪態に対して、私達以上に激昂しますからね。先の記憶の一部が蘇った事で、より一層強さを増しているとも。」

「・・・あの伯爵共の行為は、絶対に許せるものではない。今も腑煮え繰り返る思いだわ。」


 2人の言葉に、当時を思い出して怒りが湧き上がる。すると、近場に歩み寄るデュリシラとカラセア。その中のデュリシラが懐から煙草セットを取り出し、その1本を俺に差し出して来る。


「相変わらずですね。痛みを知るから、優しくなれる。トラガンの女性陣を支えるため、性転換をしてまで行動された。その結果から、リューヴィスの女性陣を助けるに至る。貴方の心遣いには、私達も見習わなければなりません。」

「何時如何なる時でも、女性の目線に立って行動をされている。ミスT様の状態で得られたノウハウが、ここぞと言う時に真価を発揮していると思います。感情の起伏などにより、性転換能力が発動するぐらいですし。」


 徐に火を着けてくれるカラセア。自身も一服をしつつ、懐かしそうに語ってきた。その彼女の言動を見て、小さく微笑むナツミYUとシューム。


「私達が来たからには、貴方が守ろうとする存在を、徹底的に厳守し続けるわね。地球でも全く同じ行動だから問題はないけど。」

「先輩、油断は禁物ですよ。5大宇宙種族という、常識外の存在にも驚きましたが、今度は異世界惑星ですからね。魔力や魔法の概念、魔物や未知の生命体など、油断したらやられます。」

「そこは我々、アキバ警護者軍団にお任せを。フフッ・・・ファンタジー世界観、楽しいじゃないですか♪」

「思う存分、暴れますよ。お任せ下さいませ♪」

「はぁ・・・。」


 警護者的解釈をするシュームとナツミYU、ヲタク的解釈をするデュリシラとカラセア。一見すると真逆の気質になるのだが、根底の一念は定まっているとマザマザを見せ付けてくる。その4人を見つめ、深い溜め息を付くしかない・・・。


 しかし、その圧倒的女性力と言うべきか、それを見せ付けられた若手女性陣は、憧れの表情で魅入っている。確かに4人の女性としての力は、身内の中で最強クラスだ。俺が性転換状態でいる時の、言動の参考にもさせて貰っているぐらいである。


 そして、4人がいれば、女性陣への全ての行動が完璧となったと言い切れる。シュームの躾による補佐、ナツミYUの規律による補佐、デュリシラの万般に渡っての補佐、カラセアの勉学による補佐。地球でも同じ様に女性陣の見本となっているため、異世界惑星でも遺憾なく発揮するだろう。


 そんな俺達を、ニヤニヤしながら見つめるミツキ。傍らには、呆れ顔のナツミAがいる。その2人に気付くと、今後の気苦労が脳裏を過ぎってきた。色々な意味で大変そうだ・・・。


    第3話へ続く。

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