番外編【雨宮クロナ外伝】その⑤
神は差別をしない
運命は裏切らない
白陀は、目の前に現れた標的をその金色の瞳で捉えると、迷うことなく襲いかかって来た。
「はっ!」
黒真は横に跳び、白陀の突進を躱す。
一撃。
たった一撃の突進だけで、ぬかるんだ地面が抉れ、泥水が飛び散った。
着地した途端、足元が滑る。
「くっ!!」
戦いにくい。
(どうする?)
迷いが生じた。
一応、アクアに、UMAとの遭遇を報告した。これから、トランシーバーのGPSを追って、仲間が援護にやってくる。
それまで、身を潜めるか。
少しでも戦い、やつの体力を削るか。
「っ!」
黒真の視界に、白陀の尾が迫る。
黒真は跳躍して躱した。
ドン!!!
空中にいても、鈍い振動が肌を掠める。
「こいつ、強い!」
一撃。一撃と迫る度に、黒真の身体から気力と体力を奪う。
「だけど!!」
黒真は慣れないぬかるんだ地面を踏みしめ、跳躍した。
林の中。
木から木へと跳び移り、白陀の背後に回り込む。
(この位置からなら!!)
白陀の背中に、刀を振り下ろした。
ガギン!!
黒真の刃は、白陀の鱗に弾かれる。
「くそ、堅い!!」
刃を通さない、鉄壁の白い鱗。
居合の勢いがそのまま返ってきて、黒真はバランスを崩した。
そこに、うねった白陀の尾が直撃する。
ゴキリ。
「ぐっ!!」
何とか防御したものの、骨の何本か持っていかれた。
ドン!!
吹き飛ばされる。
「くそっ!!」
黒真は脇腹の痛みに耐え、地面に手を着いて衝撃を緩和した。
地面が濡れているせいで、黒真の身体は三十メートル程引きずられる。
「どうする?」
白陀は強敵だ。正面から仕掛ければ、まずあの巨大な顎に噛み砕かれる。
だからと言って、死角に回り込んでも、あの強靭な鱗が刃を通さない。
あのUMAを倒すために、まず黒真がやるべきは、あの装甲を破ることだった。
「だったら・・・!」
黒真は刀の鋒を白陀に向けた。
「刀の、【能力】を使うしかないな!」
黒真の刀は、【能力武器】だ。
SANAが開発した、世界に一振しかない逸品。
「名刀・黒鴉!!」
黒真が豆だらけの手で刀の柄を握り締める。その瞬間、ドクンッ!!と、刀が脈を打った。
黒い刀身が、さらに漆黒を帯びる。
刃から、その漆黒がオーラとなって染み出した。
「名刀・黒鴉・変化!!」
刀の能力を使えば、攻撃力は格段に上がる。
恐らく、あの堅い鱗も貫けるはずだ。
黒真はそう信じて、刀の能力を解放させた。
だが。
黒真から放たれる異様な殺気を感じ取った白陀は、犬のように首をブルブルと振った。
その瞬間。
ドドドドドンッッツ!!!!
白陀の体表を覆っていた白鱗が拡散し、四方八方に飛び散った。
まるで散弾銃のような勢いで、黒真の身体に、硬質な鱗が迫る。
「っ!?」
黒真は反応が出来なかった。
白鱗は、無慈悲に、黒真の身体を穿った。
「がはっ!?」
身体中に鱗が刺さり、血が吹き出す。
地面に、深紅の水溜まりが出来た。
「鱗を・・・、飛ばしてきた!?」
見れば、木々の幹に白鱗が刺さっていた。そして、黒真の体にも。
無理に抜こうとすれば、返しが付いて肉を抉る。無理に動こうとすれば、体内で動き、肉を抉る。
激痛が、黒真を襲った。
「ああああああああぁぁぁ!!!!!!!」
身体を纏っていた鱗を飛ばした白陀は、黒色に変化していた。
白陀から、黒蛇へ、姿を変えたのだ。
UMA図鑑【黒蛇】
白陀が「白鱗飛散攻撃」をした後になる姿。全身黒色で防御力は皆無となるが、大体の獲物は「白鱗飛散攻撃」で死に絶えるので、問題は無い。
時間が経てば鱗は再生し、白陀に戻る。
「はあはあ、はあはあ」
どうやら肩の腱に鱗が食いついているようだ。腕が上がらない。
握っていた刀を地面に落とす。
「ハアハア、ハアハア・・・」
(くそ、体が、動かない・・・!)
黒蛇は満足げに息を吐いた。
獲物はもう動けない。あとは食べるだけ。そのような余裕さえも感じた。
「舐めるなよ・・・!」
黒真は歯ぎしりをした。
「まだ、オレ自身の能力が、残っているんだ・・・!!」
これはあまり使いたくなかった。
能力を使う時は、とにかく体力の消耗が激しい。
最近のUMAとの連戦で、体力が落ちている黒真にとって、最後の手段だった。
「能力、発動!」
だが、これで確実に黒蛇に勝てる。装甲を失った今なら、攻撃が通る。
黒真から、黒いオーラが染み出した。
「能力、【黒翼】!」
その時だ。
運命は、神は差別をしない。
死に絶える運命にあるものは、どれだけ足掻こうと、その運命下にあり、逃げることは叶わない。
「・・・、う、うう・・・」
黒真の背後で、女の子の泣き声がした。
「え・・・!?」
黒真の全身の血液が凍りついた。
振り返ると、自分の妹がいた。
その⑥に続く
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