番外編【雨宮クロナ外伝】その②
黒き翼をください
私はその時、初めて、日本刀というものを見てしまった。
少しカビっぽい臭いを漂わせ、黒い影を切り取ったような冷たい姿をしていた。
私は、バットケースから柄だけを出した状態で刀を引き抜こうとしたが、私の力では抜くことが出来なかった。手に、鉄の匂いが残った。
怖く私は刀を元の位置に戻すと、部屋から出た。まるで知ってはいけない秘密を隠すように、そっと、扉を閉めた。
耳元で心臓が高鳴る。
その音に紛れて浮かび上がった疑問が、こだまする。
あの刀で、「何」を斬るのだろう?
一晩眠ったお兄ちゃんは、目元の隈は消えないものの、いつもの優しいお兄ちゃんに戻っていた。
「クロナ、いい子にしていてくれたみたいだね」
あまりいい心地はしなかった。私はお兄ちゃんのものを勝手に触り、見てしまったのだ。今更になって罪悪感が込み上げてきた。
私はいつも通り朝ごはんを食べた。あんなに粘っこく感じた白ご飯は初めてだった。
いつも通り、お兄ちゃんは私を小学校まで送ってくれた。
「じゃあ、兄ちゃんも学校に行ってくるから」
本当にそうなの?
本当に、学校に行っているの?
どうして、刀が入ったバットケースを持っているの?
私の胸にドロドロしたものが湧いて出た。
これが、「疑惑」というものか・・・。
もう一度自問自答する。お兄ちゃんは、あの刀で、何を斬っているのか?
私は、いや、私の足は、お兄ちゃんが歩いて行った方へ向いた。
番外編【雨宮クロナ外伝】その③に続く
展開の関係上、今回は少なくなりました。
(誰も読んでいないだろうけど)ご了承ください。




