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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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番外編【雨宮クロナ外伝】その①

黒は何色にも染まらない


たとえ白い光に押し当てられようと


たとえ赤い鮮血を流そうと


たとえ青い大海に呑まれようと


黒としてそこにあり続ける


私の心もそうでありたい

ねえ、パパとママはいつ帰ってくるの?


私が純粋な質問をぶつけると、お兄ちゃんは二秒目をぱちくりさせて、三秒下唇を噛み締めた。そして、十秒、私に微笑みかけてくれた。


「二人はね、遠いところに行っているんだよ・・・」


「遠いところ?」


その意味が分からず、私は首を傾げた。


「いつになったら、帰ってくるの?」


「いつか、帰ってくるよ。クロナがいい子にしていたらね」


お兄ちゃんの豆だらけのゴツゴツした手が、私の頭を撫でた。お兄ちゃんは、喉の奥から漏れ出すしゃくり声を必死に抑えて、泣いていた。


「護るからな・・・、お兄ちゃんが、必ず・・・」


純粋無垢な子供ほど、残酷な存在はないと思う。思ったことを、直ぐに口にするのだ。「好き」「嫌い」「なんで?」「どうして?」悪意のない疑問を持って、たとえそれが嫌なことだとしても、指で抉り出すような真似をしていたのだ。


お兄ちゃんは、私が質問をする度に、悲しそうな顔をした。それを私に知られまいとして、笑っていた。


私のお兄ちゃんの名前は、【雨宮黒真】。当時の私が7歳で、お兄ちゃんが「クロナの10個上だよ」と言っていたから、17歳ということになる。


17歳という年齢で、お兄ちゃんは、パパやママがすべきことを全てしてくれた。


掃除洗濯家事。


朝起きれば、もうご飯が炊ける匂いがして、忘れ物があれば学校まで持ってきてくれた。泥だらけになった体操服も、翌日には白くなっていた。


私はお兄ちゃんが大好きだった。


だけど、お兄ちゃんはいつも家に帰るのが遅かった。


ドーナツを頬張りながら待っていると、いつも身体中擦り傷だらけで帰ってくる。目の下には隈が出来て、疲弊していることは目に見えた。


「どうしたの?」って聞いても、お兄ちゃんはただ笑って「転んだんだよ」と言う。


私はお兄ちゃんの言葉を信じきって、「気をつけなさい!」と、いつかママが言っていたように注意をした。


「うん、気をつける」


お兄ちゃんは笑った。私はお兄ちゃんの笑顔が大好きだった。


でも、お兄ちゃんの身体から擦り傷が消えることはなかった。


一度だけ聞いたことがある。


「お兄ちゃんは、学校に行っているの?」


当時の私は既に、小学校が六年間、中学校が三年間、そして、高校が三年間行くことを知っていた。


指折り数えて、お兄ちゃんが高校生だと、分かっていたのだ。


「行っているよ。ちゃんとお勉強もしている」


お兄ちゃんはまた笑った。


「こうやって、クロナに教えられるんだ」


クロナは足し算引き算を私に教えてくれた。私は、それで納得してしまった。









七歳の私は、七歳の目に映る世界しか知らない。


雲ができる原理も、夏が暑い理由も。転ぶと痛い理由も知らない。ただそこに、存在することを、当たり前のように疑わないのだ。


時々、思うことがある。


もし、高校二年生の頭脳が、小学一年生の時にあればと。そうすれば、天才小学生になれて、私の身の回りを取り囲む謙遜と建前に気づけたのかもしれないと。


だけど、それは結果論であって、実現は不可だ。


だから、人は後悔する。私も、後悔する。






私の後悔は、あの日だ。


その日も、お兄ちゃんは疲れて帰ってきた。フラフラと、バットケースに入った何かを杖代わりにして、家に戻ってきた。


「ごめん、ご飯は作れない」


そう言って、コンビニで買った唐揚げ弁当を渡された。


「お兄ちゃんの分は?」と聞く私を無視して、自分の部屋に戻ってしまった。


初めて見る、お兄ちゃんの姿だった。


唐揚げ弁当を半分ほど食べた私は、「やはりお兄ちゃんの分も必要なのではないか」と思うようになり、残りを皿に移して、お兄ちゃんの部屋に持って行った。


部屋の明かりが煌々と付いている中、お兄ちゃんは布団の上に倒れ込んで荒い息を立てながら眠っていた。


「お兄ちゃん?」


声を掛けるが、反応がない。まるで悪魔に取り憑かれたように、苦悶の表情を浮かべていた。


私は皿を枕元に置くと、静かにお兄ちゃんの部屋から出ていこうとした。その時、お兄ちゃんの肩から染み出した血液が、白い布団を汚していることに気づく。


お兄ちゃんは、怪我をしていたのだ。


7歳のわたしでも、「何かがあった」のだと気づいた。


車に轢かれたのか、誰かに襲われたのかは定かではない。だけど、お兄ちゃんが苦しんでいるのは見ていられなかった。


私の足に何かが引っかかる。


お兄ちゃんが持っていたバットケースだ。


お兄ちゃんは野球なんかしない。じゃあ一体、何が入っているのだろうか?


私は恐る恐るバットケースを持ち上げた。かなり重い。


ファスナーを指で摘む。心臓がバクバクと跳ね、初めて額から脂汗が染み出した。異様に喉の乾きを覚える。


そして、私はバットケースの中を見ていた。








私は初めて、日本刀を見てしまった。










続く









その②に続く

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