第31話 架陰と鉄平Part2 その③
黒い稲妻走る雨の道
黒い翼を羽ばたかせ君が舞う
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「ほら、傷口見せてみな」
架陰は「自分で塗れるよ」と言いながらも、着物をたくし上げ、脇腹の傷を見せた。そこに、鉄平が椿油を塗り込む。
傷口がほのかに熱を持ち、直ぐに回復を開始した。
「本当に早いね」
「これが、軟膏型の回復薬の力さ」
軟膏型の回復薬。傷の治りが早いが、摂取型のような、体力回復の力は無い。
摂取型の回復薬は、傷の治りが遅い分、体力の回復も同時に行ってくれる。
(使い分けだな・・・)
架陰は脇腹の傷が完全に塞がったのを確認した。
「でも、助かったよ。鉄平くんが来なかったら、危なかった」
鉄平は満更でもない顔をした。
「いいってことよ。架陰のためなら、俺はなんだってするぜ!!」
「うん・・・」
何故だろう。気が重い。
脇腹にも椿油をなってもらい、架陰の傷は完全に治癒した。
身体が違和感無く動くのを確かめると、「じゃあ、戻ろう」と言って立ち上がる。
鉄平が首を傾げた。
「戻るって、どこに?」
「クロナさんのところだよ」
「ああ、姉さんか・・・」
(何故そんなにガッカリした顔をする?)
架陰はクロナの待機する場所へと戻った。
「クロナさん、ただいま戻りました・・・」
「ああ、おかえり」
岩陰に寝転んでいたクロナが身体を起こす。
「随分遅かったわね」
「UMAと戦っていたので・・」
「は?」
クロナの眉間にシワが寄った。
「あんた、まさか、リザードマンと戦ったんじゃないでしょうね?」
「戦いましたよ」
架陰は当たり前の事のように頷いた。その後ろから鉄平が顔を出し、「オレがサポートしたんだぜ!!」と胸を張る。
クロナは「呼びに戻りなさいよ!!」と声を荒らげた。
「私だって戦ったのに!!」
「ですけど、クロナさん、怪我してましたし・・・」
「治ったわよ!!」
実際は治っていなかった。しかし、後輩が戦っている間に、自分は寝転んで休んでいたと思うと、恥ずかしくなったのだ。
「どれ・・・」
架陰がクロナの胸を触る。
「おいこら」
クロナは反射で架陰の頭を殴っていた。
「なに流れる動作で人の胸を触ってんのよ」
「いや、肋折れていたんで・・・」
「治ったわよ。それに、触ってわかるもんじゃないでしょう」
「大丈夫ですよ。クロナさん、胸、な」
「なんて?」
架陰が言うよりも先に、クロナの拳が、架陰の口を塞いでいた。
「誰が貧乳って?」
「誰も言ってません」
架陰の胸ぐらを掴んだクロナは、彼が持っている刀に気がついた。
「あんた、それは?」
「ああ、これですね」
架陰は授けられた新たな刀をクロナに見せた。
「名刀・赫夜。僕の新しい刀ですよ!」
「へえ」
クロナは黙って架陰から刀を受け取った。品定めするように、刃を見つめる。
(木刀の中から出てきた?)
なんの混じり気もない、白銀の刃。見たことがない刃紋だ。装飾もされていない、シンプルなデザイン。
「ちょっと使うわよ」
クロナは赫夜を中段に構え、姿勢を低くした。
「ふっ!!」
目の前にある岩に、素早く切り込む。
キイインッ!!!
劈くような音が響いた後、岩は、真っ二つに割れていた。
「凄い切れ味ね」
「いや、凄いのはクロナさんですよ」
いとも容易く岩を斬ってのけたクロナに、架陰は顔を引き攣らせた。
クロナは「このくらい当たり前よ」と言って、刀を架陰に返す。
「私の得意分野は、居合。専門武器は日本刀よ」
「へぇ・・・」
架陰も試しに赫夜を振ってみたが、岩を前に弾き返された。
ちなみに、赫夜は全く刃こぼれしていない。
(刀もすごいけど、クロナさんも異常だな)
そういえば、初めてあった時も、鬼蜘蛛の肢を一瞬で斬り裂いていた。あれも、彼女の居合の力だろう。
(いつも思うけど、なんでこれで刀を使おうと思わないんだろ?)
クロナは自分の肋が治ったことを確かめると、上を指さした。
「どうする?」
「どうするって?」
「響也さんのところに戻るかどうか?」
答えは簡単だった。
「戻りましょう」
鉄平は、「え、戻るのかよ!」と頬をふくらませた。「今日は疲れたろうが。もう少し休んでからにしようぜ!!」
「そういう訳にもいかないのよ」
クロナは鉄平を無視して、落ちてきた斜面を登ろうとした。
「早く合流しないと」
そして、十メートルほど、壁のような斜面を登ったあと、転がるようにして落ちてきた。
「何してるんですか?」
「今のなし」
クロナは舌打ちと共に起き上がった。
「まずいわね。登れなくなったわ」
架陰と鉄平は、斜面の上を見上げた。
岩も見えるが、ほぼ細かい土と木の根。80度は傾斜していると言ってもいい。
「これ、登れるんですか?」
「無理っぽい」
第32話に続く
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