第31話 架陰と鉄平Part2 その②
逢うことも
涙に浮かぶ我が身には
死なぬ薬も
何にかわせむ
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リザードマンの動きを見て、鉄平はあることに気がついた。
(そうか、こいつ・・・)
「一応言っておこう」
リザードマンから目をそらさず、架陰にあることを伝えた。
「このUMAは、人工UMAだ」
「人工UMA?」
その名の通りのUMAだと言うことはわかったが、どうしてそんなものがここにいるのか理解出来なかった。
鉄平はニヤリと笑う。
「お前の総司令官も、酷いことするねぇ」
「アクアさんが・・・?」
確かに、この蛇山に辿り着くまでのアクアの様子は変だった。
「特例管轄地域ってのは、半分嘘だな。ここは、SANA(未確認生物研究機関)公認の、【修行場】だ」
「修行・・・?」
「ああ、お前も見ただろ? 山を取り囲むあの高い柵を。あれは、UMAが外に逃げないようにするためのもの。つまり、この蛇山では、数多のUMAが、生け捕りにされているんだよ」
「そんなことして、何になるんですか?」
「手っ取り早くUMAと遭遇するためだよ。ランクを上げたい班が利用する手だ。この山に入れば、確実に強いUMAと遭遇できる。強いUMAを倒せば、ランクが上がるってわけだ」
話に興じる二人に、リザードマンが襲いかかる。
鉄平は「おっと!」と、身軽にその攻撃を躱した。
「そして、このリザードマンは、生物実験で作られたUMAだ!」
「実験!?」
「ああ、SANAにいるんだよ。こういうのが大好きなマッドサイエンティストが・・・」
リザードマンは標的を架陰に変え、架陰に攻撃する。
架陰は爪を受け流し、右腕を名刀赫夜で両断した。
「マッドサイエンティスト?」
「その名も、【スフィンクス・グリドール】。SANA四天王の、【多聞天】の称号を持つ男だ」
「四天王・・・?」
鉄平が発する言葉全ての意味が分からない。
鉄平は「分からなくていいさ」と言い、リザードマンの攻撃をいなし続けた。
「どうせ、俺たち下っ端のハンターには、一生会えない人だ!」
とりあえず、何か大きな力を持つ人が関わっているということはわかった。
鉄平の話が一通り終了すると、二人は本格的にリザードマンの攻略を開始した。
「頭を狙え!!」
「うんっ!!」
リザードマンは吸血樹をも凌ぐ高い再生能力を有する。ちまちまと鉄平の鉄棍でダメージを与える訳にはいかなかった。
狙うは、一撃必殺。
「オラァ!!!」
鉄平がリザードマンの攻撃を引き付け、その隙に架陰が攻撃を仕掛ける。
「名刀・赫夜!」
首を狙ったが、直前でリザードマンの尻尾が邪魔をする。
ザンッ!!!
尻尾が切断された。
「くそっ」
「それでいい、叩き込め!!」
鉄平の後押しの元、架陰は空中で身体を捻った。
(うっ、肋が痛い!!)
それに必死で耐え、新たらしく手に入れた刀を振り切る。
「やあっ!!」
ザンッ!!!
リザードマンの首から血が噴出した。
だが、リザードマンが身体を仰け反らせたおかげで攻撃が逸れ、首を落とすのに至らない。
「くっ・・・」
一瞬で再生したリザードマンの尻尾が、架陰を吹き飛ばす。
「架陰!!」
肋の痛みで受身が取れず、付近の草むらに突っ込んだ。
鉄平の気が逸れる。
「うっ!!」リザードマンの攻撃を交わしきれず、赤スーツの肩口から出血した。
「舐めんなよ!!」
鉄平は鉄棍を槍のように持ち替え、リザードマンの腹を突く。
「オラァ!!!」
普通の相手なら、胃を刺激され悶える。だが、リザードマンの堅い皮膚を前に、攻撃は内蔵に届かない。
ならば。
「架陰!」
「うんっ!!」
草むらから架陰が飛び出した。
赫夜を両手で持ち、魔影を発動させる。
「魔影・・・、弐式!!」
架陰の血液を触媒として、皮膚の表面から黒い霧が湧き上がった。
架陰のイメージで、魔影は自在に動き、形を変える。先程は、木刀の「斬れない」というイメージが先行して、リザードマンを斬るに至らなかったが、名刀赫夜の「斬れる」イメージをもってすれば。
(強力な刃になる!!)
刃に魔影が纏わりつき、漆黒の大剣と化す。
「魔影刀+赫夜!!」
架陰の接近に合わせて、鉄平がリザードマンから飛び退く。
「決めろ!! 架陰!!!」
「分かってるよ!!」
架陰は刃に極限の集中を向けた。
前回の刀、【鉄刀】を握っていた時と、明らかに感じが違う。イメージがしやすい。
もっと硬く、もっと切れ味よく。
架陰の脳裏に、全てを斬り裂く刀が浮かんだ。
(これなら・・・!!)
リザードマンが架陰を迎え撃つ。
(くらえ!!)
架陰はリザードマンの脳天に刃を振り下ろした。
ブシュッ!!
「っ!?」
刃が届く前に、リザードマンの爪が架陰の脇腹を抉る。
鋭い痛みに耐え、刃を押し込む。
「いけぇ!!」
ドンッッッッ!!!!
リザードマンの頭から股にかけて、黒い閃光が走った。衝撃波で地面が割れ、振動が辺りに木霊する。
土煙と血飛沫が舞い上がり、架陰と鉄平を包み込んだ。
「はあ・・・、はあ・・・」
右半身と左半身に両断されたリザードマンは、白目を剥き、その場に倒れる。
二度と、再生することはなかった。
「やった・・・」
架陰は安堵の息を吐いて、魔影を解除した。
黒い霧が、空気に溶け込むようにして消える。
力を抜いた瞬間。
「架陰ーーーっ!!」
架陰に鉄平が抱きついた。「おまえ、すげぇな!! Aランクを倒したぞ!!」
「あ、ありがとう・・・」
祝ってくれるのは嬉しかったが、肋が折れ、脇腹から出血している状態で抱きつかれるのは苦痛でしかない。
「そんなことより」
架陰は、やんわりと鉄平を引き剥がした。
「回復薬を持っていないかい?」
「ああ、持ってるぜ!!」
鉄平は胸ポケットから椿油の小瓶を取り出した。
「使わせておくれ・・・」
「ああ、親友の頼みだからなっ!!」
(僕達、親友だったんだ・・・)
その③に続く
その③に続く




