第31話 架陰と鉄平Part2 その①
置く露の
光をだにぞやどさまし
をぐら山にて
何に求めけむ
1
薄暗く、ジメジメとした空気が漂う山の中に蠢く、赤いスーツの男。
「さてさて、架陰はどこかな?」
椿班班長、堂島鉄平は、草木をかき分けながら架陰を探していた。
つまり、彼もこの蛇山の領域に入っているということである。
「お、着物発見!」
鉄平は、岩陰に隠れるようにして横たわった人影を発見した。
一直線で飛びつく。
「よお!」
「なによ?」
クロナが不機嫌な顔で振り向いた。
「って、あんた、なんでこの山にいるのよ!?」
突然現れた場違いな男に、クロナは困惑して身体を起こした。
鉄平は、着物を着た人物が架陰では無かったことに心底ガッカリした。「ついてきたんだよ」と、ここにいる理由を明かす。
クロナの顔が白けた。
「ついてきたって・・・、あんたは出発前に引きずり下ろしたはずだけど?」
「ふふふ・・・」鉄平は不敵に笑いながら、スーツの内ポケットに手を入れた。「これだよ」
取り出したのは、スマホ。
「こいつで、架陰のトランシーバーから発するGPSの電波をキャッチした」
「あんた、それストーカー」
「そして、全力で追ってきた!!」
「えぇ・・・」
鉄平のストーカー紛いの行為に、クロナはドン引きした。
そのクロナの喉元に、鉄平の鉄棍が突きつけられる。
「さあ、姉さん、答えな。架陰はどこにいる?」
(私、姉さんなんだ)
悪い気はしなかった。
そして、架陰の居場所を隠す理由もなかったので、教えておく。
「あっちの方に歩いて行ったわよ。具体的な場所はよく分からないけど」
「承知した。姉さん!」
(私、姉さんなんだ)
何度でも言うが、悪い気はしなかった。
鉄平は、クロナから鉄棍を引くと、クロナが指さした方角に走って行こうとした。
クロナは一応引き止めた。
「あんた、何するつもり?」
鉄平は嬉々とした表情で振り向く。
「決まってんだろ! 架陰と一緒にUMAハントして、あの時の友情を取り戻すんだよ!!」
そして、クロナを置き去りにして行ってしまった。
取り残されたクロナは、「あいつ、あっち系の人か・・・」とドン引きしながら、また横になった。
(傷が治るまで、まだ時間がかかるわね・・・)
同時刻に、架陰がリザードマンと戦闘中ということは、知る由もなかった。
2
「さてさて、架陰はどこかな?」
鉄平は架陰を探して、山の中を駆けた。
クロナが指し示していた方向の近辺を捜索する。
「お、こっちから人の気配」
鉄平は、優れた動物的直感を持っていた。
そのため、目的の場所に近づけば近づくほど、殺気や、匂い、気配を敏感に察知することができるのだ。
「みっけ!!」
木々を抜けた三十メートル先の場所で何かのUMAと戦う架陰の姿を捉えた。
鉄平は、鉄棍を握りしめると、迷うことなく飛び出した。
「よおっ! 架陰!!」
「え、鉄平くん!?」
目の前のUMAと戦うことに集中していた架陰の視線が、横から現れた鉄平に注がれた。
その瞬間、架陰の隙を突いてUMAが動く。
「っ!!」
二本の脚で立つ緑色の身体、硬質な皮膚。ティラノサウルスを彷彿させる頭に、鋭い爪。
(あいつは、リザードマンか!!!)
「架陰、危ねぇ!!」
ギンッ!!!
架陰の頭を、爪が抉りとる寸前で、鉄棍が受け止める。
鉄平の足が三センチ後退した。
「重いな・・・」
だが、動きは封じた。
架陰と鉄平は、一瞬の目配せで、リザードマンへの攻撃方法を確認しあった。
「名刀・赫夜!!」
架陰は新たな刀を握りしめ、リザードマンの腕を斬り捨てる。
「ナイス!!」
斬り落とされた腕が地面に転がり、活きのいい魚のようにのたうち回った。
右腕を失ったリザードマンは、「グルルルル・・」と威嚇するように唸ると、二人から距離を取る。
「へへ、ビビりやがったな・・・」
「そんなことより、どうして鉄平くんが!?」
鉄平は「何を今更」と言うように鼻で笑った。
拳を握りしめる。
「お前のためなら、どこだって行くさ!」
(えぇ・・・)
架陰は少し引く。
鉄平が助太刀に入ってくれたのはありがたいが、特例管轄地域での共闘は許容されるのか、不安だった。
(鉄平くん、絶対に無断出撃だよな・・・)
鉄平は架陰の横に立つと、リザードマンに鉄棍を向けた。
「詳しい話はあとだ!! 二人で協力して、このリザードマンを倒そうぜ!!」
「う、うん・・・」
詳しい話なんてない気がする。
そうこうしている間に、リザードマンが右腕を再生させ、再び斬りかかってきた。
「右に回れ!」
「うんっ!!」
架陰は右に、鉄平は左に回り込む。
そして、挟み込むような形で、鉄棍と赫夜を振った。
ザンッ!!!
ゴキッ!!!
リザードマンの左腕が切断された。首の骨が折れる。
「畳かけろ!!」
「うんっ!!」
二人同時に攻撃を仕掛ける。
その瞬間、リザードマンは尻尾を地面に叩きつけ、砂利を巻き上げた。
「っ!?」
視界が奪われる。
その隙に、リザードマンは地面を蹴って距離を取った。
頭を動かして折れた首の骨を元に戻し、左肩に力を込め、新しい腕を生やす。
「っ、また再生・・・」
せっかく与えたダメージでも、直ぐに回復薬されてしまうことに、架陰は下唇を噛み締めた。
再生スピードは、吸血樹の倍速いだろう。
「心配すんな!!」
鉄平が架陰の肩を強く叩いた。
「俺と架陰の力なら、あいつなんか、簡単に殺せるぜ!!」
「う、うん・・・」
何故だろう。こんなに気が重いのは。
その②に続く
その②に続く




