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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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番外編【城之内カレン外伝】第一章

産み堕とされ


双極と成す

私には、双子の妹がいた。


何故それを今思い出したのか。自分でも不思議なくらい不思議だった。


私には、紅愛(クレア)という妹がいた。


何故それを今思い出したのか。自分でも怖いぐらい怖かった。










1


城之内家は江戸時代から続く由緒正しき家系だ。明治時代に貿易業で富をなし、戦後は製菓業で今日までその名を残してきた。


簡単に言えば、「お金持ち」だ。


だが、お金持ちに、「裏」というものは付き物で、こんな名家に成り上がるのにも、かなりの黒いことをやってきたのだと聞く。


私の執事である西原が言っていたことがある。











「いつの時代も、この家の当主は一人」だと。











城之内家は、奇妙な家系だった。


幼い頃、書斎で見た家系図を見て、首を捻ったことがある。


歴代の当主には、兄弟姉妹がいなかったのだ。つまり、一人っ子だ。


男ならば、男が当主となり、女を引き入れて子を産ませる。


女ならば、女が当主となり、男を引き入れて子を産む。


血を分けた兄弟姉妹は、争いの種となる。だから、当主は、いや、子供は一人で十分。


まるで細い糸のように、先代の血を繋いできていたのだ。


思えば、危険な橋だったと思う。


特に、江戸時代から大正は医療技術も発達していない時代。いつ病気になって、いつ死ぬかなんて予測できたものではなかった。


もちろん、私だって純血統を貫いてきただなんて信じていない。


多分、死ぬこともあったのだろう。


その時は、養子でも引き入れる。純血のように偽る。


塗り固めて塗り固めて、奇妙で、歪で、綺麗な構図を描いて、この城之内家は、生き残って来たのだ。


きっと、私のお父様もお母様も、この構図がずっと続いて行くのだと思っていたのだろう。


その安堵を、私と、クレアが壊すこととなる。











【畜生腹】。


これは、一度に多くの子を産んだ者に付けられる罵りの言葉だ。犬猫の獣は、一度に大量に子供を産む。つまり、「獣と一緒」という意味だ。


そして城之内家は、その畜生腹を不吉の象徴として忌み嫌う一族だったのだ。


私とクレアが、お母様も畜生腹にしてしまった。


お母様は家を追い出され、お父様は、次期当主に困り果てた。


跡継ぎの争いは絶対にあってはならない。


しかし、畜生腹の双子をこのまま家に置いておくわけにはいかない。お父様は、不吉を恐れたのだ。


そして、決めてしまった。











「一人に絞ろう」と。











簡単に言えば、口減らしだ。


もちろん、今の時代、本当に片方を殺すことはなく、「片方を養子として、別の家の子にする」という話となった。


私か、クレアか。


生まれて直ぐに私たちは比べられてきた。


伝い歩きするのはどちらが先か。


つかまり立ちするのはどちらが先か。


喋るのはどちらが先か。


オムツを克服するのはどちらが先か。


私たちの近くにはいつも誰かが立っていて、私たちが何かをする度に、持っていたクリップボードに何かを書いている。


比べられているなんて知らなかった私とクレアは、いつも仲が良かった。


いつも一緒に遊んだ。だけど、お父様が私たちに与えたのは、「勝敗を分ける遊び」だった。


トランプ。鬼ごっこ。オセロ。将棋。


そして、いつも私が勝っていた。


ピアノも、茶道も、剣道も、生け花も、学力だって、私が、一歩勝ってしまったのだ。


だが、その差はわずかなもので、お父様とて人の子。「可哀想だ」と言うぐらいの感情は持っていた。


だから、城之内家の次期当主になるのは誰になるのか。私たちが十二歳になるまで、決めかねていた。









私とクレアの運命を決定的に分かつことになるのは、十二歳の夏のことだった。











私に、初潮がやってきたのだ。


お父様は喜んだ。これで、跡取りを産むことができると。


だけど、クレアには、いつまでたっても、初潮が来なかった。


お父様の決意は、これで固まる。











「次期当主はカレンにしよう」


「クレアを養子に出そう」


「クレアはもう私の子ではない。その時が来るまで、牢に入れておきなさい」


私とクレアは引き離された。


クレアは人の目に触れないよう、地下室に閉じ込められ、私は、地下室に入ることを禁じられた。


お父様は優しい声で、「カレン、お前は一人っ子なんだよ」と、クレアの存在を無かったことにされた。


「お前が、次期当主なんだよ」と。


ある日の夜、私は一人で庭を散歩していた。そこで、聴いてしまった。


「ごめんなさい」


クレアの泣き声だった。地下室の牢屋の中から、湿気た壁を引っ掻いて、地を這うような声で、必死に謝罪していた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


産まれてきて、ごめんなさい。と。


お父様がクレアに言ったことなど、容易に想像が出来た。さすが双子だと思った。


「お前は本当に役立たずだな」


「お前さえ生まれて来なければ、こんなことをすることはなかったんだよ」


その時、私にクレアを救おうという気持ちは起きなかった。恐怖の方が勝っていたのだ。


もし、クレアを助けたら、私があの冷たい牢屋に入れられ、どこの誰か分からない家に連れていかれる。


もし私が当主にならなければ、この家は終わる。


これは、使命なのだ。


私は布団の中に潜り込み、クレアの謝罪が聞こえないように過ごした。


でも、クレアは私の耳元でずっと口を開き続けた。


「ごめんなさい、生まれてきてごめんなさい生まれてきてごめんなさい生まれてきてごめんなさい生まれてきてごめんなさい生まれてきてごめんなさい」


やめて。


やめて。


そうだ。生まれて来たことが間違っていたのだ。私は、心の中でクレアに言い聞かせた。


こんな家に生まれなければ、あなたも、もう少し幸せな人生が送れていたのかもしれない。


もしも、私とあなたの立場が逆だったならば、あなたは幸せになれていたのかもしれない。


ごめんなさい。クレア。


次期当主は、私なの。


私として、生まれてきた私を怒ってちょうだい。クレアとして生まれてきたあなたを、許してちょうだい。


どうか、あなたの人生に幸がありますように。


そういいきかせて、私は、クレアのことを忘れた。











































「クレア様が逃げたぞ!!」











































気がつくと、私は、廃工場の裏に立っていた。


目の前には、血まみれの男が倒れている。指がじくじくも痛んだ。見れば、指の爪が全て剥がれていた。


「おい」


誰かに話しかけられ、振り向くと、女の子が立っていた。


とても、美しい人だった。艶やか黒髪が風に靡き、漆黒の夜と同化する。頬に塗れた血は、まるで死神の化粧のように、夜に冷たき色彩を放っていた。


「あなたの名前は?」


「鈴白響也」


「私は、城之内カレンよ」


そうだ、私は、城之内家当主、城之内カレン。


あなたと、生きてきた者。


引き離された双子の残像をこの身体に宿し、戦う者。












第二章に続く


第30話 その③に続く

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