第30話 カレンの覚悟 その①
歳を経て
波立ち寄らぬ住み野への
まつかひなしと
聞くは真か
1
「あら」
いつの間にか、響也は目を閉じ、静かに寝息を立て始めた。
「響也寝ちゃった」
ゴートマンとの戦いでかなり体力を使ったのだろう。
傷も治りかけている。今はそっとしておくべきだ。
カレンは岩陰から身を乗り出して、あたりの様子を確認した。
「何もいないわねぇ」
先程のように、急にUMAが襲ってくる可能性もあった。またUMAの襲撃が来ても、対応できるのはカレンだけだ。
(響也は、私が守らないと・・・)
カレンは静かに決意した。
響也を介抱していて、久しぶりに思い出した事があった。
響也と、初めて出会った時のことだ。
正直言って、その時のことはぼんやりとしか覚えていない。自分は廃工場の裏に立っていて、その横に、響也が立っていた。
肌が半分はだけ、ボロボロの姿だったが、響也は月明かりに照らされ、とても美しかった。
その光景が、瞼に鮮明に焼け付いている。
(思えば、UMAハンターに志願したのも、響也と一緒だったわねぇ)
静かな所にいると、やけに感傷的になった。
響也の寝顔を眺めながら、昔の思い出に浸る。
その時だった。
「え?」
カレンは何かの気配を感じて振り向いた。
一瞬、目を疑う。
「これは・・・?」
カレンの目の前に、斧が浮かんでいた。
ゴートマンが握っていた斧だ。
だが、その使い手は居ない。
「斧だけが、宙に浮いている!?」
あの崖の下から飛んできたのだろうか。
そう言えば、ゴートマンとの戦いの時も、一度手放した斧が一瞬でゴートマンの手元に戻っていた気がする。
(この斧・・・、なんか嫌だ!)
カレンが恐怖を感じて、翼々風魔扇に手を掛けた、次の瞬間。
ヒュンッ!!!
「っ!?」
カレンの鎖骨辺りがカッと熱くなり、血が吹き出した。
(斬られた!?)
斧の刃か、一瞬でカレンを斬り裂いたのだ。
「風神之槍!!!」
カレンが放った竜巻が斧を吹き飛ばす。
だが、直ぐにその場に留まった。
(耐えた!?)
ふわふわと浮遊する斧の表面が、液体のように波打つ。そして、まるで水銀のように難化すると、空中で姿を変え始めた。
銀色の球体に姿を変える。
「あれは、機械生命体!!」
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UMA図鑑【機械生命体(UFC)】
体長30センチ
体重5キロ
ランクA
金属の体を持つ生物。自在に自分の体を変形させ、日常生活の色々な物体に紛れ込む。今回は、ゴートマンの【斧】に化けていたようだ。
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(なんてことなの・・・!)
カレンは身を震わせた。
(機械生命体は、ランクAの強力なUMA。遭遇率も低く、弱点が分からない!!)
未確認生物は、時として異形の形となって現れる。植物のような昆虫だった【吸血樹】もそうだし、人間のように武器を握る【ゴートマン】もそうだ。
そして、それは無機質なものにも適用する。
「金属の、生物・・・」
あの姿を金属と呼ぶのは、意見が分かれる所である。
硬いのか柔らかいのか分からない。液体のように姿を崩したと思えば、鋼のように硬質化する。
(とにかく、響也は守らないと・・・!!)
カレンは翼々風魔扇を左手に、響也のTheScytheを右手に握った。
機械生命体が液状化して、姿を変えていく。
斧の形状に変身した。
「くっ!」
斬りかかってきた斧を、The Scytheで受け止める。受け止めた所を、翼々風魔扇の竜巻で迎え撃った。
「風神之槍!!」
だが、竜巻が直撃する寸前で、機械生命体がカレンから距離をとった。
(外した!)
再び襲いかかって来る斧。
(受け止める!!)
カレンがThe Scytheを構えた瞬間、斧が空中でぐにゃりと姿を変えた。
(えっ!?)
The Scytheの間をするりと抜け、カレンの左手に直撃する。
「痛っ!!」
一瞬で、翼々風魔扇が空中に舞った。
「武器が!!」
機械生命体は、戦う上で、The Scytheよりも翼々風魔扇が危険だと判断したのだ。
(どういうこと!?)
カレンは地面を蹴って機械生命体から距離を取る。
(どうして、翼々風魔扇を!?)
翼々風魔扇は援護攻撃に特化した武器だ。The Scytheのような殺傷能力は無いに等しい。
それを、The Scytheよりも先に、翼々風魔扇の攻撃を封じた。
(何か、意味があるのかも・・・)
カレンはすぐさま、地面に転がった翼々風魔扇の回収に向かう。
だが、機械生命体が斧に変形してそれを阻む。
「どきなさい!!」
ギンッ!!!
カレンのThe Scytheと、機械生命体の斧がぶつかり合った。
「はあっ!」
打ち勝ったのはカレンの方だ。
女特有の柔らかい身体を利用して、しなやかな攻撃を食らわせる。
「命刈り!!」
ギンッ!!!
機械生命体は三メートル程吹き飛んだ。
直ぐに、踏みとどまる。
「そこまで吹き飛ばないわねぇ」
空中機動をしている。重力を無視した攻撃。
(とりあえず、殺り合うしかないわねぇ・・・)
カレンの目に、赤い炎が宿った。
その②に続く
その②に続く




