第29話 架陰VSリザードマン その②
まことかと
聞きて見つれば言の葉を
飾れる玉の
枝にぞありける
2
リザードマンは、姿勢を低くして架陰に斬りこんで来る。
「くっ!!」
架陰は木刀を下段に構えて、リザードマンの爪攻撃を防いだ。
(重い!)
勢いを殺しきれず、架陰の足が地面から離れる。
「キシャアッ!!!」
リザードマンは蛇の様に鳴くと、強烈なパンチを架陰にお見舞いした。
架陰の身体が後方に吹き飛び、地面からむき出していた岩に激突する。
「ぐはあっ!!」
受け身をとったものの、折れた肋骨に響く。息が詰まった。
(耐えろ!!)
架陰は全身に力を込めると、体勢を整えた。
顔を上げた瞬間、リザードマンが眼前に迫っている。
「はあっ!!」
振り下ろされた爪を木刀で防いだ。
このまま切り返して攻撃を入れようとしたのもつかの間、架陰の左側頭部に鈍い痛みが走り、架陰の身体が吹き飛ぶ。
「!?」
脳が揺れ、視界が歪んだ。
(何が起きた!?)
リザードマンの腰から生えた尻尾が別の生き物のようにうねった。
「あの尻尾で、死角から攻撃されたのか!」
リザードマンの武器はあの二本の腕だけでは無い。
更に尻尾。
つまり、三つの攻撃手段を持っていた。
「まだまだ!!」
何とか踏みとどまった架陰は、木刀を握り、リザードマンに斬りこんで行く。
振り下ろした刃を、リザードマンが迎え撃った。
ゴッ!!
リザードマンの爪が弾かれる。
「打ち勝った!」
架陰は流れるような動きで状態を捻ると、木刀の刃をリザードマンの頭に叩き込んだ。
リザードマンが仰け反る。
だが、直ぐに踏みとどまった。
(気ぃすら失わないのか!!)
リザードマンの爪が、架陰の足首を掴んだ。
「二度目は喰らうか!!」
架陰は足から魔影を炸裂させ、リザードマンの爪から逃れる。
ゴツゴツとした砂利の地面に転がる。体を丸めて、衝撃を緩和させた。
そして、手を着いて立ち上がる。
リザードマンも鋭い爪で斬り掛かる。
「っ!」
木刀で受け止めた。
両者互角の力。
架陰の顔とリザードマンの顔が接近する。まるで恐竜の頭だ。緑色の鱗が並び、剥き出しの牙からは血と油が混ざったような悪臭が漂う。金色の目の中央の黒い縦線が、キロキロと動いた。
「気持ち悪い!!」
架陰は木刀に魔影を纏わせると、全力で振り切った。
ボンッ!!
衝撃波で、リザードマンの身体が吹き飛ぶ。
「畳み掛ける!!」
追撃をする架陰。
だが、リザードマンは素早い動きで架陰の背後に回り込むと、架陰の背中に爪を振り下ろした。
「危な!!」
架陰は紙一重で躱す。直ぐにステップを踏んで距離を取った。
リザードマンの攻撃は続く。
架陰に接近して、爪を振り下ろした。
架陰はその攻撃を受け止めようと木刀を構える。しかし、次の瞬間には下から蹴りあげられていた。
「がはっ!」
(フェイントだと!?)
爪は囮。下からの攻撃への意識を背けさせるものだった。
架陰はひたすらに攻撃を防ぎ続けた。
爪、爪、尻尾。爪。尻尾。爪、爪、爪、爪、爪、尻尾。
五箇所から放たれる変幻自在の攻撃に、防戦一方となる。
「はあっ!!」
やっとの思いで作った隙を突いても、この木刀では斬る事が出来ない。
「こいつ、本当にUMAなのか!?」
余りにも速く、繊細な攻撃に、架陰はリザードマンの存在自体を疑い始めた。
目の前にいるのは、UMA。
だが、この強さは、UMAの域を超えていた。
フェイント攻撃をしてきたり、ピンポイントで攻撃を命中させてきたり。
「くそおっ!!」
焦れったくなった架陰は、ついに木刀を大きく振った。
もちろん、リザードマンには当たらない。
直ぐにカウンターを食らった。
「ぐあああっ!!」
蹴りつけられた胃袋が、ドグンッ!!痙攣した。次の瞬間には、内容物が込み上げる。
「うぷっ!!」
それを飲み込んで、リザードマンの脚を掴む。そこに、右手で握った木刀を振り下ろした。
バシッ!!
だが斬れない。
(まだだ!!)
架陰は駄目押しで魔影を発動した。木刀に黒いオーラを纏わせ、更に踏み込む。
「魔影刀!!!」
ドンッ!!!
衝撃波が、リザードマンの健脚に炸裂する。
堅い皮膚のなかで、パキパキと骨が砕ける音がした。
「よし、脚を封じた!!」
脚を折れば、蹴りが使えない以前に、立っていられない。
動けなくなっているところを、全力で攻撃する。
しかし。
「がはっ!?」
再び、リザードマンの蹴りが架陰の腹に直撃した。
力なく空中に投げ出される架陰。
(嘘だろ!? 平気なのか!?)
脚の骨を砕いたというのに。
着地したところを、再びリザードマンの蹴りが襲う。しかも、砕いた右脚だ。
「ぐっ!!」
何とか木刀で防ぐ。
(そうか・・・、骨は砕けたけど、周りの筋肉が支えているのか!!)
だが、強力な蹴りを前に、またしても吹き飛ばされてしまった。
木の幹に激突して止まる。
「く、くそ・・・」
架陰はフラフラと立ち上がり、木刀を握り直した。
(ちゃんと斬れる刀なら、もう少し、戦えるのかも・・・)
だが、架陰が装備しているのは、斬る事が出来ない木刀。刃は丸く、殴る事しか出来ない。
架陰は歯がゆくなって、木刀を見た。
「あっ・・・」
やはり木刀だ。
これまでのリザードマンの攻撃を受け続けた結果、枝分かれしたようにヒビが入っていた。
「くそ、あと一撃が限度だな・・・」
架陰は向かってくるリザードマンに木刀の鋒を向けた。
あと一撃で、この木刀は、折れる。
その③に続く
その③に続く




