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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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番外編【鈴白響也外伝】第一章

多分地獄では楽しくいられるんじゃないだろうか

架陰がいつの日か、「響也さんは凄いですね!」と言われた。


思わず、「どうして?」と聞き返していた。


架陰の目は、痛いほどに真っ直ぐで、「だって、強いし、いつも冷静ですよね?」と言った。


その言葉は、真っ直ぐ、私の胸に突き刺さった。


心臓の奥が、鈍く疼いた。


「そうか・・・」


買いかぶり過ぎた。


私はそんなにすごくない。


人は、私を【死神】と呼ぶ。


死神のようにUMAの命を奪ってきたからだ。そして、肩に担ぐ大鎌。これで、死神以外になんと言うのか。


だから、私の身体の中には死神の冷たい血が流れているんだよ。


決して浄化することが出来ない、汚い死神の血だ。










1


自分の家が普通では無いと気づいたのは、市役所の人がやってきた時からだ。


ビールの空き缶が散乱したアパートの玄関に、スーツを着た男の人が二人。


「お子さん、小学校に行っていないような気がするんですが・・・」


父さん以外の男を見たのは初めてだった。それが、あまりにも弱々しい声だったもので、私は一瞬「女の人かな?」と思った。


そして、気の毒だと思った。


父さんは酒を飲んで気持ちよく寝ていたのだ。それを邪魔するようにインターフォンを鳴らすと、さすがに父さんは怒るだろう。


「ああんっ!?」と父さんが凄む声が聞こえた。


「帰れよ!! オレにガキなんていねぇ!!!!」


あ、今傘を投げたな。今度はビール瓶か・・・。さすがに激しい。


市役所の人は、「警察を呼びますよ!」と言った。


「おうおう!! 呼べやぁ!!!」


どうせ、警察きた頃には、父さんの良いも覚め、「そんなこと言ってねぇぞ。帰れやぁ!!」とでも言うのだろう。


いつものオチだ。


「くそっ!! 目覚めが悪いっ!!」


市役所の人を追い返した父さんは、ドカドカと部屋に戻ってきて、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。


あと三本。


多分今日中に飲んでしまうんだろう。もし切らしていたら、私は気絶するくらい殴られる。


身震いが、私をつき動かした。


私はそっと立ち上がった。父さんがビールに夢中になっている間に、外に出る。


よれたスカートに、シミだらけのTシャツ。いかにも貧民の格好だ。道行く人は、私をちらっと見るが、何も言わずに通り過ぎていく。


夕方で良かった。ここから世界は少しずつ色を失い、私の姿も覆い隠す。


閑散とした路地を通り、ある酒屋の前に出た。


古びた店の前に、日本酒からビールから、色々な酒が揃っていた。それを、やってきた人はわざわざ奥にいる店主に持っていき、金を払って持っていく。


私には、それが理解出来なかった。


道路の前に置いているんだ。だから、バレなければ盗ればいい。


盗らなければ、私が痛い目に合うんだ。


「おい!! 何している!!」


ビールの缶を抱えた私を、禿げた店主が見つけた。


追いかけてくる。


私はアスファルトを思い切り蹴りだし逃げた。


振り返って見ると、店主の姿が一瞬で小さくなっている。


逃げることは得意だ。何度もこうやって盗んでいる度に上手くなった。脚の筋肉もついて、もっと速く走れるようになった。


家に帰った私は、そっと冷蔵庫の中にビールを入れる。


酔った父さんは、当たり前のようにそれを取り出して、プルトップを開けるのだ。


そして、「ぬるいじゃねぇかっ!!」と言って、私にビールを掛ける。さすがにそれは想定してなかった。


父さんは、ビールで濡れた私を押し倒した。


「ああん!? オレのなんでオレの酒がぬるいんだよ!!」


酒臭い息を私に吹きかける。


私は目を閉じて、これから始まる痛みに耐える準備をした。


いつもなら、腹を数発殴られて、頬も叩かれて、アパートの壁に思い切り叩きつけられる。最悪、煙草を押し付けられる時もあったが、それは稀な方だ。


私は、そのくらいの仕打ちを想像していた。


慣れているんだ。耐えられるんだ。少し我慢すれば、大丈夫なんだ。


だけど、その日は違った。


「そういや、お前・・・、あの日が来たらしいな・・・」


父さんの私を見る顔が、明らかに変わった。大好きなビールを飲んでいる時の顔だった。


「え・・・?」


「知っているんだぜ、お前が夜な夜なパンツを洗っていることを・・・」


当時、十歳の私だ。その日が来ても当然のことだった。そして、毎日毎日暴力を振るわれていたんだ。ホルモンのバランスが崩れて、その日が安定しないのも頷けた。


父さんは、涎を啜った。


「馬鹿な女に孕ませたガキだったが、これまで生かしておいて正解だった」


私の頭を、恐怖が突き抜けた。


今からされることは、殴られることよりも酷いことなのだと、本能で悟った。


「嫌だ!!」


私は手元にあった空のビール瓶で父さんを殴った。


「ぐっ!!」


破片が飛び散り、私に降りかかる。


父さんの血が、私の顔にかかった。


「くそっ! 見えねぇ!!」


父さんは目を抑えてうずくまった。その隙に、私は父さんの拘束から抜け出す。そして、破片で足裏を切りながら、外に飛び出した。


「この野郎!! 待てっ!!!」


父さんが追いかけてくる。


逃げるのは、得意だった。










その日から、私はずっと生きてきた。


食べ物を盗み、服を盗み、金を盗んだ。公園の遊具を屋根にして眠った。


出ていった母さんがずっと言っていたことがある。


「響也の髪の毛はとても綺麗ね」


だから、髪の毛の手入れも怠らなかった。三日に一度は銭湯に行き、盗んだ金でシャンプーをした。皮脂を削ぎ落とし、艶が出るように磨きあげた。


自分で言うのもなんだが、私は、孤児と呼ぶにはあまりにも綺麗な身なりをしていたのだと思う。


だから、私のことを放っておかない男も多かった。


夜は特に求められた。


「あっち行け」「嫌です」と言って諦める男なら楽だったが、時には無理やり車に連れ込んで来ようとする者もいた。


まるで、あの時の父さんのように。


だから、強くならないと行けなかった。


女の私はどうしても力が弱かった。だが、身体は柔らかかった。脚を主軸に回転して、遠心力で勢いを付ける戦いは、私にピッタリだった。


工事現場で拾った鉄パイプだが、それを、持って回転すれば、かなりの威力が出る。


近づいてくる輩は、鉄パイプで全部一掃してやった。


いつしか私は【死神】と呼ばれるようになった。私に近づいてくる男も少なくなった。


そうやって、ずっと生きてきたんだ。










十四歳になったある日のことだった。


その日は久しぶりに高揚した夜だった。


久しぶりに、「今夜どうだい?」と誘ってくる男がいたもので、私は遠慮なく叩き潰してやろうと思った。


だが、そいつが有段者だったのだ。


かなり手こずった。危うく、道路の真ん中で、純血を奪われるところだった。


そいつを何とか倒して、フラフラになりながら夜道を歩いていた。


あの痛みは覚えている。久しぶりに腕の骨を折られて、鉄パイプが握れない状態だった。


人気の無い道路。周りは防風林に囲まれ、眼下には空き家の多い廃れた町。今ここで、先程のような暴漢に襲われたら、多分為す術が無い。


そんなことを思っている私に、声が聞こえた。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


女の声。


女王の冷笑と言うべきか。


私はその声に引かれて、ある廃工場に向かっていた。


「ねぇねぇ!!もっと見せてよ!! もっと遊んでよ!!」


工場の裏で、誰かと誰かが喧嘩している。足元には、気絶した暴漢がいくつも転がっていた。


そいつは、油と土の匂いが混じるその場所で、血まみれで立っていた。


天の月に掲げるように、男の首を締めていた。


「ねぇ、足りないのよ・・・、もっと私を楽しませてよぉ!!」


「おい」


私はその女に話しかけていた。


女が男の首から手を離して私の方を向く。


「だあれ?」


「死神だよ」


その時、初めて私は自分の呼び名を自己紹介として使っていた。


すると、闇の向こうにいるその女は、「ふふふ」と微笑んだ。


「私の名前は、城之内カレンよ」


聞いた事があった。隣町の、老舗の名家だと。


随分と、汚いものに塗れている。


初めて会った時の彼女は、ハッキリ言ってイカれていた。


「私は城之内カレン。私は城之内カレン。私は城之内カレン。私は城之内カレン」


ずっと、まるで自分に暗示するように呟いていた。











生きてきたんだ。ずっと一人で。


でも、その日から、私は一人じゃなくなった。


生きてきたんだ。ずっと二人で。


同じ匂いを持つもの同士、肩を寄せあって。互いの汚れた血を、浄化し合って。











カレン。あいつにはあいつの過去がある。多分、私なんかよりどす黒い。


だけど、それはまた別のお話。


一言言えるとしたら、私は、カレンと出会って、救われたんだ。


彼女が、私と出会って救われたように。











生きていこう。


これからもずっと、二人で。


死神と鬼だ。多分、地獄では楽に過ごせるんじゃないかな?











第二章に続く。


彼女の名は鈴白響也


死神だ

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