第28話 響也VSゴートマン
日輪が焼く我が皮膚は
ひび割れ
剥がれ
真実を暴き出す
1
突如来襲したリザードマンの攻撃に、クロナは為す術がなかった。
「がはっ!」
腹に強烈な一撃を喰らい、そのまま、小道を外れ、崖の下へと落下する。
「クロナさん!!」
響也が「追え、架陰」と指示するよりも先に、架陰は崖の下へと飛び降りていた。
約80度の急勾配を一気掛けおりる。
生え出た木々を躱し、剥き出しとなった岩を躱す。
重力に任せて、前方三十メートル先のクロナに向かって一直線に進む。
「クロナさん!!」
「架陰!!」
クロナも受身を取りながら落下の衝撃を和らげているが、ほぼ落下していると言っていいこの斜面では、上手く身体を固定出来ない。
(あと少し・・・)
架陰はクロナに手を伸ばした。
だが、その瞬間、架陰の足首に異変が起こる。
「えっ!?」
強い力で握られたのだ。
猛スピードで動いていた架陰の身体がピタリと止まり、体内の内蔵が三ミリ動いた。
「お前は!?」
振り向くと、リザードマンが架陰の足首を掴んで、勢いを完全に殺していたのだ。
(こいつ、速い!?)
そして、爬虫類質の剛腕を使い、架陰の身体を地面に叩きつける。
ボンッ!!!
黒い土が粉砕して、架陰の身体が三センチ地面にめり込んだ。
「ぐはあっ!!」
リザードマンは架陰の足首を掴んだまま離さない。
そのまま、隣に生えた杉の木の幹に叩きつける。
ゴリッと、鈍い音が耳の奥で響いた。
(こいつ、強い!!)
右胸がカッと熱くなった。肋骨の一、二本が折れたらしい。
「くそっ!!」
架陰は腰の木刀に手をかけると、思い切り身体を捻って回転した。
「僕は、腕の粉砕骨折をしても平気だった!!」
回転を威力に変え、リザードマンのティラノサウルスのような頭に蹴りを入れる。
ゴツッ!!と、手応えありの音。
架陰の足首を掴んでいた手の力が弱まった。
「よしっ!!」
架陰はスルッとリザードマンの拘束から逃れる。
「【魔影】発動!!」
空中で体勢を整える間に、自分の能力を行使した。
眼球が赤く染まり、皮膚から黒い霧のようなオーラが染み出す。
それを、木刀に纏わせ、黒い大剣に変化させた。
「【魔影刀】!!」
隙を見せたリザードマンの右肩に、魔影を纏わせて作った刀を叩き込む。
ボンッ!!!
黒い刃が衝撃波を発生させ、リザードマンの二メートルはある巨体を地面に叩きつけた。
「お返しだ!!」
一矢報いることには成功したものの、仕留め損ねた。リザードマンは強力な力で倒されただけで、刀特有の切り傷は出来ていない。
(やっぱり、木刀に魔影を纏わせても、【切れないもの】というイメージが付与されるから、威力が上がらないのかっ!!)
だが、架陰に追撃をしてリザードマンの命を奪う余裕は無かった。
こうしている間に、クロナが崖の下へと転落して、見失う可能性がある。最悪、死だ。
「クロナさん!!」
架陰は再び重力が働く方向を見た。
「頼むぞ、魔影!!」
木刀に宿った魔影を、今度は脚に纏わせる。
「魔影・弐式・魔影脚!!」
架陰の脚が、漆黒のオーラを纏った。
魔影の能力は、触れた物質との間に衝撃波を生み出すということ。
そのため、魔影が宿った刀は、超強力な斬撃を放てるし、魔影が宿った腕は超剛腕になる。
ならば、魔影が宿った脚は。
(強力な、バネになる!!)
架陰は思い切り地面を蹴り出した。
まるで魚雷のような勢いで、架陰の身体が、頭から崖の下へと発射された。
「これで、一気にクロナさんの所まで!!」
と思った矢先、架陰の目の前に岩が迫る。
「おわっ!?」
架陰は身をよじってそれを躱した。
架陰の降下スピードが上がったのは良かったが、その分、回避能力が下がったのだ。
「だったらっ!!」
架陰は足裏に魔影を集中させた。
「空気を、反発させる!!」
その瞬間、架陰の一直線を描いていた軌道が直角に逸れた。
「できた!!」
架陰は空気と魔影の間に衝撃波を発生させた、強引に軌道をずらしたのだ。
「このまま!!」
架陰は魔影を使ってスピードを上げ、魔影を使って、身体の軌道をコントロールしながら崖の下へと向かった。
木々の間を抜け、岩を躱し、そして、平坦な場所へと抜ける。
「クロナさん!!」
魔影を足に纏わせたまま、着地する。
結果、足裏と地面の間で爆発が起き、地面を深く抉ることとなった。
「どこですか!?」
架陰は抉った穴から飛び出すと、クロナの姿を探した。
真っ直ぐに降りて来たのだ。この辺にいるはずだ。
「あ」
発見。
クロナは、異様に捻れ曲がった木の枝に引っかかっていた。身体中泥で薄汚れ、髪や着物の袖が力なく垂れ下がっている。
「クロナさん!」
架陰は魔影を利用して跳躍すると、クロナを枝から救出した。
こめかみから血が滲んでいる。ここを打ち付けたことが、気絶に繋がったのだろう。
「失礼します」
架陰はクロナの胸に耳を当てた。
(やっぱり、小さいから聴きやすいな)
クロナの心臓は脈を打っていた。
「よかった・・・」
とりあえずホッとする架陰だった。
その②に続く
UMA図鑑【リザードマン】
ランクA
体長2m
体重97キロ
その名の通り、【トカゲニンゲン】。爬虫類質の体表は堅く攻撃を通さない。脂肪がほとんどなく、締まった筋肉を持っているので、攻撃力も優秀。能力は【再生】で、外傷は簡単に治る。




