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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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第25話 暗躍する薔薇 その③

薔薇一輪


一輪ほどの温かさ

3


クロナは沼の底から這い上がるように、意識を取り戻した。


「うう・・・」


身体中に脂汗をかいている。頭が重い。全体的にだるい感覚が残っていた。


「えーと、私は何をしてたんだっけ・・・」


とりあえず起き上がると、右肩に痛みが走った。触ってみると、包帯が巻かれている。


これで、クロナの記憶が戻った。


「そういえば・・・、椿班のやつに狙撃されて・・・」


麻酔銃だった。そして、気を失った。


状況確認のために辺りを見渡す。清潔感ある白い壁に、消毒液の匂い。奥の棚には、薬品が並んでいた。


「医務室・・・」


ここは、成田高校の地下にある桜班本拠地の医務室だった。


クロナはあまり怪我をしたことがないので、ここに運び込まれることは滅多にない。記憶を辿るのに時間がかかってしまった。


医務室の扉が開いた。


「目、覚めたか・・・」


響也が入ってくる。もう高校の制服に着替えて、手にはスポーツドリンクのボトルを持っていた。


「ほら、飲め」


入口からベッドの上のクロナまでスポーツドリンクを放る。


「ありがとうございます」


クロナはそれを受け取ると、直ぐにキャップを捻った。


頭痛は、水分不足によるものだったらしい。一口飲んだだけで、だいぶ楽になった。


「ふう・・・」


響也は壁に立てかけられたパイプ椅子を持ってきて、クロナの横に座る。


じっと、クロナの顔を見る響也。あまりにいい話をされる予感はなかった。


「今回のUMAハント、かなり厄介だった」


「すみません・・・」


咎められる前に、クロナは頭を垂れて謝る。


「私が、椿班なんかに、撃たれなければ・・・、戦闘員も一人多かったんですが・・・」


「過去の話はどうでもいいんだか・・・」


響也はスカートを履いているというのに、長い美脚を組んだ。


「これだ」


ポケットに入れていた何かをクロナに渡す。


二丁拳銃・・・、クロナの【w-Bullet】だった。


「弾は抜いてるから」


「ああ・・・」


クロナは拳銃をとりあえず握ってみた。


これで響也は何を言おうとしているのだろうか・・・?


響也の隈の浮いた目が、ぎらりと光った。


「お前、この武器を使いこなしていないだろ・・・」


「えっ?」


自分でも薄々分かっていた事だった。


「不思議に思っていたんだ・・・、お前は居合の名手。刀を持たせた時の抜刀速度は群を抜く・・・、なのに、何故、【狙撃武器】を使用しているのか・・・」


「そ、それは・・・」


「まさか、架陰が刀を持っているからか?」


「はい・・・」


クロナは素直に頷いた。


響也はため息をついた。


「確かに、近接が二人もいると、いや、私を含めて三人か・・・、陣形が崩れるのは分かるが・・・、カレンが翼々風魔扇を使いこなせば、遠距離武器としても対応出来る」


響也は、クロナに諭すような目を向けた。


「おまえ、椿班の狙撃を食らって、どう思った?」


「どうって・・・」


クロナは自分が麻酔銃を打ち込まれた時のことを鮮明に思い出した。


銃弾の接近に、全く気づかなかった。


「凄かったです。私のなんかより、正確で、速くて・・・」


「あれが、本物の狙撃手だよ」


響也はその答えを待っていたと言わんばかりに頷く。


「お前の銃は、縁日の射撃みたいなものだ・・・」


「そうですよね・・・」


返す言葉が見つからない。


クロナにも焦りはあった。最後に刀を握ったのは、鬼蜘蛛との戦いきり。架陰が桜班に入ってからはずっと二丁拳銃で戦っている。


そして、その武器で戦果を挙げられていないことも。


クロナは下唇を噛み締めた。


「すみません。今回の失態、全て私の責任です。これからは、もっと・・・、命をかけて戦います・・・!」


「ああ、それでいい・・・」


響也は静かに頷くと、パイプ椅子から立ち上がった。


「もう少し休むといい」


ローファーでコツコツと乾いた音を立てて、響也は医務室を出ていった。










4


そこは、椿班の管轄地域の隣の町だった。


特段、椿班とも、桜班とも変わりのない、普通の町。


田舎でも都会でもない。


強いて言えば、町のど真ん中に、大正時代に金持ちの資産家が建てたような、洋風の屋敷があることくらいだ。


「お嬢様・・・」


「なあにぃ?」


屋敷の東向きの部屋にて、その話し合いは行われていた。


床一面に赤いシルク絨毯。無地なのは、ここの当主が、複雑な模様を嫌うから。


壁には、高額な絵画たち。全てを売ってしまえば、数億円に匹敵するだろう。


そんな金の気が蔓延する空間で、タキシードの男が頭を垂れていた。


「お嬢様、桜班の新入りの少年の写真を入手しました・・・」


俯いているため、男の顔は分からない。だが、しわがれた声や、白髪混じりの頭・・・、歳を食っていることは確かだ。


男は、タキシードの内ポケットから、数枚の写真を取り出す。


それを、目の前にいる「お嬢様」に渡した。


「名前を、市原架陰と言います。使用武器は刀。あと、奇っ怪な能力を使います・・・」


「ありがとう・・・」


お嬢様は写真の中の架陰の顔をうっとりと眺めた。


「素敵だわぁ・・・、この凛々しい眼差し・・・」


「では・・・」


「ええ、この人を、私の殿方にします」


「かしこまりました・・・」


「ああ、早く会いたいわぁ・・・、市原架陰くん。次に会う時は、・・・、【ハンターフェス】かもしれないわねぇ・・・」


「その時が、狙い目でしょうね・・・」


タキシードの男は、ゆっくりと立ち上がった。


「市原架陰には、我々、【薔薇班】に入って貰いましょう・・・」


「そうねぇ」


お嬢様は上品な笑みを浮かべた。










「任せたわよぉ、西原・・・」










西原と呼ばれた初老の男は、恭しく頷いた。


「かしこまりました。花蓮お嬢様・・・」











第26話に続く

架陰「なんか、寒気がした・・・」


カレン「あらぁ、風邪?」


架陰「いや、響也さんのエナドリ飲みまくっているので、そんなはずないんですけど・・・」


カレン「あなたも中毒ねぇ」


架陰「断じて違います。響也さんに流し込まれるんですよ・・・」


カレン「あらぁ、大変ねぇ」


架陰「もう、不味くて不味くて」


響也「ほう? 私の厚意を受けられないと?」


架陰「ひゃああああぁぁぁぁ!!!」


カレン「次回、第26話・・・、【蛇の住む山】」


響也「お楽しみに」


架陰「ぐふ・・・」

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