第24話 架陰と鉄平 その①
犬は山にて猿を哭す
猿は山にて犬を哭す
かの人曰く「之れ犬猿の仲なり」
1
山田は、突進してきたバンイップAを身体全体を使って受け止めた。
かなりの重圧。足が数センチ下がる。
「ふんっ!!」
顎を開かれたら引き裂かれかねない。力んで、頭蓋と顎を圧迫する。
(なかなかの力だ・・・)
これ以上手が出せない。
先程のように壁に向かって投げても良かったのだが、また水化されても面倒くさい。
動きを封じられたバンイップAは、牙の奥から、「グルルル・・・」と湿っぽい唸り声を上げた。
横目で、鉄平の戦いを見た。
班長は、鉄棍で攻撃をいなすのがやっと。あの腕力では決定打にはならないだろう。
(やはり、私が援護に回らないと・・・)
山田は、バンイップAをホールドする腕の力を強めた。このまま捩じ切ることも出来る。
(しかし、また復活されても面倒だ・・・)
先決は、まず二匹のバンイップを離すところからか。
その時だ。
「どうも、こんにちはぁ・・・」
山田の耳元で、誰かが囁いた。
「!?」
いつの間に背後を取られた?
驚きのあまり、力が抜ける。
その隙を突いて、バンイップが押し返してきた。
「しまった!!」
バランスを崩す山田。何とか腹筋で立て直そうとするが、力が入らない。
「あらあらぁ、ごめんなさい・・・」
山田の後ろに立つ女は、一言そう言うと、手に持っていた何かを仰いだ。
「【風神之槍】・・・」
ブォッ!!
山田の巨体を、一陣の風が吹き抜ける。その瞬間、100キロは越すであろうバンイップの体が吹き飛んだ。
「!!」
バンイップAは空中を舞い、そのまま硬いアスファルトの上に落ちた。
鈍い音と共に、バンイップが苦悶の表情をうかべる。
山田が振り向くと、そこには着物姿の女がたっていた。先程戦った、架陰やクロナと同じもの。
つまり。
「桜班のお方ですか・・・」
「はい、こんにちはぁ・・・、私は、桜班副班長の、【城之内カレン】です!」
山田は、内心で「当然のことか・・・」と呟いた。
ここは桜班の管轄。管轄内での戦闘に、桜班が出てこないわけが無い。
だが、これを鉄平が許すのか・・・。
「・・・・・・」
山田は、丸メガネの奥の目から、鉄平を見た。
鉄平には、先程敵対していた架陰と言う少年が助太刀している。いがみ合っているようだが、なかなかの連携を取っていた。
山田は、自分よりも小さなカレンに向かって、恭しく頭を下げた。
「ありがとうございます。助かりました・・・」
「いいわよぉ・・・、困った時は助け合いましょ」
カレンはおっとりとした笑顔を見せた。
ここで、二人の利害が一致する。
山田とカレンは、アスファルトの上に倒れ込んだバンイップAを見た。
「じゃあ、援護、お願いします」
「了解よぉ。私に任せてぇ、椿さん!」
そんな二人を、電柱の上から見て、八坂は深いため息をついた。
「ふう、あっちは上手く協力してくれるみたいだな・・・」
問題なのは、架陰と鉄平。
先程から、架陰と鉄平は見ていて危なかっかしい戦い方をしていた。
「やいてめぇ! 援護がおせえんだよ!!」
「そんなこと言われたって・・・、鉄平さんこそ、オレの攻撃の邪魔しないでくださいよ!!」
鉄平は、架陰を「援護者」としてしか考えていない。
だが、あの装備を見る限り、桜班での彼の役割は【前線】だ。それに、地位的にもそこまで上じゃない。
つまり、UMAハンターとしての経験が浅い人だ。
そんな者が、自由気まま傍若無人に戦う鉄平の呼吸に合わせられるわけが無い。
「ああ、もう、見てらんない・・・」
八坂は、NIGHT・BREAKERのスコープを覗き込んだ。
動き回るバンイップに狙いを定め、引き金を引く。
ドンッ!!!!
バンイップの右の眼球が破裂した。
「はい、片方潰しました・・・」
だが、あの巨体にこの弾は、決定打にはならない。トドメは、あの二人じゃないと刺すことが出来ない。
「よし、今だ!!」
架陰がバンイップBに攻撃を仕掛ける。
「させるかぁ!!」
鉄平の鉄棍による突きが、斬撃の軌道を逸らした。
「バンイップはオレが狩る!!」
細くとも、筋肉が引き締まった腕で、架陰の腕を掴んだ。
「えっ!?」
「軽いな、お前・・・」
そのまま、バンイップB目掛けて、架陰を放り投げる。
「うわあああ!!」
架陰はバンイップBの顔面に激突。
(視界を奪った!!)
これで決める。
鉄平は間隙を縫ってバンイップBに攻め入る。
そして、急所の一つである喉笛に向かって、鉄棍を振る。
「この!!」
体勢を整えた架陰が、魔影刀を振って、それを阻止した。
魔影の衝撃波に、鉄平の鉄棍が弾かれる。
「っ! てめぇ!!」
その隙に、バンイップが架陰を吹き飛ばし、喉元を隠すような体勢をとった。
架陰は、鉄平の横にべシャリと落下した。
「いててて・・・」
「何、邪魔してやがる!!」
「それは、こっちのセリフですよ!!」
架陰も精一杯鉄平を睨んだ。
そんな二人の様子を見て、八坂は泣きたくなった。
「お願いしますよ・・・、二人とも・・・」
再び、八坂の首にThe Scytheの刃が当てられる。
響也は鬼のような笑みを浮かべていた。
「おいおい、あんたらの班長は、人の管轄に土足で踏み込み、戦いの邪魔をするのか・・・?」
「ごめんなさい・・・」
八坂は心の中で叫ぶ。
(お願いだ!! 協力してくれ!!)
その②に続く
その②に続く




