第23話 混戦 その③
血盟
段骨
肉塊
命捧げて死十坂
3
架陰とカレンは、椿班とバンイップとの戦いを路肩に停められたトラックの影から伺っていた。
生死をかけて争っている椿班の者たちを見ると、加勢したい気持ちになる架陰。
「・・・、まだ出ていかないんですか?」
もどかしくなってカレンに聞いた。
カレンは「もう少し待ってねぇ」と架陰をなだめた。
「いま、響也が、椿の狙撃手を脅しているからぁ・・・」
「脅し・・・」
架陰は電柱の上でライフルを構えている赤スーツの少年を見上げた。
彼の背後を響也が奪い、ちょうど今The Scytheをかけているところだ。
響也が何かを話しかける。
少年が、構えていた銃口を下ろした。
そして、両手をあげる。
「・・・、そろそろねぇ」
「そうですね・・・」
架陰とカレンは、響也の合図が来るのを待ち構え、飛び出す準備をした。
「そういえば、架陰くん。その腕は大丈夫なのぉ?」
「ああ、ちょっと痛いです・・・」
架陰は青紫に腫れ上がった右腕をぷらぷらと振った。この痛み、吸血樹に腹をえぐられた時よりかはましだが、痛いことに変わりはない。
刀も握れない。
「でも大丈夫です」
架陰は左手で刀を抜いた。
と言っても、架陰の刀は、先程バンイップに噛み砕かれているので刀身は無い。
「そんなので戦えるのぉ?」
「多分大丈夫・・・」
架陰は左手で柄を握りしめた。
すると、体表から漆黒のオーラが煙のように湧き出した。
「魔影・・・、弐式・・・」
架陰の能力である【魔影】は、架陰のイメージで意のままに動く。
架陰は意識を集中させ、魔影を刀の周りに纏わせた。
「【魔影刀】!!」
魔影が変形して、黒い刃に変化する。
「便利ねぇ、その能力・・・」
カレンは感嘆の声を漏らすが、そうでも無い。
(ダメだな・・・)
架陰は出来上がった即席の刀を眺めてため息をついた。
以前は、【刀身】という核となるものがあったから、魔影も違和感なくまとわりつき、硬質化したが、今回は何も無い空間に纏わせたので、魔影の形が定まらない。
(少しでも集中を切らせたら崩れてしまいそうだ・・・)
その時、響也が指を鳴らした音が、二人の耳に届いた。
「合図だ!!」
「行くわよォ!!」
二人は物陰から飛び出す。
戦場に向かって駆け出した。
「僕は、あの細身の男の援護をします!」
「なら私は、あの大男さんねぇ」
架陰とカレンはそれぞれの分担を決める。
(よし、行くぞ・・・)
架陰は左手の刀に意識を集中させる。
先程はあの椿班の男に遅れをとったが、今度はそうも行かない。
必ず活躍して、桜班の威厳というものを見せつける。
そう心に誓って、強く踏み込む。
「はあっ!!」
バンイップBと鉄平の間に割り込んで、魔影刀を振りきる。
ボンッ!!
と衝撃波が発生し、バンイップの大きな頭が仰け反った。
だが、吹き飛ばすまでには至らない。
「くそっ!!」
やはり威力が格段に弱い。
感触も悪い。まるで、ふにゃふにゃのゴム剣を振り回しているみたいだ。刀身に全く力が入らない。
「まだまだ!!」
威力が弱いなら、連打で応戦すればいい。
架陰はさらに強く踏み込む。
「コノヤロウ!!」
架陰の攻撃を、鉄平の鉄棍が弾く。
「っっ!?」
「てめぇ、オレの戦いを邪魔してんじゃねぇ!!」
割り込まれたのが気に入らなかったのだ。
頭に血が登っている鉄平は、バンイップそっちのけで、架陰に攻撃を仕掛ける。
「オラァっ! さっきの続きだ!!」
「ちょっとっ! 待ってください!!」
魔影を発動している架陰は、鉄平の攻撃がスローモーションのように見える。刀の柄で上手くいなした。
その二人の間を、八坂が発射した銃弾が通り過ぎた。
「!!」
「八坂、何を!?」
八坂は電柱の上から泣きそうな声を出した。
「鉄平さん〜、協力しましょう〜!!」
八坂の首には、The Scytheの刃があてられている。
「八坂てめぇ、オレに桜と協力しろって、指図すんのか!!」
「ごめんなさい、ボクが死んじゃいますよ〜」
首に刃を当てられたままの八坂は本気で自分の死を確信して震えた。
脅している響也は、「よく言った」と八坂を褒めると、The Scytheの刃を離した。
「さて、私も殺るか・・・」
そうこうしている間に、頭を仰け反らせていたバンイップBが体勢を整える。
再び、架陰と鉄平に襲いかかった。
「!!」
「くそっ! やってやんよ!!」
鉄平は鉄棍をかち上げ、バンイップBの突進の起動を逸らす。
「行きますよ!!」
架陰はその隙を突いて、魔影刀を振った。
ドンッ!!!!
タイミングが1秒遅かった。
魔影の衝撃波がバンイップBを穿った時には、バンイップの体は水化していた。
「くっ!!」
「何してやがる、このうすのろ!!」
魔影は、水となったバンイップを四方八方に飛散させた。
(まずい・・・、どこから攻撃してくるか分からない!!)
架陰は辺りを見回した。
響也とカレンの証言から、バンイップの能力は理解している。
必ず、バンイップは死角から襲って来るのだ。
「だったら、お前が囮になりな!!」
架陰の背中を、鉄平が蹴り飛ばす。
「うわっ!!」
架陰はアスファルトの上に顔面から倒れ込んだ。
「何をするんですか!?」と顔を上げた瞬間、架陰の目の前で水が集合して、バンイップの実体に変化した。
「そこだあっ!!!!!!!」
鉄平の鉄棍が、バンイップの頭蓋を捉える。
ミシッという鈍い音がして、バンイップが吹き飛んだ。
「っ!!」
「へへ、どうだあ!!」
第24話に続く
響也「私に協力しな・・・」
八坂「そんなものに、ボクが屈すると思うんですか?」
響也「そのライフル、さぞかし大事にしてるんだろうな?」
八坂「そうなんですよ、【NIGHT・BREAKER】は、僕の愛銃。夜の破壊者なんですよ」
響也「まずは、その銃口を斬ろうか・・・」
八坂「え?」
響也「自分で言うのもなんだが、私のThe Scytheは鉄を斬れるんだよ」
八坂「協力しましょう!!」
響也「次回、第24話『架陰と鉄平』」
八坂「いやはや、お美しい・・・」
響也「ご機嫌取りにしては下手くそだな・・・」




