第22話 二匹いた!! その②
神様に隠れて水を飲む
神様に隠れて息を吸う
2
「よし、あのUMAを探しに行くぞ!」
鉄平は右手に握る鉄棍を体操選手のように振り回し、ピシッと肩に掛けた。
八坂は、横目で、長椅子に横になっている真子を見た。
「あの、真子はどうしますか?」
回復薬を塗ったとは言え、まだ傷が癒えていない。
鉄平は迷うことなく答えた。
「置いていく」
それを聞いた真子が、「ま、待ってくださいっス」と首を擡げた。
「私も、行くっス」
「お前は寝てろ・・・」
八坂は真子の頭を掴み、無理矢理元の位置に戻した。
「班長が判断したんだ・・・。班長の司令は絶対。これが、椿班の決まりだ・・・」
「分かりましたっス・・・」
真子は何か言いたそうな顔をしたが、大人しく引き下がった。
八坂は、「片付けたら迎えに行く・・・」と言って、真子に背中を向けた。
「では、行きましょう」と、入口付近で待機していた山田が立ち上がった。
廃ビルから外に出た三人は、直ぐに走り出した。
前方を鉄平。その後ろに、山田、八坂と続く。
「おい八坂! あの獣の特徴を言え!!」
「はい、奴は、実体と液体の切り替えができます。液体の時は、こちら側からも、あちら側からもダメージを与えられませんが、実体になると、こちら側からもあちら側からも攻撃を当てることができます」
「要するに・・・、実体の時に殴ればいいってわけか・・・」
「そうとも限りません・・・。僕も、実体の時に射撃しようと見計らいましたが、緩急をつけた攻撃をしてくるので、いつ実体になるのか予測がつかず、不意を突かれました!」
「あの時か」
後ろから見ても分かるぐらい、鉄平は奥歯をかみ締めた。
鉄平と山田が助けに来なければ、八坂、真子はあの獣の腹の中だ。部下をそんな危険な目に合わせてしまった自分に、鉄平は苛立ちを感じたのだ。
山田が首だけで振り向いた。
「ところで八坂・・・、その獣とはどうやって遭遇したのですか?」
「ああ、さっきの廃ビルの前にある民家ですよ。女性の悲鳴が聞こえたものですから、見に行ったら、あいつと遭遇しました・・・」
「その女性は・・・?」
「やつに喰われて死んでいます。肉片が飛び散っていたので・・・」
「そうですか・・・」
そこまで説明して、八坂はあることを思い出した。
「そういえば、奴は排水溝の中から出てきました
た!」
これには、鉄平も振り向く。
「水道管?」
「はい・・・、水に姿を変えられるからでしょうね・・・、排水溝の中に潜んで、僕が覗き込んだ瞬間、襲撃してきたんです!」
「よし、なら、水道管や排水溝があるところを回ってみよう!」
「「了解!!」」
3
「くそ・・・、どこにも居ない・・・」
消えたバンイップを探して辺りを走り回っていた桜班の三人は、少しずつ危機感を抱き始めていた。
水面から飛び出してきたのだから、水道がある全ての家を回ってみたが、どの家庭も至って普通だった。謎の化物に襲撃された者などいない。
響也とカレンが相手にしたバンイップは、なりふり構わず二人を襲ってきた。
飢餓状態にあったということは頷けるが、身を失ってから、バンイップによる被害が消えたのは不思議なことだ。
「身を潜めている・・・?」
路地の塀にもたれた架陰が、顎に手をやって考えていると、平泉が横から声をかけた。
「まだ見つからないんですか?」
「ああ、はい」
すると、平泉が唐突にメガネを押し上げた。
「一応、僕の【能力】を使ってみましょうか?」
「え?」
口から間抜けな声が出る。
「平泉さんって、能力者なんですか?」
平泉は、「心外だ」とでも言うように胸を反らせた。
「能力者ですよぉ。とっくの昔に能力開花してます!」
そう言われて、架陰は心の中で頷いた。確かに、平泉と同年代のアクアが【水】の能力に目覚めているのだから、平泉が能力者であってもおかしくない。
だが、バンイップが居ないところで使う能力とは?
「じゃあ、行きますよー」
平泉は牛乳瓶の底のような眼鏡を外した。意外に切れ長の目をしている。
「能力・・・、【眼力】+【透視モード】!」
その目がカッと見開かれた。そして、白目の中央の黒目が、ベビのようにキロキロと動いた。
(これは・・・?)
「ふふ、僕の能力は、【眼力】です。基本的に、透視や望遠をすることができるんですよ!」
つまり、平泉は今、この町を透視し、望遠鏡のように遠くの景色を見ていることになる。
一通り探し終えた響也とカレンが帰ってきた。
「地味な能力ですね・・・」
ボソッと言ったが、平泉には聞こえていたようで、「そうなんだよォ・・・」と悲しそうな声を上げた。
「僕の班長にも言われたことがあります・・・」
「だめよぉ、響也。平泉さんに謝りなさい!」
カレンが注意したが、響也は罪悪感の無い様子で、何も言わなかった。
しばらくして、平泉が「見つけた!」と嬉々とした声を上げた。
「見つけたんですか!?」
「はい、ここから約一キロの民家に潜んでいますね。水道管の中です!」
「案内してください! 直ぐに行きます!!」
「あー、でも、ちょっと厄介なことになりそうですよー」
平泉は何処か遠くを見ながら、ポリポリと頭をかいた。
「近くに、椿班の連中がいます・・・」
その③に続く
その②に続く




