第22話 二匹いた!! その①
貴方の剣になれば
触れられず
貴方の盾になれば
触れられず
私は裸で
貴方を抱きしめる
1
バンイップを倒した場所に向かうまでの間で、響也は死体処理班に連絡をした。
「あー、もしもし? 桜班の鈴白です。死体処理お願いします」
トランシーバーのマイクの奥から、平泉の『了解しましたー、GPSを追いますね』という了承の声が聞こえた。
五分としないうちに、背後からトラックのエンジンの音が近づいてきた。
平泉が運転する冷凍コンテナだ。
轢かれてはたまらないので、三人は道の脇に避けた。
トラックが横に並び、スピードを落とす。
「どうもみなさん、お久しぶりです!」
窓が下りて、牛乳瓶の底のようなメガネをかけた男が顔を出した。
カレンが手を振る。
「お久しぶりですー!」
架陰も便乗して手を振っておいた。
「で、死体はどこにあるんです?」
平泉はトラックの運転席から辺りをキョロキョロと見回した。
「すみません。【諸事情】があって、一時的にその場から離れたんですよ・・・」
響也は、【諸事情】の部分をえらく強調して言うと、背中におぶったクロナをゆさゆさと揺さぶった。
クロナはぐっすり眠っている。
「そうですか、じゃあ、その場に案内してください」
「もう少しで着きます」
バンイップの死体は、この通りの先に放置している。後に100メートルぐらいだろう。
架陰は内心、自分たちがいなくなったあとのことを心配していた。
確かにクロナを回収しに行かなければならなかったが、誰か一人くらい残って、バンイップの死体の見張りでもした方が良かったのではないだろうか。
もしその間に、誰か一般人が見つけて、パニックにでもなったりしたら・・・。
響也は、「大丈夫だ。規制線は貼っておく」と言って、着物の懐から「keep out」の黄色いテープを取り出した。これで、両端の道を塞ぐと言う。
そういうのはすんなり出るんですね・・・。と、架陰は自分の折れた右腕を見て思った。
「あそこです・・・」
響也が張っておいた黄色いテープが見えた。
「直ぐにあのテープを除けるので、トラックを入れてください」
「私が行ってくるわぁ」
手ぶらのカレンが飛び出し、塀から塀に張られたテープを取り除いた。
「ありがとうございます」
平泉は窓からお礼を言うと、そのまま路地に入って行った。
直ぐに、トラックがブレーキを踏む。
事の流れから、架陰は平泉がバンイップの死体を見つけたと判断した。
平泉が首を傾げる。
「あれ、どこに死体があるんですか?」
「え?」
架陰は反射的に道の先を見つめた。
そして、絶句する。
どこにも、バンイップの死体が無かったのだ。
見えるのは、その先の道に張られた、黄色いテープだけ。
「どういうことだ・・・、確かにバンイップはここにいたはずだぞ・・・!?」
響也も驚きを隠しきれず、クロナを背負ったまま、あちらこちらを見渡した。そんなところにいるはずがないとわかっているのに、用水路の奥にも顔をのぞかせる。
カレンがアスファルトを見つめて言った。
「ちょっとこれ、おかしいわよぉ・・・」
「何がですか・・・?」
架陰が代わりにカレンの横に立ち、カレンと同じようにアスファルトを見つめた。
「あ・・・」
あることに気がつく。
「血が無い・・・!?」
響也は、バンイップの首を切断したのだ。血が大量に吹き出すのは分かりきったこと。実際に、三人は流れ出す血液を見ている。
もちろん、その血液で道路が赤く染まったことも。
だが、まるでそこに何もなかったかのように。まるで、布巾か何かできれいさっぱりに拭われたように、血が消えていたのだ。
「死体が無い」とざわついている三人に、平泉はメガネの上からでも分かる怪訝な顔をした。
「まさか、取り逃したんですか?」
「そんなはずは無い・・・。私は絶対に首を斬った・・・」
響也はThe Scytheを握りしめた。
この武器で、この手で、バンイップの巨大な頭を切断したのだ。その死体が、なんの痕跡も無く消えるのはありえない。
「もしかして、第三者が暗躍しているんですか・・・?」
架陰は恐る恐る尋ねた。
頭に浮かぶのは、椿班の連中。
いや、でも彼らは、トランシーバーで連絡を受けた時、全く別の場所に走っていった。丁度、このバンイップの死体があった場所から反対側の方へ。
架陰の考えを、響也は首を横に振って否定した。
「それは無いな。奴らが私たちの管轄を犯すわけがないし、こんなに綺麗に血液の処理が出来るやつがいるか?」
響也はしゃがみこむと、ザラりとしたアスファルトを撫でた。やはり、乾燥している。
「ならば、結論はただ一つ。バンイップはまだ生きているんだ・・・」
「そんな・・・」
首を切っても死なない。吸血樹の時もそうだったが、出現するUMAの生命力は化け物じみている。
「まずいな・・・、他に人が襲われるかもしれん・・・」
響也はThe Scytheを杖代わりにして立ち上がった。
「直ぐに探すぞ・・・」
その②に続く
その②へ続く




