【第160話】 名刀秋穂編・閉幕 その①
第160話
1
「一週間だ。一週間でコイツを強くする」
「………」
「その時、本当の決着をつけようじゃねえか」
「………」
風鬼の威圧的な言葉に、スフィンクス・グリドールは押し黙った。
UМAハンターの最強格と歌われる「四天王」の一人である、あのスフィンクス・グリドールが怯えているのがわかった。
スフィンクス・グリドールが指をぴくっと動かす。
すかさず、地面から氷がせり上がり、彼を氷漬けにした。
「変な動き見せるなよ。うっかり骨まで凍らせちまうことろだったぜ」
氷が砕ける。
外に出たスフィンクス・グリドールが、悔しそうな…、でも面白そうな顔をして、風鬼をじっと見ていた。
そして、手を挙げた。
「はいはい、わかったよ」
「………」
「一旦、ここは引くとするよ」
その言葉に、架陰と香久山桜は小さなため息を吐いた。
スフィンクス・グリドールが言う。
「でも、忘れないでね。僕には『人質』がいるってことを。そっちこそ変な真似をしたら、容赦なく彼らの頭をパイナップルの輪切りにして、中の脳みそをかき混ぜてやるって」
「そんなことさせねえよ」
「だから、『条件』を差し出しているんだろう?」
スフィンクス・グリドールは指を立てた。
「一週間だ。一週間猶予をあげる。その一週間で、市原架陰を強くしなよ。そうしたら、また対決してあげる。僕が勝ったら、キミは僕のものだ」
「おいおい。お前が負けたらどうするんだよ」
「僕が負けることがあると思っているの?」
その瞬間、頭上でヘリコプターのローター音が聞こえた。
見上げると、銀色のヘリがあり、そこから縄梯子が下りてきていた。
スフィンクス・グリドールは跳び、その梯子を掴んだ。
「僕は負けないよ。必ず勝つ。そういう未来しか『見えない』んだ。そして、僕が欲しいと思った全てを、実験材料にするんだ」
※
スフィンクス・グリドールが乗ったヘリコプターが遠くに消えたのを確認してから、架陰は緊張の糸を解いてその場にしゃがみ込んだ。
「ふへえ…! 疲れた」
見れば、香久山桜もしゃがみ込んでいた。
それから聞いた。
「あの…、風鬼さん…、でしたっけ?」
「ああ、そうだよ」
風鬼はにかっと笑うと、架陰の頭を撫でた。
「来るのが遅くなってごめんな。でも、無事でよかった」
「はあ…」
「それから、そこの百合班も。よく架陰を助けてくれた」
風鬼に労われた香久山桜は、ただただ頷くだけだった。
未だに状況が飲み込めていない架陰が、風鬼に聞く。
「あの…、風鬼さん、これは一体、何が起こっているんですか?」
「とりあえず、話は桜班に帰ってからにしよう」
そう言うと、風鬼は架陰の身体を持ち上げ、右肩に担いだ。それから、香久山の方を見る。
「お前は…、立てるか?」
「いや、ちょっと、腰が抜けちゃって…」
「そうか、じゃあ、担ぐわ」
「え?」
風鬼はコンビニでアイスを買うみたいに、あっさりと言ってのけると、立てずにいる香久山桜を左肩に担いだ。
二人分の体重を抱えた彼は、「少し揺れるけど、ごめんなあ」と言いながら、山道をのそのそと歩き始めた。
その②に続く




