表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UMAハンターKAIN  作者: バーニー
527/530

伝説 再び その③

笑えば涙が出る


泣けば笑っている


怒れば言葉は出ず


僕たちの心は欠陥品だ



「現れたな…、十年前…、アクアと共に目次禄の再臨を止めた英雄が…!」


「英雄じゃないさ。『宝来風鬼』と呼んでくれ」


 スフィンクス・グリドールの前に現れた高身長の男は、にやっと笑ってそう言った。


 突然の乱入。そして、スフィンクス・グリドールの動きを封じた男を前に、架陰、香久山桜はたじろぐしかなかった。


 殺意はない。


 だが、目を合わせるだけで足が竦む。


(なんだ…、この人…!)


 男…、宝来風鬼が架陰の方を見る。


 身構える。


 彼はにこっと笑い、架陰に手を挙げた。


「よお、久しぶりだな」


「え…」


 久しぶり?


 そんなはずがない。架陰はこの男を会ったことは無い。今回が、「初対面」なのだ。


 硬直していると、彼の頭の中に悪魔の声が響いた。



(架陰…、ワシノ言葉ヲアノ男ニ伝エロ…)



「え…、あ、うん」


 架陰は、悪魔が彼の頭の中に囁く言葉をなぞるようにして、目の前に宝来風鬼に伝えた。


「ひ、久しぶりだな…」


「十年ぶりだな。完全に倒したと思っていたのに…、まだしぶとく生き残っているのか…。それで? 悪魔だけじゃなくて、ジョセフさんもいるのか」


「え…」


 すると、今度はジョセフの声が架陰の頭の中に響いた。ジョセフの言葉も、架陰は風鬼に伝えた。


「ああ、まだ死ねないんだ。正確には死んでいるんだけど、魂が悪魔と融合してしまってね…。こうやって、まだ中途半端な状態で生き永らえている…」


「そうか。あんたも災難だよな」


 風鬼はため息交じりにそう言うと、架陰の頭をぽんぽんと撫でた。


 敵意はない。柔らかな手だった。


 それから、風鬼氷漬けになっているスフィンクス・グリドールの方を向き直った。


「よお、スフィンクス・グリドール」


「久しぶりだね。宝来風鬼…。ここに、なんの用かな?」


「決まってんだろ。大事な大事な後輩を…、マッドサイエンティストから護りに来たんだよ」


「マッドサイエンティスト…? 僕のことかい?」


「他に誰がいるんだよ」


「心外だねえ…。僕は人類の未来のために…、市原架陰を捕えようとしているんだよ?」


「他のUМAハンターを捕縛してもか?」


 風鬼の目が光る。


 スフィンクス・グリドールが大げさに身震いした。


「十年前、悪魔を宿していた君にならわかるはずだ。市原架陰に憑いている悪魔は、災厄【目次禄の再臨】を引き起こした元凶。そして、世界中にDVLウイルスをばらまいて、人々を絶望の渦に巻き込んだんだ。放置していれば、どうなるか…」


「だからと言って、人の尊厳を踏みにじるべきじゃねえだろうよ」


 風鬼は舌打ち交じりに言うと、右手を氷漬けになっているスフィンクス・グリドールに翳した。


 パキパキ…、パキパキッ! 


 と、彼の手のひらから透明の氷が隆起する。


 氷は軋むような音を立てながら形を変え、一本の槍のような形となった。


「どうする? ここでオレに脳天をぶちぬかれるのと、退くの…、どっちがいい?」


「馬鹿じゃないですか?」


 

 バカンッ!



 と、スフィンクス・グリドールを封じていた氷が粉々に砕け、スフィンクス・グリドールが飛び出した。


「四天王の僕に勝てるとでも?」


 空中で体勢を整えるスフィンクス・グリドール。ベルトに挟んでいた剣を抜くと、虚空に向かって振り下ろした。


 白い斬撃が風鬼に迫る。


「ったく!」


 風鬼は手の中で生成した氷の槍を、迫る斬撃に直撃させた。


 バキンッ!


 と、氷の槍が粉々に粉砕する。斬撃も相殺した。


 着地したスフィンクス・グリドールは、地面を滑るようにして回り込むと、風鬼の死角から刀を切り上げた。


 だが、刃を空を切る。


「ッ?」


「馬鹿はお前だよ」


 ステップを踏んで、立ち位置を変えた風鬼が、スフィンクス・グリドールの腕を掴む。


「オレは、伝説のハンターだぜ?」


 手から隆起させた氷を刃のように変形させ、鋭い切っ先を、スフィンクス・グリドールの眼球に向かって突き刺す。


 直前で、スフィンクス・グリドールが風鬼の手を振り払って後退した。


「おっと、逃がした!」


「ッ…」


 スフィンクス・グリドールが悔しそうに奥歯を噛み締める。


 お互いに動くことができず、しばらく睨み合いが続いた。


「なあ、スフィンクス・グリドール」


 風鬼が言った。


「お前…、卑怯だとは思わないのか?」


「思わないね」


 即答。


「所詮はラット。そして、これは戦いではない。研究だ。貴方たちが卑怯な手と呼ぼうが…、僕は、研究対象を得るためにはどんな手でも使う…。非人道的だと言われようがね」


「それで、オレに反撃を喰らったらせがないな」


「………」


 風鬼はにやっと笑うと、立ちすくんでいる架陰に歩み寄り、彼の肩を掴んで寄せた。


「一週間だ。一週間でコイツを強くする」


「………」


「その時、本当の決着をつけようじゃねえか」



第160話に続く



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ