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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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【第159話】 伝説 再び その①

僕は風神


風と共にやってくる


彼女は雷神


雷鳴と共にやってくる


「さあ、市原架陰…、おいで」


スフィンクス・グリドールが白い手で彼を招く。


「僕の研究室に来なさい。人類の発展のために…」


「…ッ! 誰が!」


架陰は奥歯を噛み締め、半歩後退った。


「誰が…、お前なんかに!」


「僕のしていることは『正義』なんだよ」


スフィンクス・グリドールがニヤッと笑う。


「悪魔の堕彗児は知っているだろう?」


「え…」


もちろん知っていた。


だが、どうしてそんな話を今?


「キミの中にいる悪魔は、十年前の目次禄の再臨の際に、世界中に『DVLウイルス』を蔓延させている」


三本指を立てるスフィンクス・グリドール。


「DVLウイルスの効果は、主に三つ」


指を一本折る。


「一つ…、人間による能力の覚醒を封じる…。これにより、能力者は生まれなくなり、人類は大幅に弱体化した…」

二本目の指を折る。


「二つ…。人間以外の生物の突然変異を促す。これにより、世界にはUМAが溢れた…」


そして、三本目の指を折る。


「三つ…、稀に『人間の突然変異を促す』…。わかるかい? ごく稀に、DVLウイルスは人間に進化をもたらすんだ。背中から翼が生えたり…、牙が伸びたり…、体表が硬質化したり…。そして、いずれも獣のようになり、自我を失う…。つまり『UМA化』だ」


手を降ろした。


「悪魔の堕彗児は可愛そうな者たちだよ。自我を失うのに恐怖し、身体の半分をUМAにするんだ」


架陰の頭の中に、今まで出会った悪魔の堕彗児の顔が浮かんだ。


笹倉は、『ガーゴイル』の姿をしていた。


唐草は、『ゴートマン』の姿をしていた。


女郎は、『鬼蜘蛛』の姿をしていた。


狂華は、『妲己』の姿をしていた。


鬼丸は、『鬼』の姿をしていた。


皆、望んでその姿になったわけではない。


「生」に縋ったために、ああなったのだ。


「……」


架陰が唾を飲み込むのを、スフィンクス・グリドールは見逃さなかった。


「世界中には、UМA化が進行して苦しんでいる人間が大量にいる。キミだけなんだ…。キミの身体から摂れるサンプルが…、人々を救うきっかけとなる…」


さあ。と言って、架陰に手を伸ばす。


架陰は頬に汗をかきながら首を横に振った。


「無理だ…、従えない…」


スフィンクス・グリドールの口元がぴくっと動いた。


「…どうして?」


「スフィンクス・グリドール…、貴方の今までの行動を見ていると…、どうしても、賛同できないんだ」


「それは…、武力行使に出たことを言っているのかな?」


「…うん」


架陰が頷く。


次の瞬間、スフィンクス・グリドールは天を仰いで、大声で笑っていた。


「あははははははは! あはははははははは!」


「…?」


突然のことに、架陰は何もすることができなかった。


スフィンクス・グリドールは笑い続ける。「あはははははははは!」と。そして、口元を伝う涎を拭い、また、ニヤリと笑った。


「武力行使がダメだって? 信用に足らないって?」


フッ! と、架陰の視界から、スフィンクス・グリドールの姿が消えた。


架陰の頭の中に、悪魔の声が響く。



(来ルゾッ!)



身構えた瞬間、彼の脇腹に、死角から斬り込んできたスフィンクス・グリドールの蹴りが炸裂した。


メキメキメキッ! と、肉を押し破るようにして、スフィンクス・グリドールの革靴が鳩尾辺りに食い込む。


「がはっ!」


受け身を取ることもできないまま吹き飛ばされ、すぐ近くにあった岩に身体を強打した。


身を起こしかけていた香久山桜が彼の名を呼ぶ。


「架陰くん!」


スフィンクス・グリドールは、香久山に目もくれず、ゆっくりと架陰に近づいていった。


「だってさ…、そうだろう? キミは、解剖用のモルモットに、『可哀そうだ』と思うのかい?」


「……ッ!」


スフィンクス・グリドールが地面を蹴り、滑るようにして架陰との間を詰める。


架陰は反射的に地面に手をつくと、腕力で押し上げ、その場から飛び退いた。


だが、それを察知したスフィンクス・グリドールが身を捩り、彼の脇腹に蹴りを入れる。


「があ!」


ふたたび地面に叩きつけられる。


スフィンクス・グリドールは流れるような動きで、架陰の喉元を踏みつけた。


「がはっ!」


息が詰まる。


声が発せなくなる。


スフィンクス・グリドールは一切の躊躇なく、脚に力を込めて、架陰の喉を圧迫した。


「さあ、おいでよ。僕の研究室に…。僕にはキミが必要なんだ…。キミの中の悪魔が、人類の発展を、人類の休載を手助けする…」


メキメキ、メキメキと、革靴が食い込む。


やがて酸素を取り入れられなくなった架陰は小刻みに痙攣を始めた。


能力を発動しようにも、身体に力が入らない。


「さあ…」


スフィンクス・グリドールが興奮したように言う。


次の瞬間、スフィンクス・グリドールの肌を、誰かの気配が撫でた。


「え…」






その②に続く

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