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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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最悪 その③

敬意を払え


僕のために死んでいく者たちに


「ねえ、架陰…、少し話をしようじゃないか」


舞い散る桜花吹雪が視界を奪い、全てをホワイトアウトさせるなか、スフィンクス・グリドールは悠々と語り始めた。


「どうして…、この世界に『悪魔』という存在がいると思う?」


スフィンクス・グリドールの言葉を無視して、香久山桜は、架陰を抱えて走り出す。


スフィンクス・グリドールは語り続ける。


「悪魔という存在があるのだから…、つまり、『天使』もいるってことなのかな? 天使もいるってことは…、『神様』もいるってことだと思う?」


香久山が走る。


スフィンクス・グリドールは語る。


「この世界の生物は、誰によって生み出されたものなのかな?」


スフィンクス・グリドールは腰のベルトに差した剣の柄に手を掛けた。


「ねえ…、どう思う?」


その瞬間、虚空に向かって剣を一閃する。


切っ先から放たれた衝撃波が、彼を取り囲んでいた桜花吹雪を吹き飛ばした。


ギャリンッ! と耳を劈くような音と共に、地面にまるで巨大な化物が爪で抉ったかのように捲れ上がり、木々をなぎ倒し、道を開けさせた。


スフィンクス・グリドールは地面を蹴ると、一瞬で加速し、開けた道を一直線に突き進んだ。


そして、走っていた香久山に追いつく。


「さあ、鬼ごっこは終わりだよ」


「スフィンクス・グリドールッ!」


スフィンクス・グリドールは一度剣を鞘に納めると、細くしなやかな手を香久山に翳した。


むわっと、辺りに鈍重な気配が立ち込める。


スフィンクス・グリドールはやろうとしていることに気づいた架陰は叫んだ。


「桜さん! 気を確かに持ってください!」


「え…?」


あれが来る!


次の瞬間、スフィンクス・グリドールの手のひらに、ピシッ! と赤い線が走った。


赤い線はメリメリと拡張し、上下に開き、その中から人間の『眼球』が顔を出した。


「能力『千里眼』…、弐式…『蛇睨』!」


バクンッ!


と、スフィンクス・グリドールの手のひらの眼球が、目を見開いた。


黒々とした波動が放たれ、香久山と架陰を包み込む。


「あぐっ!」


香久山桜の喉の奥から呻き声が洩れた。


内臓を潰されるような、全身に裁縫針を刺されたかのような感覚に、体勢を崩す。


「な、なに…、これ…」


身体が動かない。


「はい、終わり」


相手の行動力を封じたスフィンクス・グリドールは、ニヤッと笑うと、地面を滑るように移動し、香久山の髪を掴もうとした。


その瞬間、彼女の陰から架陰が飛び出し、充血した目でスフィンクス・グリドールを睨むと、切りつけるような蹴りを叩きこんだ。


「魔影脚ッ!」


「ッ!」


咄嗟に腕でガードする。


だが、不意を突いた一撃を殺しきることはできず、スフィンクス・グリドールは後方に勢いよく吹き飛んだ。


飛び出た岩に、背中を打ち付ける。


「がはっ!」


衝撃で内臓の一部が潰れ、喉から血を吐いた。


「なるほど…、これは失念…」


口元の血を拭ってにやっと笑った。


「そう言えば…、キミには見せたことがったね…、『蛇睨』を…」


「ああ、覚えていたよ」


架陰はスフィンクス・グリドールと対峙したまま、力強くそう言った。


「スフィンクス・グリドール…、お前の能力、【千里眼】

の派生技…。眼球から強力な視線を放ち、その視線に当てられた対象の身動きを封じる技だ…。だけど、強く精神を保っておけば、破るのは造作ではない…」


架陰はちらっと、倒れている香久山に目を向けた。


彼女はこの技を初めて喰らったために、身動きができず見悶えていた。


「桜さん、身体に強く『動け!』と念じてください。時間はかかりますが、それで金縛りを解除することができます」


言った後、改めてスフィンクス・グリドールを見た。


「……スフィンクス・グリドール…、貴方の目的はなんだ?」


「決まっているじゃないか」


スフィンクス・グリドールは答えた。


「キミを…、連れ去り、実験台にすることだよ」


「どうして…、僕を…」


「嬉々島に聞かなかったかい? キミが宿しているのは、十年前に、【目次禄の再臨】を引き起こした悪魔だ。世界中に【DVLウイルス】を蔓延させ、そして、人間を無力化した張本人なんだよ…」


パキッ! と指を鳴らすスフィンクス・グリドール。


「そんな素晴らしい存在なんだ。『研究』しないわけにはいかないだろう?」


「そのために…、他の関係無い人間を…、巻き込んだのか…!」


「関係無くはない」


スフィンクス・グリドールはそう言い切った。


「全員、キミと関わってしまったんだ。もう、彼らはもう、『関係者』なんだよ。『悪魔と関わってしまった実験体』だ…、これも立派な研究対象さ…」


「人間を…、実験に使うのか…?」


架陰が怒りに震えた声でそう聞くと、スフィンクス・グリドールは頭に「?」を浮かべ、首を傾げた。


「さっき、そう言ったじゃないか」


「人間の命を…、どう思っているんだ! 僕の! 仲間の命を…!」


「大丈夫」


スフィンクス・グリドールは自分の唇に指を押し当てた。


「ちゃんと、『敬意』は払っている。悪魔に怯えずとも生きていける、『人類の発展』のために」







第159話に続く


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