表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UMAハンターKAIN  作者: バーニー
522/530

【第158話】 最悪 その①

それでよかったんだ


死んでよかったんだ


それでよかったんだ


殺してよかったんだ


それでよかったんだ


消えてよかったんだ


それでよかったんだ


今日も僕は生きている


「さてと…」


スフィンクス・グリドールからの刺客、嬉々島と豪島の捕縛に成功した、百合班三席『三島梨花』は、顎に手をやって辺りの様子を見渡した。


傍には、ココロとアクアが倒れている。


「この二人を担いで、さっさと山を降りようか」


「え…」


その判断に、四席の葉月が困惑した色を浮かべた。


「あの、梨花さん、この人たちは…」


先輩と、嬉々島らの顔を見渡しながら言った。


「この人たちは? 捕えなくていいんですか?」


「捕えたいところだけど…」


三島梨花は苦虫を噛み潰したような顔をした。


嬉々島と豪島は、三島が放った植物の蔦に身体を拘束され、その場で見悶えている。彼らを倒すのは今しかなかった。


しかし、それはできない。


「こうやって動きを封じられたのは、たまたまさ。たまたま…、こいつらの隙を突くことができたから…」


三島にはわかっていた。この二人が、自分たちよりも遥に格上であるということを。


もし、下手に捕えて連行してみろ。


おそらく、何らかの隙を突かれて脱走し、反撃を喰らう恐れがあった。


「葉月、この二人はここに置いておく。早く離れよう」


「はあ…」


葉月は納得いかないような顔をしていたが、こくっと頷いた。


倒れているココロを抱え起こす。


「ええと、大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ」


ココロは大丈夫そうではない顔をして頷いた。


脚に疲労が蓄積しているのか、上手く動けない。そのまま、葉月に支えてもらう形で立ち上がった。


ココロは素直に礼を言った。


「誰だか知らんが…、ありがとう…、助かったよ」


「い、いえ…」


葉月は気押されながら首を横に振った。


(この子…、初めて見る顔ね…、ハンターフェス以降に桜班に配属になったのかしら?)


お互いの自己紹介は後にし、三島梨花はアクアを、葉月はココロを背負って立ち上がった。


三島に背負われたアクアが言った。


「どうして…、百合班がここに?」


「説明は後だ。とにかく、早くここを離れるぞ」


三島はそう言うと、下駄をカツンッ! と踏み鳴らして走り出した。


三島の後を追い、葉月も走り始める。


四人の姿が、道の向こうへと遠ざかっていく。


それをじっと見ていた嬉々島は、「あーあ」と声を上げた。


隣の豪島もまた、「あーあ」と、ため息をつく。


二人同時に呟いた。



「「愚かな…」」



地面から生える樹木の根で身体を拘束され、身動きを取ることができない。


だが、二人は余裕そうな笑みを浮かべていた。


嬉々島が天を仰ぐ。


「本当に愚かだよ…、抵抗せずに…、僕たちに連れていかれていればいいものを…」


「そうだなあ…」


豪島もそう、わざとらしく言った。


「スフィンクス・グリドール様から…、逃げられるとお思っているのかあ?」


「いや、無理だろうな…」


嬉々島が白い歯を見せてニヤッと笑った。


「市原架陰よ…。ハンターフェスに出場したことがあるキミなら…、スフィンクス・グリドール様と一戦交えたことがあるキミならわかるはずだ…」


次の瞬間、頭上から、バラバラバラ…と、ヘリのローター音が聞こえた。


山の木々がざわざわと震える。


肌寒い風が吹き抜け、砂塵を舞いあげた。


バラバラバラバラ…と、ヘリの音が近づいてくる。


その音を聞いた嬉々島は言った。


「…スフィンクス・グリドール様の能力を…忘れたか?」



ダンッ!


と、嬉々島と豪島の目の前に誰かが降り立った。


女のような金色の長髪。人形のように白い肌。目元と口元はにやっと笑い、肌を這うような「殺意」を宿らしている。


二メートル近い高身長、そして、それを包み込む白衣。



四天王の一人…【スフィンクス・グリドール】がそこに立っていた。


「やあやあ…、嬉々島、豪島…、大丈夫かい?」


スフィンクス・グリドールはにこっと笑うと、捕縛された部下に向かって手を振った。


捕縛された状態で、二人は主人に向かって頭を下げた。


「もうしわけありません…、スフィンクス・グリドール様…!」


「百合班の襲撃に合い、市原架陰を取り逃がしてしまいました!」


部下の失態に、スフィンクス・グリドール様は怒る様子を見せなかった。


にこにこと笑ったまま、「いいよお、別に」と笑う。


「実験に失敗はつきものさ…、失敗しないことに、進歩はない…、人間の発展は存在しない…」


吹き付けた風が、スフィンクス・グリドールの白衣を揺らす。


彼の眼球が、赤く光った。


赤く光った目で、スフィンクス・グリドールは崖の下にある森を見た。


「久しぶりだね…、市原架陰…」


にいっと笑う。


「そろそろ、鬼ごっこは終わりにしよう…」












その②に続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ