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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
521/530

百合班 再び! その③

世界にちりばめた百合など


今はもう覚えていない


荒野に佇むは一つ


赤枯れた桜の大木


場面は移り変わる。


「……うう…」


架陰が目を開けた時、彼は、誰かに抱かれて山道を駆けていた。


「え…」


「あ、気が付いた? 良かった」


架陰を抱えていた女がこちらを見る。


宝石のように煌びやかな瞳。頬は透き通るように白く、唇は桜のように染まっていた。


足場の悪い地面を駆けるたびに、彼女が纏っていた着物と、赤茶色の髪の毛が柔らかく揺れる。かすかな香水の香りが鼻を掠めた。


「いや! 誰!?」


知らない女だった。


「え…、誰? え! 誰!」


「あ、ごめんごめん、そう言えば、キミとは初対面だったね」


美人はくすっと笑った。


「私の名前は、【香久山桜】、百合班の班長よ」


「ゆ、百合班…」


それを聞いた途端、架陰の頬を冷や汗が伝った。


思い出すのは、ハンターフェスの時。


彼は、百合班の三席【三島梨花】と刃を交えて、勝利していたのだ。


あの時のことを思い出してか、香久山桜はにこっと笑った。


「ハンターフェスの時は、梨花ちゃんがお世話になったわね」


「あ、はあ…」


完全に恨まれてる。


ハンターフェスのことは一旦置いておいて、架陰は聞いた。


「あの…、これは、何が起こっているんですか?」


言葉を発した瞬間、わき腹に痛みが走る。


思わず身を捩ると、香久山桜は「ああ、ごめんね」と、彼の頭を優しく撫でた。


それから、着物の襟から胸元に手を入れると、白い丸薬を取り出す。


「【百合丸】。食べなさい。回復薬だから」


架陰が返事するよりも先に、口に丸薬を押し込まれる。


架陰が飲み込んだのを確認してから、香久山桜は言った。


「スフィンクス・グリドールが動き出したの」


「それは、あいつらを見たらわかるんですけど…、どうして百合班の皆さんが?」


「本当はこんなことをするつもりは無かったわよ」


香久山桜はもどかしそうに言った。


「簡潔的に言えば…、スフィンクス・グリドールが、次々に、『市原架陰に関わった人間』を捕らえているのよ」


「僕と、関わった人間を?」


「ええ…、キミたちは山の中にいたからわからないだろうけど、この二日間で、多くのUМAハンターが捕まったわ。もうすでに、薔薇班…、向日葵班、藤班の人間がスフィンクス・グリドールの刺客に捕まってる。百合班のところにも襲撃があったわ。返り討ちにしてやったけど」


「ど、どうして…?」


「それは、キミが一番わかっているんじゃないの?」


香久山桜が射抜くような目を向けた。


確かに、心当たりはあった。


スフィンクス・グリドールは「悪魔」の研究を熱心に行っている。そのため、十年前に【目次禄の再臨】を引き起こした悪魔を魂に宿している架陰は、絶好の研究対象だ。


そして、その架陰と関わった人間。


彼らに、架陰の悪魔が与えた影響だって、研究対象になるのだ。


「私ね、クロナちゃんと戦ったのよ」


「クロナさんと?」


「うん、ハンターフェスの時に」


「ああ…、そう言えば彼女、そんなことを言っていたような…」


「その時、彼女の背中から【黒翼】が生えたのを見ているのよね」


「……」


心臓を射抜かれたような気分だった。


気づかれている。


架陰に取り憑いた悪魔は、彼の周りにいる者に、【能力】を付与できるということに。


クロナの【黒翼】の能力。


響也の【死神】の能力。


おそらく、スフィンクス・グリドールもそれに気づいていたのだろう。


ハンターフェスの時、彼と関わった人間はどれだけいる? 薔薇班…、向日葵班…、藤班…。それだけじゃない。椿班や百合班の人間とも関わった。


「……」


架陰が難しい顔をしているのを見て、香久山は穏やかに微笑んだ。


「大丈夫よ。身体の力を抜きなさい」


「え…」


「言っておくわね。私たち、百合班は、全面的に桜班に協力するわ。特に、四席のキミには」


「どうして…」


「どうしてって、わかるでしょう?」


香久山の目元に力が籠った。


「スフィンクス・グリドールに、私の所の【副班長】が捕まったの。そして、酷い拷問を受けているみたいなの…。そんなの、助けにいかないとダメでしょうが」


「……」


「他の班の人間もそうよ。もう既に、十人以上が捕まっている。スフィンクス・グリドールなら、人道に背くことをやりかねないわ」


無意識か、香久山桜は架陰を抱く力を強くした。


「ってことで、協力してもらうわよ」





第158話に続く




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